メイドから母になりました

夕月 星夜

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魔法省で臨時メイドになりました

王太子の狙い

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「えっと、私しかできない仕事でしたよね?」
「そうだろう?」
「で、レオナール様といちゃいちゃって……」

なにがどうしてそうなるのか詳しい説明が欲しいのですが。
呆気にとられる私が面白い顔になっているのか、王太子はニヤニヤと楽しげに笑っている。

「珍しいものを見たな。そんなに驚くことか?」
「仕事と言われた内容が、ええ、どう反応すればいいのかわからないですね」
「言っただろう、リリーでなければ駄目だと。リリーがレオナールと純粋な雇用関係でも同じ仕事をさせるつもりだったと言えば、少しはわかるか?」

純粋な雇用関係でもいちゃいちゃさせるって、ええと。

「つまり、レオナール様には恋人がいるんだから諦めろという作戦でしょうか」
「そうだ。しかもその恋人は、王太子夫妻の信頼が厚く仕事も出来る素晴らしい女性であり、二人を引き裂くのは国にとって損失になるから受け入れられないと話を進められるように振舞ってくれ」
「いきなり難易度が高くなりましたね?」
「リリーならそれくらいやれるだろう?  実際、レオナールもリリーも手放す気はないからな、それを王女たちに見せつけてやればいい」

あっさりととんでもない要求をしてくれる。
私と王女を比べた時、普通ならば王女の希望が通るはず。なにしろ向こうは王族で、私の身分はあくまでも平民でしかない。だから私には身分を比べた上でも優先されるべき理由が必要なんだ。
王太子夫妻の部下であり、先日正式な称号を手にした王家に近しい立場。これまでの実績を踏まえた上で、王太子が手放したくないと言ってくださるだけの存在にはなれたみたいだけど、それはあくまでこの国の中での評価でしかない。
今回はそれを対外的、つまり王女様たちにはっきりとわかるように証明して見せなければならない、ここまではわかるんだ。
ただ、いちゃいちゃを見せつければいいというのが、なんだかなぁ。

「殿下がレオナール様は渡さないと言えば早いだけの話なような気もしますが」
「馬鹿だな、それじゃあ本心が納得しないだろう?」

思わず感情を口にすれば、王太子に呆れた顔をされた。

「理性も常識も、感情を止めるには足りないことがあるだろう。恋愛においては特にそうだ。だから、徹底的に心を折らないと意味がないのさ」
「あの方が王女である以上、身分を盾にされた場合の対処法は考えておかないとね。それに、あの方の感情は少しだけ歪んでいるようだから……やれるだけのことをしておいたほうがいいわ」
「歪んでいる?」

お嬢様が誰かに対してそんな表現をするのをはじめて聞いた。

「私もはじめてお会いした時には気づかなかったわ。でも、あの方の心というかマリエル殿に向けた感情は純粋な思慕ではないの……うまく、説明が出来ないのだけれど」
「俺もリディがそう言いだしてから気にするようになって、はじめてわかったくらいだ。巧妙に隠しているというより、無意識で歪んでいるのだろう。生まれが生まれだからああなったのかと考えると、少しばかり同情もするがな」
「リディアーヌ様が先に気づかれて、殿下は言われるまで気がつかない歪み?  珍しいですね、殿下はそういった人の心の機微を察するのが得意でしたのに」
「女心というか、恋愛感情にはそうでもなかったようだ。実際、出会った頃の俺も散々お前に叱られた覚えがあるしな」
「そういえば」

不吉な意味合いを持つ花を持ってきた時に怒ったり、朝早く準備が出来ていないのに突撃してきたり、色々あったような気は。

「それにしても、歪みですか」
「レオナールも言われたことがあるだろう?  私にはあなたしかいないのって」
「言われた……意味がよく、わからないけれど」

困惑した顔のレオナール様は私を見てへにゃりと眉を下げた。

「ねえ、リリー。僕は孤独?」
「違うと思いますけど」
「だよね。だって、僕にはシドがいてくれた。人との繋がりはなかったかもしれないけど、僕にはシドがいた。孤独なんかじゃ、ないはずなのに……王女は僕を自分と同じ孤独な人だと言うんだ。僕だけが彼女を理解し、彼女だけが僕を理解出来るんだって」

孤独、と口の中で呟いてみる。私にも馴染みのある感情、私にもあった孤独。それは前世において母親がいなかったことによる疎外感だ。
誰にも頼れない、甘えられない。頑張り続けなければならなかった日々に、それでも絶望しなかったのは頑張るのが私だけじゃなかったのと、あの人ーー拓斗兄さんが私の孤独に気づいて甘やかしてくれたから。

「否定したいのに、否定しきれない。どうしてだろう」
「……魔法使いは同じ空を見られる人がいると知るまでは確かに孤独、でしたっけ。ルーカスさんが言うように、レオナール様もスチュワート様に見出されるまでは孤独と言えたからではないでしょうか。確かにシドさんがいたから一人ぼっちではなかったけれど、同じ人として共感してくれる人に出会えるまでは時間があったのでしょう?」
「……そうだね。そっか、だからか」

僕は孤独だったんだ。そう呟いたレオナール様はどこかスッキリとした表情になっていた。
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