王太子の望む妃

りりん

文字の大きさ
7 / 16

しおりを挟む
 久しぶりに再会したシリウスとモンデール男爵は思い出話に花を咲かせる事もなく、これからの計画を確認し合った。

 モンデール男爵領は特に財政が苦しいわけではないが、今回は外装を古く見せかけた馬車で来ている。
 侯爵家の者達はその馬車を見てほくそ笑んでいたし、辺境の男爵領にセレリアを追い出せると喜んでいるだろう。
 男爵自身も野獣のようだと噂されている容姿に余り質の良いとはいえない服装で来ている。
 二日後、スカーレット侯爵家にセレリアを迎えに行き、そのまま王都を後にする。
 そして途中の街道の宿で待機している大公家の侍女達にセレリアを託して、モンデール男爵は自領に帰り、大公家の馬車で王都の大公家の屋敷へとセレリアを連れて行く。

 「あの、シリウス大公殿下、スカーレット侯爵家はどのような状況なのでしょうか?手紙で指示された通りに致しましたが·····普通、男爵家から侯爵家の長女に婚約を打診するなど有り得ないのですが·····それがすんなりと受け入れられた事にも驚いてますし、すぐに連れ帰りたいと申し上げてそれが通った事にも驚いています。あんな古びた馬車に上等とは言えない服装をした下級貴族にですよ。私の記憶では、侯爵家の次女のご令嬢は王太子殿下の婚約者でいらっしゃいますよね。仮にも長女の嫁ぎ先が男爵家でいいのでしょうか?普通なら王家に次女を嫁がせるならば、長女にもそれなりの縁談を望むのでは?手紙では嫁に貰いたいという振りで保護したい、との事でしたが·····」

 「うん、次女のマリアンヌ嬢は私の甥である王太子の婚約者だ。それに絡む話もあって詳細は漏らせないが、君の感じた通りで手紙には詳しく書かなかったんだが、早急に動いてくれて感謝している。少し込み合っていてまだ話せないんだが、侯爵家からセレリア嬢を離しておきたい。そこで君を利用させてもらったんだ」

 シリウスは問い掛けに少し言葉を濁して、モンデール男爵は苦笑した。

 「私は余り評判がよくありませんからね」

 「社交界に顔を出さないからな。憶測で色んな噂が流れているよ。実際に関われば優しい良い男だと分かるんだけどね」

 「まあ特に気にはしてません。私は領民を守れればそれで満足ですからね。それに、今回はその噂が役に立ったようですし」

 「わざわざ王都まで出てこさせてしまって悪いね」

 「侍女や侍従達には小遣いも持たせて、王都に来るのにはウキウキしていますよ。明日は一日自由にして王都の土産を買って帰るのだと言っていますし」

 「そう聞けば少し気も軽くなる。本当に助かったよ」

 二人は少し他愛もない話をして、また二日後にと言って別れた。
 その時にリンゼイは侯爵家に渡すようにと何枚かの書類を託していた。

 

 

 
しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

愛のゆくえ【完結】

春の小径
恋愛
私、あなたが好きでした ですが、告白した私にあなたは言いました 「妹にしか思えない」 私は幼馴染みと婚約しました それなのに、あなたはなぜ今になって私にプロポーズするのですか? ☆12時30分より1時間更新 (6月1日0時30分 完結) こう言う話はサクッと完結してから読みたいですよね? ……違う? とりあえず13日後ではなく13時間で完結させてみました。 他社でも公開

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

そういう時代でございますから

Ruhuna
恋愛
私の婚約者が言ったのです 「これは真実の愛だ」ーーと。 そうでございますか。と返答した私は周りの皆さんに相談したのです。 その結果が、こうなってしまったのは、そうですね。 そういう時代でございますからーー *誤字脱字すみません *ゆるふわ設定です *辻褄合わない部分があるかもしれませんが暇つぶし程度で見ていただけると嬉しいです

婚約破棄は踊り続ける

お好み焼き
恋愛
聖女が現れたことによりルベデルカ公爵令嬢はルーベルバッハ王太子殿下との婚約を白紙にされた。だがその半年後、ルーベルバッハが訪れてきてこう言った。 「聖女は王太子妃じゃなく神の花嫁となる道を選んだよ。頼むから結婚しておくれよ」

【完結】断罪された悪役令嬢は、全てを捨てる事にした

miniko
恋愛
悪役令嬢に生まれ変わったのだと気付いた時、私は既に王太子の婚約者になった後だった。 婚約回避は手遅れだったが、思いの外、彼と円満な関係を築く。 (ゲーム通りになるとは限らないのかも) ・・・とか思ってたら、学園入学後に状況は激変。 周囲に疎まれる様になり、まんまと卒業パーティーで断罪&婚約破棄のテンプレ展開。 馬鹿馬鹿しい。こんな国、こっちから捨ててやろう。 冤罪を晴らして、意気揚々と単身で出国しようとするのだが、ある人物に捕まって・・・。 強制力と言う名の運命に翻弄される私は、幸せになれるのか!? ※感想欄はネタバレあり/なし の振り分けをしていません。本編より先にお読みになる場合はご注意ください。

失礼な人のことはさすがに許せません

四季
恋愛
「パッとしないなぁ、ははは」 それが、初めて会った時に婚約者が発した言葉。 ただ、婚約者アルタイルの失礼な発言はそれだけでは終わらず、まだまだ続いていって……。

行き場を失った恋の終わらせ方

当麻月菜
恋愛
「君との婚約を白紙に戻してほしい」  自分の全てだったアイザックから別れを切り出されたエステルは、どうしてもこの恋を終わらすことができなかった。  避け続ける彼を求めて、復縁を願って、あの日聞けなかった答えを得るために、エステルは王城の夜会に出席する。    しかしやっと再会できた、そこには見たくない現実が待っていて……  恋の終わりを見届ける貴族青年と、行き場を失った恋の中をさ迷う令嬢の終わりと始まりの物語。 ※他のサイトにも重複投稿しています。

たのしい わたしの おそうしき

syarin
恋愛
ふわふわのシフォンと綺羅綺羅のビジュー。 彩りあざやかな花をたくさん。 髪は人生で一番のふわふわにして、綺羅綺羅の小さな髪飾りを沢山付けるの。 きっと、仄昏い水底で、月光浴びて天の川の様に見えるのだわ。 辛い日々が報われたと思った私は、挙式の直後に幸せの絶頂から地獄へと叩き落とされる。 けれど、こんな幸せを知ってしまってから元の辛い日々には戻れない。 だから、私は幸せの内に死ぬことを選んだ。 沢山の花と光る硝子珠を周囲に散らし、自由を満喫して幸せなお葬式を自ら執り行いながら……。 ーーーーーーーーーーーー 物語が始まらなかった物語。 ざまぁもハッピーエンドも無いです。 唐突に書きたくなって(*ノ▽ノ*) こーゆー話が山程あって、その内の幾つかに奇跡が起きて転生令嬢とか、主人公が逞しく乗り越えたり、とかするんだなぁ……と思うような話です(  ̄ー ̄) 19日13時に最終話です。 ホトラン48位((((;゜Д゜)))ありがとうございます*。・+(人*´∀`)+・。*

処理中です...