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第10章
第三十八居住区
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この世界の地図の第三十八居住区のあった場所にユーリシアさんが大きなバツを付ける。
まともな状態の建物は一割ほど。
あとは扉や壁が壊れていたり建物全体が半壊、もしくは全壊してただの瓦礫になっている建物もある。
かろうじて残っている城壁も一部砕けている。
「地図によるとこの居住区はまだ無事のはずでしたが……」
「こりゃ、壊れて一年や二年って感じじゃないぞ? 少なくとも十年は放置されてる」
ユーリシアさんが半壊状態の庁舎らしき建物の中から書類の束を見つけてその日付を確認しながら言った。
こういう重要機密は本来持っていけない場合、焼却処分する必要がありそうだけど――
僕も瓦礫の中から書類を見つけ出して調べる。
「これは結界装置の不具合に関する報告書ですね。数カ月おきに結界が消える不具合があったそうです。それでその頻度がだんだんと高くなってきて――十三年前の報告が最後のようです」
「結界装置の故障が居住区の崩壊の原因のようですね。住民の遺体の痕跡はあまり見つからなかったので、全員無事に逃げていたらいいでしょうが」
「しかし、ダイナーが知らなかったのは何故だ? この周辺にはいくつか居住区があるが、二百五十七居住区が一番近いだろ? 難民が押し寄せてきそうなもんだが」
「ワイバーンを警戒したのでしょうね。あの山はワイバーンの狩場になっています。難民の大半は戦える人間ではないでしょうし、ハンターが何人かいらっしゃっても全員を守って戦うことはできません。それなら、距離はありますが、比較的安全に避難できる別の居住区に避難しようとする気持ちもわかります」
リーゼさんが地図を見て推論を立てた。
その後、他に何か情報はないか調査した。
まず結界装置を見に行ったところ、結界装置があるはずの建物が崩壊していて中の機械も大破していた。
元々、この居住区の結界は僕なんかじゃ理解できない複雑な機構の装置で、ここまで壊れていたら修復は不可能だ。
以前、修理できたのはたまたま結界装置が地下の隠し部屋にあったため、魔獣や禁忌の怪物に荒らされずに済んだから無事だったんだよね
さらにリーゼさんが瓦礫の下に罪人の収容所があるのを発見した。
僕が瓦礫を撤去する。
「アクリとリーゼさんはここで待っていて」
「パパ、アクリは大丈夫――」
「いいえ、アクリ。ここで待っていましょう」
リーゼがアクリの身体を後ろから抱きかかえて、僕とユーリシアさんを見送ってくれた。
そして僕とユーリシアさんは地下に続く階段を下りていく。
「クルト、リーゼとアクリは地上に残ってもらって私は別にいいってどういうことだ?」
「……ごめんなさい。一人で入るのは少し怖くて」
「別に怒ってないさ。頼りにされるのは嫌いじゃないからな」
ユーリシアさんがそう言って僕の腕を抱きしめるように掴んだ。
「普段、リーゼと一緒だとこんなことできないからな。たまにはいいだろ? 婚約者なんだし」
婚約者。
うぅ、そう言われたらやっぱり恥ずかしい。
ユーリシアさんやリーゼさんみたいに綺麗で可愛い人が僕の婚約者なんて。
時々、夢を見ているんじゃないかと勘違いしちゃう。
僕はユーリシアさんの顔を見上げて言った。
「どうした?」
「い、いえ、なんでもないです」
「そうか。それよりこれは……酷いな」
「はい」
僕たちは牢屋に辿り着いた。
その鉄格子のある扉の大半は外からの大きな力によってこじ開けられている。
でも、中には無事な牢屋もあった。
そして、その牢屋の中にあったのは白骨死体だった。
どうやらここ収監されていた凶悪犯罪者は他の居住区に輸送されることもなくこの場に放置されたのだろう。
「私も階段に入ってようやく気付いたが、クルトはよくわかったな」
「僕はわかりませんでした。ただ、リーゼさんが――」
この収容所の入り口最初に見つけたリーゼさんが少しだけ顔を顰めていた。
たぶん、感覚強化の魔法で嗅覚を強化して、収容所の場所を見つけた。
そして、その強化した嗅覚で地下の状態を察したのだろう。
「ありました……どうやらここの囚人のうち軽犯罪を犯した方は、住民の移送より前に第七十七居住区に輸送されたみたいですね」
「一番近い第二百五十七居住区でも、次に近い第百六十居住区や二百三居住区じゃなくて第六十七居住区? ここからだと歩いて一ヶ月はかかるぞ」
リーゼさんが犯罪者の輸送先を確認し、ユーリシアさんが地図を見て言った。
この地図……もしかして。
「この六十七居住区って、もしかして採石場があるんじゃないでしょうか? 恐らく良質な石が採れる場所かと」
「地図だけでわかるのか?」
「はい。そしてその石が運ばれているのがこの第七十七居住区だと思います」
「確かに。立地的にも交易の要所という感じがしますわ。アクリが持っていた古い地図と照らし合わせても大都市があった場所のようですし」
結局、収容所にはゴルノヴァさんの手がかりはなかったけれど、次の目的地が決まった。
まともな状態の建物は一割ほど。
あとは扉や壁が壊れていたり建物全体が半壊、もしくは全壊してただの瓦礫になっている建物もある。
かろうじて残っている城壁も一部砕けている。
「地図によるとこの居住区はまだ無事のはずでしたが……」
「こりゃ、壊れて一年や二年って感じじゃないぞ? 少なくとも十年は放置されてる」
ユーリシアさんが半壊状態の庁舎らしき建物の中から書類の束を見つけてその日付を確認しながら言った。
こういう重要機密は本来持っていけない場合、焼却処分する必要がありそうだけど――
僕も瓦礫の中から書類を見つけ出して調べる。
「これは結界装置の不具合に関する報告書ですね。数カ月おきに結界が消える不具合があったそうです。それでその頻度がだんだんと高くなってきて――十三年前の報告が最後のようです」
「結界装置の故障が居住区の崩壊の原因のようですね。住民の遺体の痕跡はあまり見つからなかったので、全員無事に逃げていたらいいでしょうが」
「しかし、ダイナーが知らなかったのは何故だ? この周辺にはいくつか居住区があるが、二百五十七居住区が一番近いだろ? 難民が押し寄せてきそうなもんだが」
「ワイバーンを警戒したのでしょうね。あの山はワイバーンの狩場になっています。難民の大半は戦える人間ではないでしょうし、ハンターが何人かいらっしゃっても全員を守って戦うことはできません。それなら、距離はありますが、比較的安全に避難できる別の居住区に避難しようとする気持ちもわかります」
リーゼさんが地図を見て推論を立てた。
その後、他に何か情報はないか調査した。
まず結界装置を見に行ったところ、結界装置があるはずの建物が崩壊していて中の機械も大破していた。
元々、この居住区の結界は僕なんかじゃ理解できない複雑な機構の装置で、ここまで壊れていたら修復は不可能だ。
以前、修理できたのはたまたま結界装置が地下の隠し部屋にあったため、魔獣や禁忌の怪物に荒らされずに済んだから無事だったんだよね
さらにリーゼさんが瓦礫の下に罪人の収容所があるのを発見した。
僕が瓦礫を撤去する。
「アクリとリーゼさんはここで待っていて」
「パパ、アクリは大丈夫――」
「いいえ、アクリ。ここで待っていましょう」
リーゼがアクリの身体を後ろから抱きかかえて、僕とユーリシアさんを見送ってくれた。
そして僕とユーリシアさんは地下に続く階段を下りていく。
「クルト、リーゼとアクリは地上に残ってもらって私は別にいいってどういうことだ?」
「……ごめんなさい。一人で入るのは少し怖くて」
「別に怒ってないさ。頼りにされるのは嫌いじゃないからな」
ユーリシアさんがそう言って僕の腕を抱きしめるように掴んだ。
「普段、リーゼと一緒だとこんなことできないからな。たまにはいいだろ? 婚約者なんだし」
婚約者。
うぅ、そう言われたらやっぱり恥ずかしい。
ユーリシアさんやリーゼさんみたいに綺麗で可愛い人が僕の婚約者なんて。
時々、夢を見ているんじゃないかと勘違いしちゃう。
僕はユーリシアさんの顔を見上げて言った。
「どうした?」
「い、いえ、なんでもないです」
「そうか。それよりこれは……酷いな」
「はい」
僕たちは牢屋に辿り着いた。
その鉄格子のある扉の大半は外からの大きな力によってこじ開けられている。
でも、中には無事な牢屋もあった。
そして、その牢屋の中にあったのは白骨死体だった。
どうやらここ収監されていた凶悪犯罪者は他の居住区に輸送されることもなくこの場に放置されたのだろう。
「私も階段に入ってようやく気付いたが、クルトはよくわかったな」
「僕はわかりませんでした。ただ、リーゼさんが――」
この収容所の入り口最初に見つけたリーゼさんが少しだけ顔を顰めていた。
たぶん、感覚強化の魔法で嗅覚を強化して、収容所の場所を見つけた。
そして、その強化した嗅覚で地下の状態を察したのだろう。
「ありました……どうやらここの囚人のうち軽犯罪を犯した方は、住民の移送より前に第七十七居住区に輸送されたみたいですね」
「一番近い第二百五十七居住区でも、次に近い第百六十居住区や二百三居住区じゃなくて第六十七居住区? ここからだと歩いて一ヶ月はかかるぞ」
リーゼさんが犯罪者の輸送先を確認し、ユーリシアさんが地図を見て言った。
この地図……もしかして。
「この六十七居住区って、もしかして採石場があるんじゃないでしょうか? 恐らく良質な石が採れる場所かと」
「地図だけでわかるのか?」
「はい。そしてその石が運ばれているのがこの第七十七居住区だと思います」
「確かに。立地的にも交易の要所という感じがしますわ。アクリが持っていた古い地図と照らし合わせても大都市があった場所のようですし」
結局、収容所にはゴルノヴァさんの手がかりはなかったけれど、次の目的地が決まった。
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