婚約破棄ですって?!私の悪行…まさかバレてませんわよね?

神楽坂ゆい

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「殿下、こちらの通りは新たに舗装が進められておりまして……」

 

城下町の大通りを歩くロラン殿下とフレデリック。周囲には近衛兵が控えているものの、今日は視察ということで比較的カジュアルな服装です。そんな場面に、なぜかわたくしは出くわしてしまいましたの。

 

「アデル様! そこにいらっしゃるとは!」

 

近衛兵の声で、ロラン殿下もフレデリックもわたくしの存在に気づく。わたくしは振り向き、ぎこちない笑みを浮かべた。

 

「ごきげんよう、殿下。」

 

ロラン殿下は一瞬、何か言いたげな表情を浮かべる。しかし、すぐにフッと視線をそらしてしまう。

 

「……偶然だな。街へは何をしに?」

 

「お買い物ですわ。ほら、悪女もたまには新しいドレスが欲しくなるもので。」

 

そう言いながらも、わたくしはひそかにある路地を気にしている。そこにはあの孤児院の関係者の子どもがいるはず。まさか殿下たちと鉢合わせするとは想定外……どうやってやり過ごそうかしら。

 

「そうですか。アデル様、少しお時間いいでしょうか?」

 

フレデリックが控えめに声をかける。わたくしは嫌な予感がしつつも、変に逃げるのは逆効果だと思い、近づいていく。

 

「なにかしら。わたくしは急いでいますのよ。」

 

「実は、この先にある地区を殿下と視察する予定でして。治安や住民の要望なども直接確認したいと思っていますが……女性の目線から何か感じることがあれば、お聞かせ願いたい。」

 

「わたくしは特に……」

 

答えかけた瞬間、路地から子どもの悲鳴が聞こえてきた。わたくしは反射的にそちらに走り出す。

 

「ちょ、アデル様?」

 

「すぐ戻りますわ!」

 

“悪女”らしくない行動だとわかっている。でも、子どもの泣き声を聞いたら体が勝手に動いてしまう。路地へ入ると、男の子が道端で転んで泣いていた。荷物が散乱していて、どうやら配達を手伝っていた途中らしい。

 

「大丈夫?」

 

わたくしはしゃがみ込んで男の子のひじの傷を確認する。ひどい怪我ではなさそうだけれど、痛そうに涙目だ。

 

「い、痛いよ……」

 

「ちょっと待って、ハンカチで押さえて……こうして傷を覆えば大丈夫だから。」

 

手早く応急処置をして男の子を落ち着かせる。顔をあげると、そこにはロラン殿下とフレデリック、そして近衛兵たちがじっとわたくしを見つめていた。

 

「な、何を見てますの……?」

 

「い、いえ……その……」

 

ロラン殿下が動揺している。フレデリックも目を見開いている。わたくしはハッと我に返る。しまった、こんな堂々と善行をしてしまった。悪女のイメージを保つどころの話じゃないわ!

 

「ええと、これは……その……。わたくしが何をしようと勝手ですわよね! 別に子どもを救おうとか、そんな殊勝な心があったわけではありませんの。」

 

そう慌てて言い訳をし、スタスタと路地を出る。周囲の人々はまるで“悪女アデルが子どもを助けた?”という顔をしている。これ以上変な誤解を招くわけにはいかないわ。

 

「アデル様、待ってください!」

 

フレデリックの声が後ろから追いかけてくるけれど、わたくしは立ち止まらない。心臓がドキドキして、どうしようもないほど動揺している。ロラン殿下にだって、この姿は見られたくなかった。まさか隠し通してきた善行が、こんな形で一部でも露わになるなんて――

 

(わたくし……取り返しのつかないことをしてしまったかもしれない。これ以上はまずいわ。)
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