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「アデル様、大丈夫ですか?」
会場を出て休憩スペースへと逃げ込んだわたくしのもとに、フレデリックが駆け寄ってくる。わたくしはグラスの水をすすりながら、疲れたように首を横に振る。
「ありがとう、大丈夫よ。少し……人目を避けたかっただけ。」
「今、殿下があなたを見ていましたよ。何か言いたげでしたが、アデル様が去ってしまったので追いかけはしなかった。」
わたくしは苦笑する。もうロラン殿下と直接話す気力もない。このパーティ会場での一件で、わたくしはまた“性悪女”として扱われ、殿下が新たな婚約者を得るであろう未来を見せつけられたのだから。
「殿下は一体、何がしたいのかしら。婚約破棄を言い渡しておきながら、あんな視線で見つめてくるなんて。意地悪ですわ。」
「あの様子だと、殿下も何かしら葛藤しているように思えます。アデル様を無視しているわけではなさそうだ。」
「そうであっても、わたくしにとっては辛いだけ……」
視線を感じると嫌でも心が乱れる。嫌いになれれば楽なのに、どうしてこんなに胸が痛むのか自分でもわからない。
すると、レイラがこちらに駆け寄ってきて、息を切らしながら声を張り上げる。
「アデル! 大変、あの新婚約者候補っていう令嬢が殿下と一緒にいるわ。」
「……それがどうかしたの?」
「それがさっき、殿下が『自分が求めるのはただ一人だけだ』みたいなことを言って、その令嬢を困惑させてたのよ。」
「え、それは本当ですの?」
思わず身を乗り出す。フレデリックも意外そうに目を見開いている。
「ええ。周りの人も『どういう意味?』って戸惑ってたみたい。わたしは小耳に挟んだだけだけど、殿下は明確に『ほかの縁談など考えていない』と断言したそうよ。」
「ということは、あの新婚約者の噂は事実ではなかった……?」
混乱する頭を抑える。周囲が騒いでいた“新しい婚約者”はどうやら正式ではなく、むしろ殿下自身は否定的だったということらしい。でも、ならばどうして婚約破棄を進める必要があったのか?
「ひとまず誤解が解けたのは良いことかもしれませんが、ますます謎ですね。婚約破棄しながら、他の縁談も拒むとは。」
フレデリックが考え込む。わたくしも同じ気持ちだ。まるで殿下は何かを守るために、敢えて婚約破棄を宣言したようにも思えてくる。
「アデル、殿下とちゃんと話してみるべきじゃない? あんたから動かなきゃ、きっと殿下も何も言えないわよ。」
レイラにそう促されるが、わたくしは少し躊躇する。先ほどまで“性悪女”と罵られたばかり。傷だらけの心で殿下に向き合うのは勇気が要る。
「……もう少し様子を見させて。今はわたくしも気持ちが混乱しているの。」
「わかった。無理しなくていいけど、次のチャンスを逃したらどんどん遠ざかってしまう気がする。」
レイラの言葉が胸に重く響く。殿下が新たな縁談を否定したのなら、わたくしへの未練が残っている可能性もあるのかもしれない。けれど、わたくしはまだ踏み出せない。真相を知らないまま、ただやきもきするばかり。
「殿下……何を考えているの? わたくしには、まるでわかりませんわ。」
そう呟いた瞬間、会場のほうでざわめきが起きる。どうやらパーティの後半に向けて別の催しが始まるようだ。わたくしはもう戻る気になれず、フレデリックとレイラの存在に支えられながら、静かに息を整えていた。薄氷の上を歩くような不安定さを感じるこの状況で、わたくしは何を選べばいいのだろう。心の奥で小さな葛藤が渦巻いているのを、はっきりと自覚した夜だった。
会場を出て休憩スペースへと逃げ込んだわたくしのもとに、フレデリックが駆け寄ってくる。わたくしはグラスの水をすすりながら、疲れたように首を横に振る。
「ありがとう、大丈夫よ。少し……人目を避けたかっただけ。」
「今、殿下があなたを見ていましたよ。何か言いたげでしたが、アデル様が去ってしまったので追いかけはしなかった。」
わたくしは苦笑する。もうロラン殿下と直接話す気力もない。このパーティ会場での一件で、わたくしはまた“性悪女”として扱われ、殿下が新たな婚約者を得るであろう未来を見せつけられたのだから。
「殿下は一体、何がしたいのかしら。婚約破棄を言い渡しておきながら、あんな視線で見つめてくるなんて。意地悪ですわ。」
「あの様子だと、殿下も何かしら葛藤しているように思えます。アデル様を無視しているわけではなさそうだ。」
「そうであっても、わたくしにとっては辛いだけ……」
視線を感じると嫌でも心が乱れる。嫌いになれれば楽なのに、どうしてこんなに胸が痛むのか自分でもわからない。
すると、レイラがこちらに駆け寄ってきて、息を切らしながら声を張り上げる。
「アデル! 大変、あの新婚約者候補っていう令嬢が殿下と一緒にいるわ。」
「……それがどうかしたの?」
「それがさっき、殿下が『自分が求めるのはただ一人だけだ』みたいなことを言って、その令嬢を困惑させてたのよ。」
「え、それは本当ですの?」
思わず身を乗り出す。フレデリックも意外そうに目を見開いている。
「ええ。周りの人も『どういう意味?』って戸惑ってたみたい。わたしは小耳に挟んだだけだけど、殿下は明確に『ほかの縁談など考えていない』と断言したそうよ。」
「ということは、あの新婚約者の噂は事実ではなかった……?」
混乱する頭を抑える。周囲が騒いでいた“新しい婚約者”はどうやら正式ではなく、むしろ殿下自身は否定的だったということらしい。でも、ならばどうして婚約破棄を進める必要があったのか?
「ひとまず誤解が解けたのは良いことかもしれませんが、ますます謎ですね。婚約破棄しながら、他の縁談も拒むとは。」
フレデリックが考え込む。わたくしも同じ気持ちだ。まるで殿下は何かを守るために、敢えて婚約破棄を宣言したようにも思えてくる。
「アデル、殿下とちゃんと話してみるべきじゃない? あんたから動かなきゃ、きっと殿下も何も言えないわよ。」
レイラにそう促されるが、わたくしは少し躊躇する。先ほどまで“性悪女”と罵られたばかり。傷だらけの心で殿下に向き合うのは勇気が要る。
「……もう少し様子を見させて。今はわたくしも気持ちが混乱しているの。」
「わかった。無理しなくていいけど、次のチャンスを逃したらどんどん遠ざかってしまう気がする。」
レイラの言葉が胸に重く響く。殿下が新たな縁談を否定したのなら、わたくしへの未練が残っている可能性もあるのかもしれない。けれど、わたくしはまだ踏み出せない。真相を知らないまま、ただやきもきするばかり。
「殿下……何を考えているの? わたくしには、まるでわかりませんわ。」
そう呟いた瞬間、会場のほうでざわめきが起きる。どうやらパーティの後半に向けて別の催しが始まるようだ。わたくしはもう戻る気になれず、フレデリックとレイラの存在に支えられながら、静かに息を整えていた。薄氷の上を歩くような不安定さを感じるこの状況で、わたくしは何を選べばいいのだろう。心の奥で小さな葛藤が渦巻いているのを、はっきりと自覚した夜だった。
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