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第二章 小さな小さな恋
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春一番は、とうに過ぎ、初夏の香りもそろそろ下準備を始める頃。
そんな四月半ば。
すでに、日は西に傾き始め、校舎の影が長く伸び始める。
校舎の一角。
西日を受け、まぶしいほどの陽光を、ブラインドが遮る。
ほのかに暖かく、単調な音の響く部屋は眠気を誘う。
カタカタカタ……
二度目に入るワープロ室。
初めての時は、部の上級生と一緒だった。
が、今回は一人。
学年が一つ上がったとはいえ、やっぱり他の部活内に一人で入って行くっていうのは、少なからず緊張する。
ガラガラ
「失礼します」
小声で呟くように一言。
シーン。
正確に言うとキーを叩くカタカタっていう音は響いていたが。
何か入って行きにくい。
「あのぅ、部長さんいらっしゃいますか」
ワープロ部の顧問には、すでに許可はとってある。
「はい」
と、すぐ横から返事がした。
たぶん部長さん。
「こんばんは。……あ、じゃなかった」
その後ろからぴょこっと顔を覗かせ、とぼけたことを言って、一人慌てているのは。
片桐先輩。
「へっ?」
知ってる笑顔を見たからか、はたまたとぼけた一言のせいか。
さっきまでの緊張はどこかへすっ飛んで行ってしまった。
「あの、ワープロ使わせてもらいたいんですが」
片桐先輩が、後ろでちゃっかり小さく手を振っていたりするのだが。それに応えるように、とりあえず軽く頭を下げておいて。
「どうぞ。空いてるところ、どこでもつかって」
部長さんに言われて部屋を見渡す。
「あ、はい」
いまいちシャキッとしない、曖昧な返事をすると、ドアのすぐ右にあるスリッパに履きかえ、ドアに一番近い席に腰掛ける。
カチャッ
早速、電源を入れてみる。
が、全然操作の仕方が分からない。
カタカタカタ……
周りはみな、素晴らしいスピードでキーを叩いている。
とりあえず、画面と睨めっこ。
「どうしたの?」
そんな俺を見るに見かねたのか、片桐先輩が声をかけにきてくれた。
「えっ、あっ、まるっきり使い方が分からないんです」
「あ~、これね。まず、このキーを押すでしょ」
「はい」
「で、この画面になったら、この一番の入力というのを選んであげるの」
一つ一つ丁寧に教えてくれるのを一字一句聞き逃さないよう、目と耳に神経を集中させた。
「あれ、ローマ字打ち?」
「そうです」
「えっと、だったらこの二番のローマ字っていうのを選んであげるでしょ」
そうやって説明してくれている彼女の横顔を見ていると、何か引かれるものがある。
そんな、すぐ隣りにある片桐先輩の横顔が気になって、集中力が散漫してしまう。
あ~
ドキドキドキドキ……。
「そしたら、この遂次変換っていうのがいいかな?けど、私のお勧めってだけだから、やりずらかったら違うのを選んで!」
「あ、はい」
本当に分かっているんだろうか、というようなはっきりしない返事を繰り返すばかり。
「じゃ、また分からなくなったら、いつでも呼んで」
「あ、はい」
そう言うと、また自分の席へと戻って行った。
英語のスピーチ練習の時もだったけど、本当に親切だよね。片桐先輩は。
などと思いながらキーを叩いてみる。
お~
打てた。
一人で感動してみたりする。
バカみたいだけど。
とりあえず、始め方は分かったし。
顧問に頂いた全商ワープロ検定三級の問題集をぱらぱらと開いてみる。
ん?
作表?
どうやって線を引くんだろ?
ま、時間はあるし、ゆっくりと行きますか。
とりあえず、しばらくは楽しい放課後が送れそうな、そんな気がします。
そんな四月半ば。
すでに、日は西に傾き始め、校舎の影が長く伸び始める。
校舎の一角。
西日を受け、まぶしいほどの陽光を、ブラインドが遮る。
ほのかに暖かく、単調な音の響く部屋は眠気を誘う。
カタカタカタ……
二度目に入るワープロ室。
初めての時は、部の上級生と一緒だった。
が、今回は一人。
学年が一つ上がったとはいえ、やっぱり他の部活内に一人で入って行くっていうのは、少なからず緊張する。
ガラガラ
「失礼します」
小声で呟くように一言。
シーン。
正確に言うとキーを叩くカタカタっていう音は響いていたが。
何か入って行きにくい。
「あのぅ、部長さんいらっしゃいますか」
ワープロ部の顧問には、すでに許可はとってある。
「はい」
と、すぐ横から返事がした。
たぶん部長さん。
「こんばんは。……あ、じゃなかった」
その後ろからぴょこっと顔を覗かせ、とぼけたことを言って、一人慌てているのは。
片桐先輩。
「へっ?」
知ってる笑顔を見たからか、はたまたとぼけた一言のせいか。
さっきまでの緊張はどこかへすっ飛んで行ってしまった。
「あの、ワープロ使わせてもらいたいんですが」
片桐先輩が、後ろでちゃっかり小さく手を振っていたりするのだが。それに応えるように、とりあえず軽く頭を下げておいて。
「どうぞ。空いてるところ、どこでもつかって」
部長さんに言われて部屋を見渡す。
「あ、はい」
いまいちシャキッとしない、曖昧な返事をすると、ドアのすぐ右にあるスリッパに履きかえ、ドアに一番近い席に腰掛ける。
カチャッ
早速、電源を入れてみる。
が、全然操作の仕方が分からない。
カタカタカタ……
周りはみな、素晴らしいスピードでキーを叩いている。
とりあえず、画面と睨めっこ。
「どうしたの?」
そんな俺を見るに見かねたのか、片桐先輩が声をかけにきてくれた。
「えっ、あっ、まるっきり使い方が分からないんです」
「あ~、これね。まず、このキーを押すでしょ」
「はい」
「で、この画面になったら、この一番の入力というのを選んであげるの」
一つ一つ丁寧に教えてくれるのを一字一句聞き逃さないよう、目と耳に神経を集中させた。
「あれ、ローマ字打ち?」
「そうです」
「えっと、だったらこの二番のローマ字っていうのを選んであげるでしょ」
そうやって説明してくれている彼女の横顔を見ていると、何か引かれるものがある。
そんな、すぐ隣りにある片桐先輩の横顔が気になって、集中力が散漫してしまう。
あ~
ドキドキドキドキ……。
「そしたら、この遂次変換っていうのがいいかな?けど、私のお勧めってだけだから、やりずらかったら違うのを選んで!」
「あ、はい」
本当に分かっているんだろうか、というようなはっきりしない返事を繰り返すばかり。
「じゃ、また分からなくなったら、いつでも呼んで」
「あ、はい」
そう言うと、また自分の席へと戻って行った。
英語のスピーチ練習の時もだったけど、本当に親切だよね。片桐先輩は。
などと思いながらキーを叩いてみる。
お~
打てた。
一人で感動してみたりする。
バカみたいだけど。
とりあえず、始め方は分かったし。
顧問に頂いた全商ワープロ検定三級の問題集をぱらぱらと開いてみる。
ん?
作表?
どうやって線を引くんだろ?
ま、時間はあるし、ゆっくりと行きますか。
とりあえず、しばらくは楽しい放課後が送れそうな、そんな気がします。
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