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「アデル、聞いた? 殿下の新たな婚約者候補が、やっぱり王家の遠縁だって噂。」
レイラがわたくしの前に座るなりそう告げる。気まずそうな顔をしているのは、わたくしの反応を警戒しているからかもしれない。けれど、わたくしはただ静かに紅茶をすすった。
「ええ、もう耳にしましたわ。皆さん、お好きなように噂を楽しんでいるみたいですし。」
「本当に大丈夫なの? あんた、殿下への未練が全然ないってわけじゃないでしょう。」
レイラは遠慮がちにわたくしをのぞきこむ。わたくしはあえて悪女の仮面をしっかりかぶり直してみせる。
「もちろん未練などありませんわ。わたくしは捨てられた身ですもの。今さら恥をかきたくもないし、仕方ありませんでしょう。」
そう言いながらも、心の奥底で小さな痛みを感じる。あの優しかった殿下が、なぜこんなにも急いで新たな縁談を進めるのか。わたくしには理解できない。
「でも、ロラン殿下もまんざらじゃないって噂よ。お相手は公爵令嬢らしくて、王家と血筋がつながってる。相性抜群だとか。」
「……だからどうしたの?」
わたくしは努めて冷たく言う。レイラがそれ以上は追及しないように、強めの口調をとった。わたくしが動揺しているのを悟られるのは嫌だったから。
「……そう。なら私がとやかく言うことでもないわね。」
レイラはわたくしの様子を見て、言葉を切った。
「そういえば、フレデリックがあんたに話があるって言ってたわよ。『誤解を解くにはアデル様自身の意思が大事だ』って。」
「またあの人? 近頃やたらとわたくしを気にかけてくるけれど、いい迷惑ですわ。」
フレデリックがわたくしの“裏の顔”に興味を持っているのは間違いない。彼は鋭い洞察力を持ち、真実を暴こうとしている――危険な相手だと思うと同時に、なぜか少し心強い気持ちもある。
「フレデリックさん、宰相代理の息子でしょ。頭も切れるし、政治にも詳しい。殿下を支える人材になりたいそうよ。」
「そう聞いています。だからこそ厄介。あの人は目的のためなら、わたくしの秘密も利用しかねない。」
「でも、悪女の噂を信じていない様子よ。あんたに期待してるんだと思う。」
「ふん……期待される筋合いなんてございませんわ。」
そう言い切ってみせるけれど、フレデリックからの申し出をどう受け止めるべきか、わたくしの中で答えは出せずにいる。新婚約者候補の話といい、わたくしを取り巻く状況は悪化する一方だ。それに加えて、孤児院を巡るデマやら、善行がバレかけている事態も放置できない。
「はぁ……面倒ばかり増えますわ。」
そう呟いてソファに身を沈めると、レイラがやさしく微笑んでくれた。
「何があっても、あんたはあんたよ。辛いなら、いつでも話くらい聞くから。」
「ありがとう。でも、わたくしはまだ悪女をやめるつもりはないの。」
レイラは呆れたように肩をすくめる。わたくしが負けん気の強い性格だと知っているからこそ、深入りはしないのだろう。
こうしてわたくしは、ロラン殿下の新婚約者疑惑を一見冷静に受け止めるふりをしながら、内心のざわめきを抑えられずにいた。これ以上、何が起こるというのかしら。先が見えない不安に飲まれそうになりながらも、わたくしは“悪女”としての仮面を外さぬよう、必死に自分を保ち続けるしかなかった。
レイラがわたくしの前に座るなりそう告げる。気まずそうな顔をしているのは、わたくしの反応を警戒しているからかもしれない。けれど、わたくしはただ静かに紅茶をすすった。
「ええ、もう耳にしましたわ。皆さん、お好きなように噂を楽しんでいるみたいですし。」
「本当に大丈夫なの? あんた、殿下への未練が全然ないってわけじゃないでしょう。」
レイラは遠慮がちにわたくしをのぞきこむ。わたくしはあえて悪女の仮面をしっかりかぶり直してみせる。
「もちろん未練などありませんわ。わたくしは捨てられた身ですもの。今さら恥をかきたくもないし、仕方ありませんでしょう。」
そう言いながらも、心の奥底で小さな痛みを感じる。あの優しかった殿下が、なぜこんなにも急いで新たな縁談を進めるのか。わたくしには理解できない。
「でも、ロラン殿下もまんざらじゃないって噂よ。お相手は公爵令嬢らしくて、王家と血筋がつながってる。相性抜群だとか。」
「……だからどうしたの?」
わたくしは努めて冷たく言う。レイラがそれ以上は追及しないように、強めの口調をとった。わたくしが動揺しているのを悟られるのは嫌だったから。
「……そう。なら私がとやかく言うことでもないわね。」
レイラはわたくしの様子を見て、言葉を切った。
「そういえば、フレデリックがあんたに話があるって言ってたわよ。『誤解を解くにはアデル様自身の意思が大事だ』って。」
「またあの人? 近頃やたらとわたくしを気にかけてくるけれど、いい迷惑ですわ。」
フレデリックがわたくしの“裏の顔”に興味を持っているのは間違いない。彼は鋭い洞察力を持ち、真実を暴こうとしている――危険な相手だと思うと同時に、なぜか少し心強い気持ちもある。
「フレデリックさん、宰相代理の息子でしょ。頭も切れるし、政治にも詳しい。殿下を支える人材になりたいそうよ。」
「そう聞いています。だからこそ厄介。あの人は目的のためなら、わたくしの秘密も利用しかねない。」
「でも、悪女の噂を信じていない様子よ。あんたに期待してるんだと思う。」
「ふん……期待される筋合いなんてございませんわ。」
そう言い切ってみせるけれど、フレデリックからの申し出をどう受け止めるべきか、わたくしの中で答えは出せずにいる。新婚約者候補の話といい、わたくしを取り巻く状況は悪化する一方だ。それに加えて、孤児院を巡るデマやら、善行がバレかけている事態も放置できない。
「はぁ……面倒ばかり増えますわ。」
そう呟いてソファに身を沈めると、レイラがやさしく微笑んでくれた。
「何があっても、あんたはあんたよ。辛いなら、いつでも話くらい聞くから。」
「ありがとう。でも、わたくしはまだ悪女をやめるつもりはないの。」
レイラは呆れたように肩をすくめる。わたくしが負けん気の強い性格だと知っているからこそ、深入りはしないのだろう。
こうしてわたくしは、ロラン殿下の新婚約者疑惑を一見冷静に受け止めるふりをしながら、内心のざわめきを抑えられずにいた。これ以上、何が起こるというのかしら。先が見えない不安に飲まれそうになりながらも、わたくしは“悪女”としての仮面を外さぬよう、必死に自分を保ち続けるしかなかった。
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