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腕輪の秘密
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「なー、レオナール。ひとつ教えてほしいんだが」
「ん?」
それはジルが作戦のために家を出た後のこと。恐怖も不安もあるだろうに気丈に顔を上げて敵地へ向かった愛娘の凛とした表情と、これから自分も囮になるというのにただジルを案じて、それでも心配を押し殺して微笑んだリリーを思い出しながら作業をしていたけど、少し休憩しようと手を止めたらウィレムが声をかけてきたんだ。
その手には僕が頼んだ追加分のミスリルがいくつか握られてる。これからあのミスリルから糸を紡ぐんだ。本職のドワーフには到底敵わないけど、魔法でミスリルの力を引き出すくらいは僕にもできる。これを後で布にして、それからリリーのドレスを作ってる店に送るんだ。リリーを守るために使ってくれって。
「これを持ってこさせるってことは、相当な魔力で保持しなきゃならないだろ? その魔力の供給元はあの腕輪だって聞いたが」
「ん。あれは僕がリリーのために作ったから、リリーのためなら何も指示させなくても勝手に発動する」
ミスリルは魔力の銀と呼ばれるくらい魔法に相性がいい。逆を言えば、最も効果的に使うには魔法が不可欠。魔力ゼロ体質のリリーには使えなくても、僕の腕輪が勝手にミスリルと反応して効果を出してくれる。そういう魔法を込めてあるんだから。
自信たっぷりに頷いてみせる。僕の魔法に、それも大事な人を守る魔法に、万が一にも失敗があるわけない。そう言いたかったんだけど、ウィレムが聞きたかったのはそこじゃなかったみたい。
「あの腕輪、どれだけ魔力こめてるんだ?」
……ええと、改めて聞かれると、どれくらいこめたんだろう? ウィレムの疑問に答えるべく、どうだったかなと思いだす。
見た目は銀の、薔薇色の石の配置を中心に文字を刻みこんだ腕輪。魔力ゼロ体質だからそれ自体に魔力があると魔力酔いするかなって思ったんだよね。
だから基礎となる部分に使ったのは、魔力ではなく思いの力を増幅する少し変わった性質の月晶華という鉱物の粉で、そこにはめ込んだのは女性を守ることで有名な薔薇輝石の、その中でも非常に純度が高くて媒体にはもってこいだった僕の持つ石の中で最も良い石のひとつ。刻み込んだ文字は石の魔力を増幅させて正しく発動させるための魔法式。
石に魔法と魔力を注ぎ込んでリリーを守りたいと思いながら作り上げた腕輪は、作った僕自身が驚くほどの魔力を保持してる。
うん、あんまり何度も触れて補充しなければならないのは煩わしいしリリーもいくら雇い主だからってしょっちゅう男に触れられるのは嫌だろうなと考えて、一か月くらいは魔力ため込んでおけるように作るつもりではあったんだけど……正直数年は触らなくても問題ないくらい。
僕の魔力がけた違いなのもそうだけど、なによりリリーの心がとても強くて綺麗だから月晶華の効力を底上げしてるどころかどんどん強めているんだ。
前世に悩み傷ついても前を向いて歩こうとする強さ。僕だけじゃなく、多くの人を魅了するその心根の美しさや正しさ、心惹かれずにはいられない優しさ。
ただ害意がなければいいとか、清廉であればいいとか、心の美しさはそんなもので測れるものじゃない。人間である以上醜い部分も必ずある。過去に囚われ苦しんでいるのも知っている。
それでも胸を張って前を向き、誰にも恥じることはないと生き続けるからリリーは誰よりも綺麗なんだろう。そしてその思いを受けてより一層力を増した月晶華により増幅される魔力によって、あの腕輪は僕の想像以上の魔力を蓄えている。
「僕が本来込めていたのは、家の結界が維持できることを加えての一か月供給の必要なく家の家事ができる程度だった」
「あの結界の維持も出来る程度の魔力って本当にとんでもな……待て。本来?」
「そう、本来はそれだけ」
途中まで呆れたような顔だったウィレムが仄かに笑みを浮かべたまま固まるのを見つつ、小さく頷いて見せる。
「腕輪の基礎を月晶華の粉で作ったら、リリーの思いを増幅したらしい。つられて魔力もどんどん増えたみたい……だから、多分だけど」
「待て、その先を俺は聞きたくない」
顔を引き攣らせたウィレムに、そうだよねと僕も呟く。
「城の結界を破れる程度の魔力量とか、恐ろしくて言えない」
「やめろ、マジでやめろ! 怖いわ!!」
うん。言ってて僕も怖い。なんであんなに相性がいいんだろうってくらい腕輪とリリーの相性が良すぎた結果、僕でも結構本気を出さないとってくらいの魔力量になってるんだもん。万が一暴走したら止めないと……うん。
「例えば、僕が本気だしたら、城が半壊するよね?」
「マジやめてえええ!」
僕が何を考えてそう言ったのか、付き合いの長いウィレムには正しく伝わったみたい。悲鳴を上げて頭を抱える姿にどうしたものかと思うけど、本当はどうするつもりもなかったりする。
だってリリーを守る魔力の増幅なんだ。しかもそれはリリーの気持ちによって引き起こされたこと。腕輪を信じてくれないと、そんなことはまず起こらない。
つまり、リリーが僕のことを心の底から信じてくれてるってことなんだ。それをどうこうなんてしたくない。
君を守るのは僕の役目だから、なんてフッと浮かんだ言葉をウィレムに言うつもりはないんだけど、そうであればいいと思ってる。
ふわりと微笑んでお帰りなさいと言ってくれる彼女の顔を思い出して、無性に会いたくてたまらなくなってきた。
うん、早く仕事終わらせて帰ろう。未だに呻くウィレムの手からミスリルを貰うと、目的を終わらせるべく作業に戻る。
明るくて頑張り屋で優しい、そんな彼女にとびきりの守りを作ってみせる。糸になっていくミスリルを見つつ、僕は手を動かし続けていた。
「ん?」
それはジルが作戦のために家を出た後のこと。恐怖も不安もあるだろうに気丈に顔を上げて敵地へ向かった愛娘の凛とした表情と、これから自分も囮になるというのにただジルを案じて、それでも心配を押し殺して微笑んだリリーを思い出しながら作業をしていたけど、少し休憩しようと手を止めたらウィレムが声をかけてきたんだ。
その手には僕が頼んだ追加分のミスリルがいくつか握られてる。これからあのミスリルから糸を紡ぐんだ。本職のドワーフには到底敵わないけど、魔法でミスリルの力を引き出すくらいは僕にもできる。これを後で布にして、それからリリーのドレスを作ってる店に送るんだ。リリーを守るために使ってくれって。
「これを持ってこさせるってことは、相当な魔力で保持しなきゃならないだろ? その魔力の供給元はあの腕輪だって聞いたが」
「ん。あれは僕がリリーのために作ったから、リリーのためなら何も指示させなくても勝手に発動する」
ミスリルは魔力の銀と呼ばれるくらい魔法に相性がいい。逆を言えば、最も効果的に使うには魔法が不可欠。魔力ゼロ体質のリリーには使えなくても、僕の腕輪が勝手にミスリルと反応して効果を出してくれる。そういう魔法を込めてあるんだから。
自信たっぷりに頷いてみせる。僕の魔法に、それも大事な人を守る魔法に、万が一にも失敗があるわけない。そう言いたかったんだけど、ウィレムが聞きたかったのはそこじゃなかったみたい。
「あの腕輪、どれだけ魔力こめてるんだ?」
……ええと、改めて聞かれると、どれくらいこめたんだろう? ウィレムの疑問に答えるべく、どうだったかなと思いだす。
見た目は銀の、薔薇色の石の配置を中心に文字を刻みこんだ腕輪。魔力ゼロ体質だからそれ自体に魔力があると魔力酔いするかなって思ったんだよね。
だから基礎となる部分に使ったのは、魔力ではなく思いの力を増幅する少し変わった性質の月晶華という鉱物の粉で、そこにはめ込んだのは女性を守ることで有名な薔薇輝石の、その中でも非常に純度が高くて媒体にはもってこいだった僕の持つ石の中で最も良い石のひとつ。刻み込んだ文字は石の魔力を増幅させて正しく発動させるための魔法式。
石に魔法と魔力を注ぎ込んでリリーを守りたいと思いながら作り上げた腕輪は、作った僕自身が驚くほどの魔力を保持してる。
うん、あんまり何度も触れて補充しなければならないのは煩わしいしリリーもいくら雇い主だからってしょっちゅう男に触れられるのは嫌だろうなと考えて、一か月くらいは魔力ため込んでおけるように作るつもりではあったんだけど……正直数年は触らなくても問題ないくらい。
僕の魔力がけた違いなのもそうだけど、なによりリリーの心がとても強くて綺麗だから月晶華の効力を底上げしてるどころかどんどん強めているんだ。
前世に悩み傷ついても前を向いて歩こうとする強さ。僕だけじゃなく、多くの人を魅了するその心根の美しさや正しさ、心惹かれずにはいられない優しさ。
ただ害意がなければいいとか、清廉であればいいとか、心の美しさはそんなもので測れるものじゃない。人間である以上醜い部分も必ずある。過去に囚われ苦しんでいるのも知っている。
それでも胸を張って前を向き、誰にも恥じることはないと生き続けるからリリーは誰よりも綺麗なんだろう。そしてその思いを受けてより一層力を増した月晶華により増幅される魔力によって、あの腕輪は僕の想像以上の魔力を蓄えている。
「僕が本来込めていたのは、家の結界が維持できることを加えての一か月供給の必要なく家の家事ができる程度だった」
「あの結界の維持も出来る程度の魔力って本当にとんでもな……待て。本来?」
「そう、本来はそれだけ」
途中まで呆れたような顔だったウィレムが仄かに笑みを浮かべたまま固まるのを見つつ、小さく頷いて見せる。
「腕輪の基礎を月晶華の粉で作ったら、リリーの思いを増幅したらしい。つられて魔力もどんどん増えたみたい……だから、多分だけど」
「待て、その先を俺は聞きたくない」
顔を引き攣らせたウィレムに、そうだよねと僕も呟く。
「城の結界を破れる程度の魔力量とか、恐ろしくて言えない」
「やめろ、マジでやめろ! 怖いわ!!」
うん。言ってて僕も怖い。なんであんなに相性がいいんだろうってくらい腕輪とリリーの相性が良すぎた結果、僕でも結構本気を出さないとってくらいの魔力量になってるんだもん。万が一暴走したら止めないと……うん。
「例えば、僕が本気だしたら、城が半壊するよね?」
「マジやめてえええ!」
僕が何を考えてそう言ったのか、付き合いの長いウィレムには正しく伝わったみたい。悲鳴を上げて頭を抱える姿にどうしたものかと思うけど、本当はどうするつもりもなかったりする。
だってリリーを守る魔力の増幅なんだ。しかもそれはリリーの気持ちによって引き起こされたこと。腕輪を信じてくれないと、そんなことはまず起こらない。
つまり、リリーが僕のことを心の底から信じてくれてるってことなんだ。それをどうこうなんてしたくない。
君を守るのは僕の役目だから、なんてフッと浮かんだ言葉をウィレムに言うつもりはないんだけど、そうであればいいと思ってる。
ふわりと微笑んでお帰りなさいと言ってくれる彼女の顔を思い出して、無性に会いたくてたまらなくなってきた。
うん、早く仕事終わらせて帰ろう。未だに呻くウィレムの手からミスリルを貰うと、目的を終わらせるべく作業に戻る。
明るくて頑張り屋で優しい、そんな彼女にとびきりの守りを作ってみせる。糸になっていくミスリルを見つつ、僕は手を動かし続けていた。
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