婚約破棄ですって?!私の悪行…まさかバレてませんわよね?

神楽坂ゆい

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「アデル様、こちらを見てください。昨日、王宮宛に届いた手紙の中に、あなた宛と思われるものがありました。」

 

フレデリックがそう言って手渡してきたのは、まさかの“感謝状”だった。差出人は孤児院の関係者。中には子どもたちが描いた絵や、拙い文字でアデル宛てのメッセージが綴られている。

 

「な、なぜこれが王宮に……?」

 

わたくしは思わず手紙を握りしめる。普段は伯爵家に直接届けられるように手配しているが、今回なぜか回り道して王宮へ届いてしまったようだ。

 

「書かれている内容を見ると、どうやらアデル様への強い感謝が伝わるものですね。子どもたちが一生懸命書いたのだと思います。」

 

「読むのはやめてちょうだい。これは……わたくしだけの秘密にしておきたいの。」

 

フレデリックは柔らかな表情でうなずく。わたくしはそっと封筒を閉じ、再び自分の手元に抱きしめるように押し当てる。

 

「わたくしがしていることなど、本当に大したことではないわ。子どもたちがこうして喜んでくれているのは嬉しいけれど……それを周囲に知られるのは困るの。」

 

「ええ、承知しています。ですが、今回の手紙が王宮に届いた経緯を考えると、宛先をわざと変えた誰かがいる可能性もあります。」

 

「誰かが……?」

 

わたくしは眉をひそめる。フレデリックの推測は、孤児院の支援を続けるわたくしを王宮へ強制的に“可視化”させるための罠かもしれない、というものだ。実際、わたくしの素行を探る勢力がいる以上、わざと証拠を王宮に送って周囲の興味を引こうとしているのかもしれない。

 

「考えすぎかもしれませんが、用心するに越したことはありません。既にアデル様を陥れようとする人物が暗躍している可能性が高い。あなたの評判をもっと悪くして、王子の新婚約者の話を有利に進めようとする動きがあるのかもしれません。」

 

「なるほど……ますます鬱陶しいですわ。こんな手紙一通で、子どもたちにまで迷惑がかかるなんて。」

 

わたくしは唇を噛む。もし孤児院の存在そのものが、政略や陰謀の道具に利用されるのだとしたら、たまらなく悔しい。

 

「手紙に書かれている子どもたちの絵を見てください。とても純粋で、あなたに寄せる感謝の気持ちがはっきり伝わってきますよ。」

 

フレデリックがそっと絵を指さす。その素朴な色彩や無邪気な笑顔を描いた線を見ていると、心の奥に温かいものが広がる。一方で、彼らがこの先どんな風評被害を受けるかわからない不安も募る。

 

「……わたくし、考えました。フレデリック、あなたが言うように誤解を解くために動くのは避けられないかもしれない。けれど、わたくしはまだ“悪女”でいることにしがみつきたい思いもある。」

 

「承知しています。ですが、そろそろ決断を迫られる時が来るでしょう。それがあなたの望む未来につながるのなら、私は協力を惜しみません。」

 

フレデリックは淡々としながらも、力強く言葉を紡ぐ。わたくしは感謝状と絵を改めて見つめ、子どもたちの笑顔を守りたいという気持ちが込み上げるのを感じた。

 

(悪女をやめるのは怖い。でも、わたくしが動かなければ、守れないものがある。)

 

黙り込むわたくしに、フレデリックは無理をさせまいとするように深くは踏み込まない。わたくしはそんな彼の思いやりにほんの少しだけ救われながら、今後どう動くべきかゆっくりと考え始めたのだった。
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