視えすぎる公務員と不感症作家の怪異事件録 〜「次も頼むな」って、僕は嫌ですからね!〜

河野彰

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第三章:三匹獅子舞

(1)2人旅の行く先は

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「林がさ」

 藤先が酒を飲みながら言った。
 新也が呼び出されたのはガード下の一杯飲み屋だった。
 8月終わりのムッとするような暑さに、ワイシャツの袖をめくって、新也は一杯だけ……と藤崎に付き合う。

「林……?」
「高校の文芸同好会で一緒だった、林だよ」
「ああ、あの林くん。連絡取り合ってたんですね」
「そうそう。え、お前連絡取り合ってないの?」
「ええ、まあ……」
「ふうん。……まぁ良いや。その林からさ、郷里に取材に来ないかって、連絡あったんだよなぁ」

 何でもない話題のように藤崎は言った。新也は話半分に、もう帰りたいななどと思いながら話を聞いていた。

「はぁ……」
「でさ」
「はい」
「週末、Y県H地区まで同行取材な」
「え?」

 新也の返事を待つことなく、藤崎は杯をぐいっと空にすると支払いを済ませた。
 ということで……と藤崎が仕切り、2人は別れて、藤崎柊輔のホラー小説取材に、しがない地方公務員、谷本新也(アラヤ)が同行することが決定した。

「先輩、お久しぶりです!」

 林基明は小柄な体をめいいっぱい折り曲げて元気よく挨拶した。
 同じ関東圏ながら電車で1時間半。山間の無人駅で林は出迎えてくれた。
 周囲は山間の渓谷で、中腹あたりに駅はあった。
 季節は晩夏で、ツクツクボウシが夕方の谷底へ響いていた。風はひんやりと3人をなぶり、汗ばんだ体を冷やしてくれる。9月上旬で、まだ残暑厳しい都内とはまったく違う季節がそこにはあった。

「おう、久しぶりだな」

 藤崎は機嫌良く林の肩を抱く。破顔した林は、藤崎にもみくちゃにされながらずり落ちたメガネを指で押し上げた。新也に視線を移し、見上げてくる。

「新也くんも、久しぶり」
「久しぶり、林くん」
「2人に会うって言ったら、みんなも会いたがってたよ」
「そ、そう?」

 新也と林は何と10年ぶりの再会だった。妙に面映い。
 高校時代、2人の下には同好会の後輩が数人いたはずだが、こちらも今は新也は没交渉だった。同好会の中でも一番真剣に活動していた3人が揃ったことに、新也は妙に嬉しく感じていた。

「今回は、ありがとうございます。取材をしていただけるって……」

 林は感激している様子だった。本になったら良いんだけどな、と珍しく謙遜する藤崎に林はぶんぶんと手を振る。

「いやいや、取材していただけるだけで……、段々寂れてきてるんで、祭りも」

 そうなのか?と藤崎が意外そうに聞き返す。何も知らされていない新也は祭り?と同じく、隣で首を傾げるばかりだ。

「はい、残念ながら……。ですから、マレビト、お客さんが来てくれるだけでも盛り上がりますよ。もし本になったら、本当に嬉しいですけど」

 林はニコニコと笑みを崩さない。頬にも赤みがさすほどの嬉しがりようだった。
 マレビト?と聞き慣れない言葉に新也は違和感を覚えたが、聞き返すタイミングもなく林に合わせてニコニコ笑っていた。
 夕方が近づきつつあった。
 山の夜は早い。山々の影が長く駅にも降りてきていた。

「兎に角、宿にご案内しますよ。といっても、僕の家が昔やっていた民宿の離れですけど……さあ、どうぞ」

 林に案内され、2人は車に乗り込んだ。タクシーではなく、林の運転だった。
 渓流が地区を半分に縦断している町だった。町の南側には商店や駅が。北側の山側には、山肌にしがみつくように、住宅やアパートが立ち並んでいる。アパートは分からなかったが、一軒家は古びた空き家が目立った。過疎化が進んでいるのだろう。祭りが廃れてきているというのは本当のようだった。
 車はどんどん谷底に降りていき、谷の縁に引っかかるように建てられた日本家屋と、屋根のある廊下で繋がった別館がある古屋に車は到着した。

「祭りは明日から3日間です。後で夕飯に呼びますから、まずは、ゆっくり休んでくださいね」

 別館の部屋に案内をすると、林はにっこりと微笑んだ。
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