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月の子守歌
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「おかーさん、読んでー!」
寝る前の時間、いつものようにジルをベッドに寝かせようと準備をしていたら、絵本をさしだされた。お兄ちゃんが買ってきたのだという子供用の、何冊かあるうちの一つだ。
あのお兄ちゃんがどんな顔で絵本を買いに行ったのかものすごく気になったけど、それはまあ置いといて。自分で本を読めるジルからのおねだりに、私も昔は読んでもらうの嬉しかったなと思いつつ頷いた。
「いいわよ」
「わーい」
わくわくと嬉しそうにジルがベッドに入る。その様子が可愛くて思わず微笑みつつ絵本を開いた。
それにしても読み聞かせなんて、前世以来だからうまく出来るかな?
「ええと……昔々、とある国に一人の王子様がおりました……」
小さな国の王子様が様々な冒険をして、とある国の姫君を救いだして妻にする、めでたしめでたしなお話。よくあると言えばよくあるけど、実際に起こった出来事だとすればこの王子様って勇敢だよなあ、なんて読みながら考える。
だって姫君を救い出しに行く相手がドラゴンなんだもの。人間一人で敵う相手じゃないはず。レオナール様なら倒せるかもだけど。
ドラゴンはこの大陸にいないけれど、近い種類である飛竜ならいるし、その皮を一人で採りに行けちゃうのがレオナール様だもんね。
あ、ちなみに飛竜は倒したり傷つけたりしてないそうです。脱皮した皮を採ってきたんだって。
それでも相当な実力がないと無理な話だよ、一人で行って来れちゃうレオナール様って本当に強いよね。
「……そして二人は末永く幸せに暮らしましたとさ。おしまい」
最後まで読み終えてぱたりと絵本を閉じれば、ジルが不思議そうな顔になっていた。
「すえながくって、いっぱい?」
「そうね、ずっとずっといっぱい、かな」
「どれくらい?」
「うーん、そうね……王子様とお姫様がおじいちゃんとおばあちゃんになっても仲良しでいるくらいかしら」
「ふわー」
ジルにもわかりやすく説明したら目を真ん丸にして、それからにっこりと笑う。
「じゃあ、お父さんとお母さんもすえながくいっしょだといいね!」
「え?」
「ずっとずっと、いっしょ。ね」
無邪気な台詞に一瞬言葉を失うけど、ジルの願いはとてもわかりやすいものだからすぐに頷ける。
「そうね、そうだといいわね……さ、もう寝なさい」
「えー、もうちょっとおしゃべりしたいー」
「だぁめ。かわりに歌ってあげるから」
「おうた?」
「そう、ジルが怖い夢を見ないようにね」
ぽんぽんとかけ布団を叩いて微笑めば、ジルがくすぐったそうに笑う。それに私も微笑んで、ひとつ息を吸い込んだ。
星が輝き、日が沈み
夜の女神がやってくる
眠りの粉を振りまいて
優しい夢を見るように
青い夜に、月が泳ぐ
夜の女神が微笑んで
星屑の歌を歌う
楽しい夢を見るように
優しい夢を見るように
楽しい夢を見るように
古い、古いこの歌は母さんが歌ってくれた子守唄。
母さんもまた、小さい頃に歌ってもらったのだという。
やわらかくゆったりとした曲を聞くと、自然と瞼が落ちて眠ってしまうものだった。ジルもすっかり夢の中で、小さく笑ってしまう。
「おやすみ、ジル」
そっと額にキスすれば、幸せそうに微笑んでむにゃむにゃと何かを呟いている。
なにかなと思って耳を傾けたら。
「お父さん、お母さん、だいすき……」
だって。
本当に、ジルってば可愛すぎるでしょう。
「お母さんも、レオナール様も、ジルが大好きよ」
そっと囁きかえせばジルの顔がますます幸せそうになった。
ほわんとした胸のあたたかさを感じつつ、そっと明かりを小さくする。
どうか、今夜のジルの眠りが幸せで安らかなものでありますように。
そう願って見上げた窓の外では、三日月が星の海に浮かぶように、優しい光を放っていた。
寝る前の時間、いつものようにジルをベッドに寝かせようと準備をしていたら、絵本をさしだされた。お兄ちゃんが買ってきたのだという子供用の、何冊かあるうちの一つだ。
あのお兄ちゃんがどんな顔で絵本を買いに行ったのかものすごく気になったけど、それはまあ置いといて。自分で本を読めるジルからのおねだりに、私も昔は読んでもらうの嬉しかったなと思いつつ頷いた。
「いいわよ」
「わーい」
わくわくと嬉しそうにジルがベッドに入る。その様子が可愛くて思わず微笑みつつ絵本を開いた。
それにしても読み聞かせなんて、前世以来だからうまく出来るかな?
「ええと……昔々、とある国に一人の王子様がおりました……」
小さな国の王子様が様々な冒険をして、とある国の姫君を救いだして妻にする、めでたしめでたしなお話。よくあると言えばよくあるけど、実際に起こった出来事だとすればこの王子様って勇敢だよなあ、なんて読みながら考える。
だって姫君を救い出しに行く相手がドラゴンなんだもの。人間一人で敵う相手じゃないはず。レオナール様なら倒せるかもだけど。
ドラゴンはこの大陸にいないけれど、近い種類である飛竜ならいるし、その皮を一人で採りに行けちゃうのがレオナール様だもんね。
あ、ちなみに飛竜は倒したり傷つけたりしてないそうです。脱皮した皮を採ってきたんだって。
それでも相当な実力がないと無理な話だよ、一人で行って来れちゃうレオナール様って本当に強いよね。
「……そして二人は末永く幸せに暮らしましたとさ。おしまい」
最後まで読み終えてぱたりと絵本を閉じれば、ジルが不思議そうな顔になっていた。
「すえながくって、いっぱい?」
「そうね、ずっとずっといっぱい、かな」
「どれくらい?」
「うーん、そうね……王子様とお姫様がおじいちゃんとおばあちゃんになっても仲良しでいるくらいかしら」
「ふわー」
ジルにもわかりやすく説明したら目を真ん丸にして、それからにっこりと笑う。
「じゃあ、お父さんとお母さんもすえながくいっしょだといいね!」
「え?」
「ずっとずっと、いっしょ。ね」
無邪気な台詞に一瞬言葉を失うけど、ジルの願いはとてもわかりやすいものだからすぐに頷ける。
「そうね、そうだといいわね……さ、もう寝なさい」
「えー、もうちょっとおしゃべりしたいー」
「だぁめ。かわりに歌ってあげるから」
「おうた?」
「そう、ジルが怖い夢を見ないようにね」
ぽんぽんとかけ布団を叩いて微笑めば、ジルがくすぐったそうに笑う。それに私も微笑んで、ひとつ息を吸い込んだ。
星が輝き、日が沈み
夜の女神がやってくる
眠りの粉を振りまいて
優しい夢を見るように
青い夜に、月が泳ぐ
夜の女神が微笑んで
星屑の歌を歌う
楽しい夢を見るように
優しい夢を見るように
楽しい夢を見るように
古い、古いこの歌は母さんが歌ってくれた子守唄。
母さんもまた、小さい頃に歌ってもらったのだという。
やわらかくゆったりとした曲を聞くと、自然と瞼が落ちて眠ってしまうものだった。ジルもすっかり夢の中で、小さく笑ってしまう。
「おやすみ、ジル」
そっと額にキスすれば、幸せそうに微笑んでむにゃむにゃと何かを呟いている。
なにかなと思って耳を傾けたら。
「お父さん、お母さん、だいすき……」
だって。
本当に、ジルってば可愛すぎるでしょう。
「お母さんも、レオナール様も、ジルが大好きよ」
そっと囁きかえせばジルの顔がますます幸せそうになった。
ほわんとした胸のあたたかさを感じつつ、そっと明かりを小さくする。
どうか、今夜のジルの眠りが幸せで安らかなものでありますように。
そう願って見上げた窓の外では、三日月が星の海に浮かぶように、優しい光を放っていた。
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