勘違いの工房主~英雄パーティの元雑用係が、実は戦闘以外がSSSランクだったというよくある話~

時野洋輔

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【アニメ化記念】前日譚

汚染の原因

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 僕のお願いをバンダナさんは快く受け入れてくれた。
 まだ日が昇っているうちに、森の奥の泉へと向かう。

「すみません、バンダナさん。突き合わせてしまって」
「ええよ、気にせんで。どうせうちも暇やったからな」

 バンダナさんは、そう、あっけらかんとした口調で言った。

「ところで、なんでクルはいまさら森に行きたいん? あの泉のことは忘れるのが全員にとってハッピーな結果ってなったやん」
「本当に全員なのでしょうか?」
「どういう意味や?」

 僕の問いに、バンダナさんは笑顔で尋ねた。

「だって、あそこにいた町の代表さんって地主さんとその関係者であって、畑を耕している人は来ていませんでしたよね?」
「まぁな……基本、こういう話し合いの場には出てけぇへんからな」
「でも、本当に苦しんでいるのは、その出てこない人たちだと思うんです。今回の責任が僕にあるのなら、やはり僕がなんとかしないといけないって思うんですよ」
「アハハハ、本当にクルはおもろいこと言うわ」

 冗談を言ったつもりはないのに、バンダナさんはお腹を抱えて笑い出した。

「僕たち……やなくて僕って言いきるところがクルの偉いとこやな」
「え? でも、やっぱり僕が悪いんじゃ……」
「ユニコーンを疎ましく思ってた地主、後継者になろうと下手なパフォーマンスをした地主の息子、地主に逆らえん農業ギルド、度重なる要求に碌な調査もせずに首を縦に振った冒険者ギルド、ユニコーンの角を求めたマーレフィス。責任転嫁をせぇとは言わんけど、責任を共有する相手なんて山ほどおるやん。なんでひとりでしょいこむかな」
「……多分、バンダナさんのお陰だと思います」
「うちのお陰? どういうことや?」
「だって、僕ひとりだと、責任を背負い込んでも支えきれずに倒れてしまいます。でも、頼れる仲間がいるとわかっていたら、支えてくれる仲間がいるってわかっていたら、頑張れるって思うんですよ」

 僕はそう言ってバンダナさんの顔を見た。
 バンダナさんは目を丸くし、意外そうな顔で僕を見下ろしていた。
 そして、「くくっ」と抑えたように笑った。

「そかそか、頼れる仲間か。クルも見る目があるやん! リーダーでもマーレフィスでもなく、うちのことを一番頼りになるって思っているんやな」

 バンダナさんは上機嫌に僕の背中を叩いた。
 ええと、バンダナさんのことは頼りになると思っているけれど、ゴルノヴァさんやマーレフィスさんを誘わなかったのは、きっとあのふたりは頼んでも来てくれないとわかっているからなんだけど。
 でも、バンダナさんが嬉しそうにしているから黙っておこう……かな?

 僕とバンダナさんは二人で問題の泉に向かっていた。
 泉に行く途中、鼻を刺す刺激臭が僕を襲って来る。
 毒の臭いだと思う。

「こりゃ、思ってたより深刻やな。これ以上は近付かれへん……クル、なにしとるん?」
「植物の種を撒いています。サンスベリアって知ってますか?」
「知っとるよ。別名、空気清浄植物やな……って、その種を撒いてどうするん……なぁ、クル。さっき撒いた種、なんでもう育って……いや、そやな。うん、植物はやっぱり人間に比べて成長早いな」

 バンダナさんが明後日の方向を向いて笑っていた。
 確かに、植物の成長の速さは僕も羨ましいと思う。
 最近、身長があまり伸びなくなってきてしまったので、植物のように大きくなって欲しいな――そんなことを思いながら、種から成長し、僕の身長を一瞬で追い抜いたサンスベリアを見上げた。

「ん? 毒の臭いが消えたな……あぁ、さすがはサンスベリアやな(んなわけあるかいっ!)」

 今度は僕に背中を向けてバンダナさんが言う。
 サンスベリアは空気を綺麗にする植物だから、空気中の毒を浄化するのは当たり前のことだ。
 とはいえ、サンスベリアで浄化できる範囲はせいぜい限られているので、途中、何度も種を植えながら進む。

「しかし、これだけサンスベリアを植えて、植物の生態系とか大丈夫なん?」
「繁殖しないように品種改良は加えていますから。ただ、数千年は枯れないと思いますけど」
「数千年か……そんな先、流石にうちも死んどるやろうな」

 バンダナさんが少し遠い目をして言った。

「そうですね。不老の薬とか飲まなければ百年も経たずに死んでるでしょうね」

 まぁ、不老の薬なんて飲んでも辛いだけだし、絶対に僕は飲まないけどね。
 そして、ようやく目的の泉にたどり着いたのだけれども、やはり泉は毒に侵されていた。
 小さな魚が泉の上に浮かんで死んでいる。

「可哀そう……僕がユニコーンを追い払ったから」
「……いや、クルのせいやないってのは冒険者ギルドで明らかになってるからな。それより、原因はなんなんやろ? もともと毒の湧き出る泉やったとかそういうオチやないやんな?」
「んー、地下水に異常は――」

 僕は持っていたナイフで地面を突く。
 すると、地下から水が噴き出した。
 見たところ、地下水に異常はない。

「ありませんね」
「…………」
「バンダナさん、どうしました?」
「いえ、大したことではないです」
「え?」
「いや、なんもない。気にせんといて」

 気にしないでほしいというので、泉の毒について集中的に考える。
 が、やはりわからない。

「とりあえず、浄化しましょうか」
「サンスベリアでも植えるん?」
「いえ、これだけ毒性が強いと植物も育たないので、とりあえず毒を中和してみます」

 僕はそう言って、持ってきていた器材で泉の水を掬い、その場にあったものと地下水を使い、中和剤になりそうな薬の調合を行う。
 百種類くらい薬を作り、そのうち効果があった薬を混ぜ合わせて泉の毒の中和剤が完成した。

「すみません、お待たせしました」
「いや、待ってへんよ……三十分くらいしか……」

 毒の泉の側で三十分も待たせたことに申し訳なく思いながらも、完成した中和剤を泉に撒く。
 あとはこれで――

「クルっ!」

 突然、バンダナさんが僕の首を掴んで後ろに放り投げた。
 刹那――泉の底から、巨大なカエルが現れた。

「どうやら、このカエルこそが、泉を汚染した原因だったらしいな。うわぁ、ヌメヌメして気持ち悪い。原因もわかったし、ここは一度帰って冒険者ギルドに丸投げしたいんやけど、流石に逃がしてくれへんか」
「なんだか怒ってますね」
「このカエル、たぶん自分の毒をばら撒いて外敵から身を護りつつ、毒で死んだ魚とか鳥とかを食べる魔物やわ。それでユニコーンがいなくなってようやく作り上げた毒の縄張りをクルトが一瞬で浄化してまうもんやから――」
「あ……それはなんだか悪いことをしたみたいですね」
「あかんで、クル。魔物の立場になって考えるのは悪くないが、同情をしたら本当に大事なもんを見失う。うちらは人間なんやから」

 そうだ。
 このカエルが毒を作る限り、川は毒で汚染され続ける。
 ここで倒さないと。
 僕はナイフを構え、そして――
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