上 下
3 / 22

Scene2 お節介が顔を出す

しおりを挟む
翌朝、ミーリエルの父親である侯爵は、娘からの報告を聞いて驚いていた。

結局、黙っていることもできたのに、ミーリエルは夢の話をした。前世のお節介で困ってる人をほっとけない性格が仇となり、黙っていられなかったのだ。

そもそもなぜ宝探しをしなくては、ならないのか。ここで、彼女の書いた小説『アデノール王国物語』の話をしよう。

物語の始まりは、アデノール王国。

その昔、王国内に深刻な流行り病が蔓延した。薬や魔法によって、封じ込めようとしたが上手くいかず、当時当代随一と呼ばれていた魔女に国王は事態の収束を頼んだ。

魔女は、願いを叶えるかわりにある条件を出した。千年もの間生きる魔女は、王子が生まれたら、自分の婿にしろと言ったのだ。

しかし国王として、大事な跡継ぎを魔女に差し出す訳にはいかない。それを素直に話すと、魔女は条件の続きを話した。

第一王子は未来の国王に、第二王子は自分の婿にと・・・

それなら王国の血筋が途絶えることはないと、国王も了承した。しかし、国王は最初から約束を守るつもりなどなかった。男児が一人だけなら、魔女の約束も守る必要がないと、考えていたのだ。

そうして何代か王子1人しか生まれずに続いたが、ある時魔女が国王の夢枕に現れ言った。

『次から生まれてくる子は、男児が同時に2人生まれる呪いをかけた。約束を果たせ』と・・・

その言葉どおり男の子の双子が生まれ、16歳の誕生日の朝、第二王子は城から忽然と姿を消した。部屋に残されていたのは、『最初の約束を果たす時がきた』という魔女からの手紙だった。

それから王国には、双子の王子が生まれるようになり、第二王子は16歳の誕生日に居なくなる。どんなに守りを固めても、それは防げなかった。

しかも魔女の呪いなのか、第一王子の性格が未来の国王としての品格のカケラもない、いわゆるクズ王子だった。

と、ここまでは物語の序章だ。
ミーリエルが登場するのはここからだった。

ミーリエルの父である宰相ケインズは、頭を悩ませていた。いくら約束とはいえ、第二王子を攫われ続け、素質のない国王が統治することをいつまで受け入れればいいのかと・・・宰相として、国の未来を憂いていた。

そんなある日、ミーリエルは夢を見る。あの謎解きのような夢だ。

いにしえの呪いを解きたければ、王子の清白な心を集めろ』

清白な心とは、第一王子の心に人として足りないものだった。

誠実、慈愛、謙虚さ、勤勉、忍耐力、責任感

それらは宝石として隠されており、それを集めれば魔女の呪いが解けるというのだ。

話を聞いたケインズは、彼女が夢に見たことに意味があると考えた。そして娘に頼む。国のため探してくれと・・

こうして、王子の婚約者アリアナと彼女の兄マーカスと共にミーリエルは王子の心探しを始めるのだ。ちなみにアリアナが、物語の主人公であり、ミーリエルはあくまでも協力者だ。

そうして紆余曲折を経て、全て集めたミーリエルたちによって、王子の心は満たされ、魔女の呪いは解かれ物語は終わる。

ということで、夢を打ち明けたミーリエルに、父から言われる次のセリフが頭をよぎる。

(あ~、言っちゃった・・・小説どおりなら次は・・・)

「ミーリエル。危険を承知で頼む。国のため探してくれ」

(ほらね、やっぱりこうなると思った・・・)

ミーリエルは予想通りのセリフを受け取ると、「お父様、分かりました。全力で探し出してみせます」と自信満々に言い切った。その顔には余裕の笑みを浮かべている。

(サクッと見つけちゃうからね。だって答えを知ってるんだも~ん)

その後の展開も知っているミーリエルは、父親の部屋を後にすると、自室で鼻歌交じりのご機嫌モードで考え始めた。

(さぁて、こうなったら、速攻王子を真っ当にしちゃうんだから。それで、私のイチオシキャラのアリアナと仲良くなって、貴族生活を楽しむの!人生楽しまなきゃ損!)

ミーリエルは、これからの冒険にやる気みなぎっていた。

しかし、彼女は知らなかった。

この世界が自分が書いた『アデノール王国物語』の通りではないことを・・・
しおりを挟む

処理中です...