ひかえおろ！☪吉原花転生道中記☪

プロローグ

　生まれ変わったら何になりたい？



　そんな問いをあなたは考えたことはあるだあろうか。
　人間そんな切羽詰まった状況になることなんて想像なんかしていない。
　だから生まれ変わった後、人魚や鳥になりたいなんて平凡すぎる答えになるのだ。
　たとえ、それが大きな怪我で入院しているだけならば、完治まで暇を持て余し、どう時間を過ごそうか考えるのが普通だ。
　ゲームしたり本を読んだり、なんとかして持て余している時間をなんとかしようとする。
　だが、入院した日から数ヶ月、数年の歳月が過ぎたあたりから人間っていうのは、考え方や思考が変化する。
　普通だったら、学校に行き、したくもない受験勉強を徹夜でラジオやテレビを見ながら、一生懸命に次のテストのためにする予習や、復習を頭の中であれやこれや考えながら、完璧にこなそうと努力し、なんとか、赤点をま逃れたと思ったら、いつの間にか、受験勉強をしなくては、学生でなくなると、勉強にいそしむ。
　そして、高校になんとか受かったと思えば、部活や就職や受験勉強のために、また同じ日々を繰り返す。
　それでも、友人や家族と一緒に暮らし、様々な思い出づくりをしようといろんなことにチャレンジしてみたりする。
　そうやって、なんとか、大学受験や就職にこじつけ、夢の第一歩に踏み出すのだ。
　
　だが、それが叶わぬと知ったとき、期待するだけ無駄なのだと悟るのだ。
　それが長引けば長引くほど、人間の思考は負の感情へと変化する。
　ようは慢性的な鬱状態になるのだ。脳内で分泌されるのは、気分の高揚・幸福感などが得られるβ－エンドルフィンや交感神経が興奮した状態の際にアドレナリンではなく、激しい感情や強い肉体作業などで人体がストレスを感じたときに分泌されるノルアドレナリンと呼ばれる脳内で働く神経伝達物質の一種で、通常ノルアドレナリンはその人のおかれている状況にあわせてバランスを保ちながら働いているが、その働きが過剰だったりして、不均衡になると神経症やパニック症・うつ病などを引き起こす。
　パニック症状を和らげるために、β－エンドルフィンを分泌させようと思考すると、どうっしようもないことを感じ、怒りでアドレナリンばかり放出される。
　だが、その怒りも一定以上超えてしまうと、ノルアドレナリンばかり放出されてしまい、悲しみに明け暮れ、心のバランスを失う。
　なんとかβ－エンドルフィンを放出しようと、何かに夢中になとうとするが、いっそう虚無感を感じ、鬱症状が悪化していく。
　ドーパミンの放出するような出来事もなく、同じ食生活の繰り返しで、ストレスによる脳内のシナプスの減少すら感じてくる。
　鎮痛効果や気分の高揚・幸福感などが得られるため、モルヒネを治療薬として使用するのはこのためだ。
　一度記憶してしまったモノは人間はそう簡単に忘れることはできない。分かっていても、不眠症となり、眠れぬ日々をその癖でこの同じことを何度も繰り返すようになる。
　運動し疲れ、ドーパミンなどで消化出来るならば、まだ救いはあるが、ろくに動けぬ体ではそれすらかなわない。
　頭の中で色々なスポーツを思考するが、やったこともないスポーツでは全く面白みもなく、インターネットのゲームで解消される程度で、虚無な時間を永遠と漂う。
　どんなに足掻こうと変化しないのだ。
　
　自分の病気を治すために医学の勉強を必死に頑張ったとしても、現代医学の専門家である医者すらわからない病気を治すというのは不可能に近いのである。
　救いは好きなテレビ番組の中だけにあった。
　その間、自分のことを忘れて、ぼぉーっと見ていられる。なんてことない日常がその時にはあった。けれど、その時間も好きな番組が終わってしまえば、また脳内で繰り返される思考とともに、変化しない日常の足掻きを誰かに求めようとする。
　だが、そのあがきも虚しく、薬で矯正的に変化している思考回路では支離滅裂となり、記憶すらあやふやになっていく。
　
　それを理解していない担当の医師が付けば、その苦しみがずっと続いていき、生きることの執着する理由を奪われる。
　悲しい出来事が辛いんじゃなく、自分の体内で起こっていることに嫌気が差し、そして、どうしても理解してくれない心の痛みから逃げ出す術を奪われてしまう。
　私は、年に数回の家族旅行がそのストレスから救われていた。
　だが、車椅子を手放せなくなってからというものの、そのストレスは過敏になりつつもあった。
　拘束されるというのは、人間にとって不可解で不可思議な状態であり、それ故にもがき苦しむ。
　そして、人を信用できなくなっていくと、助けてくれと声に発することすら怖くなる。もしかしたら、神様が救ってくれるのではないかと期待し、その期待に答えられない神様の悲しみが伝わってきて、わたしも悲しくなる。
　それでも、頑張ってくれる神様や家族、仲間のために必死に頑張ろうとすればするほど、それがストレスになる。
　
　ましてや、世の中でなにか起ころうとも、どうすることも出来ない自分にもがき苦しみ、思い道理にできないことで、怒りを覚え、ストレスを感じる。
　すべて絵空事の空想であると思うことで、心の出来事を整理整頓し、冷静を装い勉強することでしか解決の糸口を見出すことが出来なかった。　　
　私はインターネット等で好きなテレビを見ている時と、好きな歌を歌っている時はそれを忘れることが出来た。
　好きなテレビの主題歌を一生懸命に覚えて、その歌を歌うこともストレス発散となった。
　
　わたしの病は医者すらわからぬ不治の病だった。私も頑張って、一生懸命勉強し自分で治すことができないのか、少しでもなんとか出来ないのか勉強した。
　だが、月日は流れるばかりで、病院の窓から外の景色を眺める日々が続いた。
　高校はパソコンのリモートなどで、通信制の学校を卒業し、なんとかリモートだけの大学に受かり、何気ない日々を送っていた。
　そして、そんないつもと変わらない平和な日々のある日のことだった。
　テレビを見ながらコクリコクリとして、いつの間にか夢の中へと導かれていた。