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「アデル様、失礼いたします。」
一人で屋敷の書斎にこもり、考えに耽っていたわたくしのもとへ、サラが慌ただしい足取りでやってくる。わたくしは顔を上げ、深刻そうな彼女の表情に身構える。
「どうしたの? そんなに慌てて。」
「実は……町中で妙な張り紙が出回り始めているんです。内容が、アデル様が過去にやらかした“とんでもない悪行”を暴露するようなことを示唆していて……」
「過去の悪行?」
胸が一気にざわつく。思い当たる節はある。子どものころ、美術館で壊した花瓶の件や、誤解を招くような行動の数々。噂になっていないものも確かにあるが、真偽含めた奇妙な伝聞が一斉に撒かれる恐れがある。
「ええ。『伯爵令嬢アデルの真の姿を白日の下にさらす』とか、書かれているそうで。町の人々の関心が高まっているみたいです。」
サラは不安げに言葉を続ける。わたくしはその場に立ち尽くし、一瞬頭が真っ白になるのを感じた。
「これは……もしかして、王家やわたくしに敵対する勢力が、わたくしを徹底的に悪者に仕立て上げようとしているのかしら。」
「きっとそうです。新しい婚約者話が失敗したことで、次の手段に出たのかもしれません。アデル様を悪の権化に仕立て上げて、宮廷内の評価を地に落とす狙いかもしれません。」
わたくしは拳を握りしめる。悪女の仮面をかぶっていたからといって、実際には人に害を及ぼすような本当の悪行はしていないはず。けれど、いくらでも誇張や捏造は可能だ。もし孤児院の件などが歪んだ形で伝えられれば、子どもたちにも被害が及ぶ。
「フレデリックには連絡したの?」
「はい。すぐに対処すると言っていました。ですが、張り紙はすでにかなりの数が出回っているらしく、撤去するにも時間がかかるそうです。」
「そう……」
わたくしは奥歯を噛み締める。ここまで追い詰められるとは想像していなかった。殿下がわたくしを守るために婚約破棄したというのが事実だとしても、結果的に“悪女アデル”の存在感は利用されてしまっている。
「これ以上、放置できないわね。フレデリックの協力を得て、わたくしも動くしかない。張り紙に書かれている内容が何であれ、堂々と否定するのが得策かもしれない。」
「しかし、アデル様が表立って動けば、ますます敵のターゲットになりかねませんよ。」
「でも、今動かなければ孤児院やわたくしの周囲の人にも被害が及ぶでしょう? 悪行を暴露する、と騒ぎ立てられれば、何も知らない人々は疑惑を深める。わたくしは悪女として有名だから、信じる人も多いはず。」
サラは黙り込む。わたくしも内心は怖いが、ここで引き下がっては取り返しのつかない事態になるかもしれない。フレデリックの言う“誤解を解く”という選択肢を真剣に考える時が来たようだ。
「そもそも、わたくしの最大の“過ち”はあの花瓶の件。でも、あれは単なる不注意で、本当は悪意なんてなかった。だけどそれを釈明もせずに、結果的に悪女として開き直ったわたくしにも責任がある。」
声が少し震える。過去の出来事を思い返すと、悔しさや後悔が入り混じった複雑な感情が湧き上がる。
「サラ、フレデリックと合流するわ。奴らに好き勝手させない。もし張り紙の拡散を止められなくても、わたくし自身が真実を語る用意をしておくしかない。」
「は、はい。わたしもお供します!」
わたくしはサラを伴い、屋敷を出る準備を始める。外には誰が待ち受けているのか、わからない。だが、このまま悪女と呼ばれるだけで済むならまだしも、善行すら歪められるのは我慢ならない。決戦のときが近づいている――そんな予感が胸を締め付けていた。
一人で屋敷の書斎にこもり、考えに耽っていたわたくしのもとへ、サラが慌ただしい足取りでやってくる。わたくしは顔を上げ、深刻そうな彼女の表情に身構える。
「どうしたの? そんなに慌てて。」
「実は……町中で妙な張り紙が出回り始めているんです。内容が、アデル様が過去にやらかした“とんでもない悪行”を暴露するようなことを示唆していて……」
「過去の悪行?」
胸が一気にざわつく。思い当たる節はある。子どものころ、美術館で壊した花瓶の件や、誤解を招くような行動の数々。噂になっていないものも確かにあるが、真偽含めた奇妙な伝聞が一斉に撒かれる恐れがある。
「ええ。『伯爵令嬢アデルの真の姿を白日の下にさらす』とか、書かれているそうで。町の人々の関心が高まっているみたいです。」
サラは不安げに言葉を続ける。わたくしはその場に立ち尽くし、一瞬頭が真っ白になるのを感じた。
「これは……もしかして、王家やわたくしに敵対する勢力が、わたくしを徹底的に悪者に仕立て上げようとしているのかしら。」
「きっとそうです。新しい婚約者話が失敗したことで、次の手段に出たのかもしれません。アデル様を悪の権化に仕立て上げて、宮廷内の評価を地に落とす狙いかもしれません。」
わたくしは拳を握りしめる。悪女の仮面をかぶっていたからといって、実際には人に害を及ぼすような本当の悪行はしていないはず。けれど、いくらでも誇張や捏造は可能だ。もし孤児院の件などが歪んだ形で伝えられれば、子どもたちにも被害が及ぶ。
「フレデリックには連絡したの?」
「はい。すぐに対処すると言っていました。ですが、張り紙はすでにかなりの数が出回っているらしく、撤去するにも時間がかかるそうです。」
「そう……」
わたくしは奥歯を噛み締める。ここまで追い詰められるとは想像していなかった。殿下がわたくしを守るために婚約破棄したというのが事実だとしても、結果的に“悪女アデル”の存在感は利用されてしまっている。
「これ以上、放置できないわね。フレデリックの協力を得て、わたくしも動くしかない。張り紙に書かれている内容が何であれ、堂々と否定するのが得策かもしれない。」
「しかし、アデル様が表立って動けば、ますます敵のターゲットになりかねませんよ。」
「でも、今動かなければ孤児院やわたくしの周囲の人にも被害が及ぶでしょう? 悪行を暴露する、と騒ぎ立てられれば、何も知らない人々は疑惑を深める。わたくしは悪女として有名だから、信じる人も多いはず。」
サラは黙り込む。わたくしも内心は怖いが、ここで引き下がっては取り返しのつかない事態になるかもしれない。フレデリックの言う“誤解を解く”という選択肢を真剣に考える時が来たようだ。
「そもそも、わたくしの最大の“過ち”はあの花瓶の件。でも、あれは単なる不注意で、本当は悪意なんてなかった。だけどそれを釈明もせずに、結果的に悪女として開き直ったわたくしにも責任がある。」
声が少し震える。過去の出来事を思い返すと、悔しさや後悔が入り混じった複雑な感情が湧き上がる。
「サラ、フレデリックと合流するわ。奴らに好き勝手させない。もし張り紙の拡散を止められなくても、わたくし自身が真実を語る用意をしておくしかない。」
「は、はい。わたしもお供します!」
わたくしはサラを伴い、屋敷を出る準備を始める。外には誰が待ち受けているのか、わからない。だが、このまま悪女と呼ばれるだけで済むならまだしも、善行すら歪められるのは我慢ならない。決戦のときが近づいている――そんな予感が胸を締め付けていた。
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