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藍
藍
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卒業式後、音楽の大橋先生にお願いして、特別に音楽室を開けてもらった。
えるちゃんが、あらかじめ声をかけていたと言う。
条件は、屋上で煙草を吸っていることを黙っていること。
絶対内緒だぞ?と強く念を押された。
「なんの曲を弾くの?」
ピアノを弾きたいと説明すると、そう聴かれたから、スキマスイッチの藍だと答えると、そんな難しい曲やるんだ、と笑っていた。
「じゃあ、終わったら鍵かけてから職員室もってきて」
と、音楽室から去って行く。
それと入れ替わるようにえるちゃんがやってきた。大きなギターバッグを持って。
中から、アコースティックギターを取り出して、ストラップを肩からかけて座る。
「いいね、かっこいい」
チューナーでチューニングを済ませると、譜面台に楽譜を置いた。
「緊張するね」
人前で演奏するのは初めてらしく、ボーカルもある。
僕も、人前での演奏は6年ぶりくらいだ。それに知り合いの目の前というのは、経験がなく、妙にそわそわしてしまう。
「僕らだけだから」
励ますように、それは自分にも言い聞かせていた。
「いくよ?」
えるちゃんの、ワンツー、というカウント共に、僕らの演奏がはじまる。
誰かが聴いているわけじゃない。いるのは、お互いだけ。
だから相手に届くように、相手の音をちゃんと受け止められるように。
落ち着いた旋律で始まる曲は徐々に、静かに熱量を帯びていく。
僕は、楽しそうに、時に哀しそうに、詞に思いを乗せながら歌うえるちゃんを見つめる。
彼女の優しく儚い歌声が、キュッと僕の胸を締めつけ、同時にピアノを弾く手はどんどん軽やかに滑らかにする。
2人だけの時間、空間を二人の音楽が支配した。
そして、この時が永遠に続けばよいのに、そう願ったのも束の間、曲は終わりを迎えた。
「今日はありがとう」
その後、何曲か演奏してからの帰り道、楽しそうに、ほっとしたように微笑みながら、えるちゃんが言った。
「こちらこそ」
僕もなんだか、晴れやかな気分だった。ピアノを弾いていてこんな気分になるのは、多分初めてかもしれない。
「やっぱ好きだな、ゆうくんのピアノ」
これからも続けてね、と微笑むえるちゃんに、分かった、という言葉が出かかって引っかかる。
あの頃のことがよぎって、また居なくなってしまったら、と思ったら、素直にうん、といえなかった。
「私こっちだから」
交差点で別れる時、またねという言葉の前に、僕はふと今思いついたことを、考え無しに伝えてしまう。
「卒業してからも、また一緒に出来ないかな」
と。
それが、さっきの答えだった。
「そうだねぇ」
振り返るえるちゃんの表情は、傾いてきた夕陽の光と重なって影になる。
「考えとく」
また連絡するね。と言って去っていくえるちゃんの背中を見えなくなるまで見送った。
それからすぐにえるちゃんのメッセージを開いて思った。
来週はいつ会えるんだろう。
えるちゃんが、あらかじめ声をかけていたと言う。
条件は、屋上で煙草を吸っていることを黙っていること。
絶対内緒だぞ?と強く念を押された。
「なんの曲を弾くの?」
ピアノを弾きたいと説明すると、そう聴かれたから、スキマスイッチの藍だと答えると、そんな難しい曲やるんだ、と笑っていた。
「じゃあ、終わったら鍵かけてから職員室もってきて」
と、音楽室から去って行く。
それと入れ替わるようにえるちゃんがやってきた。大きなギターバッグを持って。
中から、アコースティックギターを取り出して、ストラップを肩からかけて座る。
「いいね、かっこいい」
チューナーでチューニングを済ませると、譜面台に楽譜を置いた。
「緊張するね」
人前で演奏するのは初めてらしく、ボーカルもある。
僕も、人前での演奏は6年ぶりくらいだ。それに知り合いの目の前というのは、経験がなく、妙にそわそわしてしまう。
「僕らだけだから」
励ますように、それは自分にも言い聞かせていた。
「いくよ?」
えるちゃんの、ワンツー、というカウント共に、僕らの演奏がはじまる。
誰かが聴いているわけじゃない。いるのは、お互いだけ。
だから相手に届くように、相手の音をちゃんと受け止められるように。
落ち着いた旋律で始まる曲は徐々に、静かに熱量を帯びていく。
僕は、楽しそうに、時に哀しそうに、詞に思いを乗せながら歌うえるちゃんを見つめる。
彼女の優しく儚い歌声が、キュッと僕の胸を締めつけ、同時にピアノを弾く手はどんどん軽やかに滑らかにする。
2人だけの時間、空間を二人の音楽が支配した。
そして、この時が永遠に続けばよいのに、そう願ったのも束の間、曲は終わりを迎えた。
「今日はありがとう」
その後、何曲か演奏してからの帰り道、楽しそうに、ほっとしたように微笑みながら、えるちゃんが言った。
「こちらこそ」
僕もなんだか、晴れやかな気分だった。ピアノを弾いていてこんな気分になるのは、多分初めてかもしれない。
「やっぱ好きだな、ゆうくんのピアノ」
これからも続けてね、と微笑むえるちゃんに、分かった、という言葉が出かかって引っかかる。
あの頃のことがよぎって、また居なくなってしまったら、と思ったら、素直にうん、といえなかった。
「私こっちだから」
交差点で別れる時、またねという言葉の前に、僕はふと今思いついたことを、考え無しに伝えてしまう。
「卒業してからも、また一緒に出来ないかな」
と。
それが、さっきの答えだった。
「そうだねぇ」
振り返るえるちゃんの表情は、傾いてきた夕陽の光と重なって影になる。
「考えとく」
また連絡するね。と言って去っていくえるちゃんの背中を見えなくなるまで見送った。
それからすぐにえるちゃんのメッセージを開いて思った。
来週はいつ会えるんだろう。
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