上 下
6 / 22

Scene5 訴えの行方

しおりを挟む
オーウェンの登場に、ミーリエルは思った。

(あ~、来ちゃったよ・・)

ミーリエルは面倒くさいオーウェンに知らせる前にケインズたちを説き伏せたかった。王子が絡むと、超絶面倒なことになりそうだったからだ。

そして鼻息荒いオーウェンに対して、ケインズがミーリエルの見た夢の話をする。するとオーウェンは眉間にしわを寄せ、明らかに不機嫌になっていった。

「遠征を中止する?ふざけたことぬかすな!俺様が行くと言ったら、行くんだ。王太子自ら出向いてやる遠征だぞ。今更中止になどできるか!大体、お前が地図を広げて宝石の在り処を指示したのだろうが!」

そうミーリエルを指差し、言葉を吐き捨てるオーウェンに、ミーリエルはぐうの音も出ない。

(ゔぐっ・・確かにそうなんだけど、行っても無駄に終わる可能性が高いのよぉぉ。たぶんね・・しっかし、腹立つ。何でこんな王子出演させちゃったかな~。くっそぉぉ、王子じゃなかったら、一発殴ってやるところなのに・・・こんなことなら、小説でアリアナと幸せな結婚なんて結末書くんじゃなかった。メッタメッタに胸糞悪い結末用意してやればよかった)

と、そんな文句を言えるはずもなく、ミーリエルは「大変申し訳ございません」と頭を下げた。そして内心ため息をつくと、話し始める。

「恐れながら、殿下。寛大なる御心をお持ちの殿下でしたら、私がなぜそう進言するのか弁解の機会を与えてくださると信じておりますが、いかがでしょうか」

ミーリエルは瞳に懇願の色をにじませると、オーウェンにそう訴えた。どんなにクズでも相手は王子。ここで喧嘩を売る訳にはいかない。売れば、この部屋から歩いて出られる保証はない。

ミーリエルの言葉に「ふんっ!調子のいい言葉を並べやがって・・だが聞いてやる。一分だ。一分で話せ」とオーウェンは渋々許可する。

「ありがとうございます。私は目覚めた後、迷いました。見た夢が真実なのか、否かと・・そしてふと視線を窓にやった時、青い空につがいの青い鳥が飛んでいったのを目にしたのです。
ここよりはるか東の地には、こんな伝説がございます。ある兄妹が、夢の中で過去や未来の国に幸福の象徴である青い鳥を探しに行きます。結局のところ、それは自分達の最も近くにある鳥籠の中にあったという話です。
私が青い鳥を見たのは、まさにこの伝説を象徴していると直感しました。最も自分たちに近い場所。それは、夢に見たここ王城です。しかも、番の青い鳥。私を信じてくだされば、きっと殿下とアリアナ様との未来にもさらなる幸運が訪れると信じております」

青い鳥のくだりは、前世の物語を引っ張りだしてきただけのでまかせだ。はるか東の地なんて、適当にそれっぽい単語をあてがった。

しかしミーリエルの話を聞いていた父親を始め、皆が固まっている。オーウェンに至っては、こめかみに青筋を立てていた。

(なんか怒ってるみたいだけど・・ヤバい感じ?これは失敗か?)

ミーリエルは、焦りを感じた。ねっとりとした嫌な汗が全身から吹き出すし、部屋を支配する重い沈黙が不安となって、ミーリエルにのしかかる。

その時、沈黙を破ったのは、ケインズだった。娘の窮地を救いたい親心だったのか、娘は熱に浮かされていると言って誤魔化し、マーカスは固まるミーリエルをそっと支えると、耳打ちした。

「リンドン嬢、殿下に婚約者はいないよ」

ハッとして、マーカスの顔を凝視するミーリエル。見開かれた目から瞳が零れ落ちそうだ。

(はっ!?婚約者がいない?アリアナと婚約してるんじゃないの?えっ?えっ!どういうこと?もう1回言って!?)

どうやらオーウェンの不機嫌の原因は、アリアナがさも彼の婚約者かのように言ったことが原因だったようだ。ミーリエルが愕然としていると、唐突に扉が開かれ、援軍がかけつけた。アリアナだ。

「殿下、ケインズ宰相、遠征は中止です。体面を気にして時を無駄にすべきではございません。遠征で見つからなければ、それこそ殿下の・・」

「ええい!言うな!!遅れて来ておいて、しゃしゃり出おって!これだからお前は気に食わん!お前との婚約など、拒否して正解だったな。俺様の先見の明は正しかったのだ!」

すると興奮するオーウェンに「殿下、私もリンドン嬢の夢を信じます」と落ち着き払ったマーカスもミーリエルの味方をする。エルガド公爵家兄妹にそう言われて、さすがの王子もこれ以上駄々をこねても自分に得はないと踏んだようだ。

そして「おい、お前。遠征は中止にしてやる。その代わり、お前は責任を取る必要がある。お前一人で城を探せ。これは命令だ」とミーリエルに八つ当たりのように命令した。ミーリエルは、首が飛ぶくらいなら一人宝探しなど喜んでやるところだ。素直に「はい、殿下。ありがとうございます」と頭を下げた。

ホッとしたミーリエルだったが、頭を上げるとオーウェンの悪魔のようなニヤリとした笑みが目に入る。

これに、ミーリエルは嫌な予感がした。
しおりを挟む

処理中です...