婚約破棄ですって?!私の悪行…まさかバレてませんわよね?

神楽坂ゆい

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「ねえ、聞いてくださいよ。昨日の夜会、また私やっちゃいました!」

 

サラが血相を変えて駆け込んでくる。わたくしはうんざりした様子でソファに腰掛けたまま、彼女を見上げる。

 

「ええ、聞きたくありませんけれど、一応聞きましょうか。今度は何を?」

 

「その……お酒の席で、アデル様の“本当の気持ち”について、うっかり……」

 

「うっかり?」

 

わたくしの声が低くなる。サラは縮こまるように身をすくめ、ぺこぺこと頭を下げる。

 

「すみません。アデル様が実はロラン殿下を今でも……って、言っちゃったんです。『実はものすごくお慕いしている』みたいに。」

 

「はぁ……あなた、どうして毎度毎度そういう失言をするの?」

 

頭を抱えてしまいそうだ。サラの素直さは美点だけれど、わたくしが悪女でいるためには致命的なまでに空気が読めないことがある。

 

「酔った他の貴婦人が『アデル様は殿下を嫌ってるんでしょ』とか言ってくるから、ついカッとなって……。本当はアデル様は……って、つい。」

 

「わたくしが殿下を……好き、だなんて。もう少し周囲に広まったら厄介ですよ。孤児院の件とも結びついて、『実は優しくて殿下を愛してるいい人』なんて噂が出たら……」

 

言いながら自分でも何を言っているのかわからなくなる。普通なら悪評よりずっとマシのはず。それなのに、わたくしのプライドは“悪女の仮面”が剥がれることを極度に恐れている。

 

「ごめんなさい。でも、実はそのおかげで『アデル様って本当にただの悪女じゃないのかも』って囁かれ始めてるみたいですよ。」

 

サラはむしろポジティブな方向で報告する。わたくしはため息をつく。いくらそれが誤解解消のきっかけになる可能性があるとしても、今のわたくしにはあまりに急な変化だ。

 

「ふぅ……確かに、悪女の烙印を押されるよりはマシという考え方もあるかもしれない。けれど、同時に『わたくしが殿下にすがりつこうとしている』みたいな誤解も生まれるかもしれないわ。」

 

「そ、それは……そうかもしれませんね。でも、もう噂は広がり始めているんです。」

 

サラの言葉に、胸の奥に不安が広がる。悪女アデルの名が覆り始めるのは、ある意味わたくしがずっと恐れてきた瞬間だ。下手をすれば、好奇の目が一気にこちらに向き、半端な善行は偽善だと叩かれる可能性もある。

 

「でも、アデル様がどう思おうと、もう噂は止められません。じゃあ、いっそ開き直るか、誤魔化し続けるしか……」

 

「誤魔化し続けるのも限界があるでしょうね。」

 

自嘲気味に笑ってしまう。わたくしは婚約破棄の一件で立場が危うくなっているし、孤児院への寄付や殿下への想いまで露見しつつある。もう限界が近いのかもしれない。

 

「……わかったわ。サラ、しばらくあまり酒場や夜会ではわたくしの話題に触れないで。もう遅いかもしれないけど、どうにか傷を最小限に抑えたい。」

 

「はい、承知しました。本当にすみませんでした。」

 

頭を下げるサラの姿を見つめながら、わたくしは胸の中でため息をつく。悪女の仮面を守るのが難しくなっている今、わたくしは果たしてどう動けばいいのか。フレデリックやレイラの助言が頭をよぎるが、まだ自分の気持ちに整理がつかない。そんな焦燥感ばかりが募っていくのを感じていた。
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