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「少しは落ち着いた?」
翌日、レイラがわたくしの部屋を訪ねてくる。王宮でのすれ違いの件を連絡してあったから、わざわざ様子を見に来たのだろう。
「落ち着くも何も、何も解決しませんもの。」
わたくしはベッドにうつ伏せのまま答える。レイラは呆れた様子で椅子に腰かける。
「何か言いかけたって言ってたでしょ。それなら、殿下にはまだ言いたいことがあるんじゃないの?」
「そうみたいだけど……結局わたくしとは話したくないみたいだわ。」
腹立たしさと悲しみがこみ上げて、思わず枕をぎゅっと抱きしめる。レイラはそんなわたくしを見て、ため息混じりに口を開く。
「正直、わたしにはわからない。どうして殿下はあんたを遠ざけるのか。あんたはまだ殿下のことが好きなの?」
「……さあ。わたくしは悪女なんですもの。殿下を好きだなんて口が裂けても言えませんわ。」
声が震えたのを、レイラが見逃すはずもない。案の定、彼女は鋭い目つきでわたくしを見つめてきた。
「本音を言いなさいよ。私だけはあんたの仮面を剥がしても怒らないから。」
わたくしはベッドから上半身を起こし、視線を床に落とす。長い沈黙のあと、ようやく小さな声で呟いた。
「……好き、ですわ。ずっと昔から、殿下のことを想っていた。」
「やっぱりね。だったら、どうしてもっと殿下にぶつかっていかないの?」
「婚約破棄を言われたのよ? わたくしは捨てられた側。今さらすがりつくなんて、そんな恥ずかしいまねできるわけないわ。」
レイラは首を振る。
「馬鹿ね、恋愛なんてプライドじゃないでしょう。相手を思う気持ちが本当にあるなら、もっと素直になったら?」
「……素直になれたら、こんなに苦労はしていませんわ。」
わたくしは弱々しく笑う。幼い頃から、高貴な伯爵令嬢として「常に凛としていなさい」と言われてきた。ほんの些細な失敗があっても、悪女と思われることで誤魔化し続けてきたのは、打ち明ける相手がいなかったからかもしれない。
「しかも、殿下には新しい婚約者候補がいるんでしょう。わたくしが今さら割って入る隙なんてないのよ。」
「それも本当かどうか。政治の駆け引きに巻き込まれてる可能性もあるわけだし。」
レイラの言うとおり、確かな情報はまだない。わたくしはそれを承知しつつも、心が折れかけている。
「わたしとしては、あんたに悪女をやめて、正々堂々と殿下にアタックしてほしいんだけど。」
「無理。悪女をやめたら、周囲に笑われるわ。『今さら善人ぶって』って。」
「誰が笑おうと関係ないでしょ。あんたがどんな人か知ってる人はちゃんといる。それだけで十分じゃないの?」
レイラの真剣な声に、胸が熱くなる。だけど、何度も繰り返し自分に言い聞かせてきた“悪女キャラ”をいきなり捨てるなんて、わたくしには怖くてできない。
「……もう少し考えさせて。あなたが言いたいことはわかるけど、わたくしもそう簡単には割り切れないのよ。」
「わかった。無理やりはしない。ただ、あんたがいつか本音でぶつかる時は応援するから。」
レイラはそう言って、わたくしの手をぎゅっと握る。わたくしは戸惑いながらも、心が少しだけ軽くなるのを感じた。誰にも言えない本音をさらけ出しても、レイラなら受け止めてくれる――それだけが、今のわたくしの救いだ。
翌日、レイラがわたくしの部屋を訪ねてくる。王宮でのすれ違いの件を連絡してあったから、わざわざ様子を見に来たのだろう。
「落ち着くも何も、何も解決しませんもの。」
わたくしはベッドにうつ伏せのまま答える。レイラは呆れた様子で椅子に腰かける。
「何か言いかけたって言ってたでしょ。それなら、殿下にはまだ言いたいことがあるんじゃないの?」
「そうみたいだけど……結局わたくしとは話したくないみたいだわ。」
腹立たしさと悲しみがこみ上げて、思わず枕をぎゅっと抱きしめる。レイラはそんなわたくしを見て、ため息混じりに口を開く。
「正直、わたしにはわからない。どうして殿下はあんたを遠ざけるのか。あんたはまだ殿下のことが好きなの?」
「……さあ。わたくしは悪女なんですもの。殿下を好きだなんて口が裂けても言えませんわ。」
声が震えたのを、レイラが見逃すはずもない。案の定、彼女は鋭い目つきでわたくしを見つめてきた。
「本音を言いなさいよ。私だけはあんたの仮面を剥がしても怒らないから。」
わたくしはベッドから上半身を起こし、視線を床に落とす。長い沈黙のあと、ようやく小さな声で呟いた。
「……好き、ですわ。ずっと昔から、殿下のことを想っていた。」
「やっぱりね。だったら、どうしてもっと殿下にぶつかっていかないの?」
「婚約破棄を言われたのよ? わたくしは捨てられた側。今さらすがりつくなんて、そんな恥ずかしいまねできるわけないわ。」
レイラは首を振る。
「馬鹿ね、恋愛なんてプライドじゃないでしょう。相手を思う気持ちが本当にあるなら、もっと素直になったら?」
「……素直になれたら、こんなに苦労はしていませんわ。」
わたくしは弱々しく笑う。幼い頃から、高貴な伯爵令嬢として「常に凛としていなさい」と言われてきた。ほんの些細な失敗があっても、悪女と思われることで誤魔化し続けてきたのは、打ち明ける相手がいなかったからかもしれない。
「しかも、殿下には新しい婚約者候補がいるんでしょう。わたくしが今さら割って入る隙なんてないのよ。」
「それも本当かどうか。政治の駆け引きに巻き込まれてる可能性もあるわけだし。」
レイラの言うとおり、確かな情報はまだない。わたくしはそれを承知しつつも、心が折れかけている。
「わたしとしては、あんたに悪女をやめて、正々堂々と殿下にアタックしてほしいんだけど。」
「無理。悪女をやめたら、周囲に笑われるわ。『今さら善人ぶって』って。」
「誰が笑おうと関係ないでしょ。あんたがどんな人か知ってる人はちゃんといる。それだけで十分じゃないの?」
レイラの真剣な声に、胸が熱くなる。だけど、何度も繰り返し自分に言い聞かせてきた“悪女キャラ”をいきなり捨てるなんて、わたくしには怖くてできない。
「……もう少し考えさせて。あなたが言いたいことはわかるけど、わたくしもそう簡単には割り切れないのよ。」
「わかった。無理やりはしない。ただ、あんたがいつか本音でぶつかる時は応援するから。」
レイラはそう言って、わたくしの手をぎゅっと握る。わたくしは戸惑いながらも、心が少しだけ軽くなるのを感じた。誰にも言えない本音をさらけ出しても、レイラなら受け止めてくれる――それだけが、今のわたくしの救いだ。
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