〘完〙転生侯爵令嬢は、王子の失くした心を見つけるのに必死です！

Scene3 主人公登場

ケインズに夢を打ち明けたミーリエルは、翌日城に呼び出された。王子の宝探しのための遠征が決まるのだ。ここで主人公アリアナと出会う。

婚約者アリアナは、クズ王子とは違い未来の王妃としての風格と品位を兼ね備えていた。社交界の華と言われ、誰もが憧れる存在だ。

ミーリエルは、アリアナとの出会いに胸を躍らせ登城する。そして豪華な家具の置かれた部屋に入ると、ケインズがすでに待っていた。

「お父様、私が一番乗りなんですね」

「ああ、今日は頼むよ」

「はい、お任せ下さい」

笑顔で答えたミーリエルだったが、アリアナとの出会いに浮かれていた。そして、アリアナの登場を今か今かと待っていると、扉が開かれ待ち人が現れた。その姿を見た瞬間、ミーリエルは思わず息を飲む。目の前に現れたアリアナは、意外な姿をしていた。

柔らかい印象を与えるピンクブロンドの髪と透き通るようなグリーンの瞳の顔はアリアナだったが、その出で立ちはドレスではなく、男性のような騎士服を着ている。髪をまとめ上げ、凛々しい雰囲気をまとっていた。

（ワォッ！！何それ！？何それ！？何それ～！？アリアナ？豪華なドレスはどうした！？何で騎士服なんて着てる！？うわぁ！宝塚！？まさに男装の令嬢！ヤバい！かっこいい！）

あまりのかっこ良さにミーリエルは見惚れてしまう。そして、そんなミーリエルを見て、アリアナは微笑みを浮かべて挨拶をした。

「初めまして、ミーリエル様。私はエルガド公爵家アリアナと申します」

（はぁぁぁ・・・神・・社交界の華もいいけど、男装のアリアナも推せる！）

ミーリエルがボケ～ッと見惚れていると、アリアナは「ミーリエル様？」と首を傾げた。そんな姿も今のミーリエルには、神々しいオーラを放つ女神に見えていた。

（やぁぁ・・私って、こっちの趣味あったのか・・・・こんなときめき何年ぶりか・・やばっ、よだれ出そう）

それでもぼんやりしているミーリエルにケインズが名前を呼んだ。そこでようやく現実に引き戻され、慌てて挨拶を返すミーリエル。

するとアリアナの後ろから、彼女の兄としてマーカスも挨拶した。マーカスもまたイケメンだった。それはそうだ。自分の好みで書き上げた小説なのだから・・

しかしここでミーリエルは、小説と違うことにようやく気がつく。アリアナの姿もそうだったが、マーカスの容姿も小説では他のキャラのそれだったからだ。

その時、騎士団と魔法使いの代表と第一王子オーウェン、そして国王エヴァンズが入ってきた。

ここでミーリエルは知った。オーウェンとマーカスの容姿が入れ替わっていることに。小説ではオーウェンの容姿をどストライクの好みにし、マーカスのそれに次ぐ好みにしていた。

しかし入れ替わっていても、イケメンはイケメン。ただの耳障りの良い文字が並ぶイケメンより、こうして視覚化されると甲乙つけ難い。

（ヤバ～、貴族最高。転生最高）

そんな鼻の下を伸ばすミーリエルにマーカスがクスッと笑みを向ける。まるで彼女の思考を読んでいるかのようだ。思わず、頬を染め俯いたミーリエルだった。

それからケインズによって集められたその会議で、ミーリエルの見た夢の話をすると、皆一様に驚きの声を上げた。その表情には、驚愕と期待が入り混じっている。夢が本当なら魔女の呪いに頭を悩ませる必要がなくなるのだ。

若干の相違はあるものの、ここまでの流れは概ね小説どおり。あとはミーリエルの夢が本当であると、信じさせるだけだった。小説どおりに地図を広げ、宝石の眠る場所を具体的に示していく。その迷いのない指の動きに、その場にいた全員が目を見張った。そして最後に「皆さん、この機に魔女の呪いからアデノール王国を解放しましょう」と締めくくる・・・はずだった。

しかしミーリエルが地図で宝の場所を指し示し、締めくくりのセリフを言う前に口を開いたのは、オーウェンだった。

「よしっ！俺様が自ら出向いてやる！さっさと準備しろ」

『『えっ！？』』というのは、この場に集まった皆の心の声だ。その表情が物語っている。

いちばん驚いたのは、ミーリエルだ。小説では、「早く行ってこい」と急かすだけ急かして、遠征隊を見送りもしなかったオーウェンが、何故かやる気満々で遠征に行くと言う。

（いらんこと言うなぁぁぁっ！！このバカ王子！そこは“早く俺様のために行ってこい！”でしょうがぁぁ！）

ミーリエルは内心頭を抱える横で、ケインズがオーウェンにやんわり城に残るよう言うが、「俺様が行けば、早く片付くだろう」と謎の自信で周囲黙らせた。こうしてすぐに遠征の準備に取り掛かることになった。

そして遠征隊出発の朝、ミーリエルはまたもや二者択一を迫られることになる。