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Scene21 最終話
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領地には入ると、お祝いムード一色に染まっていた。それはそうだろう。自分たちの愛する子爵令嬢が、王子の婚約者になったのだから・・
馬車には、次々に花とともにお祝いの言葉が贈られる。
「やっぱりすごいな。君の人気は・・」
「人気ですか?どこの領地から殿下の婚約者が出ても同じだと思うけど?」
このシャーロットの返答にセリウスは、「当たり前じゃないよ」と言った。国内の領地がどんな現状なのか詳しく話そうかと言われたが、シャーロットは辞退した。
領地から戻ったら、大量の王子妃教育が待っているのだ。他の領地がどうとか、構っている余裕はない。アベルが手ぐすね引いて待っている姿が目に浮かぶと、シャーロットはブルッと身震いした。
そんな彼女の考えが分かるのか、セリウスはクツクツと笑いを漏らすと、シャーロットの髪を撫でる。
「大丈夫だよ。アベルが選んだ教師が気に入らなかったら、変えればいい。私に任せておけば、心配はいらないよ」
その言葉を聞いて、一瞬ホッとしたシャーロットだったが、すぐに思い直して首を振る。
「ううん、大丈夫!宰相様には“頑張る”と宣言しちゃったし、とにかく裏切らないよう頑張るわ」
彼女は、自分の意思を貫く覚悟を決めたようだ。セリウスは、彼女の髪に触れる手を頬に添えると、「無理しないでくれよ」と優しく呟いた。
その呟きにシャーロットは「大丈夫よ。私は体力だけあることを知ってるでしょう?」と笑って返す。するとセリウスからは、甘い言葉が返ってきた。
「ああ、知ってる。でも万が一君が倒れでもしたら・・・子爵が“やっぱり娘は嫁がせない”と言い出したら・・私は気が狂ってしまうよ。それ程までに、私は君を愛しているんだ。君を手放したら、私は正気ではいられないからね。もう一生、手放してあげないから覚悟しておいてくれ」
「フフッ、私も婚約破棄はもう懲りごりなの」
二人は顔を見合わせるとクスリと笑い合う。そして、セリウスが顔を近づけていくが、唇が触れる瞬間シャーロットが待ったをかけた。
「ちょっとセリウス様!ダメ!みんなが見てる!」
シャーロットの言葉通り、小窓から領民たちが馬車の中の様子をキラキラした瞳で見ている。流石に衆人環視の中、キスをする度胸はない。
「おあずけか・・」と残念がるセリウスに対し、シャーロットは内心安堵していた。ルーカスとは手も握ったことのなかった彼女にとっては、セリウスとの時間は初めてづくしで、ドキドキしっぱなしだった。
それにセリウスとの初めてのキスは、文字通りファーストキスだ。シャーロットにだって、夢見るシチュエーションというものがある。生涯に一度きりの初めては、大切にしたい。
シャーロットは、今度素直にそんな想いを打ち明けようと思った。きっとセリウスなら、自分の気持ちを大切にしてくれると思えるから・・
「仕方がない。今はここまでにしてあげるよ。その代わり屋敷についたら、たっぷり可愛がってあげるからね」
これには、シャーロットはひっくり返る寸前だった。
◇◇◇◇◇
やっとコールマン子爵邸に到着すると、使用人たちが勢ぞろいして二人を出迎えてくれた。フラワーシャワーなんてものまで用意されていて、シャーロットは目を丸くする。
「素敵!みんなありがとう!」
「喜んでくれたようで何よりです。さあ、中へどうぞ」
執事のセバスチャンに誘われて、玄関ホールに入る。これから明日までは、セリウスと二人きりのはずだった。しかし、ホールに見慣れた姿を見つけると、シャーロットとセリウスは声を揃えた。
「何でいるの?」
「何でいるんだ?」
驚くのも無理はない。そこに立っていたのは、父エルウィン、母レジーナ、兄ギルバートだったのだから・・
予定では一足先にシャーロットとセリウスがやって来て、シャーロットの家族は明日来るはずだった。それなのに今か今かと待ち受けているとは、一体どういことなのか。
そんな驚くシャーロットたちにエルウィンが口を開く。
「いやー、シャーロットのお祝いをしたくてね。明日まで待ってられないだろう」
「そうよ。私たち家族なんだから、お祝いくらいさせなさいよね」
「全くだ。兄として最大限のお祝いをするから、明日を楽しみにしてるんだよ」
我先にとそう話す家族の様子に、シャーロットは「明日?明日なにがあるの?」と聞き返す。それにギルバートが興奮した様子で答えた。
「そんなの決まってるじゃないか。領民たちも呼んで、パーティーだよ」
パーティーなど寝耳に水のシャーロットとセリウスは驚いた。
「お父様、パーティーなんてどうしたんですか?」
「殿下、城の豪華なパーティーもいいでしょうが、我が領地の心のこもったパーティーも捨てがたいですよ」
その誘いにセリウスは、「楽しみだ」と微笑んだ。
そうしてシャーロットは、セリウスの手を離れ、レジーナたちに連れ去られる。明日のドレスを選ぶそうだ。
あっという間に、エルウィンと共に取り残されたセリウスは、苦笑した。シャーロットと二人きりという当てが外れたのだから、内心ガッカリしていた。そんなセリウスの胸の内を知ってか知らずか、エルウィンが釘を刺した。
「殿下、恐れながら、娘はまだまだ子供です。それに婚約したばかりですので、あまり無理をさせたくありません。ですので、2人きりなのをいいことに、性急に事を進めないようくれぐれもお願いします」
男としての下心に図星を指され、微妙にバツの悪いセリウスは、口を尖らせ「分かってるよ」と言った。
そしてそんなセリウスの耳に楽しげなシャーロットたちの会話が届き、頬が緩む。そして、セリウスは、今夜は楽しい夜になりそうな予感がしていた。
◆◆◆◆◆
最後までお付き合いくださり、ありがとうございました。
次作でもお会いできましたら、嬉しい限りです。
ありがとうございました。
馬車には、次々に花とともにお祝いの言葉が贈られる。
「やっぱりすごいな。君の人気は・・」
「人気ですか?どこの領地から殿下の婚約者が出ても同じだと思うけど?」
このシャーロットの返答にセリウスは、「当たり前じゃないよ」と言った。国内の領地がどんな現状なのか詳しく話そうかと言われたが、シャーロットは辞退した。
領地から戻ったら、大量の王子妃教育が待っているのだ。他の領地がどうとか、構っている余裕はない。アベルが手ぐすね引いて待っている姿が目に浮かぶと、シャーロットはブルッと身震いした。
そんな彼女の考えが分かるのか、セリウスはクツクツと笑いを漏らすと、シャーロットの髪を撫でる。
「大丈夫だよ。アベルが選んだ教師が気に入らなかったら、変えればいい。私に任せておけば、心配はいらないよ」
その言葉を聞いて、一瞬ホッとしたシャーロットだったが、すぐに思い直して首を振る。
「ううん、大丈夫!宰相様には“頑張る”と宣言しちゃったし、とにかく裏切らないよう頑張るわ」
彼女は、自分の意思を貫く覚悟を決めたようだ。セリウスは、彼女の髪に触れる手を頬に添えると、「無理しないでくれよ」と優しく呟いた。
その呟きにシャーロットは「大丈夫よ。私は体力だけあることを知ってるでしょう?」と笑って返す。するとセリウスからは、甘い言葉が返ってきた。
「ああ、知ってる。でも万が一君が倒れでもしたら・・・子爵が“やっぱり娘は嫁がせない”と言い出したら・・私は気が狂ってしまうよ。それ程までに、私は君を愛しているんだ。君を手放したら、私は正気ではいられないからね。もう一生、手放してあげないから覚悟しておいてくれ」
「フフッ、私も婚約破棄はもう懲りごりなの」
二人は顔を見合わせるとクスリと笑い合う。そして、セリウスが顔を近づけていくが、唇が触れる瞬間シャーロットが待ったをかけた。
「ちょっとセリウス様!ダメ!みんなが見てる!」
シャーロットの言葉通り、小窓から領民たちが馬車の中の様子をキラキラした瞳で見ている。流石に衆人環視の中、キスをする度胸はない。
「おあずけか・・」と残念がるセリウスに対し、シャーロットは内心安堵していた。ルーカスとは手も握ったことのなかった彼女にとっては、セリウスとの時間は初めてづくしで、ドキドキしっぱなしだった。
それにセリウスとの初めてのキスは、文字通りファーストキスだ。シャーロットにだって、夢見るシチュエーションというものがある。生涯に一度きりの初めては、大切にしたい。
シャーロットは、今度素直にそんな想いを打ち明けようと思った。きっとセリウスなら、自分の気持ちを大切にしてくれると思えるから・・
「仕方がない。今はここまでにしてあげるよ。その代わり屋敷についたら、たっぷり可愛がってあげるからね」
これには、シャーロットはひっくり返る寸前だった。
◇◇◇◇◇
やっとコールマン子爵邸に到着すると、使用人たちが勢ぞろいして二人を出迎えてくれた。フラワーシャワーなんてものまで用意されていて、シャーロットは目を丸くする。
「素敵!みんなありがとう!」
「喜んでくれたようで何よりです。さあ、中へどうぞ」
執事のセバスチャンに誘われて、玄関ホールに入る。これから明日までは、セリウスと二人きりのはずだった。しかし、ホールに見慣れた姿を見つけると、シャーロットとセリウスは声を揃えた。
「何でいるの?」
「何でいるんだ?」
驚くのも無理はない。そこに立っていたのは、父エルウィン、母レジーナ、兄ギルバートだったのだから・・
予定では一足先にシャーロットとセリウスがやって来て、シャーロットの家族は明日来るはずだった。それなのに今か今かと待ち受けているとは、一体どういことなのか。
そんな驚くシャーロットたちにエルウィンが口を開く。
「いやー、シャーロットのお祝いをしたくてね。明日まで待ってられないだろう」
「そうよ。私たち家族なんだから、お祝いくらいさせなさいよね」
「全くだ。兄として最大限のお祝いをするから、明日を楽しみにしてるんだよ」
我先にとそう話す家族の様子に、シャーロットは「明日?明日なにがあるの?」と聞き返す。それにギルバートが興奮した様子で答えた。
「そんなの決まってるじゃないか。領民たちも呼んで、パーティーだよ」
パーティーなど寝耳に水のシャーロットとセリウスは驚いた。
「お父様、パーティーなんてどうしたんですか?」
「殿下、城の豪華なパーティーもいいでしょうが、我が領地の心のこもったパーティーも捨てがたいですよ」
その誘いにセリウスは、「楽しみだ」と微笑んだ。
そうしてシャーロットは、セリウスの手を離れ、レジーナたちに連れ去られる。明日のドレスを選ぶそうだ。
あっという間に、エルウィンと共に取り残されたセリウスは、苦笑した。シャーロットと二人きりという当てが外れたのだから、内心ガッカリしていた。そんなセリウスの胸の内を知ってか知らずか、エルウィンが釘を刺した。
「殿下、恐れながら、娘はまだまだ子供です。それに婚約したばかりですので、あまり無理をさせたくありません。ですので、2人きりなのをいいことに、性急に事を進めないようくれぐれもお願いします」
男としての下心に図星を指され、微妙にバツの悪いセリウスは、口を尖らせ「分かってるよ」と言った。
そしてそんなセリウスの耳に楽しげなシャーロットたちの会話が届き、頬が緩む。そして、セリウスは、今夜は楽しい夜になりそうな予感がしていた。
◆◆◆◆◆
最後までお付き合いくださり、ありがとうございました。
次作でもお会いできましたら、嬉しい限りです。
ありがとうございました。
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