婚約破棄ですって?!私の悪行…まさかバレてませんわよね?

神楽坂ゆい

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「皆様、本日はご参列いただき感謝申し上げます。」

 

王宮で開催される春の大規模パーティ。貴族や有力者が一堂に会し、華やかな舞踏会や会食が行われる。わたくしも伯爵家の令嬢として招待状を受け取った以上、断るわけにはいかなかった。

 

「はぁ……行きたくないわ。」

 

わたくしはドレスのリボンを直しながら、鏡に映る自分に呟く。ドレスは華やかな紫色。悪女らしい派手さがあるが、内心は落ち着かない。婚約破棄の話題が絶好のゴシップとして取り沙汰されるのは目に見えているからだ。

 

「アデル様、そろそろお車の用意ができました。」

 

サラが声をかけてくる。わたくしは深呼吸して、悪女の仮面をかぶる覚悟を決めた。

 

パーティ会場は、すでに多くの貴族たちで賑わっていた。豪華なシャンデリアや音楽、甘美な香りが漂う料理の数々。それらを楽しむ余裕など、わたくしには微塵もない。

 

「あら、アデル様。お一人で? 殿下はご一緒ではないの?」

 

招待客の一人が、皮肉を交えた笑みを向ける。わたくしはわざと胸を張り、鼻で笑ってみせる。

 

「残念でしたわね。殿下はわたくしの相手をするほど暇ではなくてよ。」

 

「まぁ、そうでしょうとも。何しろ新しい婚約者がいらっしゃるとか。あら、失礼かしら。」

 

嫌味ったらしい貴婦人の言葉に、周囲の人々がクスクスと含み笑いを漏らす。わたくしは気にしないふりをして、シャンパンのグラスを手に取った。

 

「ええ、失礼ですわ。でもわたくしは気にしませんことよ。殿下の好みがどんな令嬢だろうと……」

 

強がる声が少し震える。グラスの中の泡を見つめながら、ロラン殿下の姿を探すが、まだ到着していないのか見当たらない。

 

「アデル様、いらしてたんですね。」

 

フレデリックがさりげなく近づいてくる。わたくしは安堵しつつも、周囲に悟られぬように視線だけで応じる。

 

「殿下は遅れて来られるとのことです。もし殿下と話す機会があれば、焦らず対応を。今は変に目立たないほうがいい。」

 

「言われなくてもわかってるわ。」

 

とはいえ、この会場にいるだけで嫌でも目立つのだが。わたくしはグラスを置き、踊る人々の輪を遠巻きに眺める。華やかな音楽が流れる中、社交の場は笑い声と囁きで満ちている。

 

「あら、ダンスを申し込もうと思ったのに、アデル様は乗り気じゃないんですか?」

 

別の貴族青年が声をかけてくるが、わたくしは即座に断る。

 

「悪女と踊っても楽しくありませんわよ。」

 

青年は苦笑しながら去っていく。周囲の視線がますます冷たいのを感じる。わたくしは“婚約破棄された厄介者”として扱われているのだ。心臓が痛むほど鼓動が高まるが、表情は崩さない。

 

「今、あちらにいらっしゃるのは、殿下の新婚約者候補なんじゃない?」

 

ひそひそ声が聞こえてきて、思わずそちらに目をやる。華やかなドレスに身を包んだ令嬢が、笑顔で他の貴族と談笑している。遠目から見ても洗練され、高貴な雰囲気がある。あの人が候補……? わたくしは何故か胸を締め付けられるように感じながら、視線を外す。

 

「大丈夫ですか?」

 

フレデリックが耳打ちしてくる。わたくしは「平気よ」とだけ答え、グラスを取り直す。やるせない思いを振り払うように飲み干したシャンパンの味は、なぜか苦かった。
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