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10巻
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◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「なんで動いてるんだぁぁぁぁぁぁあっ!?」
驚く区長を見て、私――リーゼは過去を懐かしみながら、クルト様が作ってくださったお味噌汁――ダンゾウさんの故郷の料理で、たまに工房でも振る舞われる料理です――を飲んでいました。
ユーリさんも汗を拭いながら私の横に座ります。
「どういうことですか、娘の脚はもう二度と動かないって言われていたのに……君たちが治してくれたのは理解できるが、いったいどうやって?」
区長さんは一番近くにいたクルト様に尋ねました。
すると、クルト様はテーブルの上に置かれた鍋からお味噌汁を一杯掬い、区長に入れて差し上げます。
「この味噌汁を飲んでもらいました」
「ミソシル……独特な臭いがするが、薬の一種なのですか?」
「いえ、遠くの居住区に伝わる郷土料理です」
「郷土料理……どうも話がよく見えてこないのですが」
混乱する区長さんにクルト様は告げました。
「飲んでみてください。この味噌汁にはなめこをはじめとした多くのキノコ類が入っていて、生姜も使っています」
「確かに、色々なキノコがありますね。キノコは暗所でも育てられるから軒下で育てる家もあるから手に入りやすいですが……それが?」
「なめこには、コンドロイチンが含まれていますし、他のキノコにもグルコサミンが豊富に含まれています。どちらも膝の痛みに対していい働きがあると言われてるんです。それに生姜を食べると血行がよくなり、関節痛によく効きます」
「はぁ……うまいな」
混乱した区長はお味噌汁を一杯飲み、心を落ち着けました。
アイナさんもその横でもう一杯お味噌汁を飲んでいます。
このお味噌汁というスープは、とても心が落ち着く味ですわよね。
「美味しいですわね、お父様。これを飲んでから、私の脚は以前より調子がいいんです」
「そうか、それはよかったな。こんな美味しいスープを飲んで、さらに脚まで治って――」
区長は突然お味噌汁の入った椀をテーブルに置き、我に返って叫びます。
「待て! それで治るのかっ! 医者でも治せないって言った怪我を!?」
「え? 脚が痛い時はキノコと生姜のお味噌汁を飲んで治すのって、普通の話ですよね?」
「そんな普通があるかっ!?」
あまりの混乱に叫ぶ区長さん。
それを見て、私とユーリさんは、どこかほっこりとしてしまいました。
「懐かしいな、リーゼ。私たちにもああいう時代があったな」
「そうですね、ユーリさん。こう新鮮な反応を見ると、初心に戻ったような気分です。あぁ、さすがはクルト様ですね」
おかゆを食べただけで呪いが解けたり、宴会料理を食べただけで傷が回復したり、温泉饅頭を食べただけで老化病が治ったり、クルト様の料理にはいつも驚かされてばかりですわね。
「大丈夫か? お前と同じ状況だけど、アイナさんがクルトに惚れてしまわないか心配にならないのか?」
「以前の私であれば、確かに懐柔と毒殺と射殺と暗殺の選択肢しかありませんでしたが――」
「七割五分殺してるじゃないか!」
「今の私はクルト様の婚約者になりましたからね。クルト様に色目を使ったりしない限りは放置です」
もちろん、警戒対象であることには違いありませんが、アイナさんは見たところ恋愛よりも戦闘に興味があるようですし、今のところ問題ないでしょう。
私がそんなことを思っていると、アクリが私の袖をくいっと引っ張りました。
彼女の目を見て、その意図を汲み取った私は、区長に口を開きます。
「区長様。アイナ様の脚が治って感動しているところ申し訳ありませんが、少し二人で話をすることはできないでしょうか?」
私の申し出に、区長は頷きました。
「ユーリシアさん、もう一戦、今度は稽古場でお相手願えませんか? 私も寝間着のままより練習着でお相手したいですし」
「ああ、わかった。クルト、一緒に来てくれ。審判役を頼む」
ユーリさんはちょうどいいと思ったのか、私が区長さんとアクリと三人で話をしやすいように、場を整えてくださいました。
クルト様がお鍋に残っていた味噌汁の残りを、保温性の高い水筒に入れて持っていきました。
さすが気配りのできるお方です。
三人が出ていったあと、私たち三人は、アイナ様が普段使われている小さなテーブルを囲むように座りました。
私は区長が運んできた紅茶の準備をいたします。
工房ではクルト様が淹れてくださりますが、淑女の嗜みで紅茶を淹れることくらい容易いです。
「どうぞ、区長様」
「……え……えぇ、ありがとうございます。これは……私が淹れた紅茶より美味しいです」
そう言って区長は紅茶を一口飲みます。
クルト様が淹れた紅茶に比べれば泥水に等しいですけれども、特訓の成果が少しは出ていますわね。
「それで、話とは娘の脚のことでしょうか?」
「いえ、それはクルト様がお話しした通りです。もう彼女の脚は大丈夫です、完治しましたから話すことはありません。以前より調子がいいとアイナさんが仰っていましたが、その通りだと思います」
「では、何の話でしょうか?」
「区長様はもっと聞きたいことがあるのではありませんか?」
私が尋ねると、区長は覚悟を決めたように尋ねました。
「君は――いや、君たちはいったい何者なのですか? 他の大陸から来たと仰っていましたが、それは嘘ですよね?」
やはりですか。
彼の態度から、私たちの嘘を見抜かれていることは薄々勘付いていました。
念のためにお尋ねします。
「どうしておわかりに?」
「君たちは《鑑定》のことを、いや、そもそもスキルのことを知らなかった。別の大陸からの訪問者がこの居住区に来たことはないが、それでも輸送隊の人から聞いたことがあります。他の大陸でも私たちの居住区の者と同じようなスキルを使うことができると」
「スキル? あの《鑑定》のことですか。確かに不思議な魔法ですわね」
「リーゼママ、たぶん区長さんが言っているスキルと、私たちの世界の魔法とは全然違うんだと思います」
アクリがそう言うと、区長は難しい表情になります。
その言葉の意味をその通りに受け取ることができたのか、できなかったのか……
再度同じ質問をします。
「君たちは……いったい、何者なのですか?」
二度目の問いに、私たちは全てを語りました。
賢者の塔から続く別の世界からの訪問者であること。
この世界を調査に来た知り合い――仲間でも友人でもなく、あくまでも知り合い――が行方不明になったこと。
そのため、知り合いを探すことと、この世界の調査が役目であること。そして、移住の希望者を集めること。
もちろん、アクリのことやクルト様の能力については秘密です。
まぁ、クルト様の能力を秘密にするにも限度はあるでしょうが。
「別の世界――なるほど、君たちが別の世界に渡った者たちの子孫なのか。あの料理は君たちの世界では普通のことなのか……」
いえ、私たちの世界でも特異です。
ですが説明が面倒なので、今は黙っておきます。
「それで、区長様には協力者になっていただきたい――この世界について教えていただきたいのです。もちろん、謝礼はいたします」
「いや、娘の脚を治してもらったうえに、私を信用して話してくださったのです。礼を言いたいのはこちらの方ですよ。無論、あなたたちの世界の魔法や技術には非常に興味がありますけどね」
そう言って区長は朗らかに笑った。
こうして、私たちは可能な限り、彼からこの世界の情報を入手しました。
その日、私たちは区長の屋敷に泊まることになりました。
残念なことにクルト様は一人部屋、私とユーリシアさんとアクリで三人部屋と分かれてしまいましたが。
訓練を終えたユーリシアさんとクルト様が戻ってきたところで、区長から聞いた話をお伝えします。
「まず区長様から教えてもらったスキルについてです。スキルというのは、魔石と呼ばれる石の中から特殊な力を抽出し、行使する能力のことです。これにも適性ランクがあり、それに応じて使えるスキルが異なります」
私は区長から貰った魔石を見せました。
赤色に光る、ルビーのような石です。
そして、もう一つ、魔石をはめ込む腕輪を装着し、それに魔石をセットします。
「これは下級の《鉄化》の魔石と呼ばれるもので、身体の一部を鉄に変える力があります。まぁ、下級の魔石なのと私の適性も低いので、手のひら程度の面積しか変化できませんが」
そう言って私は手のひらの部分を鉄に変えて見せました。
ユーリさんが興味深そうに、私の手のひらを指の関節部分でコンコンと叩きます。
「スキルか……これは魔法とは違うのか?」
「はい。そもそも、この世界にはそもそも魔法がありません。試しに感覚強化の魔法で区長様の視覚を強化してみたところとても驚いていらっしゃいましたから。一応、こちらの世界にも《遠見》という視覚を強化するスキルはあるそうですが、自分以外の人の視覚を強化することはできないそうです。私も試しに《鑑定》の魔石を使わせていただきましたが、適性が低いらしく、あまり詳しい情報を見ることはできませんでした。周囲の魔素の濃度くらいですね。人によっては物の品質を見たり、毒物のチェックができたりと、見えるものが変わるそうです。区長様のように相手の名前までわかる人は滅多にいないようですね」
「魔素の濃度を目で見れるってだけでも便利そうだけどな」
ユーリさんが言います。
そう思って、《鑑定》の魔石を譲っていただきました。
《鑑定》の魔石は比較的簡単に入手できるそうです。
「それで、魔石ってのはなんなんだ? 魔法晶石とは違うんだよな?」
「私も詳しくはわかりません。この世界特有の石でしょうか? アクリは何か知っていますか?」
アクリは元々のこの世界も知っていますから、彼女なら何かわかるかもしれないと尋ねました。
「ううん、少なくとも昔は魔石なんてものはなかったよ」
アクリも知らないようです。
となると、この世界の住人の大半が新世界に移動してから生まれた新技術でしょうか?
しかし、魔石からスキルを抽出する方法をアクリが知らないというのなら理解できますが、魔石そのものを知らないというのも妙な話です。
このような綺麗な石なのですから、昔からあるのであれば、宝石として珍重されていた可能性が高いですが。
「この石の雰囲気、どことなくダンジョンコアに似てますね」
私が考え込んでいると、クルト様がポツリと呟きました。
「ダンジョンコア? というと、魔素を吸収する石ですよね」
私たちの世界にあるダンジョンコアは、ダンジョンの心臓部とも言われる石です。
しかしその正体は、旧世界から魔素が溢れる場所に設置し、その魔素を吸収して外に漏らさないために設置されている魔道具の一種です。
シーン山脈の遺跡で大量に生産されているのを見たことがあります。
「パパの言う通りなら、魔素を吸収しやすい石が天然に存在して、その魔素を吸い込んだ結果、魔石に変異したってことかな?」
アクリがクルト様の一言から、魔石の正体の考察をしました。
さすがはクルト様です。
たった一言で魔石の正体に辿り着かせてくれるとは。
「魔石の正体がアクリの言う通りだとして、魔法を使うのに魔力が必要だろ? スキルには何を使うんだ?」
「特に使うものはないそうです。ただ、攻撃魔法のような外部に放てるものは少ないみたいですね。《回復》スキルというのも、使用者本人にしか使えないそうです。攻撃手段としては武器の中にエネルギーを蓄えて、一度に放出するものがあるそうです。例えばアイナさんは《炎の槍》というスキルにより、槍の中に炎を蓄えて一気に放出する技が使えるみたいですが」
「あの、リーゼさん。それで、ゴルノヴァさんとマーレフィスさんの情報は何かわかりましたか?」
やはりクルト様はそちらが気になりますわね。
私としては別に彼らがどうなっていようが関係ないのですが、クルト様が悲しむのは辛いですからね。
「聞いておきましたが、めぼしい情報はありません。ただ、第三十八居住区という場所に罪人の収容施設があるそうでして、彼らが何らかのトラブルを起こして捕まっているとしたらそこにいる可能性もあるそうです」
「場所はどのあたりなんだい?」
ユーリさんが尋ねたので、私は区長から貰った地図を広げます。
「ここが第二百五十七居住区になります。目的の第三十八居住区というのはここですね」
ここから徒歩で二日ほどの距離ですから、連行されている可能性はゼロではないでしょう。
ただ、区長様が仰るには居住区の外を出歩く人間というのは、魔物を狩るハンターがほとんどだけれども、彼らが襲われたと思しき場所には普通ハンターも近付かないそうです。
というのも、賢者の塔――この世界では悪魔の塔と呼ばれているそうですが、その付近には魔物が現れないうえに、賢者の塔に近付きすぎると塔に攻撃されてしまうので危ないという話があるそうです。
その防衛システムは魔物対策として用意されているもので、人間に対しては警告から行われるはずなのですが……魔物が襲われているのを遠くから見た人がたまたまいて、そういう噂が広がっているのでしょう。
「このバツ印がついているのは?」
「なんらかのアクシデントにより結界が破壊され、人が住むことができなくなった居住区です」
アクリから貰った地図と照らし合わせてみると、元々あった街の場所とも一致しますね。
「それと、持ってきた薬草汁も高値で売ることができました。これがその対価です」
私はそう言って紙の束を置きました。
「対価って、この紙が金なのか? あ、そうか。この世界は植物が少ないから紙が貴重品なのか?」
「ユーリさん、そんなわけないです。確かに紙は貴重品ですが、本来であれば貨幣の代わりになるものではありません。ですが、この世界ではそれが成り立っているのです」
「どういうことだ?」
「輸送隊ですよ。輸送隊との取引では、必ずこのポート札という紙のお金が使われる仕組みになっています。輸送隊がなければ外部からの商品の入手は困難なこの世界。彼らが使うお金をそのまま使うしか選択肢はなかったのです」
そして、そのポートの価値は全て輸送隊の人が決めることができます。
彼らがパパモモの実を一個百ポートだと伝えれば、パパモモ一個の価値が百ポートに決定するのです。
そして、原材料は紙なのですから、施設さえ整えば簡単に量産でき、そして輸送隊の人がそのポートでの取引を廃止すると決定すれば、この紙のお金は一夜にして無価値になります。
恐ろしいことに、この世界は行商人である彼ら輸送隊こそが、経済を全て牛耳っているのです。
もっとも、この魔素に満ちた世界での商品の輸送はそれだけリスクを伴うものということです。
できることなら、早いうちに輸送隊に接触して、彼らが持っている情報も得たいですね。
「リーゼさん、それでこのポート札はどのくらいの価値があるんでしょうか?」
「そうですね。金貨五百枚分くらいはあると思います。もちろん、私たちの世界とこの世界とでは為替レートなんてものはありませんから、私の感覚の話ですが。だいたい十万ポートで金貨一枚ってところですね」
「日常に使う単位が金貨と言ってる時点で、元王族の感覚があてにならないってのは理解できたよ」
ユーリさんが失礼なことを言います。
確かに普通の金銭感覚とは違うかもしれませんが、工房の資金を管理しているとそうなるんです。なにしろ、クルト様の所持金はもはや王国の国庫をも超えかねない勢いで増えていますから。
「やっぱりこの世界って薬があんまり発達していないんでしょうね。僕なんかが作った薬でそんな大金になるんですから」
クルト様が札束を見て勘違いした発言を仰いますが、ホムーロス王国内で売っても同じか、それ以上の額になります。
「このお金で交易品を購入することにしました。旅人を名乗るからには、交易品を持っていた方が自然ですから。今後はそれらしく馬車を使って移動しましょう」
「馬車って、この町の人は滅多に外に出たりしないんだろ? 売ってるのか?」
「いいえ、当然売ってません。なので一度元の世界に戻って、馬車は工房のものを使いましょう。デクも運動不足ですからちょうどいいです」
デクというのは工房で飼っている馬の名前です。
とても大食らいですが、大人しく力の強い馬なので整備されていない道でも荷車を引いて進むことができるでしょう。
「じゃあ、デク用の魔素を吸収する道具を作りますね」
私たちが使っているのは、シーン山脈にあるダンジョンの装置を、クルト様の叔父であるウラノ叔父さんが改良、 小型化と容量の増加に成功したものです。
これがあれば人間だけではなく、動物でも魔素の空間の中で生きることが可能です。
さすがはクルト様です。
もしかしたら、クルト様にかかればこの世界の全ての問題も解決するのではないでしょうか?
って、それはさすがに考えすぎですわね。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
明くる朝、早速、僕――クルトは行商人に扮するための準備に取り掛かった。
居住区に出かけて買い物をする。
店の種類は少ない。というか一店舗しかない。
この居住区では商品を売るのは自由だが、基本は委託販売――つまり、居住区で唯一の商店に商品を預け、そこで売ってもらうそうだ。
数は少ないが、昨日、僕が持ってきた薬も売られている。
多くの魔物の肉が売られていたが、野菜や穀物は貴重品なのか肉より値段が高く、さらに高いのが果物だった。
「旅人さんかい? 噂は聞いてるよ。上質な薬を持ってきてくれたんだってね。どうだい? 昨日ハンターさんが持ってきてくれた魚の燻製だよ。買っていかないかい?」
商店で働くおばちゃんが言うが、隣でリーゼさんがうめき声を上げた。
魚の見た目が、なんというか深海魚のそれに似ていた。
つまり、気味が悪い――グロテスクなのだ。
多分普通の魚じゃなくて、魚の魔物だと思う。
見た目はともかく、味は少し気になったのだが、リーゼさんが食べるには少し勇気がいりそうなので買うのはやめておこう。
「なんで動いてるんだぁぁぁぁぁぁあっ!?」
驚く区長を見て、私――リーゼは過去を懐かしみながら、クルト様が作ってくださったお味噌汁――ダンゾウさんの故郷の料理で、たまに工房でも振る舞われる料理です――を飲んでいました。
ユーリさんも汗を拭いながら私の横に座ります。
「どういうことですか、娘の脚はもう二度と動かないって言われていたのに……君たちが治してくれたのは理解できるが、いったいどうやって?」
区長さんは一番近くにいたクルト様に尋ねました。
すると、クルト様はテーブルの上に置かれた鍋からお味噌汁を一杯掬い、区長に入れて差し上げます。
「この味噌汁を飲んでもらいました」
「ミソシル……独特な臭いがするが、薬の一種なのですか?」
「いえ、遠くの居住区に伝わる郷土料理です」
「郷土料理……どうも話がよく見えてこないのですが」
混乱する区長さんにクルト様は告げました。
「飲んでみてください。この味噌汁にはなめこをはじめとした多くのキノコ類が入っていて、生姜も使っています」
「確かに、色々なキノコがありますね。キノコは暗所でも育てられるから軒下で育てる家もあるから手に入りやすいですが……それが?」
「なめこには、コンドロイチンが含まれていますし、他のキノコにもグルコサミンが豊富に含まれています。どちらも膝の痛みに対していい働きがあると言われてるんです。それに生姜を食べると血行がよくなり、関節痛によく効きます」
「はぁ……うまいな」
混乱した区長はお味噌汁を一杯飲み、心を落ち着けました。
アイナさんもその横でもう一杯お味噌汁を飲んでいます。
このお味噌汁というスープは、とても心が落ち着く味ですわよね。
「美味しいですわね、お父様。これを飲んでから、私の脚は以前より調子がいいんです」
「そうか、それはよかったな。こんな美味しいスープを飲んで、さらに脚まで治って――」
区長は突然お味噌汁の入った椀をテーブルに置き、我に返って叫びます。
「待て! それで治るのかっ! 医者でも治せないって言った怪我を!?」
「え? 脚が痛い時はキノコと生姜のお味噌汁を飲んで治すのって、普通の話ですよね?」
「そんな普通があるかっ!?」
あまりの混乱に叫ぶ区長さん。
それを見て、私とユーリさんは、どこかほっこりとしてしまいました。
「懐かしいな、リーゼ。私たちにもああいう時代があったな」
「そうですね、ユーリさん。こう新鮮な反応を見ると、初心に戻ったような気分です。あぁ、さすがはクルト様ですね」
おかゆを食べただけで呪いが解けたり、宴会料理を食べただけで傷が回復したり、温泉饅頭を食べただけで老化病が治ったり、クルト様の料理にはいつも驚かされてばかりですわね。
「大丈夫か? お前と同じ状況だけど、アイナさんがクルトに惚れてしまわないか心配にならないのか?」
「以前の私であれば、確かに懐柔と毒殺と射殺と暗殺の選択肢しかありませんでしたが――」
「七割五分殺してるじゃないか!」
「今の私はクルト様の婚約者になりましたからね。クルト様に色目を使ったりしない限りは放置です」
もちろん、警戒対象であることには違いありませんが、アイナさんは見たところ恋愛よりも戦闘に興味があるようですし、今のところ問題ないでしょう。
私がそんなことを思っていると、アクリが私の袖をくいっと引っ張りました。
彼女の目を見て、その意図を汲み取った私は、区長に口を開きます。
「区長様。アイナ様の脚が治って感動しているところ申し訳ありませんが、少し二人で話をすることはできないでしょうか?」
私の申し出に、区長は頷きました。
「ユーリシアさん、もう一戦、今度は稽古場でお相手願えませんか? 私も寝間着のままより練習着でお相手したいですし」
「ああ、わかった。クルト、一緒に来てくれ。審判役を頼む」
ユーリさんはちょうどいいと思ったのか、私が区長さんとアクリと三人で話をしやすいように、場を整えてくださいました。
クルト様がお鍋に残っていた味噌汁の残りを、保温性の高い水筒に入れて持っていきました。
さすが気配りのできるお方です。
三人が出ていったあと、私たち三人は、アイナ様が普段使われている小さなテーブルを囲むように座りました。
私は区長が運んできた紅茶の準備をいたします。
工房ではクルト様が淹れてくださりますが、淑女の嗜みで紅茶を淹れることくらい容易いです。
「どうぞ、区長様」
「……え……えぇ、ありがとうございます。これは……私が淹れた紅茶より美味しいです」
そう言って区長は紅茶を一口飲みます。
クルト様が淹れた紅茶に比べれば泥水に等しいですけれども、特訓の成果が少しは出ていますわね。
「それで、話とは娘の脚のことでしょうか?」
「いえ、それはクルト様がお話しした通りです。もう彼女の脚は大丈夫です、完治しましたから話すことはありません。以前より調子がいいとアイナさんが仰っていましたが、その通りだと思います」
「では、何の話でしょうか?」
「区長様はもっと聞きたいことがあるのではありませんか?」
私が尋ねると、区長は覚悟を決めたように尋ねました。
「君は――いや、君たちはいったい何者なのですか? 他の大陸から来たと仰っていましたが、それは嘘ですよね?」
やはりですか。
彼の態度から、私たちの嘘を見抜かれていることは薄々勘付いていました。
念のためにお尋ねします。
「どうしておわかりに?」
「君たちは《鑑定》のことを、いや、そもそもスキルのことを知らなかった。別の大陸からの訪問者がこの居住区に来たことはないが、それでも輸送隊の人から聞いたことがあります。他の大陸でも私たちの居住区の者と同じようなスキルを使うことができると」
「スキル? あの《鑑定》のことですか。確かに不思議な魔法ですわね」
「リーゼママ、たぶん区長さんが言っているスキルと、私たちの世界の魔法とは全然違うんだと思います」
アクリがそう言うと、区長は難しい表情になります。
その言葉の意味をその通りに受け取ることができたのか、できなかったのか……
再度同じ質問をします。
「君たちは……いったい、何者なのですか?」
二度目の問いに、私たちは全てを語りました。
賢者の塔から続く別の世界からの訪問者であること。
この世界を調査に来た知り合い――仲間でも友人でもなく、あくまでも知り合い――が行方不明になったこと。
そのため、知り合いを探すことと、この世界の調査が役目であること。そして、移住の希望者を集めること。
もちろん、アクリのことやクルト様の能力については秘密です。
まぁ、クルト様の能力を秘密にするにも限度はあるでしょうが。
「別の世界――なるほど、君たちが別の世界に渡った者たちの子孫なのか。あの料理は君たちの世界では普通のことなのか……」
いえ、私たちの世界でも特異です。
ですが説明が面倒なので、今は黙っておきます。
「それで、区長様には協力者になっていただきたい――この世界について教えていただきたいのです。もちろん、謝礼はいたします」
「いや、娘の脚を治してもらったうえに、私を信用して話してくださったのです。礼を言いたいのはこちらの方ですよ。無論、あなたたちの世界の魔法や技術には非常に興味がありますけどね」
そう言って区長は朗らかに笑った。
こうして、私たちは可能な限り、彼からこの世界の情報を入手しました。
その日、私たちは区長の屋敷に泊まることになりました。
残念なことにクルト様は一人部屋、私とユーリシアさんとアクリで三人部屋と分かれてしまいましたが。
訓練を終えたユーリシアさんとクルト様が戻ってきたところで、区長から聞いた話をお伝えします。
「まず区長様から教えてもらったスキルについてです。スキルというのは、魔石と呼ばれる石の中から特殊な力を抽出し、行使する能力のことです。これにも適性ランクがあり、それに応じて使えるスキルが異なります」
私は区長から貰った魔石を見せました。
赤色に光る、ルビーのような石です。
そして、もう一つ、魔石をはめ込む腕輪を装着し、それに魔石をセットします。
「これは下級の《鉄化》の魔石と呼ばれるもので、身体の一部を鉄に変える力があります。まぁ、下級の魔石なのと私の適性も低いので、手のひら程度の面積しか変化できませんが」
そう言って私は手のひらの部分を鉄に変えて見せました。
ユーリさんが興味深そうに、私の手のひらを指の関節部分でコンコンと叩きます。
「スキルか……これは魔法とは違うのか?」
「はい。そもそも、この世界にはそもそも魔法がありません。試しに感覚強化の魔法で区長様の視覚を強化してみたところとても驚いていらっしゃいましたから。一応、こちらの世界にも《遠見》という視覚を強化するスキルはあるそうですが、自分以外の人の視覚を強化することはできないそうです。私も試しに《鑑定》の魔石を使わせていただきましたが、適性が低いらしく、あまり詳しい情報を見ることはできませんでした。周囲の魔素の濃度くらいですね。人によっては物の品質を見たり、毒物のチェックができたりと、見えるものが変わるそうです。区長様のように相手の名前までわかる人は滅多にいないようですね」
「魔素の濃度を目で見れるってだけでも便利そうだけどな」
ユーリさんが言います。
そう思って、《鑑定》の魔石を譲っていただきました。
《鑑定》の魔石は比較的簡単に入手できるそうです。
「それで、魔石ってのはなんなんだ? 魔法晶石とは違うんだよな?」
「私も詳しくはわかりません。この世界特有の石でしょうか? アクリは何か知っていますか?」
アクリは元々のこの世界も知っていますから、彼女なら何かわかるかもしれないと尋ねました。
「ううん、少なくとも昔は魔石なんてものはなかったよ」
アクリも知らないようです。
となると、この世界の住人の大半が新世界に移動してから生まれた新技術でしょうか?
しかし、魔石からスキルを抽出する方法をアクリが知らないというのなら理解できますが、魔石そのものを知らないというのも妙な話です。
このような綺麗な石なのですから、昔からあるのであれば、宝石として珍重されていた可能性が高いですが。
「この石の雰囲気、どことなくダンジョンコアに似てますね」
私が考え込んでいると、クルト様がポツリと呟きました。
「ダンジョンコア? というと、魔素を吸収する石ですよね」
私たちの世界にあるダンジョンコアは、ダンジョンの心臓部とも言われる石です。
しかしその正体は、旧世界から魔素が溢れる場所に設置し、その魔素を吸収して外に漏らさないために設置されている魔道具の一種です。
シーン山脈の遺跡で大量に生産されているのを見たことがあります。
「パパの言う通りなら、魔素を吸収しやすい石が天然に存在して、その魔素を吸い込んだ結果、魔石に変異したってことかな?」
アクリがクルト様の一言から、魔石の正体の考察をしました。
さすがはクルト様です。
たった一言で魔石の正体に辿り着かせてくれるとは。
「魔石の正体がアクリの言う通りだとして、魔法を使うのに魔力が必要だろ? スキルには何を使うんだ?」
「特に使うものはないそうです。ただ、攻撃魔法のような外部に放てるものは少ないみたいですね。《回復》スキルというのも、使用者本人にしか使えないそうです。攻撃手段としては武器の中にエネルギーを蓄えて、一度に放出するものがあるそうです。例えばアイナさんは《炎の槍》というスキルにより、槍の中に炎を蓄えて一気に放出する技が使えるみたいですが」
「あの、リーゼさん。それで、ゴルノヴァさんとマーレフィスさんの情報は何かわかりましたか?」
やはりクルト様はそちらが気になりますわね。
私としては別に彼らがどうなっていようが関係ないのですが、クルト様が悲しむのは辛いですからね。
「聞いておきましたが、めぼしい情報はありません。ただ、第三十八居住区という場所に罪人の収容施設があるそうでして、彼らが何らかのトラブルを起こして捕まっているとしたらそこにいる可能性もあるそうです」
「場所はどのあたりなんだい?」
ユーリさんが尋ねたので、私は区長から貰った地図を広げます。
「ここが第二百五十七居住区になります。目的の第三十八居住区というのはここですね」
ここから徒歩で二日ほどの距離ですから、連行されている可能性はゼロではないでしょう。
ただ、区長様が仰るには居住区の外を出歩く人間というのは、魔物を狩るハンターがほとんどだけれども、彼らが襲われたと思しき場所には普通ハンターも近付かないそうです。
というのも、賢者の塔――この世界では悪魔の塔と呼ばれているそうですが、その付近には魔物が現れないうえに、賢者の塔に近付きすぎると塔に攻撃されてしまうので危ないという話があるそうです。
その防衛システムは魔物対策として用意されているもので、人間に対しては警告から行われるはずなのですが……魔物が襲われているのを遠くから見た人がたまたまいて、そういう噂が広がっているのでしょう。
「このバツ印がついているのは?」
「なんらかのアクシデントにより結界が破壊され、人が住むことができなくなった居住区です」
アクリから貰った地図と照らし合わせてみると、元々あった街の場所とも一致しますね。
「それと、持ってきた薬草汁も高値で売ることができました。これがその対価です」
私はそう言って紙の束を置きました。
「対価って、この紙が金なのか? あ、そうか。この世界は植物が少ないから紙が貴重品なのか?」
「ユーリさん、そんなわけないです。確かに紙は貴重品ですが、本来であれば貨幣の代わりになるものではありません。ですが、この世界ではそれが成り立っているのです」
「どういうことだ?」
「輸送隊ですよ。輸送隊との取引では、必ずこのポート札という紙のお金が使われる仕組みになっています。輸送隊がなければ外部からの商品の入手は困難なこの世界。彼らが使うお金をそのまま使うしか選択肢はなかったのです」
そして、そのポートの価値は全て輸送隊の人が決めることができます。
彼らがパパモモの実を一個百ポートだと伝えれば、パパモモ一個の価値が百ポートに決定するのです。
そして、原材料は紙なのですから、施設さえ整えば簡単に量産でき、そして輸送隊の人がそのポートでの取引を廃止すると決定すれば、この紙のお金は一夜にして無価値になります。
恐ろしいことに、この世界は行商人である彼ら輸送隊こそが、経済を全て牛耳っているのです。
もっとも、この魔素に満ちた世界での商品の輸送はそれだけリスクを伴うものということです。
できることなら、早いうちに輸送隊に接触して、彼らが持っている情報も得たいですね。
「リーゼさん、それでこのポート札はどのくらいの価値があるんでしょうか?」
「そうですね。金貨五百枚分くらいはあると思います。もちろん、私たちの世界とこの世界とでは為替レートなんてものはありませんから、私の感覚の話ですが。だいたい十万ポートで金貨一枚ってところですね」
「日常に使う単位が金貨と言ってる時点で、元王族の感覚があてにならないってのは理解できたよ」
ユーリさんが失礼なことを言います。
確かに普通の金銭感覚とは違うかもしれませんが、工房の資金を管理しているとそうなるんです。なにしろ、クルト様の所持金はもはや王国の国庫をも超えかねない勢いで増えていますから。
「やっぱりこの世界って薬があんまり発達していないんでしょうね。僕なんかが作った薬でそんな大金になるんですから」
クルト様が札束を見て勘違いした発言を仰いますが、ホムーロス王国内で売っても同じか、それ以上の額になります。
「このお金で交易品を購入することにしました。旅人を名乗るからには、交易品を持っていた方が自然ですから。今後はそれらしく馬車を使って移動しましょう」
「馬車って、この町の人は滅多に外に出たりしないんだろ? 売ってるのか?」
「いいえ、当然売ってません。なので一度元の世界に戻って、馬車は工房のものを使いましょう。デクも運動不足ですからちょうどいいです」
デクというのは工房で飼っている馬の名前です。
とても大食らいですが、大人しく力の強い馬なので整備されていない道でも荷車を引いて進むことができるでしょう。
「じゃあ、デク用の魔素を吸収する道具を作りますね」
私たちが使っているのは、シーン山脈にあるダンジョンの装置を、クルト様の叔父であるウラノ叔父さんが改良、 小型化と容量の増加に成功したものです。
これがあれば人間だけではなく、動物でも魔素の空間の中で生きることが可能です。
さすがはクルト様です。
もしかしたら、クルト様にかかればこの世界の全ての問題も解決するのではないでしょうか?
って、それはさすがに考えすぎですわね。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
明くる朝、早速、僕――クルトは行商人に扮するための準備に取り掛かった。
居住区に出かけて買い物をする。
店の種類は少ない。というか一店舗しかない。
この居住区では商品を売るのは自由だが、基本は委託販売――つまり、居住区で唯一の商店に商品を預け、そこで売ってもらうそうだ。
数は少ないが、昨日、僕が持ってきた薬も売られている。
多くの魔物の肉が売られていたが、野菜や穀物は貴重品なのか肉より値段が高く、さらに高いのが果物だった。
「旅人さんかい? 噂は聞いてるよ。上質な薬を持ってきてくれたんだってね。どうだい? 昨日ハンターさんが持ってきてくれた魚の燻製だよ。買っていかないかい?」
商店で働くおばちゃんが言うが、隣でリーゼさんがうめき声を上げた。
魚の見た目が、なんというか深海魚のそれに似ていた。
つまり、気味が悪い――グロテスクなのだ。
多分普通の魚じゃなくて、魚の魔物だと思う。
見た目はともかく、味は少し気になったのだが、リーゼさんが食べるには少し勇気がいりそうなので買うのはやめておこう。
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