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【アニメ化記念】前日譚
一年間の猶予
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「……ル……ル……クル、いい加減に起き!」
誰かに怒られて目を覚ましたら、目の前にはバンダナさんがいた。
「え? バンダナさん? あれ? 僕……」
「カエルの体当たりで気絶してたんやけど、覚えてない?」
「……あ」
そうだった。
戦いが始まって、直ぐに気絶したんだった。
カエルは、あ、死んでる。
バンダナさんが倒してくれたみたいだ。
「はぁ……僕、またなんの役にも立ちませんでした」
「そやね」
バンダナさんは否定せずに笑って頷いた。
「このままだと、マーレフィスさんがパーティを抜けるより前に、僕がパーティをクビになっちゃいますよ」
「その方がええんとちゃう? パーティメンバーって言っても、パーティ報酬の分け前は全く貰ってないやん。クルは料理は得意やし、料理人になったらどうや?」
「誘われたことありますけど、でも、僕、やっぱりゴルノヴァさんのパーティにいたいです。ゴルノヴァさんは僕の恩人なのに、まだ何の恩返しもできていません」
「そういや、クルとリーダーってどうやって出会ったん? クルの体調が回復するまで、ただ待ってるんも暇やから聞かせてや」
「わかりました……ええと、あれは僕がハスト村を出て一人で旅をしている時でした」
※ ※ ※
僕、クルトはハスト村を出て一人で冒険者になるため旅に出ることにした。
村のみんなは最初は反対したけど、両親と、そして裏のおじさんが後押しをしてくれ、最後は村のみんなを説得し、旅に出る許可を貰った。
そして、旅に出た翌日――
「死んじゃう死んじゃう死んじゃうっ!」
僕は泣きながら走っていた。
凶悪なゴブリンに追いかけられていたのだ。
相手は木の棒を持っている。
あんなので殴られたら死んじゃう。
全力で逃げていたが、僕はその時石に蹴躓いて転んでしまった。
絶体絶命のピンチだ。
死を覚悟した。
その時だった。
「ふんっ!」
通りがかりの剣士が僕を助けてくれた。
凄い。
あの狂暴なゴブリンを倒したなんて。
僕が子どもの頃に出会ったアーサーさんや、僕が生まれるより少し前、ゴブリンの集団に襲われたという村を助けてくれた伝説の剣士さんを彷彿とさせる。
「……英雄だ」
僕がポツリと呟くと、彼はこちらを振り返って手を差し出した。
「ありがとうございます」
僕はその手を取って立ち上がろうとしたのだが、僕が出した手を彼は払った。
「ちげぇよ、金だ! 命を助けてやったんだ。全財産俺様によこしやがれ」
「え? ごめんなさい。僕、お金持ってなくて」
「ちっ、なんだ、文無しかよ。助けて損したぜ」
とその時、剣士さんのお腹が鳴った。
もしかして、お腹が空いてるのだろうか?
「あの、食べ物なら持ってます。直ぐにご飯を作ります!」
「………………早くしろ」
僕は言われた通り、急いでご飯を作った。
そして――
「できました!」
「早すぎるだろ! 生煮えじゃないのかっ!?」
「ちゃんとできてるはずですよ」
僕が椀にスープを入れて手渡す。
彼はスープを訝し気に見たが、その匂いを嗅ぐと生唾を飲み、一口食べた。
そして――
一口食べた次の瞬間から一気に食べ続け、気付けば僕の分まで食べてしまっていた。
お腹空いてたんだ。
全て食べ終えて、
「腹が減ってたからいつもよりうまく感じたが、まぁまぁだな。おい、坊主。それで金だが――」
「はい、持ち合わせがなくて――働いて必ずお返しします」
「ゴブリンにまともに勝てねぇ奴の言葉が信じられるか。そうだな、荷物持ちとして働け。そして俺様のために飯を作れ。それで勘弁してやる」
「つまり、英雄様のパーティに入れてくれるってことですか?」
「なんでそうなる……いや、まぁ雑用もパーティか。坊主、名前は?」
「クルトです。クルト・ロックハンス」
「クルトか。俺様はゴルノヴァだ。せいぜい俺様のために尽くしやがれ」
とこれが、僕とゴルノヴァさんとの出会いだった。
※ ※ ※
「だから、僕が受け取る分の報酬は全てゴルノヴァさんに渡すことになってるんです」
「それって、命を助けてやった恩をかさに、奴隷にしてるんとちゃうん?」
「あはは、奴隷はこの国の法律では禁止されていますよ」
「だから脱法奴隷……ってまぁええわ」
バンダナさんはそう言って立ち上がると、カエルの右脚を切り取った。
冒険者ギルドに提出して、討伐証明とするためだろう。
「安心し、クル。とりあえずマーレフィスがパーティに残るかどうか決める一年後くらいまでは、クルがパーティに残れるようにしといたるわ」
「本当ですかっ!?」
「もちろんや。うちは嘘は言わんからな。バンダナに誓うわ」
バンダナさんがウインクして言った。
こうして今回の事件は終わった。
今回のカエル討伐で泉の汚染事件が解決した結果、炎の竜牙はAランクに昇格した。
その後もパーティは順調に魔物を討伐し、Sランクに昇格。
僕たち炎の竜牙はフェンリル討伐依頼を受けることになる。
SSランクへの昇格を賭けて。
この時の僕は忘れていた。
バンダナさんが僕を守ってくれる一年の期間が過ぎていたことに。
そして僕は――
【勘違いの工房主第一話に続く】
―――――――――――――――――――
次回はユーリシアの前日譚を更新予定
誰かに怒られて目を覚ましたら、目の前にはバンダナさんがいた。
「え? バンダナさん? あれ? 僕……」
「カエルの体当たりで気絶してたんやけど、覚えてない?」
「……あ」
そうだった。
戦いが始まって、直ぐに気絶したんだった。
カエルは、あ、死んでる。
バンダナさんが倒してくれたみたいだ。
「はぁ……僕、またなんの役にも立ちませんでした」
「そやね」
バンダナさんは否定せずに笑って頷いた。
「このままだと、マーレフィスさんがパーティを抜けるより前に、僕がパーティをクビになっちゃいますよ」
「その方がええんとちゃう? パーティメンバーって言っても、パーティ報酬の分け前は全く貰ってないやん。クルは料理は得意やし、料理人になったらどうや?」
「誘われたことありますけど、でも、僕、やっぱりゴルノヴァさんのパーティにいたいです。ゴルノヴァさんは僕の恩人なのに、まだ何の恩返しもできていません」
「そういや、クルとリーダーってどうやって出会ったん? クルの体調が回復するまで、ただ待ってるんも暇やから聞かせてや」
「わかりました……ええと、あれは僕がハスト村を出て一人で旅をしている時でした」
※ ※ ※
僕、クルトはハスト村を出て一人で冒険者になるため旅に出ることにした。
村のみんなは最初は反対したけど、両親と、そして裏のおじさんが後押しをしてくれ、最後は村のみんなを説得し、旅に出る許可を貰った。
そして、旅に出た翌日――
「死んじゃう死んじゃう死んじゃうっ!」
僕は泣きながら走っていた。
凶悪なゴブリンに追いかけられていたのだ。
相手は木の棒を持っている。
あんなので殴られたら死んじゃう。
全力で逃げていたが、僕はその時石に蹴躓いて転んでしまった。
絶体絶命のピンチだ。
死を覚悟した。
その時だった。
「ふんっ!」
通りがかりの剣士が僕を助けてくれた。
凄い。
あの狂暴なゴブリンを倒したなんて。
僕が子どもの頃に出会ったアーサーさんや、僕が生まれるより少し前、ゴブリンの集団に襲われたという村を助けてくれた伝説の剣士さんを彷彿とさせる。
「……英雄だ」
僕がポツリと呟くと、彼はこちらを振り返って手を差し出した。
「ありがとうございます」
僕はその手を取って立ち上がろうとしたのだが、僕が出した手を彼は払った。
「ちげぇよ、金だ! 命を助けてやったんだ。全財産俺様によこしやがれ」
「え? ごめんなさい。僕、お金持ってなくて」
「ちっ、なんだ、文無しかよ。助けて損したぜ」
とその時、剣士さんのお腹が鳴った。
もしかして、お腹が空いてるのだろうか?
「あの、食べ物なら持ってます。直ぐにご飯を作ります!」
「………………早くしろ」
僕は言われた通り、急いでご飯を作った。
そして――
「できました!」
「早すぎるだろ! 生煮えじゃないのかっ!?」
「ちゃんとできてるはずですよ」
僕が椀にスープを入れて手渡す。
彼はスープを訝し気に見たが、その匂いを嗅ぐと生唾を飲み、一口食べた。
そして――
一口食べた次の瞬間から一気に食べ続け、気付けば僕の分まで食べてしまっていた。
お腹空いてたんだ。
全て食べ終えて、
「腹が減ってたからいつもよりうまく感じたが、まぁまぁだな。おい、坊主。それで金だが――」
「はい、持ち合わせがなくて――働いて必ずお返しします」
「ゴブリンにまともに勝てねぇ奴の言葉が信じられるか。そうだな、荷物持ちとして働け。そして俺様のために飯を作れ。それで勘弁してやる」
「つまり、英雄様のパーティに入れてくれるってことですか?」
「なんでそうなる……いや、まぁ雑用もパーティか。坊主、名前は?」
「クルトです。クルト・ロックハンス」
「クルトか。俺様はゴルノヴァだ。せいぜい俺様のために尽くしやがれ」
とこれが、僕とゴルノヴァさんとの出会いだった。
※ ※ ※
「だから、僕が受け取る分の報酬は全てゴルノヴァさんに渡すことになってるんです」
「それって、命を助けてやった恩をかさに、奴隷にしてるんとちゃうん?」
「あはは、奴隷はこの国の法律では禁止されていますよ」
「だから脱法奴隷……ってまぁええわ」
バンダナさんはそう言って立ち上がると、カエルの右脚を切り取った。
冒険者ギルドに提出して、討伐証明とするためだろう。
「安心し、クル。とりあえずマーレフィスがパーティに残るかどうか決める一年後くらいまでは、クルがパーティに残れるようにしといたるわ」
「本当ですかっ!?」
「もちろんや。うちは嘘は言わんからな。バンダナに誓うわ」
バンダナさんがウインクして言った。
こうして今回の事件は終わった。
今回のカエル討伐で泉の汚染事件が解決した結果、炎の竜牙はAランクに昇格した。
その後もパーティは順調に魔物を討伐し、Sランクに昇格。
僕たち炎の竜牙はフェンリル討伐依頼を受けることになる。
SSランクへの昇格を賭けて。
この時の僕は忘れていた。
バンダナさんが僕を守ってくれる一年の期間が過ぎていたことに。
そして僕は――
【勘違いの工房主第一話に続く】
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次回はユーリシアの前日譚を更新予定
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