20 / 21
Scene20 私の出した答えは・・
しおりを挟む
(ああ、この扉を開ければ、もう後戻りはできないわ)
シャーロットは、広間の大扉を前に立っていた。彼女の出した答え・・それは子爵家へ帰ることではなく、生涯セリウスの隣に立つことだった。
彼女は、イエローベージュのドレスにルビーの大きなネックレスを着けていた。ルビーの赤の派手な印象を、ドレスの色で柔らかなそれへと変えていた。シャーロットの雰囲気に合っている。ふわふわのブラウンヘアもきれいにまとめられ、何より棒だという自身の身体に凹凸が生まれていた。シャーロットは、頑張ってくれたローラに感謝した。
「シャーロット様、貴女の決断、私は大変嬉しく思います。今後は、全力でシャーロット様をお支えする所存でございます」
横に控えていたアベルがそう言って頭を下げるので、シャーロットは恐縮してしまう。少し前まで宰相に頭を下げられるなど、想像などできなかった。
「こちらこそよろしくお願いいたします。全力で頑張ります」
するとその答えを聞いたアベルは、掛けている鼻メガネを掛け直すと、奥の鋭い瞳を光らせた。それに嫌な予感がしたシャーロットに、案の定アベルは満足気な声で言った。
「そのやる気、確かに聞きましたよ。これから王子妃教育が山のように待ってますから、皆の手本となるようぜひとも頑張っていただきます」
シャーロットは、苦笑いを浮かべると、そっとため息をついた。
「ゔっ・・・はい、努力させていただきます」
(絶対に私の言質を取る為に言ったのね。さすが宰相様・・こんな人たちがゴロゴロいる世界に私は突っ込んでいくのね・・)
シャーロットがブルッと身体を震わせると、アベルが告げた。
「では参りましょうか」
こうしてシャーロットは、未来を決定づける表舞台へと足を踏み入れた。
◇◇◇◇◇
「明日まで君と二人きりなんて、嬉しいよ」
セリウスが笑顔を向けると、シャーロットの顔が赤く染まる。
シャーロットとセリウスは、いま子爵領へ向かう馬車に乗っていた。領地に何があるのか。それはシーラによって切り裂かれたワンピースを作り直すためだ。最初、“王都の仕立て屋で”と言ったセリウスにシャーロットが“領地のエーデルの店で作れば、採寸の必要ないから”と譲らなかったのだ。
そう言われてしまっては、セリウスに拒む理由はない。それに国王たちからも婚約祝いだと言って、セリウスがしばらくの休暇をもらった為、二人きりのちょっとした旅行となった。
「セリウス様、お手柔らかに・・」
そう言ったシャーロットの手を取り、微笑んだセリウスは「それはどうかなぁ、ロッティ」と冗談混じりに言った。
そして突然の愛称呼びに頭から噴火したシャーロットに、セリウスは笑みを深めながら更に言葉を続ける。
「多少手荒なことをしても許してくれよ。なにせ君が広間に現れたときから、ずっと衝動を抑えてるんだから」
その言葉に「しょっ、衝動って何の!?」と彼女の声が裏替えったのは、気の所為ではない。
あの日、プロポーズの答えだしたシャーロットが広間に入ると、一斉に沸き起こった拍手に迎えられた。集まった貴族たちが、手を叩いていたのだ。
それはシャーロットが聞いていた公開裁判の場とは真逆の興奮と幸せな雰囲気に満ち溢れた時間だった。
目が点になったシャーロットを奥から現れたセリウスがエスコートし壇上へと上がり、第二王子セリウスとコールマン子爵家令嬢シャーロットの婚約を国王自らが宣言したのだ。
その後、訳の分からぬまま話は進み、あっという間に集まりは解散となった。自室へ連れてきたセリウスが、まだ混乱するシャーロットに事情を説明すると、シャーロットは顔を真っ赤にして叫んだ。
『みんなグルだったのね!?』
セリウスの話は単純だった。ルーカスとシーラ両名の裁判というのは、嘘だった。もちろんそれなりの罰は与えるが、それを公開でするなどシャーロットの気持ちを考えれば、できるはずがなかった。
そしてシャーロットがセリウスの相手として認められるには、メイド長の言ったとおり強さが足りなかった。登城初日に国王に謁見した後に、セリウスは言われたそうだ。
『彼女を婚約者に望むなら、彼女の強さを引き出しなさい』と・・・
それから、どうやって国王たちを納得させるか思案していたセリウスだったが、立て続けにルーカスとシーラからシャーロットが騒動に巻き込まれたことを利用しようと思いついたのだ。
傷つけられたとはいえ、誰かを断罪するなど、今までのシャーロットならば考えられない。そんな彼女に“断罪する”と嘘の情報を流して、時には冷徹になる覚悟を引き出すことができれば、国王たちを黙らせることができる。
こうしてセリウスはプロポーズをし、シャーロットの未来を彼女自身の判断に委ねたのだ。
『すまない・・でもこれくらい荒療治をしないと、お人好しの君は覚醒しないだろう?』
これにはシャーロットも黙るしかなかったのだ。
こうして無事にセリウスの婚約者となったシャーロットは、領地に向かっているのだった。
シャーロットは、広間の大扉を前に立っていた。彼女の出した答え・・それは子爵家へ帰ることではなく、生涯セリウスの隣に立つことだった。
彼女は、イエローベージュのドレスにルビーの大きなネックレスを着けていた。ルビーの赤の派手な印象を、ドレスの色で柔らかなそれへと変えていた。シャーロットの雰囲気に合っている。ふわふわのブラウンヘアもきれいにまとめられ、何より棒だという自身の身体に凹凸が生まれていた。シャーロットは、頑張ってくれたローラに感謝した。
「シャーロット様、貴女の決断、私は大変嬉しく思います。今後は、全力でシャーロット様をお支えする所存でございます」
横に控えていたアベルがそう言って頭を下げるので、シャーロットは恐縮してしまう。少し前まで宰相に頭を下げられるなど、想像などできなかった。
「こちらこそよろしくお願いいたします。全力で頑張ります」
するとその答えを聞いたアベルは、掛けている鼻メガネを掛け直すと、奥の鋭い瞳を光らせた。それに嫌な予感がしたシャーロットに、案の定アベルは満足気な声で言った。
「そのやる気、確かに聞きましたよ。これから王子妃教育が山のように待ってますから、皆の手本となるようぜひとも頑張っていただきます」
シャーロットは、苦笑いを浮かべると、そっとため息をついた。
「ゔっ・・・はい、努力させていただきます」
(絶対に私の言質を取る為に言ったのね。さすが宰相様・・こんな人たちがゴロゴロいる世界に私は突っ込んでいくのね・・)
シャーロットがブルッと身体を震わせると、アベルが告げた。
「では参りましょうか」
こうしてシャーロットは、未来を決定づける表舞台へと足を踏み入れた。
◇◇◇◇◇
「明日まで君と二人きりなんて、嬉しいよ」
セリウスが笑顔を向けると、シャーロットの顔が赤く染まる。
シャーロットとセリウスは、いま子爵領へ向かう馬車に乗っていた。領地に何があるのか。それはシーラによって切り裂かれたワンピースを作り直すためだ。最初、“王都の仕立て屋で”と言ったセリウスにシャーロットが“領地のエーデルの店で作れば、採寸の必要ないから”と譲らなかったのだ。
そう言われてしまっては、セリウスに拒む理由はない。それに国王たちからも婚約祝いだと言って、セリウスがしばらくの休暇をもらった為、二人きりのちょっとした旅行となった。
「セリウス様、お手柔らかに・・」
そう言ったシャーロットの手を取り、微笑んだセリウスは「それはどうかなぁ、ロッティ」と冗談混じりに言った。
そして突然の愛称呼びに頭から噴火したシャーロットに、セリウスは笑みを深めながら更に言葉を続ける。
「多少手荒なことをしても許してくれよ。なにせ君が広間に現れたときから、ずっと衝動を抑えてるんだから」
その言葉に「しょっ、衝動って何の!?」と彼女の声が裏替えったのは、気の所為ではない。
あの日、プロポーズの答えだしたシャーロットが広間に入ると、一斉に沸き起こった拍手に迎えられた。集まった貴族たちが、手を叩いていたのだ。
それはシャーロットが聞いていた公開裁判の場とは真逆の興奮と幸せな雰囲気に満ち溢れた時間だった。
目が点になったシャーロットを奥から現れたセリウスがエスコートし壇上へと上がり、第二王子セリウスとコールマン子爵家令嬢シャーロットの婚約を国王自らが宣言したのだ。
その後、訳の分からぬまま話は進み、あっという間に集まりは解散となった。自室へ連れてきたセリウスが、まだ混乱するシャーロットに事情を説明すると、シャーロットは顔を真っ赤にして叫んだ。
『みんなグルだったのね!?』
セリウスの話は単純だった。ルーカスとシーラ両名の裁判というのは、嘘だった。もちろんそれなりの罰は与えるが、それを公開でするなどシャーロットの気持ちを考えれば、できるはずがなかった。
そしてシャーロットがセリウスの相手として認められるには、メイド長の言ったとおり強さが足りなかった。登城初日に国王に謁見した後に、セリウスは言われたそうだ。
『彼女を婚約者に望むなら、彼女の強さを引き出しなさい』と・・・
それから、どうやって国王たちを納得させるか思案していたセリウスだったが、立て続けにルーカスとシーラからシャーロットが騒動に巻き込まれたことを利用しようと思いついたのだ。
傷つけられたとはいえ、誰かを断罪するなど、今までのシャーロットならば考えられない。そんな彼女に“断罪する”と嘘の情報を流して、時には冷徹になる覚悟を引き出すことができれば、国王たちを黙らせることができる。
こうしてセリウスはプロポーズをし、シャーロットの未来を彼女自身の判断に委ねたのだ。
『すまない・・でもこれくらい荒療治をしないと、お人好しの君は覚醒しないだろう?』
これにはシャーロットも黙るしかなかったのだ。
こうして無事にセリウスの婚約者となったシャーロットは、領地に向かっているのだった。
34
あなたにおすすめの小説
【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。
猫屋敷 むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で――
私の願いは一瞬にして踏みにじられました。
母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、
婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。
「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」
まさか――あの優しい彼が?
そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。
子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。
でも、私には、味方など誰もいませんでした。
ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。
白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。
「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」
やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。
それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、
冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。
没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。
これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。
※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ
※わんこが繋ぐ恋物語です
※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ
【完結】婚約者候補の落ちこぼれ令嬢は、病弱王子がお気に入り!
白雨 音
恋愛
王太子の婚約者選びの催しに、公爵令嬢のリゼットも招待されたが、
恋愛に対し憧れの強い彼女は、王太子には興味無し!
だが、それが王太子の不興を買う事となり、落ちこぼれてしまう!?
数々の嫌がらせにも、めげず負けないリゼットの運命は!??
強く前向きなリゼットと、自己肯定感は低いが一途に恋する純真王子ユベールのお話☆
(※リゼット、ユベール視点有り、表示のないものはリゼット視点です)
【婚約破棄された悪役令嬢は、癒されるより、癒したい?】の、テオの妹リゼットのお話ですが、
これだけで読めます☆ 《完結しました》
婚約破棄された令嬢は、“神の寵愛”で皇帝に溺愛される 〜私を笑った全員、ひざまずけ〜
夜桜
恋愛
「お前のような女と結婚するくらいなら、平民の娘を選ぶ!」
婚約者である第一王子・レオンに公衆の面前で婚約破棄を宣言された侯爵令嬢セレナ。
彼女は涙を見せず、静かに笑った。
──なぜなら、彼女の中には“神の声”が響いていたから。
「そなたに、我が祝福を授けよう」
神より授かった“聖なる加護”によって、セレナは瞬く間に癒しと浄化の力を得る。
だがその力を恐れた王国は、彼女を「魔女」と呼び追放した。
──そして半年後。
隣国の皇帝・ユリウスが病に倒れ、どんな祈りも届かぬ中、
ただ一人セレナの手だけが彼の命を繋ぎ止めた。
「……この命、お前に捧げよう」
「私を嘲った者たちが、どうなるか見ていなさい」
かつて彼女を追放した王国が、今や彼女に跪く。
──これは、“神に選ばれた令嬢”の華麗なるざまぁと、
“氷の皇帝”の甘すぎる寵愛の物語。
転生令嬢はのんびりしたい!〜その愛はお断りします〜
咲宮
恋愛
私はオルティアナ公爵家に生まれた長女、アイシアと申します。
実は前世持ちでいわゆる転生令嬢なんです。前世でもかなりいいところのお嬢様でした。今回でもお嬢様、これまたいいところの!前世はなんだかんだ忙しかったので、今回はのんびりライフを楽しもう!…そう思っていたのに。
どうして貴方まで同じ世界に転生してるの?
しかも王子ってどういうこと!?
お願いだから私ののんびりライフを邪魔しないで!
その愛はお断りしますから!
※更新が不定期です。
※誤字脱字の指摘や感想、よろしければお願いします。
※完結から結構経ちましたが、番外編を始めます!
婚約破棄された令嬢、気づけば王族総出で奪い合われています
ゆっこ
恋愛
「――よって、リリアーナ・セレスト嬢との婚約は破棄する!」
王城の大広間に王太子アレクシスの声が響いた瞬間、私は静かにスカートをつまみ上げて一礼した。
「かしこまりました、殿下。どうか末永くお幸せに」
本心ではない。けれど、こう言うしかなかった。
王太子は私を見下ろし、勝ち誇ったように笑った。
「お前のような地味で役に立たない女より、フローラの方が相応しい。彼女は聖女として覚醒したのだ!」
逆襲のグレイス〜意地悪な公爵令息と結婚なんて絶対にお断りなので、やり返して婚約破棄を目指します〜
シアノ
恋愛
伯爵令嬢のグレイスに婚約が決まった。しかしその相手は幼い頃にグレイスに意地悪をしたいじめっ子、公爵令息のレオンだったのだ。レオンと結婚したら一生いじめられると誤解したグレイスは、レオンに直談判して「今までの分をやり返して、俺がグレイスを嫌いになったら婚約破棄をする」という約束を取り付ける。やり返すことにしたグレイスだが、レオンは妙に優しくて……なんだか溺愛されているような……?
嫌われるためにレオンとデートをしたり、初恋の人に再会してしまったり、さらには事件が没発して──
さてさてグレイスの婚約は果たしてどうなるか。
勘違いと鈍感が重なったすれ違い溺愛ラブ。
【完結】元悪役令嬢は、最推しの旦那様と離縁したい
うり北 うりこ@ざまされ2巻発売中
恋愛
「アルフレッド様、離縁してください!!」
この言葉を婚約者の時から、優に100回は超えて伝えてきた。
けれど、今日も受け入れてもらえることはない。
私の夫であるアルフレッド様は、前世から大好きな私の最推しだ。 推しの幸せが私の幸せ。
本当なら私が幸せにしたかった。
けれど、残念ながら悪役令嬢だった私では、アルフレッド様を幸せにできない。
既に乙女ゲームのエンディングを迎えてしまったけれど、現実はその先も続いていて、ヒロインちゃんがまだ結婚をしていない今なら、十二分に割り込むチャンスがあるはずだ。
アルフレッド様がその気にさえなれば、逆転以外あり得ない。
その時のためにも、私と離縁する必要がある。
アルフレッド様の幸せのために、絶対に離縁してみせるんだから!!
推しである夫が大好きすぎる元悪役令嬢のカタリナと、妻を愛しているのにまったく伝わっていないアルフレッドのラブコメです。
全4話+番外編が1話となっております。
※苦手な方は、ブラウザバックを推奨しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる