婚約破棄ですって?!私の悪行…まさかバレてませんわよね?

神楽坂ゆい

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「アデル、ちょっと話を聞いて。」

 

わたくしの自室にやって来たレイラは、開口一番そう言ってソファに腰掛ける。お茶を出そうと思っていたが、その様子ではすぐに本題を話したいらしい。

 

「いいわよ。わざわざ伯爵家まで来るなんて、なにか深刻なこと?」

 

「まあね、ちょっと相談したいのよ。」

 

いつもは“悪女のアデル”に遠慮なく突っ込みを入れるレイラが、珍しく目を伏せている。わたくしは眉をひそめながらも、レイラの正面に腰を下ろした。

 

「なにかしら。あなたとわたくしの仲なのだもの、言える範囲で聞きましょう。」

 

「……この前、フレデリック・フィッツジェラルドさんに呼び止められたの。『アデル様のことで少しお伺いしたいことがある』って。」

 

「フレデリック……」

 

わたくしは思わず彼との会話を思い出す。彼はわたくしにやけに興味を示していた。レイラのもとにも接触してきたということは――わたくしの周囲を探っているのかしら。

 

「で、なんて言われたの?」

 

「アデルって本当はどんな人なんだろうって。『おそらく表向きの姿と違う部分があるのでは』って聞かれて、困っちゃったわ。」

 

「……それで、なんと答えたの?」

 

「さあねって。あんたがどうして悪女を演じてるのか、私もはっきり聞かされてないし。」

 

わたくしはほっと胸をなで下ろす。レイラはわたくしが孤児院を支援していることまで知っているわけじゃない。でも、わたくしが“不器用なだけで、心根は優しい”ことは察している。余計なことをベラベラ話さないでくれて感謝だわ。

 

「ふむ。フレデリックはわたくしの正体を暴くつもりかもしれないわね。」

 

「どうして正体を隠してるの? いい加減、素直になっても良いんじゃない?」

 

「素直になって、周囲の同情を受けるのは嫌よ。それに、もし皆がわたくしのことを受け入れてくれたとしても、婚約破棄という大問題は消えないでしょう。」

 

わたくしはふっと視線を落とす。ロラン殿下が婚約破棄を言い渡した理由をまだ告げてくれない以上、下手に行動しても状況は好転しない。

 

「……アデルがそれでいいなら、私も口を出さない。でも、殿下とはちゃんと話し合う機会を作ったほうがいいわよ。」

 

「ええ、わかっています。だけど、殿下はわたくしを避けてらっしゃるようなの。会おうにも機会がないのよ。」

 

レイラは困ったように息を吐く。わたくしだって、ロラン殿下の本心が気になる。もしかすると本当にわたくしの“悪行”を知って愛想が尽きたのでは……と疑ってしまう。

 

「わかったわ。もし殿下のスケジュールを知る機会があったら、私がそれとなく伝えてあげる。あんたはあんたで準備しておきなさい。」

 

「ええ、助かるわ。……ありがとう。」

 

わたくしは小さく礼を言う。レイラはわたくしの唯一無二の親友。いつも歯に衣着せぬ物言いだけれど、それが逆にありがたい。

 

「悪女をやめる気はないけれど、問題が山積みで頭が痛いわ。」

 

「ほんとにね。」

 

こうして、わたくしとレイラはため息を合わせた。表向きは冷たい言葉ばかりのわたくしだけど、彼女の前では少しだけ弱音を漏らしても許される気がするの。今はそれだけで、気持ちが軽くなる。
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