〘完〙婚約破棄してメイドになった愛され子爵令嬢が、溺愛される・・・まで

hanakuro

文字の大きさ
13 / 21

Scene13 ああ、私ってなんて愚かなの

しおりを挟む
「えっ・・だから私、昨日彼に暴力をふるってしまったので、伯爵家に謝罪を・・・」

シャーロットの言葉に文字通り目が点になるセリウスたち。確認したいのかギルバートが誰を殴ったのか聞き返すと、シャーロットはルーカスを殴ったと申し訳なさそうに言った。

「何だ・・てっきり殿下に手を上げたのかと・・・」

ホッと安堵のため息をつくエルウィンたち。しかし直ぐにエルウィンは険しい父親の顔になった。

「シャーロット、理由があるのだろう?」

この言葉にシャーロットは、一瞬躊躇ったものの、昨日の四阿でのことを話し出した。話を聞き終えたレジーナとギルバートは、肩をワナワナと震わせていたが、エルウィンは小さく息を吐くと、真剣な眼差しを娘に向けた。

「シャーロット、理由は分かった。だが、これは許されることじゃないよ。相手も悪いが、それとこれとは話が別だ。それに彼は伯爵家の方だ。我々、子爵家が手を上げてはならないんだよ。まあ、どんな相手でも、暴力はいけない。きちんと謝罪した上で、彼の行いに抗議をするのが筋だね?」

「はい、お父様。分かっております」

シャーロットは素直に認めたが、レジーナとギルバートは納得いかない様子だ。そして不満そうにしている男がもう一人・・セリウスは明らかに憮然とした表情で言った。

「ルーカスには、少しお灸を据えないといけないようだな」

「「えっ!?」」

今日は驚いてばかりだったが、セリウスの言葉にシャーロットたち子爵家の面々は顔を見合わせる。するとそんな彼らにセリウスは、笑みを浮かべて言った。

「大丈夫。もう心配する必要も、シャーロット嬢が謝罪する必要もないよ。子爵も私に全て任せてくれるよね?」

その笑顔の裏に触れてはならない黒いものを感じ取ったシャーロットたちは、ただただコクコクと頷き、はいと了承するしかないのだった。

話が一段落したところで、なぜ両親たちが“シャーロットがセリウスを殴った”などと勘違いをしたのか尋ねると、エルウィンが懐から手紙を出した。広げた手紙を皆で囲んで見ると、その原因がすぐに判明する。

『お父様、お母様、申し訳ございません。私、とんでもないことをしてしまいました。思わず彼に手を上げてしまったのです。どのような理由があろうと、決してしてはならないこと・・・お父様たちにもご迷惑をかけてしまうかもしれません』と書かれていた。

肝心の“誰を”が“彼”と漠然と書かれているだけで、名前が抜けている。どうやらこれが原因らしい。エルウィンたちは、シャーロットの一番近くにいるセリウスが被害者だと思ったのだ。それがまさか婚約破棄したルーカスだとは、誰も思わないだろう。

慌てていたとはいえ、肝心なところをちゃんと書かなかったシャーロットは、再び頭を下げたのだった。


◇◇◇◇◇


エルウィンたちが帰り、セリウスと二人になったシャーロットは、深々と頭を下げる。

「セリウス様、本当にごめんなさい」

それにセリウスは優しい笑顔を返した。

「言っただろう?君が謝る必要はないと・・大体、彼は自らの不貞を棚に上げて、結婚しようなどよく言えたものだな。それより・・・」

そう言いながら、セリウスはシャーロットの手をそっと握る。その突然の行動にシャーロットはドキッとした。

「私との約束破ったことは、お仕置きが必要だね」

「約束・・」とピンときてないシャーロットの様子にセリウスは「覚えていないかい?」と優しく微笑む。そんな彼にシャーロットは、慌てて否定した。

「覚えてるわ。セリウス様との約束。嘘をつかない。名前で呼ぶ。そして他の男性に近づかない・・・最後の約束のことよね?」

それにセリウスは満足そうに頷いたが、すぐに不満そうな顔をした。

「不可抗力とはいえ元婚約者と二人きり・・しかもプロポーズされて」

そう言ってシャーロットの手を握る手に力を込めると、彼女はキョトンとする。

「確かに結婚しようと言われたけど、あれはどう考えても、彼の気が触れてるとしか思えないのよ。だからお医者様に診てもらうよう言ったの。どう考えても正気ではないわ」

その言葉にセリウスは一瞬驚いた顔をしたがすぐに笑顔になり、頭を撫でながら言った。

「クックッ・・“気が触れた”か・・それはいいね」

「?」

首を傾げるシャーロットに、セリウスは笑いを堪えながら言った。

「大丈夫だよ。お仕置きといっても、そこまで酷いことをするつもりはないから。まぁ少しだけ驚かせてしまうかもしれないが・・・」

すると次の瞬間、シャーロットの身体は、セリウスの腕の中にあった。

「・・セリウス様!」

セリウスは、驚くシャーロットをギュッと抱きしめると耳元に口を寄せ囁く。

「少し黙っておいで。せっかくの二人だけのムードを台無しにしたいのかい?」

そう言われれば、シャーロットは大人しくなるしかない。しかし、心臓がドキドキして、とてもじゃないがじっとしていられない。胸の奥がムズムズして、むず痒い。シャーロットか初めて感じる感覚だ。

徐々に頬を染める彼女にセリウスはクスリと笑う。

「フフ・・・可愛いな」

その言葉にシャーロットは、さらに胸の鼓動が速くなるのと同時に、全身から汗が吹き出すのを感じる。

(これがお仕置きなの・・・?メイドの仕事からは明らかに逸脱して・・ああ、だからお仕置きなのね。この凹凸のない棒のような身体を揶揄からかわれているんだわ)

恥ずかしさで消え入りそうになるシャーロットだが、それでも必死に耐えていた。そんな彼女の様子にセリウスは「顔を上げてごらん」と優しく声をかける。それにシャーロットがチラッと上目遣いに彼を見る。

するとセリウスは「顔を上げて」と繰り返すと、シャーロットの顎を優しく持ち上げた。少しだけ強引に視線が上げられると、セリウスの顔がすぐ目の前にあり、すぐそばで視線が合う。今までで一番近い距離に途端に恥ずかしくなったシャーロットは慌てて目を逸らした。

それを面白そうに見つめていたセリウスだったが、急に真剣な表情になると言った。

「私が、こうする意味を考えてくれると、嬉しい・・」

その声にそらした瞳を戻すと、彼の赤い瞳には僅かな懇願の色が滲んでいた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。

猫屋敷 むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で―― 私の願いは一瞬にして踏みにじられました。 母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、 婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。 「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」 まさか――あの優しい彼が? そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。 子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。 でも、私には、味方など誰もいませんでした。 ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。 白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。 「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」 やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。 それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、 冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。 没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。 これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。 ※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ ※わんこが繋ぐ恋物語です ※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ

どうぞ、おかまいなく

こだま。
恋愛
婚約者が他の女性と付き合っていたのを目撃してしまった。 婚約者が好きだった主人公の話。

【完結】婚約者候補の落ちこぼれ令嬢は、病弱王子がお気に入り!

白雨 音
恋愛
王太子の婚約者選びの催しに、公爵令嬢のリゼットも招待されたが、 恋愛に対し憧れの強い彼女は、王太子には興味無し! だが、それが王太子の不興を買う事となり、落ちこぼれてしまう!? 数々の嫌がらせにも、めげず負けないリゼットの運命は!?? 強く前向きなリゼットと、自己肯定感は低いが一途に恋する純真王子ユベールのお話☆ (※リゼット、ユベール視点有り、表示のないものはリゼット視点です) 【婚約破棄された悪役令嬢は、癒されるより、癒したい?】の、テオの妹リゼットのお話ですが、 これだけで読めます☆ 《完結しました》

婚約破棄された令嬢は、“神の寵愛”で皇帝に溺愛される 〜私を笑った全員、ひざまずけ〜

夜桜
恋愛
「お前のような女と結婚するくらいなら、平民の娘を選ぶ!」 婚約者である第一王子・レオンに公衆の面前で婚約破棄を宣言された侯爵令嬢セレナ。 彼女は涙を見せず、静かに笑った。 ──なぜなら、彼女の中には“神の声”が響いていたから。 「そなたに、我が祝福を授けよう」 神より授かった“聖なる加護”によって、セレナは瞬く間に癒しと浄化の力を得る。 だがその力を恐れた王国は、彼女を「魔女」と呼び追放した。 ──そして半年後。 隣国の皇帝・ユリウスが病に倒れ、どんな祈りも届かぬ中、 ただ一人セレナの手だけが彼の命を繋ぎ止めた。 「……この命、お前に捧げよう」 「私を嘲った者たちが、どうなるか見ていなさい」 かつて彼女を追放した王国が、今や彼女に跪く。 ──これは、“神に選ばれた令嬢”の華麗なるざまぁと、 “氷の皇帝”の甘すぎる寵愛の物語。

転生令嬢はのんびりしたい!〜その愛はお断りします〜

咲宮
恋愛
私はオルティアナ公爵家に生まれた長女、アイシアと申します。 実は前世持ちでいわゆる転生令嬢なんです。前世でもかなりいいところのお嬢様でした。今回でもお嬢様、これまたいいところの!前世はなんだかんだ忙しかったので、今回はのんびりライフを楽しもう!…そう思っていたのに。 どうして貴方まで同じ世界に転生してるの? しかも王子ってどういうこと!? お願いだから私ののんびりライフを邪魔しないで! その愛はお断りしますから! ※更新が不定期です。 ※誤字脱字の指摘や感想、よろしければお願いします。 ※完結から結構経ちましたが、番外編を始めます!

婚約破棄された令嬢、気づけば王族総出で奪い合われています

ゆっこ
恋愛
 「――よって、リリアーナ・セレスト嬢との婚約は破棄する!」  王城の大広間に王太子アレクシスの声が響いた瞬間、私は静かにスカートをつまみ上げて一礼した。  「かしこまりました、殿下。どうか末永くお幸せに」  本心ではない。けれど、こう言うしかなかった。  王太子は私を見下ろし、勝ち誇ったように笑った。  「お前のような地味で役に立たない女より、フローラの方が相応しい。彼女は聖女として覚醒したのだ!」

逆襲のグレイス〜意地悪な公爵令息と結婚なんて絶対にお断りなので、やり返して婚約破棄を目指します〜

シアノ
恋愛
伯爵令嬢のグレイスに婚約が決まった。しかしその相手は幼い頃にグレイスに意地悪をしたいじめっ子、公爵令息のレオンだったのだ。レオンと結婚したら一生いじめられると誤解したグレイスは、レオンに直談判して「今までの分をやり返して、俺がグレイスを嫌いになったら婚約破棄をする」という約束を取り付ける。やり返すことにしたグレイスだが、レオンは妙に優しくて……なんだか溺愛されているような……? 嫌われるためにレオンとデートをしたり、初恋の人に再会してしまったり、さらには事件が没発して── さてさてグレイスの婚約は果たしてどうなるか。 勘違いと鈍感が重なったすれ違い溺愛ラブ。

【完結】元悪役令嬢は、最推しの旦那様と離縁したい

うり北 うりこ@ざまされ2巻発売中
恋愛
「アルフレッド様、離縁してください!!」  この言葉を婚約者の時から、優に100回は超えて伝えてきた。  けれど、今日も受け入れてもらえることはない。  私の夫であるアルフレッド様は、前世から大好きな私の最推しだ。 推しの幸せが私の幸せ。  本当なら私が幸せにしたかった。  けれど、残念ながら悪役令嬢だった私では、アルフレッド様を幸せにできない。  既に乙女ゲームのエンディングを迎えてしまったけれど、現実はその先も続いていて、ヒロインちゃんがまだ結婚をしていない今なら、十二分に割り込むチャンスがあるはずだ。  アルフレッド様がその気にさえなれば、逆転以外あり得ない。  その時のためにも、私と離縁する必要がある。  アルフレッド様の幸せのために、絶対に離縁してみせるんだから!!  推しである夫が大好きすぎる元悪役令嬢のカタリナと、妻を愛しているのにまったく伝わっていないアルフレッドのラブコメです。 全4話+番外編が1話となっております。 ※苦手な方は、ブラウザバックを推奨しております。

処理中です...