28 / 40
28
しおりを挟む
「アデル様、少し落ち着いて聞いてください。」
王宮近くのサロンで、フレデリックがわたくしに向き合う。先ほど、ロラン殿下から公の場での釈明会見を提案されたことを伝えると、フレデリックは苦い表情で頷いた。
「殿下がおっしゃるように、公式の場で悪行の捏造を否定するのは有効な手段です。ですが、それだけでは不十分かもしれません。」
「どういうこと?」
わたくしはフレデリックの言葉を促す。彼は少し肩を落とし、やがて真剣な眼差しでこちらを見た。
「殿下はあなたを守るために婚約破棄を宣言した。その裏には、王家内部の権力争いがありました。わかりやすく言えば、殿下が即位する前に“有力貴族の意向に沿う結婚を強要される”可能性が高まっていたのです。」
「それは殿下も言っていました。わたくしはそれを知る術がなく、勝手に悪女として追い詰められてしまった。」
「実際、殿下には相当な重圧があったようです。王族は自由恋愛が許されにくい。特に、王子の婚姻は国の未来を左右しますから。それでも殿下は、アデル様との婚約を守りたいという思いが強かった。」
フレデリックの口調から、ロラン殿下がわたくしを大切に思っていたことは伝わる。しかし同時に、無力さを痛感もする。殿下は結果的に、一方的な婚約破棄を使ってわたくしを守ろうとした。それが苦しみを生むとは想像できなかったのか。
「殿下も苦しんだのでしょう。それはわかる。でも、わたくしにはずっと何も言わなかった。いまさら『守るためだった』なんて言われても、素直に受け止められないわ。」
「ええ、あなたがそう感じるのは自然です。ただ、殿下が秘密にせざるを得なかった背景には、あなたに危険が及ぶのを本当に恐れたという事実があります。もし王家の権力争いに巻き込まれれば、伯爵家全体がターゲットになる可能性もあった。」
フレデリックは静かに言葉を継ぐ。
「それと……殿下にとっても、あなたの“悪女”という評判は逆手に取れる部分があったのかもしれません。わざと疎まれる立場にいるほうが、宮廷内で狙われにくいと考えた可能性もある。もちろん、あなた本人にとっては辛い選択ですが。」
「疎まれているなら、誰もわたくしを深追いしないと?」
「はい。本当に危険な存在なら、早々に排除されるでしょうが、単なる性悪令嬢という評判程度なら『放っておく』と考える人も多いでしょう。」
わたくしは苦笑する。まさか悪女扱いが自分の身を守る盾になるとは。皮肉な話だ。
「それでも、わたくしは納得できません。殿下がわたくしに信頼を置いてくれなかったように感じてしまって。そんなにわたくしは頼りない存在だったの?」
「殿下はむしろ、あなたを頼りにしすぎていたのかもしれません。だからこそ巻き込みたくなかったのだと。」
フレデリックの言葉に、胸が苦しくなる。守ろうとした結果、心の傷を深めさせるなんて、本当に皮肉だ。
「……わかりました。とにかく、この状況を打開するために、わたくしは動くしかないようですね。殿下が提案する記者会見に応じるかどうかはともかく、もう逃げられない。」
「私も全力でサポートします。今回の張り紙を仕掛けた黒幕を突き止め、あなたの名誉を回復させる。それが実現すれば、あなたがどう生きるか、どんな立場を選ぶかも自分で決められるでしょう。」
フレデリックはそう言って、わたくしの手の甲に軽く触れる。やわらかな温もりに心が揺れるが、それ以上は踏み込まない。わたくしも言葉を飲み込み、ただ小さく頷いた。ロラン殿下の過去の秘密を知ったところで、心のわだかまりがすぐに消えるわけではない。けれど、このまま悪女のままで終わるのも嫌だ。わたくしは、いよいよ自分の意志で未来を選ぶ覚悟を決めるしかない。
王宮近くのサロンで、フレデリックがわたくしに向き合う。先ほど、ロラン殿下から公の場での釈明会見を提案されたことを伝えると、フレデリックは苦い表情で頷いた。
「殿下がおっしゃるように、公式の場で悪行の捏造を否定するのは有効な手段です。ですが、それだけでは不十分かもしれません。」
「どういうこと?」
わたくしはフレデリックの言葉を促す。彼は少し肩を落とし、やがて真剣な眼差しでこちらを見た。
「殿下はあなたを守るために婚約破棄を宣言した。その裏には、王家内部の権力争いがありました。わかりやすく言えば、殿下が即位する前に“有力貴族の意向に沿う結婚を強要される”可能性が高まっていたのです。」
「それは殿下も言っていました。わたくしはそれを知る術がなく、勝手に悪女として追い詰められてしまった。」
「実際、殿下には相当な重圧があったようです。王族は自由恋愛が許されにくい。特に、王子の婚姻は国の未来を左右しますから。それでも殿下は、アデル様との婚約を守りたいという思いが強かった。」
フレデリックの口調から、ロラン殿下がわたくしを大切に思っていたことは伝わる。しかし同時に、無力さを痛感もする。殿下は結果的に、一方的な婚約破棄を使ってわたくしを守ろうとした。それが苦しみを生むとは想像できなかったのか。
「殿下も苦しんだのでしょう。それはわかる。でも、わたくしにはずっと何も言わなかった。いまさら『守るためだった』なんて言われても、素直に受け止められないわ。」
「ええ、あなたがそう感じるのは自然です。ただ、殿下が秘密にせざるを得なかった背景には、あなたに危険が及ぶのを本当に恐れたという事実があります。もし王家の権力争いに巻き込まれれば、伯爵家全体がターゲットになる可能性もあった。」
フレデリックは静かに言葉を継ぐ。
「それと……殿下にとっても、あなたの“悪女”という評判は逆手に取れる部分があったのかもしれません。わざと疎まれる立場にいるほうが、宮廷内で狙われにくいと考えた可能性もある。もちろん、あなた本人にとっては辛い選択ですが。」
「疎まれているなら、誰もわたくしを深追いしないと?」
「はい。本当に危険な存在なら、早々に排除されるでしょうが、単なる性悪令嬢という評判程度なら『放っておく』と考える人も多いでしょう。」
わたくしは苦笑する。まさか悪女扱いが自分の身を守る盾になるとは。皮肉な話だ。
「それでも、わたくしは納得できません。殿下がわたくしに信頼を置いてくれなかったように感じてしまって。そんなにわたくしは頼りない存在だったの?」
「殿下はむしろ、あなたを頼りにしすぎていたのかもしれません。だからこそ巻き込みたくなかったのだと。」
フレデリックの言葉に、胸が苦しくなる。守ろうとした結果、心の傷を深めさせるなんて、本当に皮肉だ。
「……わかりました。とにかく、この状況を打開するために、わたくしは動くしかないようですね。殿下が提案する記者会見に応じるかどうかはともかく、もう逃げられない。」
「私も全力でサポートします。今回の張り紙を仕掛けた黒幕を突き止め、あなたの名誉を回復させる。それが実現すれば、あなたがどう生きるか、どんな立場を選ぶかも自分で決められるでしょう。」
フレデリックはそう言って、わたくしの手の甲に軽く触れる。やわらかな温もりに心が揺れるが、それ以上は踏み込まない。わたくしも言葉を飲み込み、ただ小さく頷いた。ロラン殿下の過去の秘密を知ったところで、心のわだかまりがすぐに消えるわけではない。けれど、このまま悪女のままで終わるのも嫌だ。わたくしは、いよいよ自分の意志で未来を選ぶ覚悟を決めるしかない。
2
あなたにおすすめの小説
婚約破棄寸前だった令嬢が殺されかけて眠り姫となり意識を取り戻したら世界が変わっていた話
ひよこ麺
恋愛
シルビア・ベアトリス侯爵令嬢は何もかも完璧なご令嬢だった。婚約者であるリベリオンとの関係を除いては。
リベリオンは公爵家の嫡男で完璧だけれどとても冷たい人だった。それでも彼の幼馴染みで病弱な男爵令嬢のリリアにはとても優しくしていた。
婚約者のシルビアには笑顔ひとつ向けてくれないのに。
どんなに尽くしても努力しても完璧な立ち振る舞いをしても振り返らないリベリオンに疲れてしまったシルビア。その日も舞踏会でエスコートだけしてリリアと居なくなってしまったリベリオンを見ているのが悲しくなりテラスでひとり夜風に当たっていたところ、いきなり何者かに後ろから押されて転落してしまう。
死は免れたが、テラスから転落した際に頭を強く打ったシルビアはそのまま意識を失い、昏睡状態となってしまう。それから3年の月日が流れ、目覚めたシルビアを取り巻く世界は変っていて……
※正常な人があまりいない話です。
『お前の顔は見飽きた!』内心ガッツポーズで辺境へ
夏乃みのり
恋愛
「リーナ・フォン・アトラス! 貴様との婚約を破棄する!」
華やかな王宮の夜会で、第一王子ジュリアンに突きつけられた非情な宣告。冤罪を被せられ、冷酷な悪役令嬢として追放を言い渡されたリーナだったが、彼女の内心は……「やったーーー! これでやっとトレーニングに専念できるわ!」と歓喜に震えていた!
自業自得じゃないですか?~前世の記憶持ち少女、キレる~
浅海 景
恋愛
前世の記憶があるジーナ。特に目立つこともなく平民として普通の生活を送るものの、本がない生活に不満を抱く。本を買うため前世知識を利用したことから、とある貴族の目に留まり貴族学園に通うことに。
本に釣られて入学したものの王子や侯爵令息に興味を持たれ、婚約者の座を狙う令嬢たちを敵に回す。本以外に興味のないジーナは、平穏な読書タイムを確保するために距離を取るが、とある事件をきっかけに最も大切なものを奪われることになり、キレたジーナは報復することを決めた。
※2024.8.5 番外編を2話追加しました!
悪役令嬢と言われ冤罪で追放されたけど、実力でざまぁしてしまった。
三谷朱花
恋愛
レナ・フルサールは元公爵令嬢。何もしていないはずなのに、気が付けば悪役令嬢と呼ばれ、公爵家を追放されるはめに。それまで高スペックと魔力の強さから王太子妃として望まれたはずなのに、スペックも低い魔力もほとんどないマリアンヌ・ゴッセ男爵令嬢が、王太子妃になることに。
何度も断罪を回避しようとしたのに!
では、こんな国など出ていきます!
お掃除侍女ですが、婚約破棄されたので辺境で「浄化」スキルを極めたら、氷の騎士様が「綺麗すぎて目が離せない」と溺愛してきます
咲月ねむと
恋愛
王宮で侍女として働く私、アリシアは、前世の記憶を持つ転生者。清掃員だった前世の知識を活かし、お掃除に情熱を燃やす日々を送っていた。その情熱はいつしか「浄化」というユニークスキルにまで開花!…したことに本人は全く気づいていない。
そんなある日、婚約者である第二王子から「お前の周りだけ綺麗すぎて不気味だ!俺の完璧な美貌が霞む!」という理不尽な理由で婚約破棄され、瘴気が漂うという辺境の地へ追放されてしまう。
しかし、アリシアはへこたれない。「これで思う存分お掃除ができる!」と目を輝かせ、意気揚々と辺境へ。そこで出会ったのは、「氷の騎士」と恐れられるほど冷徹で、実は極度の綺麗好きである辺境伯カイだった。
アリシアがただただ夢中で掃除をすると、瘴気に汚染された土地は浄化され、作物も豊かに実り始める。呪われた森は聖域に変わり、魔物さえも彼女に懐いてしまう。本人はただ掃除をしているだけなのに、周囲からは「伝説の浄化の聖女様」と崇められていく。
一方、カイはアリシアの完璧な仕事ぶり(浄化スキル)に心酔。「君の磨き上げた床は宝石よりも美しい。君こそ私の女神だ」と、猛烈なアタックを開始。アリシアは「お掃除道具をたくさんくれるなんて、なんて良いご主人様!」と、これまた盛大に勘違い。
これは、お掃除大好き侍女が、無自覚な浄化スキルで辺境をピカピカに改革し、綺麗好きなハイスペックヒーローに溺愛される、勘違いから始まる心温まる異世界ラブコメディ。
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
夫に捨てられた私は冷酷公爵と再婚しました
香木陽灯
恋愛
伯爵夫人のマリアーヌは「夜を共に過ごす気にならない」と突然夫に告げられ、わずか五ヶ月で離縁することとなる。
これまで女癖の悪い夫に何度も不倫されても、役立たずと貶されても、文句ひとつ言わず彼を支えてきた。だがその苦労は報われることはなかった。
実家に帰っても父から不当な扱いを受けるマリアーヌ。気分転換に繰り出した街で倒れていた貴族の男性と出会い、彼を助ける。
「離縁したばかり? それは相手の見る目がなかっただけだ。良かったじゃないか。君はもう自由だ」
「自由……」
もう自由なのだとマリアーヌが気づいた矢先、両親と元夫の策略によって再婚を強いられる。相手は婚約者が逃げ出すことで有名な冷酷公爵だった。
ところが冷酷公爵と会ってみると、以前助けた男性だったのだ。
再婚を受け入れたマリアーヌは、公爵と少しずつ仲良くなっていく。
ところが公爵は王命を受け内密に仕事をしているようで……。
一方の元夫は、財政難に陥っていた。
「頼む、助けてくれ! お前は俺に恩があるだろう?」
元夫の悲痛な叫びに、マリアーヌはにっこりと微笑んだ。
「なぜかしら? 貴方を助ける気になりませんの」
※ふんわり設定です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる