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Scene19 魔女の愛情
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1人の魔女が永い眠りについた部屋は、静寂に包まれ、ミーリエルは青年が美しい銀髪の女性を抱きしめる光景を呆然と眺めていた。
その時、ヘラの瞳から一粒の石が落ちた。それは七色に光り、地上に存在するどんな宝石より美しかった。
マーカスはそれを手に取ると、ミーリエルの持つ小箱に入れた。ヘラの流した涙が最後の宝石だったのだ。
しかし宝石が揃った喜びよりも、ミーリエルの心は死の瞬間を目の当たりにした苦しさと悲しみで黒く染まっていた。
(嗚呼、人の命が消えるときって、こんなに苦しいんだ。“眠りについた”とかそんな簡単な言葉で片付けちゃいけない瞬間なんだ)
ミーリエルの目からは、いつの間にか大粒の涙が零れ落ちていた。
そしてサミュエルがゆっくりと腕を緩め、抱きしめるヘラの身体をベッドに横にし、マジマジと見つめる。別れを惜しんでいるのかと思っていたミーリエルだったが、彼の口から出てきたセリフは到底受け入れ難いものだった。
「この人誰・・?」
(へっ!?何言ってるの?貴方の妻でしょ?さっきまであんなに大事そうに手を握ってたのに、何それ!?)
ミーリエルがそう言おうとした時、アリアナが口を開いた。
「彼女は、アデノール王国の恩人です。丁重に葬ってあげなくてはなりません」
「そうなんだ。それじゃあ、父上に僕からも進言しよう」
(アリアナも何を言ってるの?恩人・・確かに恩人だよ!だけどその前にサミュエルの妻でしょう?何で他人事みたいに!?)
ポロポロと止めどなく流れる涙は、ミーリエルの服を濡らし、マーカスがそっとハンカチで涙を拭った。嗚咽を漏らし、泣くミーリエルは、マーカスと瞳を合わせると、彼は寂しげに首を横に振る『何も言うな』と言葉にはならない声を聞いたようだった。
それから、大きくなったブランとノワールの背に乗り、ミーリエルたちはヘラを連れて王都へと戻った。戻ると、遠征隊は出発直前だった。
行く気満々のオーウェンは、最初文句を怒鳴り散らしていたが、ブランの背にサミュエルを姿を見つけると、大人しくなり、宝石を集め終わったことを知ると、さっさと城に引き上げてしまった。
ヘラは、出迎えたケインズが責任を持って弔うことを約束してくれた。
ミーリエルは「お疲れ様でした」とアリアナとマーカスに言うと、重い身体と心を引きずり、侯爵家へと帰って行った。
◇◇◇◇◇
「よく似合ってる」
そう満足そうに微笑むのは、マーカスだ。彼の前には、頬を染めるミーリエルがブルーのドレスを身にまとい立っていた。彼女の着ているドレスは、宝石探し初日、マーカスに強引に連れて行かれた仕立て屋で作ったものだ。
そして、そんなドレスを着て参加しているのは、オーウェン主催のパーティー。宝探し当日、城でオーウェンに『ドレスが見たいなら、パーティを開いたら』と言ったミーリエルの言葉を真に受けた結果だ。
しかしこのパーティーは、王国にとって語り継がれる日となる予定だった。何故なら、集めた宝石を使って魔女の呪いを解く。すなわち、第一王子が失くした心を取り戻す儀式が行われるからだった。
そんな一大イベントを前にパーティーは、多くの貴族たちで盛り上がっていた。特に年頃の令嬢たちは、色めき立っている。呪いから解放されたオーウェンが変われば、彼の株はぐっと上がる。いち早く見初められ、王太子妃の座を手に入れたい令嬢がわんかさ押しかけていた。
またサミュエルの存在も大きい。第二とはいえ、彼もまた王子。性格も見た目もすでに問題ないことは証明されており、突然王家に戻ってきた超優良物件なのだ。
ミーリエルは、そんな令嬢たちの喧騒から逃れるように、壁の花を決め込んでいた。しかし、そこにやってきたのが、マーカスだった。
「ありがとうございます。まさかこのドレスを本当にパーティーで着ることになるとは、思いませんでした」
「でも君は着てくれた・・私は、期待してもいいんだよね?」
マーカスから問われ、ミーリエルは微笑みを返しただけで、口は開かなかった。
小説ではマーカスと結ばれる運命だったミーリエル。だがヘラの最期を看取ったマーカスたちが、サミュエルがヘラを忘れたことに意外と冷静だったことに、僅かにわだかまりを感じていたのだ。
そんなミーリエルの心の内を察したのか、マーカスは彼女の手を取ると、窓から連れ出した。
外は人が少なく、ガヤガヤと広間の方から聞こえてくる話し声に紛れるようにマーカスは、ミーリエルの手を引きながら、中庭へと進んでいった。
「あの・・・どこに行くんですか?」
ミーリエルの問いに、マーカスは振り返ると優しく笑いかけた。
「少し二人きりになれる場所へ行こう。君の誤解を解きたいんだ」
「えっ?誤解ですか?」
「ああ、そうだよ」
マーカスは、そのままミーリエルの手を握り、歩き続けた。そして到着したのは、小さな東屋のベンチだった。「ここに座って」と促されるまま、ミーリエルは座る。
「さて、どこから話そうか・・・」
マーカスは顎に手を当て、考える素振りを見せた後、ゆっくりと語り始めた。
その時、ヘラの瞳から一粒の石が落ちた。それは七色に光り、地上に存在するどんな宝石より美しかった。
マーカスはそれを手に取ると、ミーリエルの持つ小箱に入れた。ヘラの流した涙が最後の宝石だったのだ。
しかし宝石が揃った喜びよりも、ミーリエルの心は死の瞬間を目の当たりにした苦しさと悲しみで黒く染まっていた。
(嗚呼、人の命が消えるときって、こんなに苦しいんだ。“眠りについた”とかそんな簡単な言葉で片付けちゃいけない瞬間なんだ)
ミーリエルの目からは、いつの間にか大粒の涙が零れ落ちていた。
そしてサミュエルがゆっくりと腕を緩め、抱きしめるヘラの身体をベッドに横にし、マジマジと見つめる。別れを惜しんでいるのかと思っていたミーリエルだったが、彼の口から出てきたセリフは到底受け入れ難いものだった。
「この人誰・・?」
(へっ!?何言ってるの?貴方の妻でしょ?さっきまであんなに大事そうに手を握ってたのに、何それ!?)
ミーリエルがそう言おうとした時、アリアナが口を開いた。
「彼女は、アデノール王国の恩人です。丁重に葬ってあげなくてはなりません」
「そうなんだ。それじゃあ、父上に僕からも進言しよう」
(アリアナも何を言ってるの?恩人・・確かに恩人だよ!だけどその前にサミュエルの妻でしょう?何で他人事みたいに!?)
ポロポロと止めどなく流れる涙は、ミーリエルの服を濡らし、マーカスがそっとハンカチで涙を拭った。嗚咽を漏らし、泣くミーリエルは、マーカスと瞳を合わせると、彼は寂しげに首を横に振る『何も言うな』と言葉にはならない声を聞いたようだった。
それから、大きくなったブランとノワールの背に乗り、ミーリエルたちはヘラを連れて王都へと戻った。戻ると、遠征隊は出発直前だった。
行く気満々のオーウェンは、最初文句を怒鳴り散らしていたが、ブランの背にサミュエルを姿を見つけると、大人しくなり、宝石を集め終わったことを知ると、さっさと城に引き上げてしまった。
ヘラは、出迎えたケインズが責任を持って弔うことを約束してくれた。
ミーリエルは「お疲れ様でした」とアリアナとマーカスに言うと、重い身体と心を引きずり、侯爵家へと帰って行った。
◇◇◇◇◇
「よく似合ってる」
そう満足そうに微笑むのは、マーカスだ。彼の前には、頬を染めるミーリエルがブルーのドレスを身にまとい立っていた。彼女の着ているドレスは、宝石探し初日、マーカスに強引に連れて行かれた仕立て屋で作ったものだ。
そして、そんなドレスを着て参加しているのは、オーウェン主催のパーティー。宝探し当日、城でオーウェンに『ドレスが見たいなら、パーティを開いたら』と言ったミーリエルの言葉を真に受けた結果だ。
しかしこのパーティーは、王国にとって語り継がれる日となる予定だった。何故なら、集めた宝石を使って魔女の呪いを解く。すなわち、第一王子が失くした心を取り戻す儀式が行われるからだった。
そんな一大イベントを前にパーティーは、多くの貴族たちで盛り上がっていた。特に年頃の令嬢たちは、色めき立っている。呪いから解放されたオーウェンが変われば、彼の株はぐっと上がる。いち早く見初められ、王太子妃の座を手に入れたい令嬢がわんかさ押しかけていた。
またサミュエルの存在も大きい。第二とはいえ、彼もまた王子。性格も見た目もすでに問題ないことは証明されており、突然王家に戻ってきた超優良物件なのだ。
ミーリエルは、そんな令嬢たちの喧騒から逃れるように、壁の花を決め込んでいた。しかし、そこにやってきたのが、マーカスだった。
「ありがとうございます。まさかこのドレスを本当にパーティーで着ることになるとは、思いませんでした」
「でも君は着てくれた・・私は、期待してもいいんだよね?」
マーカスから問われ、ミーリエルは微笑みを返しただけで、口は開かなかった。
小説ではマーカスと結ばれる運命だったミーリエル。だがヘラの最期を看取ったマーカスたちが、サミュエルがヘラを忘れたことに意外と冷静だったことに、僅かにわだかまりを感じていたのだ。
そんなミーリエルの心の内を察したのか、マーカスは彼女の手を取ると、窓から連れ出した。
外は人が少なく、ガヤガヤと広間の方から聞こえてくる話し声に紛れるようにマーカスは、ミーリエルの手を引きながら、中庭へと進んでいった。
「あの・・・どこに行くんですか?」
ミーリエルの問いに、マーカスは振り返ると優しく笑いかけた。
「少し二人きりになれる場所へ行こう。君の誤解を解きたいんだ」
「えっ?誤解ですか?」
「ああ、そうだよ」
マーカスは、そのままミーリエルの手を握り、歩き続けた。そして到着したのは、小さな東屋のベンチだった。「ここに座って」と促されるまま、ミーリエルは座る。
「さて、どこから話そうか・・・」
マーカスは顎に手を当て、考える素振りを見せた後、ゆっくりと語り始めた。
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