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当日、モンデール男爵は予定通りにセレリアを迎えにスカーレット侯爵家を訪れた。
古びた馬車を玄関先に着け、粗末に見えるヨレヨレの服を着用したモンデール男爵を侯爵夫妻と執事をはじめとした使用人達はにやにやと出迎えると、二階からセレリアが一人で下りてきた。
オドオドと顔色を窺うような仕草と、使用人のお仕着せよりも粗末なドレスにも驚いたが、恐ろしく小柄で痩せた身体に、手入れもされずに伸びっぱなしのパサパサな髪と不健康な程に青白い肌にモンデール男爵は内心驚きを隠せなかった。
それでも、シリウスの指示通りにそれには一切触れず、無関心な表情を貫いた。
スカーレット侯爵当主にシリウスから預かった書類を手渡すとサインを促す。
一番上から、一応形ばかりの婚姻の証明書に始まり、侯爵家からの離籍届け、それには今後一切セレリアと侯爵家の縁切りなどの条件が記されている。
その他何枚かの書類があったが、侯爵は興味なさそうに一枚目と二枚目をサッと流し読みすると、簡単にサインを印した。
サイン済みの書類を受け取ったモンデール男爵は何とも言えない雰囲気に早々に引き上げようとセレリアに声を掛けようとした時に
「あら、お姉様をお嫁にしてくれるような方がいらして良かったですわねぇ」
馬鹿にしたような声色でクスクスと笑いながら、随分と上等なドレスで着飾った髪や肌の手入れも十分過ぎる程に行き届いた令嬢が奥から出てきた。
すぐにリンゼイ王太子殿下の婚約者であるセレリアの妹だと察した。
値踏みするようにモンデール男爵をジロジロ見てヨレヨレの服装に満足気にクスクスと笑い声を上げる。
「噂通りで、お姉様にはお似合いですわねぇ」
本当に最高峰の王宮での妃教育を受けているのかと疑いたくなる程の無作法さと、モンデール男爵に対しての失礼な物言いだが、誰一人それを注意する者はいない。
「ありがとう。では我々はこれで失礼致します」
余計な事を口にしてこれ以上ここに留まるのは無駄な時間だと考えたモンデール男爵は、俯いたままのセレリアを促すと、さっさと馬車に乗り込んで侯爵邸を後にする。
一人としてセレリアに温かい言葉を掛ける者もおらず、両親である侯爵夫妻も面倒臭そうにしているだけで、妹のマリアンヌは醜く変人だと評判のモンデール男爵にセレリアが嫁ぐ事を嬉々としていた。
「乗り心地は良くないが、少しの間我慢してくれ」
古びた見た目程は粗末なわけではないが、上等な乗り心地とはいえない馬車の座席にちょこんと腰を掛けているセレリアにそう声を掛けると
、驚いた顔をして首を振った。
今まで馬車に乗ったのは数えるほどしかなく、それも使用人が乗る中でも一番古く粗末な馬車にしか乗った事のないセレリアには十分に上等で乗り心地が良かったのである。
二度しか訪れていない侯爵邸であったが、そのたった二度でセレリアがあの屋敷で碌な扱いを受けていなかっただろう事を察したモンデール男爵は、目の前の粗末な身形をした令嬢に心が痛くなった。
シリウスに頼まれた事であったが、すぐに協力して良かったと思ったのだ。この先、これ以上辛い思いをセレリアがする事はないだろうと。
古びた馬車を玄関先に着け、粗末に見えるヨレヨレの服を着用したモンデール男爵を侯爵夫妻と執事をはじめとした使用人達はにやにやと出迎えると、二階からセレリアが一人で下りてきた。
オドオドと顔色を窺うような仕草と、使用人のお仕着せよりも粗末なドレスにも驚いたが、恐ろしく小柄で痩せた身体に、手入れもされずに伸びっぱなしのパサパサな髪と不健康な程に青白い肌にモンデール男爵は内心驚きを隠せなかった。
それでも、シリウスの指示通りにそれには一切触れず、無関心な表情を貫いた。
スカーレット侯爵当主にシリウスから預かった書類を手渡すとサインを促す。
一番上から、一応形ばかりの婚姻の証明書に始まり、侯爵家からの離籍届け、それには今後一切セレリアと侯爵家の縁切りなどの条件が記されている。
その他何枚かの書類があったが、侯爵は興味なさそうに一枚目と二枚目をサッと流し読みすると、簡単にサインを印した。
サイン済みの書類を受け取ったモンデール男爵は何とも言えない雰囲気に早々に引き上げようとセレリアに声を掛けようとした時に
「あら、お姉様をお嫁にしてくれるような方がいらして良かったですわねぇ」
馬鹿にしたような声色でクスクスと笑いながら、随分と上等なドレスで着飾った髪や肌の手入れも十分過ぎる程に行き届いた令嬢が奥から出てきた。
すぐにリンゼイ王太子殿下の婚約者であるセレリアの妹だと察した。
値踏みするようにモンデール男爵をジロジロ見てヨレヨレの服装に満足気にクスクスと笑い声を上げる。
「噂通りで、お姉様にはお似合いですわねぇ」
本当に最高峰の王宮での妃教育を受けているのかと疑いたくなる程の無作法さと、モンデール男爵に対しての失礼な物言いだが、誰一人それを注意する者はいない。
「ありがとう。では我々はこれで失礼致します」
余計な事を口にしてこれ以上ここに留まるのは無駄な時間だと考えたモンデール男爵は、俯いたままのセレリアを促すと、さっさと馬車に乗り込んで侯爵邸を後にする。
一人としてセレリアに温かい言葉を掛ける者もおらず、両親である侯爵夫妻も面倒臭そうにしているだけで、妹のマリアンヌは醜く変人だと評判のモンデール男爵にセレリアが嫁ぐ事を嬉々としていた。
「乗り心地は良くないが、少しの間我慢してくれ」
古びた見た目程は粗末なわけではないが、上等な乗り心地とはいえない馬車の座席にちょこんと腰を掛けているセレリアにそう声を掛けると
、驚いた顔をして首を振った。
今まで馬車に乗ったのは数えるほどしかなく、それも使用人が乗る中でも一番古く粗末な馬車にしか乗った事のないセレリアには十分に上等で乗り心地が良かったのである。
二度しか訪れていない侯爵邸であったが、そのたった二度でセレリアがあの屋敷で碌な扱いを受けていなかっただろう事を察したモンデール男爵は、目の前の粗末な身形をした令嬢に心が痛くなった。
シリウスに頼まれた事であったが、すぐに協力して良かったと思ったのだ。この先、これ以上辛い思いをセレリアがする事はないだろうと。
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