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「アデル、これを見てくれ。」
王宮の一室。わたくしがフレデリックやサラと合流しようと動き出した矢先、ロラン殿下から緊急の呼び出しを受けた。差し出されたのは町中に貼られているという“張り紙”の写し。そこには酷い言葉が並び、わたくしの罪を糾弾する文言で溢れている。
「こんな悪質な文書、どうしても取り除きたいけれど、広範囲にばらまかれていて対処が遅れています。読むのも胸が痛む。」
わたくしはちらりと目を通し、吐き気がするのをこらえる。捏造や誇張が幾重にも重なっていて、読んでいるだけで心が削られるようだ。
「わたくしは……何か特別に恨みを買うようなことをしたわけではありません。子どものころの失敗が原因で悪女と言われ、それを隠れ蓑にしてきただけ。でも、これほどの憎悪を一体誰が……」
殿下は申し訳なさそうに視線を落とし、大きく息を吐く。
「俺は、お前をこんな目に遭わせたくなかった。だが、いま明らかになりつつあるのは、王家の権力を握りたい者たちが、お前を利用して俺をも揺さぶろうとしている形跡があるということだ。」
「わたくしを使って、殿下を……?」
まさかそこまでの陰謀が渦巻いているとは思わなかった。わたくしのイメージを悪化させることで、殿下を追い詰め、結果的に都合の良い縁談に持ち込もうとする――そんなシナリオが頭をよぎる。
「ただ、ここまで大々的に動いているのは意外だった。水面下で動くだけでは飽き足らず、公然とお前を攻撃する手法を選んだ。もはや時間がない。」
殿下はまっすぐわたくしを見つめる。その瞳に痛みが宿っているのを感じる。
「アデル、俺と一緒に記者会見のような形で公式の場に出て、誤解を解くことはできないか? 本来なら家同士の契約やら、形だけの場で済むはずだが……ここまで騒ぎが大きいなら、正面から釈明するのが一番早いと思う。」
「記者会見……わたくしが公式に姿を出て、悪行の捏造だと否定するということね。」
確かに、それで真実が伝われば話は早い。けれど、同時にわたくしが長年演じてきた“悪女”の仮面が完全に崩れる瞬間でもある。家や周囲の目を気にして、もう何年も培ってきたイメージをかなぐり捨てることになるだろう。
「無理強いはしない。だが、放置すればあなたの名誉も地に落ちたまま。孤児院への支援も誤解され、子どもたちの立場も危うくなる。フレデリックは協力する構えだし、俺もあなたを守る。」
「守る、と言ってくださるのは嬉しいけれど、今さらそんな……」
言葉に詰まる。殿下はわたくしを“守る”つもりがあった。けれど過去には、それで結果的にわたくしを苦しめた経緯がある。今回も、わたくしが殿下を信じ切れるかどうか――自分でもわからない。
「……あなたはわたくしを婚約破棄したまま、こういう場に引っ張り出そうというの?」
「いずれ婚約破棄を撤回する可能性がある。だが、それは後からでもできる。まずはあなたの名誉を回復しないと。」
「……」
聞いていると、殿下の考えは“婚約破棄を撤回したい”というより、“取り急ぎ悪評を晴らして危機を乗り越えたい”に近いように思える。わたくしの心は複雑だった。今さら結婚云々を言われても、素直に頷ける気持ちにはなれない。
「検討させてください。フレデリックの意見も聞かないと。」
「わかった。急ぎではあるが、いきなり会見を開いて混乱を招くより、万全の準備をしたほうがいい。俺からもフレデリックと情報交換を進める。」
殿下がわたくしに歩み寄ろうとしているのは伝わるが、先の苦しみを考えると素直に喜べない自分がいる。この提案がわたくしにとって本当に最良なのか――答えを出せないまま、わたくしは殿下に礼を言って部屋を辞する。長年培ってきた“悪女”の仮面と、子どもたちを守りたい気持ちがせめぎ合う最中、時間だけが刻々と過ぎていくのだった。
王宮の一室。わたくしがフレデリックやサラと合流しようと動き出した矢先、ロラン殿下から緊急の呼び出しを受けた。差し出されたのは町中に貼られているという“張り紙”の写し。そこには酷い言葉が並び、わたくしの罪を糾弾する文言で溢れている。
「こんな悪質な文書、どうしても取り除きたいけれど、広範囲にばらまかれていて対処が遅れています。読むのも胸が痛む。」
わたくしはちらりと目を通し、吐き気がするのをこらえる。捏造や誇張が幾重にも重なっていて、読んでいるだけで心が削られるようだ。
「わたくしは……何か特別に恨みを買うようなことをしたわけではありません。子どものころの失敗が原因で悪女と言われ、それを隠れ蓑にしてきただけ。でも、これほどの憎悪を一体誰が……」
殿下は申し訳なさそうに視線を落とし、大きく息を吐く。
「俺は、お前をこんな目に遭わせたくなかった。だが、いま明らかになりつつあるのは、王家の権力を握りたい者たちが、お前を利用して俺をも揺さぶろうとしている形跡があるということだ。」
「わたくしを使って、殿下を……?」
まさかそこまでの陰謀が渦巻いているとは思わなかった。わたくしのイメージを悪化させることで、殿下を追い詰め、結果的に都合の良い縁談に持ち込もうとする――そんなシナリオが頭をよぎる。
「ただ、ここまで大々的に動いているのは意外だった。水面下で動くだけでは飽き足らず、公然とお前を攻撃する手法を選んだ。もはや時間がない。」
殿下はまっすぐわたくしを見つめる。その瞳に痛みが宿っているのを感じる。
「アデル、俺と一緒に記者会見のような形で公式の場に出て、誤解を解くことはできないか? 本来なら家同士の契約やら、形だけの場で済むはずだが……ここまで騒ぎが大きいなら、正面から釈明するのが一番早いと思う。」
「記者会見……わたくしが公式に姿を出て、悪行の捏造だと否定するということね。」
確かに、それで真実が伝われば話は早い。けれど、同時にわたくしが長年演じてきた“悪女”の仮面が完全に崩れる瞬間でもある。家や周囲の目を気にして、もう何年も培ってきたイメージをかなぐり捨てることになるだろう。
「無理強いはしない。だが、放置すればあなたの名誉も地に落ちたまま。孤児院への支援も誤解され、子どもたちの立場も危うくなる。フレデリックは協力する構えだし、俺もあなたを守る。」
「守る、と言ってくださるのは嬉しいけれど、今さらそんな……」
言葉に詰まる。殿下はわたくしを“守る”つもりがあった。けれど過去には、それで結果的にわたくしを苦しめた経緯がある。今回も、わたくしが殿下を信じ切れるかどうか――自分でもわからない。
「……あなたはわたくしを婚約破棄したまま、こういう場に引っ張り出そうというの?」
「いずれ婚約破棄を撤回する可能性がある。だが、それは後からでもできる。まずはあなたの名誉を回復しないと。」
「……」
聞いていると、殿下の考えは“婚約破棄を撤回したい”というより、“取り急ぎ悪評を晴らして危機を乗り越えたい”に近いように思える。わたくしの心は複雑だった。今さら結婚云々を言われても、素直に頷ける気持ちにはなれない。
「検討させてください。フレデリックの意見も聞かないと。」
「わかった。急ぎではあるが、いきなり会見を開いて混乱を招くより、万全の準備をしたほうがいい。俺からもフレデリックと情報交換を進める。」
殿下がわたくしに歩み寄ろうとしているのは伝わるが、先の苦しみを考えると素直に喜べない自分がいる。この提案がわたくしにとって本当に最良なのか――答えを出せないまま、わたくしは殿下に礼を言って部屋を辞する。長年培ってきた“悪女”の仮面と、子どもたちを守りたい気持ちがせめぎ合う最中、時間だけが刻々と過ぎていくのだった。
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