学園は天国だっ!

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序章

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(……何やってんだかな、俺は)




まだ少し違和感の残る瞳を気にして、まぶたの上から軽く眼球を押さえてみたりしながら、俺は何がしかの変化を求めていつもの通学路を歩いていた。


(こんなことして、何が変わるわけでもないだろうに)


普段から胸を張って歩くタイプじゃあないが、今日は余計にうつむき気味というか……顔を上げるのに少し勇気が要る。

誰も俺の事なんか見ちゃいないのはわかってる。
それでも今、この顔を、この瞳を……


カラーコンタクトをつけた自分が、誰かに見られるかもしれないというのは、ちょっとした度胸試しのように俺の鼓動のリズムを早めていた。


そんなことで、つまらない日常に変化が訪れるわけがないことぐらいわかってる。


わかってるけど……


「…………」


なんだよ。
本当に……


「いつもと変わらねえじゃん……」


まるで俺が見えていないかのように過ぎて行く人たち。
声を掛けられることもなく、掛ける相手もなく。


今日は時間が合わなかったのか、祐天寺が駆け寄って来るようなサプライズもない。

極めて標準的な俺の「無難な日常」の朝だ。


「アホらし……」


頭の片隅に、ボンヤリと例の言葉が浮かぶ。


「何が願望を叶える、だよ」


やっぱり、こんなことぐらいで俺は変わらない。
変われるはずがない。


つまらないことをしている。
その自覚を胸に抱えつつ、それでも俺はコンタクトを取り外すことが出来なかった。

まだ、どこかで変化を期待する気持ちがそれを許さないでいたのだろう。


しかし、期待というのは往々にして裏切られるもので。


結局、祐天寺と偶然鉢合わせるようなことも無く、学園のすぐ前まで辿り着いてしまった。


まだ早い。
ガックリと肩を落とすには。


そう自分を鼓舞しなければやっていられない精神的な疲労を朝っぱらから覚えながら、俺は校門へと歩を進める。


と、そこで――――


「こらっ、そこの!」


「っ!?」


すっかり忘れていた。


朝、祐天寺と遭遇することが期待する変化に含まれる偶然なのに対し、校門に待ち構えるこいつとの接触は、必然であるということを。

幸い、今の声は俺に向けられたわけではなく、少々頭髪の赤さが目立つ別の学生に向けられたものだ。


まだ、俺がいつものように理不尽に怒られる距離まで近づいてはいないが、このまま歩けば秒単位の時間の問題である。


(そういや、今度校則違反な物を持って来たら、容赦なく没収とか言ってたっけ)


とっさに俺は園田から目を逸らし、不自然なまでに目を細めた。

いや、いっそ目を閉じてこの場を通り過ぎようとさえ思った。

逆に目立つことになるからやらないけど、かといって目を見開いたままというのも都合が悪い。


(マズイかな……これ)


それは見た目だけで言えばバリバリに校則違反一級扱いの、カラーコンタクトだ。


……見た目以外も含めると、もしかすると校則違反どころでは済まないのかもしれないが、今のところその様子は欠片も見えない。


そう、欠片も……


「……別にいいか、もう」


ガキみたいにワクワクしている自分に、早くも少し嫌気が差していたところだ。


いっそ園田に取り上げられて、いつもの日常を取り戻した方が精神衛生上良いかもしれない。


悲しいほど、堪え性の無い現代の若者だった。俺は。

開き直って目を開き、俺は園田が待ち構える校門に踏み出して行く。


「む…………」


「う」


出来るだけ視線を合わせず、出来るだけ園田の立ち位置から遠い場所を通り抜けようと歩き出した刹那、彼女と目が合った……ような気がした。

瞬間、反射的に目を逸らしたけど、これはもうダメだろう。

過去の経験からいって、完全にロックオンされている。


(やっぱりだ。やっぱりいつもと何も変わりゃしねえんだ)


カラコンをつけていようがいまいが、園田は俺に因縁をつけてくる。


これも変わらぬ日常の一風景――――


……のはずだったが。


「……ぉ、ん?」


「…………」


園田は今も視線をこちらに向けている。
向けてはいるのだが、微妙にその焦点が俺に合っていないような、もっと遠くを見つめているような……


そんな違和感を覚えた。


(確かに今、見られてたよな……俺?)


しかし、園田が俺を認識しているような様子は見受けられない。


視界には入っているはずなのに。


(まるで……これじゃあまるで……)



――――空気扱い。



自分がそう望んだポジションなのに、なぜか無性に胸を締め付けられる思いがした。

あの、理由が無くてもでっち上げて絡んでくるような園田ですら、俺を……


たまたまかもしれない。
いや、それ以上に理不尽な難癖をつけられないのだから、喜ぶべきことかもしれない。

けれど俺は、どこか釈然としない気持ちを抱えながら、校舎へと入った。
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