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「これはお忙しい中、失礼します。アデル様。」
屋敷の応接間に通されたフレデリックは、深々と頭を下げる。わたくしは顔色一つ変えずに向かいの席へ腰を下ろすが、心中は落ち着かない。フレデリックが直接訪ねてくるなんて珍しいことだから。
「ようこそ。わたくしに何の用かしら。例の孤児院の件なら、わたくしにはどうにもできませんわよ。」
「いえ、その話も含めて、少しお伝えしたいことがあるのです。」
彼はまっすぐにわたくしを見つめる。余計な笑みもなく、真剣そのもの。わたくしは冷静を装いながら紅茶を勧める。
「どうぞ。熱いですからお気をつけて。」
「ありがとうございます。」
一口飲んだフレデリックは、カップをそっと置くと少し声を低めた。
「実は、王宮内部で奇妙な動きがあるようです。孤児院へのデマを流している者は、どうやら王家の婚約問題と何らかの関係を持っている可能性がある。」
「婚約問題……?」
わたくしはロラン殿下の“新たな婚約者候補”の話を思い出しながら、フレデリックの意図を探ろうとする。
「アデル様に対する噂が、故意に拡散されている節があります。そして同時に、殿下の新しい婚約者に有利になるよう、情報操作をしている人物がいるということです。」
「つまり、わたくしが完全に悪者であるほうが、その婚約者候補にも得になると?」
「大まかにはそうです。もしアデル様が再び殿下とよりを戻すようなことがあれば、政略上の都合が悪い者がいるのでしょう。」
フレデリックの推測を聞いて、胸がざわつく。わたくしと殿下が復縁する可能性など、正直なところ低い。でも、婚約破棄が正式に成立していない今の段階では、周囲はまだ疑っているのかもしれない。
「興味深いわね。けれど、わたくしはどう対応すればいいの? わたくしの評判がどうなろうと構わないと思っていたけれど、このままでは孤児院に迷惑がかかりっぱなしでしょう?」
「はい。放っておくと、子どもたちにまで被害が及ぶ危険があります。そこで、私としてはアデル様が誤解を解く方向に動くのが一番だと考えています。」
「誤解を解く……?」
わたくしは苦笑いを浮かべる。散々“悪女”と言われてきたこのわたくしが、今さら「実は良い人です」だなんて言いだすことがどれほど難しいか。
「お気持ちはわかります。ですが、もしアデル様が動かなければ、彼らの思うつぼです。あなたを徹底的に悪者に仕立て、殿下の新たな縁談を有利にする。それが彼らの狙いだとしたら?」
「わたくしは別に、殿下がどなたと婚約しようが構いませんわ。」
思わずそう答えてしまう。フレデリックはしばし黙ったあと、静かに口を開く。
「ならば、孤児院の子どもたちのために、真実を明かすというのはどうでしょう。」
「……」
反論できずに黙り込む。善行をバラしたくはない。でも、子どもたちを守りたい思いがあるのも確か。どうすればいいのか、気持ちが揺れる。
「アデル様が望むなら、私も力を貸します。あなたの評判が回復するなら、結果として誤解も解けるはず。」
「評判なんて、今さら回復しなくていいわ。わたくしはただ……」
心の中で言葉が引っかかる。フレデリックの冷静な瞳が、わたくしの迷いをすべて見透かしているようで居心地が悪い。
「考えてみます。今日のところはそれでよろしい?」
「もちろんです。何かわかったことがあれば、また連絡いたします。」
フレデリックはそう言って、礼儀正しく退出する。残されたわたくしは、紅茶の香りだけが部屋に漂う中、自問自答を繰り返す。
(悪女を貫きたい。でも、子どもたちが危険にさらされるのは嫌。何か方法はないのかしら。)
思い悩みながら、わたくしは窓の外に視線を移す。果たして、どんな結末が待ち受けているのか、一向に見えないままだ。
屋敷の応接間に通されたフレデリックは、深々と頭を下げる。わたくしは顔色一つ変えずに向かいの席へ腰を下ろすが、心中は落ち着かない。フレデリックが直接訪ねてくるなんて珍しいことだから。
「ようこそ。わたくしに何の用かしら。例の孤児院の件なら、わたくしにはどうにもできませんわよ。」
「いえ、その話も含めて、少しお伝えしたいことがあるのです。」
彼はまっすぐにわたくしを見つめる。余計な笑みもなく、真剣そのもの。わたくしは冷静を装いながら紅茶を勧める。
「どうぞ。熱いですからお気をつけて。」
「ありがとうございます。」
一口飲んだフレデリックは、カップをそっと置くと少し声を低めた。
「実は、王宮内部で奇妙な動きがあるようです。孤児院へのデマを流している者は、どうやら王家の婚約問題と何らかの関係を持っている可能性がある。」
「婚約問題……?」
わたくしはロラン殿下の“新たな婚約者候補”の話を思い出しながら、フレデリックの意図を探ろうとする。
「アデル様に対する噂が、故意に拡散されている節があります。そして同時に、殿下の新しい婚約者に有利になるよう、情報操作をしている人物がいるということです。」
「つまり、わたくしが完全に悪者であるほうが、その婚約者候補にも得になると?」
「大まかにはそうです。もしアデル様が再び殿下とよりを戻すようなことがあれば、政略上の都合が悪い者がいるのでしょう。」
フレデリックの推測を聞いて、胸がざわつく。わたくしと殿下が復縁する可能性など、正直なところ低い。でも、婚約破棄が正式に成立していない今の段階では、周囲はまだ疑っているのかもしれない。
「興味深いわね。けれど、わたくしはどう対応すればいいの? わたくしの評判がどうなろうと構わないと思っていたけれど、このままでは孤児院に迷惑がかかりっぱなしでしょう?」
「はい。放っておくと、子どもたちにまで被害が及ぶ危険があります。そこで、私としてはアデル様が誤解を解く方向に動くのが一番だと考えています。」
「誤解を解く……?」
わたくしは苦笑いを浮かべる。散々“悪女”と言われてきたこのわたくしが、今さら「実は良い人です」だなんて言いだすことがどれほど難しいか。
「お気持ちはわかります。ですが、もしアデル様が動かなければ、彼らの思うつぼです。あなたを徹底的に悪者に仕立て、殿下の新たな縁談を有利にする。それが彼らの狙いだとしたら?」
「わたくしは別に、殿下がどなたと婚約しようが構いませんわ。」
思わずそう答えてしまう。フレデリックはしばし黙ったあと、静かに口を開く。
「ならば、孤児院の子どもたちのために、真実を明かすというのはどうでしょう。」
「……」
反論できずに黙り込む。善行をバラしたくはない。でも、子どもたちを守りたい思いがあるのも確か。どうすればいいのか、気持ちが揺れる。
「アデル様が望むなら、私も力を貸します。あなたの評判が回復するなら、結果として誤解も解けるはず。」
「評判なんて、今さら回復しなくていいわ。わたくしはただ……」
心の中で言葉が引っかかる。フレデリックの冷静な瞳が、わたくしの迷いをすべて見透かしているようで居心地が悪い。
「考えてみます。今日のところはそれでよろしい?」
「もちろんです。何かわかったことがあれば、また連絡いたします。」
フレデリックはそう言って、礼儀正しく退出する。残されたわたくしは、紅茶の香りだけが部屋に漂う中、自問自答を繰り返す。
(悪女を貫きたい。でも、子どもたちが危険にさらされるのは嫌。何か方法はないのかしら。)
思い悩みながら、わたくしは窓の外に視線を移す。果たして、どんな結末が待ち受けているのか、一向に見えないままだ。
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