9 / 21
Scene9 メイドの仕事が楽なんです
しおりを挟む
シャーロットの問いに「気になる?」と、楽しげに返すセリウス。
「もちろん気になるわ。何を聞いて、私をメイドに誘ったのか。それによって、セリウス様が私に何を求めてるのか分かるでしょう?」
真面目の答えるシャーロットの言葉にセリウスは「へぇ・・仕事熱心だね」と笑う。そして、徐ろにテーブルの上のクッキーを手に取ると、無言でシャーロットの口に差し出した。顔には楽しげな笑顔を貼り付けている。
「んぐ・・・」
(何?急に?)
突然のことに驚きつつも、シャーロットは差し出されたクッキーを素直に口に入れる。サクッと小気味よい音を立てながら、飲み込んだ。
「どうだい?」
「うん・・・甘くて美味しい」
するとセリウスは、二枚三枚と次から次へとクッキーをシャーロットに食べさせていく。流石に四枚目を飲みこんだところで、口を挟むシャーロット。
「セリウス様・・クッキーくらい自分食べられるわ。これではまるで餌付け・・・さては丸々と太らせて食べるつもり?」
その冗談交じりの彼女の言葉に、セリウスはニヤリと笑うと、意味深なセリフを吐く。
「太らせるつもりはないが、食べるつもりというのは、当たってるな。いずれ必ずそうなるはずだよ」
その自信たっぷりなセリフにシャーロットは、震え上がる。
「セリウス様はイジワルね。女性に対して食べるだなんて・・・やっぱりセリウス様は獲物を狙う肉食動物、私はそれに怯える小動物ね」
プイッとそっぽを向いたシャーロットを見て、セリウスは楽しげな笑いを漏らす。
「クックッ・・イジワルな肉食動物とは心外だなぁ。君を誰よりも大切にしたいと思っているのに・・今の流れの中に君の質問の答えも隠れている」
そう口にしながらセリウスは、シャーロットの後ろでまとめたふわふわの茶色の髪を手に取り、指に絡めて遊び始める。
(私の髪は、おもちゃじゃないんだけど・・・)
自分のコンプレックスである髪を弄ばれ、少しムッとした表情を浮かべるシャーロットに気付いたセリウスは、手を離すと「君は噂どおり素直だね」と言うと、ようやく噂について話し始める。
シャーロットは自分の容姿に自信がなかったが、実はその清楚な雰囲気と可愛らしさが男性には人気だった。おまけに素直で、貴族令嬢であることを鼻にかけず、率先して領民の手伝いもする。そう社交界でシャーロットの噂が囁かれているというのだ。両親のコールマン子爵夫妻や兄ギルバートを見れば、その噂が真実であると皆疑わないそうだ。
「そんな噂が・・それなら、そんな噂ニセモノだって分かったでしょう?」
「ニセモノ?とんでもない。噂以上だと言っただろう?私はこの髪も気に入っているよ。ふわふわで触っていると、雲に触れているみたいだ。それに少しおっちょこちょいなところも、楽しめそうだし、さっきは私が差し出したクッキーを素直に食べた。普通の令嬢なら、あそこは食べないよね」
「食いしん坊みたいだわ」
赤くなり、膨らませた頬を押さえるシャーロットの手にそっと自分の手を添える。「ひゃっ」と思わず声を上げたシャーロットだが、セリウスの手を振り払うことはない。
赤い瞳にシャーロットのピンクの瞳が映り、セリウスはゆっくりと顔を近づける。こんなに近い距離で男性と顔を合わせるのは、初めてだったシャーロットは、胸を高鳴らせた。
(思えば、殿下は最初から距離が近いのよね。初対面でいきなり手を引かれて連れて行かれたし・・そういう方なのね。でもこれはメイドとの距離ではないわ)
そんなことを考えていると、セリウスは
「可愛いなぁ」と呟き、額をコツンと合わせてきた。
突然のことに驚いたシャーロットは、慌ててセリウスの手を振りほどき、立ち上がる。その顔は、真っ赤に染まっていた。
「こっ、これはメイドの職務外です!誂って、遊ばないでください!」
動揺丸出しのシャーロットを前にセリウスは「なるほどね。元婚約者とは何もなかったとみえる。ちょっと性急すぎたな」と呟くと、悪びれた様子もなく「悪かった」と謝る。
「でもいま敬語使ったよね?それならお相子だ。そうだろう?」
セリウスの言葉に、シャーロットは「あっ」と口を手で押さえると、また座りなおす。そして「え~と・・・」と困ったように眉を下げるシャーロットは、「分かった」と頷いた。そんな彼女の様子に、セリウスは破顔したのだった。
◇◇◇◇◇
その後、セリウスから夕食まで休憩をもらったシャーロットは、城内を把握するためウロウロと歩いていた。
(今のところ拍子抜けするほど、メイドとして楽な仕事しかしてないんだけど、ローラは今頃何してるのかしら・・・それにしても朝食も昼食も豪華だったわ)
何故か朝食も昼食もセリウスと二人きりだった。シャーロットが、部屋に運ばれてきた二人分の料理の給仕をし、セリウスとテーブルを共にしたのだ。
彼との食事は楽しかった。他愛もない話だが、それを面白おかしく話す彼はとても話し上手だった。シャーロットは、セリウスの話にクスリと笑ったり、相槌を打ったりと聞き役に徹していた。しかしそんな時もシャーロットの心には、セリウスに対する疑問が・・
(私みたいなメイド風情に殿下は何を考えてるんだろう・・・)
その疑問の答えが出る日がくるのか・・シャーロットは、第二王子セリウス・イグリデュールという青年の不思議な魅力に惹かれ始めていることに気づいていなかった。
そんな考えごとをしながら歩いているシャーロットの鼻を甘い香りがくすぐる。
(何の香りかしら・・知っているような気がするんだけど)
香りに誘われるまま足を進めると、庭園に出る。花の香りかとシャーロットが思った瞬間、彼女の瞳に見覚えのある人物が映った。
「嗚呼、神は私を見捨てなかった。ロッティ・・会いたかったんだ」
そう言って駆け寄ってきたのは、シャーロットの元婚約者ルーカスだった。
「もちろん気になるわ。何を聞いて、私をメイドに誘ったのか。それによって、セリウス様が私に何を求めてるのか分かるでしょう?」
真面目の答えるシャーロットの言葉にセリウスは「へぇ・・仕事熱心だね」と笑う。そして、徐ろにテーブルの上のクッキーを手に取ると、無言でシャーロットの口に差し出した。顔には楽しげな笑顔を貼り付けている。
「んぐ・・・」
(何?急に?)
突然のことに驚きつつも、シャーロットは差し出されたクッキーを素直に口に入れる。サクッと小気味よい音を立てながら、飲み込んだ。
「どうだい?」
「うん・・・甘くて美味しい」
するとセリウスは、二枚三枚と次から次へとクッキーをシャーロットに食べさせていく。流石に四枚目を飲みこんだところで、口を挟むシャーロット。
「セリウス様・・クッキーくらい自分食べられるわ。これではまるで餌付け・・・さては丸々と太らせて食べるつもり?」
その冗談交じりの彼女の言葉に、セリウスはニヤリと笑うと、意味深なセリフを吐く。
「太らせるつもりはないが、食べるつもりというのは、当たってるな。いずれ必ずそうなるはずだよ」
その自信たっぷりなセリフにシャーロットは、震え上がる。
「セリウス様はイジワルね。女性に対して食べるだなんて・・・やっぱりセリウス様は獲物を狙う肉食動物、私はそれに怯える小動物ね」
プイッとそっぽを向いたシャーロットを見て、セリウスは楽しげな笑いを漏らす。
「クックッ・・イジワルな肉食動物とは心外だなぁ。君を誰よりも大切にしたいと思っているのに・・今の流れの中に君の質問の答えも隠れている」
そう口にしながらセリウスは、シャーロットの後ろでまとめたふわふわの茶色の髪を手に取り、指に絡めて遊び始める。
(私の髪は、おもちゃじゃないんだけど・・・)
自分のコンプレックスである髪を弄ばれ、少しムッとした表情を浮かべるシャーロットに気付いたセリウスは、手を離すと「君は噂どおり素直だね」と言うと、ようやく噂について話し始める。
シャーロットは自分の容姿に自信がなかったが、実はその清楚な雰囲気と可愛らしさが男性には人気だった。おまけに素直で、貴族令嬢であることを鼻にかけず、率先して領民の手伝いもする。そう社交界でシャーロットの噂が囁かれているというのだ。両親のコールマン子爵夫妻や兄ギルバートを見れば、その噂が真実であると皆疑わないそうだ。
「そんな噂が・・それなら、そんな噂ニセモノだって分かったでしょう?」
「ニセモノ?とんでもない。噂以上だと言っただろう?私はこの髪も気に入っているよ。ふわふわで触っていると、雲に触れているみたいだ。それに少しおっちょこちょいなところも、楽しめそうだし、さっきは私が差し出したクッキーを素直に食べた。普通の令嬢なら、あそこは食べないよね」
「食いしん坊みたいだわ」
赤くなり、膨らませた頬を押さえるシャーロットの手にそっと自分の手を添える。「ひゃっ」と思わず声を上げたシャーロットだが、セリウスの手を振り払うことはない。
赤い瞳にシャーロットのピンクの瞳が映り、セリウスはゆっくりと顔を近づける。こんなに近い距離で男性と顔を合わせるのは、初めてだったシャーロットは、胸を高鳴らせた。
(思えば、殿下は最初から距離が近いのよね。初対面でいきなり手を引かれて連れて行かれたし・・そういう方なのね。でもこれはメイドとの距離ではないわ)
そんなことを考えていると、セリウスは
「可愛いなぁ」と呟き、額をコツンと合わせてきた。
突然のことに驚いたシャーロットは、慌ててセリウスの手を振りほどき、立ち上がる。その顔は、真っ赤に染まっていた。
「こっ、これはメイドの職務外です!誂って、遊ばないでください!」
動揺丸出しのシャーロットを前にセリウスは「なるほどね。元婚約者とは何もなかったとみえる。ちょっと性急すぎたな」と呟くと、悪びれた様子もなく「悪かった」と謝る。
「でもいま敬語使ったよね?それならお相子だ。そうだろう?」
セリウスの言葉に、シャーロットは「あっ」と口を手で押さえると、また座りなおす。そして「え~と・・・」と困ったように眉を下げるシャーロットは、「分かった」と頷いた。そんな彼女の様子に、セリウスは破顔したのだった。
◇◇◇◇◇
その後、セリウスから夕食まで休憩をもらったシャーロットは、城内を把握するためウロウロと歩いていた。
(今のところ拍子抜けするほど、メイドとして楽な仕事しかしてないんだけど、ローラは今頃何してるのかしら・・・それにしても朝食も昼食も豪華だったわ)
何故か朝食も昼食もセリウスと二人きりだった。シャーロットが、部屋に運ばれてきた二人分の料理の給仕をし、セリウスとテーブルを共にしたのだ。
彼との食事は楽しかった。他愛もない話だが、それを面白おかしく話す彼はとても話し上手だった。シャーロットは、セリウスの話にクスリと笑ったり、相槌を打ったりと聞き役に徹していた。しかしそんな時もシャーロットの心には、セリウスに対する疑問が・・
(私みたいなメイド風情に殿下は何を考えてるんだろう・・・)
その疑問の答えが出る日がくるのか・・シャーロットは、第二王子セリウス・イグリデュールという青年の不思議な魅力に惹かれ始めていることに気づいていなかった。
そんな考えごとをしながら歩いているシャーロットの鼻を甘い香りがくすぐる。
(何の香りかしら・・知っているような気がするんだけど)
香りに誘われるまま足を進めると、庭園に出る。花の香りかとシャーロットが思った瞬間、彼女の瞳に見覚えのある人物が映った。
「嗚呼、神は私を見捨てなかった。ロッティ・・会いたかったんだ」
そう言って駆け寄ってきたのは、シャーロットの元婚約者ルーカスだった。
33
あなたにおすすめの小説
婚約破棄!?なんですって??その後ろでほくそ笑む女をナデてやりたい位には感謝してる!
まと
恋愛
私、イヴリンは第一王子に婚約破棄された。
笑ってはダメ、喜んでは駄目なのよイヴリン!
でも後ろでほくそ笑むあなたは私の救世主!
婚約破棄された令嬢は、“神の寵愛”で皇帝に溺愛される 〜私を笑った全員、ひざまずけ〜
夜桜
恋愛
「お前のような女と結婚するくらいなら、平民の娘を選ぶ!」
婚約者である第一王子・レオンに公衆の面前で婚約破棄を宣言された侯爵令嬢セレナ。
彼女は涙を見せず、静かに笑った。
──なぜなら、彼女の中には“神の声”が響いていたから。
「そなたに、我が祝福を授けよう」
神より授かった“聖なる加護”によって、セレナは瞬く間に癒しと浄化の力を得る。
だがその力を恐れた王国は、彼女を「魔女」と呼び追放した。
──そして半年後。
隣国の皇帝・ユリウスが病に倒れ、どんな祈りも届かぬ中、
ただ一人セレナの手だけが彼の命を繋ぎ止めた。
「……この命、お前に捧げよう」
「私を嘲った者たちが、どうなるか見ていなさい」
かつて彼女を追放した王国が、今や彼女に跪く。
──これは、“神に選ばれた令嬢”の華麗なるざまぁと、
“氷の皇帝”の甘すぎる寵愛の物語。
逆襲のグレイス〜意地悪な公爵令息と結婚なんて絶対にお断りなので、やり返して婚約破棄を目指します〜
シアノ
恋愛
伯爵令嬢のグレイスに婚約が決まった。しかしその相手は幼い頃にグレイスに意地悪をしたいじめっ子、公爵令息のレオンだったのだ。レオンと結婚したら一生いじめられると誤解したグレイスは、レオンに直談判して「今までの分をやり返して、俺がグレイスを嫌いになったら婚約破棄をする」という約束を取り付ける。やり返すことにしたグレイスだが、レオンは妙に優しくて……なんだか溺愛されているような……?
嫌われるためにレオンとデートをしたり、初恋の人に再会してしまったり、さらには事件が没発して──
さてさてグレイスの婚約は果たしてどうなるか。
勘違いと鈍感が重なったすれ違い溺愛ラブ。
【完結】運命の恋に落ちたんだと婚約破棄されたら、元婚約者の兄に捕まりました ~転生先は乙女ゲームの世界でした~
Rohdea
恋愛
「僕は運命の人と出会ってしまったんだ!!もう彼女以外を愛する事なんて出来ない!!」
10年間、婚約していた婚約者にそう告げられたセラフィーネ。
彼は“運命の恋”に落ちたらしい。
──あぁ、とうとう来たのね、この日が!
ショックは無い。
だって、この世界は乙女ゲームの世界。そして、私の婚約者のマルクはその攻略対象者の1人なのだから。
記憶を取り戻した時からセラフィーネにはこうなる事は分かってた。
だけど、互いの家の祖父同士の遺言により結ばれていたこの婚約。
これでは遺言は果たせそうにない。
だけど、こればっかりはどうにも出来ない──
そう思ってたのに。
「心配は無用。セラフィーネは僕と結婚すればいい。それで全ての問題は解決するんじゃないかな?」
そう言い出したのは、私を嫌ってるはずの元婚約者の兄、レグラス。
──何を言ってるの!? そもそもあなたは私の事が嫌いなんでしょう?
それに。
あなただって攻略対象(隠しキャラ)なのだから、これから“運命の恋”に落ちる事になるのに……
【完結】あなたからの愛は望みません ~お願いしたのは契約結婚のはずでした~
Rohdea
恋愛
──この結婚は私からお願いした期間限定の契約結婚だったはずなのに!!
ある日、伯爵令嬢のユイフェは1年だけの契約結婚を持ちかける。
その相手は、常に多くの令嬢から狙われ続けていた公爵令息ジョシュア。
「私と1年だけ結婚して? 愛は要らないから!」
「──は?」
この申し出はとある理由があっての事。
だから、私はあなたからの愛は要らないし、望まない。
だけど、どうしても1年だけ彼に肩書きだけでも自分の夫となって欲しかった。
(冷遇してくれても構わないわ!)
しかし、そんなユイフェを待っていた結婚生活は……まさかの甘々!?
これは演技? 本気? どっちなの!?
ジョシュアに翻弄される事になるユイフェ……
ユイフェの目的とは?
ジョシュアの思惑とは?
そして、そんなすっかり誰も入り込めないラブラブ夫婦(?)
な結婚生活を送っていた二人の前に邪魔者が───
【完結】仕事のための結婚だと聞きましたが?~貧乏令嬢は次期宰相候補に求められる
仙桜可律
恋愛
「もったいないわね……」それがフローラ・ホトレイク伯爵令嬢の口癖だった。社交界では皆が華やかさを競うなかで、彼女の考え方は異端だった。嘲笑されることも多い。
清貧、質素、堅実なんていうのはまだ良いほうで、陰では貧乏くさい、地味だと言われていることもある。
でも、違う見方をすれば合理的で革新的。
彼女の経済観念に興味を示したのは次期宰相候補として名高いラルフ・バリーヤ侯爵令息。王太子の側近でもある。
「まるで雷に打たれたような」と彼は後に語る。
「フローラ嬢と話すとグラッ(価値観)ときてビーン!ときて(閃き)ゾクゾク湧くんです(政策が)」
「当代随一の頭脳を誇るラルフ様、どうなさったのですか(語彙力どうされたのかしら)もったいない……」
仕事のことしか頭にない冷徹眼鏡と無駄使いをすると体調が悪くなる病気(メイド談)にかかった令嬢の話。
婚約破棄された令嬢は“図書館勤務”を満喫中
かしおり
恋愛
「君は退屈だ」と婚約を破棄された令嬢クラリス。社交界にも、実家にも居場所を失った彼女がたどり着いたのは、静かな田舎町アシュベリーの図書館でした。
本の声が聞こえるような不思議な感覚と、真面目で控えめな彼女の魅力は、少しずつ周囲の人々の心を癒していきます。
そんな中、図書館に通う謎めいた青年・リュカとの出会いが、クラリスの世界を大きく変えていく――
身分も立場も異なるふたりの静かで知的な恋は、やがて王都をも巻き込む運命へ。
癒しと知性が紡ぐ、身分差ロマンス。図書館の窓辺から始まる、幸せな未来の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる