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リンゼイは悩んだ末に、臣下にくだり大公となったザイオンの弟であるシリウスに相談する事にした。
別にセレリアを助けたいなどという正義感ではないが、スカーレット侯爵家の闇を知ってしまった今、このまま目を瞑ってマリアンヌと婚姻するという事は考えられなかったのだ。
執務室に訪ねてきたシリウスに、諜報員や側近達が調べて纏めた報告書を黙って差し出した。
シリウスは、怪訝そうにそれを受け取り目を通していたが、次第に眉間に皺を寄せて鋭い目でリンゼイを見た。
「これは、事実なのか?」
「残念ながら」
ソファーに腰をおろして背もたれに深く身を沈めて、暫く黙ったまま天井を仰いでいたシリウスは
「王家と言えど、他家の事情に首を突っ込むのは許された事ではないが·····王太子妃となる生家のこれは·····不味いだろう」
シリウスは低く唸り、リンゼイは黙ったまま時間が流れた。
「マリアンヌ嬢は、随分と優秀だとの事だったが、何故お前は今になって侯爵家を調べた?」
リンゼイは先日庭園であった事をシリウスに話して、国王夫妻に婚約時の事を尋ねたのだと言った。
「スカーレット侯爵夫妻が言うには、長女のセレリア嬢は我儘で癇癪持ちであり、社交界にデビューさせられない程だとの話だったらしいのですが、先日見掛けたセレリア嬢はそんな風には見えず気になり、それに加えて、母からマリアンヌの妃教育が全く進んでいないという話を聞いていたばかりで、マリアンヌの言動にも疑問を感じたので」
シリウスは不思議そうな顔をリンゼイに向けると
「セレリア嬢を、王宮の庭園で見たのは何故だ?この報告書によると、セレリア嬢は自室に閉じ込められているのではないのか?」
「マリアンヌは、セレリア嬢に我儘を言われて王宮に連れてこさせられたと話していたのですが·····平民が着るような質の生地で作られたみすぼらしいドレスを着て俯いたままでしたので、後に父上と母上に話を聞いて、我儘な癇癪持ちの令嬢が、あんなみすぼらしい格好で黙っているのかと、余計に違和感を感じたのですよ」
「成程なあ、それで詳しく探ったらこんな事実が出てきたと」
「ええ、マリアンヌは常日頃からセレリア嬢に自分は王妃になる存在で出来損ないのセレリア嬢とは違うのだと自慢して優越感に浸っていたようなのです。おそらくあの日も、みすぼらしいドレスを着たセレリア嬢を連れて王宮で自分とセレリア嬢の違いを見せつけていたのではないかと、この報告書を見て推察したのです」
「まあ、それは推察に過ぎないが·····侯爵家も、随分と偏った育て方をしたものだな。まあ一人は育てたとは言わないかもしれないが·····そんな育て方をしたら、自分は特別だと勘違いも起こすか·····それは置いといたとして、取り敢えずセレリア嬢を何とかするか。このままだと本当に餓死させられかねないな。表に出したら都合が悪いだろうし、屋敷に置いておくつもりもないようだし。マリアンヌ嬢がお前に嫁いだら用無しになるからな」
「そうですね。屋敷内で何かがあっても他者には分かりませんからね。適当な医師を買収して病死だと届け出ればそれでお終いです」
微妙な空気が執務室内に漂っている。
無言で考え込んでいるシリウスにリンゼイは問い掛けた。
「何か、方法はありますか?私が下手に口を出せば警戒されるでしょうし、正面からいっても侯爵夫妻は事実を認めるとは思えませんし」
「そうだな·····取り敢えず私の旧友に少し名前を貸して貰おうか·····」
シリウスは何か考えついたようにポツリと呟いた。
別にセレリアを助けたいなどという正義感ではないが、スカーレット侯爵家の闇を知ってしまった今、このまま目を瞑ってマリアンヌと婚姻するという事は考えられなかったのだ。
執務室に訪ねてきたシリウスに、諜報員や側近達が調べて纏めた報告書を黙って差し出した。
シリウスは、怪訝そうにそれを受け取り目を通していたが、次第に眉間に皺を寄せて鋭い目でリンゼイを見た。
「これは、事実なのか?」
「残念ながら」
ソファーに腰をおろして背もたれに深く身を沈めて、暫く黙ったまま天井を仰いでいたシリウスは
「王家と言えど、他家の事情に首を突っ込むのは許された事ではないが·····王太子妃となる生家のこれは·····不味いだろう」
シリウスは低く唸り、リンゼイは黙ったまま時間が流れた。
「マリアンヌ嬢は、随分と優秀だとの事だったが、何故お前は今になって侯爵家を調べた?」
リンゼイは先日庭園であった事をシリウスに話して、国王夫妻に婚約時の事を尋ねたのだと言った。
「スカーレット侯爵夫妻が言うには、長女のセレリア嬢は我儘で癇癪持ちであり、社交界にデビューさせられない程だとの話だったらしいのですが、先日見掛けたセレリア嬢はそんな風には見えず気になり、それに加えて、母からマリアンヌの妃教育が全く進んでいないという話を聞いていたばかりで、マリアンヌの言動にも疑問を感じたので」
シリウスは不思議そうな顔をリンゼイに向けると
「セレリア嬢を、王宮の庭園で見たのは何故だ?この報告書によると、セレリア嬢は自室に閉じ込められているのではないのか?」
「マリアンヌは、セレリア嬢に我儘を言われて王宮に連れてこさせられたと話していたのですが·····平民が着るような質の生地で作られたみすぼらしいドレスを着て俯いたままでしたので、後に父上と母上に話を聞いて、我儘な癇癪持ちの令嬢が、あんなみすぼらしい格好で黙っているのかと、余計に違和感を感じたのですよ」
「成程なあ、それで詳しく探ったらこんな事実が出てきたと」
「ええ、マリアンヌは常日頃からセレリア嬢に自分は王妃になる存在で出来損ないのセレリア嬢とは違うのだと自慢して優越感に浸っていたようなのです。おそらくあの日も、みすぼらしいドレスを着たセレリア嬢を連れて王宮で自分とセレリア嬢の違いを見せつけていたのではないかと、この報告書を見て推察したのです」
「まあ、それは推察に過ぎないが·····侯爵家も、随分と偏った育て方をしたものだな。まあ一人は育てたとは言わないかもしれないが·····そんな育て方をしたら、自分は特別だと勘違いも起こすか·····それは置いといたとして、取り敢えずセレリア嬢を何とかするか。このままだと本当に餓死させられかねないな。表に出したら都合が悪いだろうし、屋敷に置いておくつもりもないようだし。マリアンヌ嬢がお前に嫁いだら用無しになるからな」
「そうですね。屋敷内で何かがあっても他者には分かりませんからね。適当な医師を買収して病死だと届け出ればそれでお終いです」
微妙な空気が執務室内に漂っている。
無言で考え込んでいるシリウスにリンゼイは問い掛けた。
「何か、方法はありますか?私が下手に口を出せば警戒されるでしょうし、正面からいっても侯爵夫妻は事実を認めるとは思えませんし」
「そうだな·····取り敢えず私の旧友に少し名前を貸して貰おうか·····」
シリウスは何か考えついたようにポツリと呟いた。
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