婚約破棄ですって?!私の悪行…まさかバレてませんわよね?

神楽坂ゆい

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「いやあ、私、昨日ちょっと飲みすぎちゃって……」

 

サラが気まずそうに視線を泳がせている。わたくしはテーブルを挟んで腕を組み、冷ややかに問い詰める。

 

「聞いたわよ。あなた、王都の酒場でわたくしの名前を口にして、何か余計なことをしゃべったそうね?」

 

「えっと、その……アデル様がすごく優しいとか、殿下が好きだとか、そんな感じのことを……ほんの少しだけ。」

 

「ほんの少し、ですって?」

 

わたくしは怒りよりも呆れで声が裏返りそうになる。酒の勢いとはいえ、悪女アデルのイメージを根本から覆すような情報をペラペラしゃべっていたとしたら大問題だわ。

 

「ごめんなさい。でも、周りの人が『アデル様は本当に酷い女だ』って言ってるのを聞くと、ついカッとなって……」

 

「それで、わたくしの内情を暴露したわけね。おかげで妙な噂が広まってるみたいよ。『アデルは実は殿下を盲愛している』とか、『陰では善行を積む二重人格』とか。」

 

サラは顔を真っ赤にしてうなだれる。わたくしは大きく息を吐き出し、椅子にもたれかかった。

 

「まぁ、実際には当たらずとも遠からず……だけど、今さらそんな噂が立ってもわたくしが迷惑するだけなの。わかる?」

 

「すみません。どうしても我慢できなくて……アデル様が本当はお優しいのにって、思ったら……」

 

純粋にわたくしを擁護しようとしてくれたサラを責めきれない自分がいる。だけど、現状では悪女の仮面が外れては困るのだ。孤児院のデマも解決していないし、ロラン殿下との中途半端な関係も整理できていない。

 

「あなたの気持ちはありがたいけれど、今後は気をつけて。わたくしの意思に反して行動されると、本当に困るの。」

 

「はい、本当に反省してます。もう絶対に酒場ではしゃべりません。」

 

勢いよく頭を下げるサラ。わたくしはそれを見て小さくため息をつく。彼女が悪いわけではない。悪女を演じ続けるわたくし自身が原因なのだ。

 

とはいえ、今回の失言で、城下町の一部では「アデルはただの悪女ではない」という新たな噂が芽生え始めたらしい。噂はいつの間にか膨張し、わたくしの知らない形で独り歩きしている。

 

「これ以上、事態がこじれなければいいんだけど。」

 

思わず本音が漏れる。わたくしは表向きの悪女像が崩れるのを恐れている。でも、同時に“誤解が解けるかもしれない”という希望もわずかに感じている自分がいる。

 

「アデル様……わたし、また何か困ったことがあったら力になりますから。だから怒らないでくださいね。」

 

「怒りたいわけじゃないのよ。ただ……」

 

わたくしは視線を落とす。サラの好意は嬉しいのに、素直に受け止められない。周囲が勝手に作り上げた“悪女”像を一度壊すには、相応の覚悟がいるからだ。

 

「わかったわ。あなたには今後もう少しだけ協力してもらうかもしれない。わたくしが本当に追い詰められたら、その時は頼りにする。」

 

「はい、なんでもお申し付けください。」

 

サラは瞳を輝かせて答える。その笑顔を見て、わたくしの胸の奥に新たな感情がわずかに芽生えた。悪女アデルが周囲に心を開けば、案外頼れる仲間がいるのかもしれない――そんなささやかな思いに揺れ動きながら、わたくしは再び苦悩の渦へと戻っていくのだった。
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