王太子の望む妃

りりん

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 「叔父上の旧友に、ですか?」

 リンゼイは怪訝な目をシリウスに向けた。

 「ああ、今回の件では私達は表立って動かない方がいい。お前は勿論の事私もだ」

 「ええ、それはそうですね」

 「侯爵夫妻は、セレリア嬢を表に出さずに我儘だ癇癪持ちだのと昔は触れ回っていただろう?今は話題にも出さないから忘れている者達も多いだろうが、出産時に届けを出している以上は貴族録には載っている。それを利用しようと思う」

 シリウスの話を訳が分からないというような顔をして聞いているリンゼイに

 「マリアンヌ嬢がお前に嫁ぐ事を夫妻はかなり自慢に思っている。が、セレリア嬢は夫妻にとっては邪魔な存在だ。当然セレリア嬢が幸せになるなんて事を望んでいるはずはない」

 「そうですね。侯爵夫妻もですが、残念ながらマリアンヌもそうでしょう」

 リンゼイは顔を曇らせた。
 愛とか恋愛感情を募らせたわけではなかったが、縁あって婚約を結んでいた令嬢の余りにも歪みきった心根が残念でならない。

 「そこで、私の旧友に表に立って貰おうと頼むつもりだ」

 「どういう事ですか?」

 「おそらく評判の高い者や爵位の高い者では駄目だろう。一人、一人辺境に近い領地を治めている男爵が友人にいる。モンデール男爵という人物を知っているか?」

 「はい。会った記憶はありませんが、名前は存じています。·····あの、余り社交界にも顔を出さないという噂ですが」

 モンデール男爵、辺境近くの男爵領で殆ど社交界に顔を出すこともなく、容姿も余り良くなく、偏屈で引きこもりだと言われている人物である。三十代後半になっても婚約者もおらず王都での評判は最悪なものだ。

 「ははは、余り良い噂は聞いた事がないね。領地に篭って人前にも殆ど出ないし、本人もそんな噂を否定するような行動もしないからね。リンゼイも噂は耳にした事はあるみたいだが、確かに見た目は野獣のようだが、本当は気の良い奴なんだよ。領民には慕われているしね」

 「そうなんですか。それでそのモンデール男爵にどのように協力してもらうのですか?」

 「婚約の、打診してもらおうと思っている。モンデール男爵にはすぐにでも連絡を取ってみるよ」

 シリウスの計画は、モンデール男爵にスカーレット侯爵家に婚約を打診してもらう。評判の悪い、しかも辺境領の爵位の低い醜いといわれている男爵であれば、侯爵夫妻は婚約を了承するだろう。そこですぐにでも迎えたいと言えば、おそらく厄介払いにと要求に応じるだろう。まずは素早くセレリアを保護してしまおうという計画だった。

 「上手くいくでしょうか?」

 「貴族録に載っていて、評判の良くない令嬢をお飾りの妻として迎えたいのだと言えば、食いつくはずだよ」

 成程、とリンゼイは納得した。諜報員から次々に寄せられる報告書を見れば、早急に事を進めた方が良さそうである事は一目瞭然だった。

 二人は計画を立てて、モンデール男爵に協力を仰ぐと、男爵は快く了承の返事をくれた。

 そしてシリウスの指示通りにモンデール男爵は、男爵という身分で侯爵家には申し訳ないが、殆ど社交界にも表にも出ていない令嬢がいると知った、と婚約の打診をすると、我儘で出来の悪い娘なので、お飾りだろうがなんだろうが、どんな扱いをしてくれても構わない。というふうな返事があったという。

 モンデール男爵は久しぶりに王都に来て、スカーレット侯爵家のタウンハウスに挨拶に行くと、財政的な問題で式は挙げられないが、すぐにでも迎えたい、と侯爵夫妻はいつでも連れて行ってくれて構わないとの事だったので二日後に領地に帰る時に、セレリアも一緒に連れて行くと告げてきた。

 一度宿に戻ったモンデール男爵からそのような報告を受けたシリウスは、お忍びで男爵の滞在する宿に出掛けた。

 
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