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幕間話
化石掘り爺さんと伝説の化石ホリスト(前編)
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辺境町から離れた場所にある谷での生活もかれこれ一カ月になった。
水源が近くにあるが、魔物すら近付かない、ペンペン草すら生えない谷の底。
持ち込んだ食材は尽きそうになっている。
七十七歳というめでたいのかそうでないのかよくわからない節目になる誕生日を先日迎えても元気なワシじゃが、しかし空腹には勝てない。
一カ月前、つまりここに来る前にハロワに依頼しておいた食料配達も、ワシが日付けを間違えていなければ今日にも届くはずだ。
そして、それは間違いではなかった。
「すみません、ハロワからの依頼で食料を届けに来ました」
現れたのは、十五歳くらいの灰色の髪の少年だった。
背中には三百キロくらいある荷物を担いでおる。
小柄な体には似つかわしくない量――どうやら、凄腕の運び屋のようじゃ。
「うむ、ご苦労じゃった。確認させてもらうぞ」
荷物を確認する。
小麦粉百キロ、乾燥野菜や乾燥果実、そして酒に予備のピッケルと軍手、タオル、衣服類、薬類。
注文した通りのものじゃ。
「坊主、名はなんという?」
「クルトです」
「そうかそうか、クルトか。良い名じゃ。ちなみに、ワシの名はカセキ・ホルドーじゃ」
「あ、はい。はじめまして」
「…………」
「…………」
「……………………」
「……………………」
「聞かんか!」
「え、何をですか?」
まったく、最近の若者は、周囲への興味を持っておらぬのか。
「ワシが何をしておるのか、気になるじゃろ!」
「え? あ、はい! とても気になります」
「うむ、良い心構えじゃ。ワシはここで化石を掘っておる」
「化石ですか?」
「そうじゃ、化石じゃ」
化石というのは、遥か昔の生物の骨等が地層の中に残っている物を言う。
魔族の領地にちかいこの場所は、瘴気が不安定な場所で古来は独自の生態系を持っていたというワシの持論に基づき、特別な化石が見つかると踏んだわけじゃ。
「凄いです! 古代のロマンですね!」
「おぉ、わかるか、少年よ! よし、少年をワシの助手に任命する!」
「はい、よろこんで」
……ん?
これまで同じようなことをワシは多くの少年に語り聞かせたが、しかし少年くらいの年齢の相手の対応は必ずしも塩対応じゃった。
「あ……うん、まぁガンバってくだしあ」
「楽しそうですけど、時間が」
「無理ー」
なんて対応ばかりじゃったのに、
「いいのか、少年よ」
「はい、帰還予定まで二日程ありますから、その間だけでもお手伝いを――あとは依頼の報告して、工房に許可を貰ってからになりますが」
「そうかそうか! よし、ではさっそくやってみるか。少年、まずはこの予備のピッケルを持ってみなさい」
「はい、わかりました」
少年がピッケルを持つ。
うん、いい構えじゃ。
「ここの地層を見ろ。ここはいまから1000万年前――ハイエルフですら生まれていないと言われる時代の地層じゃ」
「1000万年前っ!? 凄いですね」
「うむ、凄いのじゃ。ここを掘ってみろ」
「はい、わかりました」
少年が地層を手で調べ、どこを掘ろうか悩んでいる。
可愛い奴じゃの、そんなことをしてもどこを掘ればいいかわかるはずはあるまいに。
きっと、それがカッコいいと思っておるのじゃろ。
しかし、それは悪くはない。化石掘りというのはロマンじゃからな。
ロマンを追い求めるのとカッコつけるのは同義とワシは思っておる。
つまり、あのように無意味なことをするのもまた、化石掘りをするのに向いておるというわけじゃ。
少年はようやくどこを掘るか決めたらしい。
「焦ってはならぬ。ピッケルでは深くは掘れない。少しずつ少しずつ掘っていけば、おかしな部分が見つかる事がある」
「ホルドーさん」
「それを掘り当てた時の感動、是非とも少年には味わって欲しいのじゃが、しかし時間が――」
「ホルドーさん」
「なんじゃ、少年! いまからワシがいいことを――」
「これが見つかりました」
少年がワシに見せたもの――それは――
「こ、これは! スライムの先祖であるスライム貝の化石ではないか!」
スライムは大昔は貝のような魔物だったと言われている。それが、陸地を進むために貝殻を退化させて軟体生物になったそうじゃ。
まさか、ここまで完全な形のスライム貝の化石が見つかるとは――しかし、ここは1000万年前も陸地だったはず……まさか!?
そうか、そういうことか。
スライム貝は元より陸貝じゃったのか!?
こ、この少年、わずか一振りで化石学会の新たな説を生み出すための化石を掘り当てよった。
ま、まさか、この少年。
伝説の化石ホリストではあるまいかっ!?
ーーーーーーーーーーーー
続く! すみません、完全ネタ話です。
水源が近くにあるが、魔物すら近付かない、ペンペン草すら生えない谷の底。
持ち込んだ食材は尽きそうになっている。
七十七歳というめでたいのかそうでないのかよくわからない節目になる誕生日を先日迎えても元気なワシじゃが、しかし空腹には勝てない。
一カ月前、つまりここに来る前にハロワに依頼しておいた食料配達も、ワシが日付けを間違えていなければ今日にも届くはずだ。
そして、それは間違いではなかった。
「すみません、ハロワからの依頼で食料を届けに来ました」
現れたのは、十五歳くらいの灰色の髪の少年だった。
背中には三百キロくらいある荷物を担いでおる。
小柄な体には似つかわしくない量――どうやら、凄腕の運び屋のようじゃ。
「うむ、ご苦労じゃった。確認させてもらうぞ」
荷物を確認する。
小麦粉百キロ、乾燥野菜や乾燥果実、そして酒に予備のピッケルと軍手、タオル、衣服類、薬類。
注文した通りのものじゃ。
「坊主、名はなんという?」
「クルトです」
「そうかそうか、クルトか。良い名じゃ。ちなみに、ワシの名はカセキ・ホルドーじゃ」
「あ、はい。はじめまして」
「…………」
「…………」
「……………………」
「……………………」
「聞かんか!」
「え、何をですか?」
まったく、最近の若者は、周囲への興味を持っておらぬのか。
「ワシが何をしておるのか、気になるじゃろ!」
「え? あ、はい! とても気になります」
「うむ、良い心構えじゃ。ワシはここで化石を掘っておる」
「化石ですか?」
「そうじゃ、化石じゃ」
化石というのは、遥か昔の生物の骨等が地層の中に残っている物を言う。
魔族の領地にちかいこの場所は、瘴気が不安定な場所で古来は独自の生態系を持っていたというワシの持論に基づき、特別な化石が見つかると踏んだわけじゃ。
「凄いです! 古代のロマンですね!」
「おぉ、わかるか、少年よ! よし、少年をワシの助手に任命する!」
「はい、よろこんで」
……ん?
これまで同じようなことをワシは多くの少年に語り聞かせたが、しかし少年くらいの年齢の相手の対応は必ずしも塩対応じゃった。
「あ……うん、まぁガンバってくだしあ」
「楽しそうですけど、時間が」
「無理ー」
なんて対応ばかりじゃったのに、
「いいのか、少年よ」
「はい、帰還予定まで二日程ありますから、その間だけでもお手伝いを――あとは依頼の報告して、工房に許可を貰ってからになりますが」
「そうかそうか! よし、ではさっそくやってみるか。少年、まずはこの予備のピッケルを持ってみなさい」
「はい、わかりました」
少年がピッケルを持つ。
うん、いい構えじゃ。
「ここの地層を見ろ。ここはいまから1000万年前――ハイエルフですら生まれていないと言われる時代の地層じゃ」
「1000万年前っ!? 凄いですね」
「うむ、凄いのじゃ。ここを掘ってみろ」
「はい、わかりました」
少年が地層を手で調べ、どこを掘ろうか悩んでいる。
可愛い奴じゃの、そんなことをしてもどこを掘ればいいかわかるはずはあるまいに。
きっと、それがカッコいいと思っておるのじゃろ。
しかし、それは悪くはない。化石掘りというのはロマンじゃからな。
ロマンを追い求めるのとカッコつけるのは同義とワシは思っておる。
つまり、あのように無意味なことをするのもまた、化石掘りをするのに向いておるというわけじゃ。
少年はようやくどこを掘るか決めたらしい。
「焦ってはならぬ。ピッケルでは深くは掘れない。少しずつ少しずつ掘っていけば、おかしな部分が見つかる事がある」
「ホルドーさん」
「それを掘り当てた時の感動、是非とも少年には味わって欲しいのじゃが、しかし時間が――」
「ホルドーさん」
「なんじゃ、少年! いまからワシがいいことを――」
「これが見つかりました」
少年がワシに見せたもの――それは――
「こ、これは! スライムの先祖であるスライム貝の化石ではないか!」
スライムは大昔は貝のような魔物だったと言われている。それが、陸地を進むために貝殻を退化させて軟体生物になったそうじゃ。
まさか、ここまで完全な形のスライム貝の化石が見つかるとは――しかし、ここは1000万年前も陸地だったはず……まさか!?
そうか、そういうことか。
スライム貝は元より陸貝じゃったのか!?
こ、この少年、わずか一振りで化石学会の新たな説を生み出すための化石を掘り当てよった。
ま、まさか、この少年。
伝説の化石ホリストではあるまいかっ!?
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続く! すみません、完全ネタ話です。
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