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【アニメ化記念】前日譚
汚染災害
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ユニコーンと出会った三日後。
空いている時間を使い、ユニコーンの角、命属性の魔晶石、白樺の木等を組み合わせて、ユニコーンの角杖を作った。
マーレフィスさんは杖を作ったのが僕だったと聞いて不満そうな顔をしていたけれど、何度か素振りをし、回復魔法を試しに使ったら顔をほころばせた。
「材料がとてもいいからですわね。素人が作ったにもかかわらず、回復魔法の威力がとても上がりました」
「よかったです。ユニコーンの角を扱ってる鍛冶屋がいなかったのでどうしようかって思っていたんですよ」
バンダナさんがユニコーンの角から杖を作れる鍛冶師を捜しにいってくれたんだけど、結局見つからなかったらしい。それで、バンダナさんは僕に杖を作るように言った。
僕なんかが杖を作って、マーレフィスさんが納得してくれるのかって怖かったけれど、どうやら役目を無事に果たすことができたらしい。一安心した。
「良い杖じゃねぇか。俺様の炎の魔剣には劣るがな」
ゴルノヴァさんは、自分の剣の柄の上に手を置いて言った。
うん、ゴルノヴァさんの炎の魔剣は本当に凄いよね。最初は炎属性を持っている剣という程度だったんだけど、柄に埋め込まれていた壊れかけの魔晶石をルビーから作った魔晶石と入れ替え、魔力の通り道を作り、炎の属性と相性がいいヒヒイロカネを使って柄の部分をコーティングしただけで一度に何十匹もゴブリンを黒焦げにできる魔剣に進化した。まぁ、僕が使ってゴブリンと戦えば炎の威力が高くても炎を当てることすらできないと思う。
それに、ユニコーンの角杖に関しても、そもそも僕は回復魔法を使うことができないから意味がない。
本当に僕って戦いには不向きなんだよね。
「マーレフィス! 言っておくが、その角を手に入れたのもクルで、杖を作ったのもクルだ。言っていることはわかるな?」
ゴルノヴァさんが、杖を作ったのは僕であることを強調した。
もしかして、褒めてくれるのかな?
それとも、僕にお礼を言えとか言うのかな?
「なにを言いたいのですか?」
マーレフィスさんが尋ねた。
「つまり、その杖は俺様――『炎の竜牙』の財産ということだ。つまり、俺様のパーティを抜けるときは杖は置いていってもらうからな。そういう契約を結べ」
違った。でも、僕は不敵な笑みを浮かべるゴルノヴァさんの気持ちがとてもうれしかった。
きっと、ゴルノヴァさんはわかっていたんだ。
僕がユニコーンの角を採ってきたのは、マーレフィスさんにパーティを抜けてほしくなかったからだと。
その気持ちを汲んで、ゴルノヴァさんはそのような条件を出したのだろう。
「ありがとうございます、ゴルノヴァさん!」
「ん? 何言ってんだ、てめぇわ」
僕がお礼を言うと、ゴルノヴァさんが、まるで礼を言われる筋合いはないという感じで不思議そうな顔になった。
「わかりましたわ。まぁ、この杖にはそれだけの価値がありますし……ただし、契約期間は一年です。私の活躍次第では契約を撤回し、私の私物とさせていただきますよ」
「それはこっちの台詞だ。お前の活躍が芳しくなかったら、お前をクビにして別の法術師を雇うからな」
「うん、めでたしめでたしやな」
バンダナさんが笑って話を終わらせた。
本当にめでたしめでたしだ。
そう思ったとき、
「炎の竜牙の皆さん! ユニコーン討伐の依頼に関し、いますぐ冒険者ギルドに来てください! 緊急事態です!」
僕たちの泊まっている宿に、冒険者ギルドの職員がやってきた。
急な呼び出しを受けた僕たちは、「用事があるならギルドの連中が来ればいいだろ! なんで俺様が出向かないといけないんだ!」と憤るゴルノヴァさんをなんとか宥め、冒険者ギルドへと赴いた。
なにしろ、緊急事態だから。
どう緊急事態かはわからないけれど。
僕たちが通された大部屋には、冒険者ギルドの職員を含め、町の人何人かが揃っていた。
確か、あの人は……農業ギルドの人だったと思う。
冒険者ギルドは、畑を荒らす魔物の討伐依頼を良く受けるので、農業ギルドとのつながりは強い。
でも、なんで?
緊急事態と関係あるのだろうか?
「来てくださいましたか、『炎の竜牙』の皆様」
冒険者ギルドの支部長さんがそう言うと、町の人たちが僕たちを見た。
……なんか、怒っているような気がする。
もしかして、ゴルノヴァさんがなにかやっちゃったのかな?
だとしたら、また謝らないと。
「おい、俺様たちを呼び出した理由、いい加減に聞かせろ。つまんねぇ用事だったらただじゃおかねぇぞ」
「呼び出した理由は、皆様が討伐……いえ、撃退なさったユニコーンについて確認するためです。皆さまはどのようにユニコーンを撃退なさったのですか?」
「あぁん? 説明しただろ。ユニコーンがクルに懐いて、角を渡したから森の奥に帰って行ったんだ。おい、バンダナ。そう説明したんだろ?」
ゴルノヴァさんがそう言うと、バンダナさんが頷き、口を開いた――その時だった。
「嘘つけ! お前ら、泉に毒を流してユニコーンを追い払ったんだろ!」
「ああん、そんなことするわけないだろ。殺されてぇのか」
ゴルノヴァさんが殺気を出して剣を抜くと、文句を言った町の人はその場に倒れた。
「お、落ち着いてください、ゴルノヴァさん。あの、どうして僕たちが毒を流したと思ったんですか?」
「町の近くの川が毒塗れになったからに決まってるだろ! お陰で畑の野菜は全滅だ! もう少しで収穫だったっていうのに」
「そんな……でも、本当に僕は毒なんて流していません」
僕が必死にそう言うと、冒険者ギルドの職員さんも頷くように言った。
「クルト様の仰る通り、私も信用できる冒険者から、ほぼ同様の報告を受けていますし、話も一致します。泉に毒を放つような人間に、ユニコーンが自らの角を授けることはありません」
「なるほどな。つまり俺様たちは濡れ衣を着せられそうになったから、説明するためにこんな場所に来たくもないのに呼びつけられたってわけか。下らねぇ
ゴルノヴァさんは剣を鞘に収めると、室内だというのに唾を吐いて部屋から出ていった。
町の人は彼を止めようとしたみたいだけど、怒気に圧倒されて結局声をかけられなかったみたいだ。
「待ってください!」
マーレフィスさんは出て行ったゴルノヴァさんを追いかけた。
説得して一緒に帰って来てくれるかな?
「ありゃ、呼びに行ったフリをしてそのまま帰るパターンやな。うちらも帰っていいか?」
「待て! タイミング的に、お前らが何かしたに決まってるだろ?」
町の人が糾弾した。なにかしたって言われても、本当に心当たりがない。
「そやな。うちら、っていうよりクルが何かしたのは間違いないやろな」
「やっぱりそうか」
「勘違いすんなや。クルが毒を流したわけやないで。クルはユニコーンを追い払っただけや。泉が毒塗れやったんは、きっと昔からやろ」
「なにを言ってるんだ! 川に毒が流れ込んだのは一昨日から……」
「だから、泉にはもともと毒があって、ユニコーンが常に浄化してくれてたんやろ。それをクルが追い払ったから、毒が川に流れ込んだ。それだけの話や」
バンダナさんの推測に、全員言葉を失った。
沈黙が会議室を支配する中、口火を切ったのは、さっき僕に怒鳴りつけてきた男の人だった。
「つまり、お前らがユニコーンを追い払ったからこうなったんだろ! お前らが悪いんじゃないか」
「それはちゃうやろ? ユニコーンはつい最近までは討伐対象やなかった、いや、実際、その浄化能力から冒険者ギルドは保護推奨幻獣扱いしてたんや。冒険者ギルドの支部長、なんでユニコーンが討伐対象になったか、言ってくれるか?」
「それは……」
バンダナさんがそう言うと、冒険者ギルドの支部長さんは俯き、言葉を濁した。
彼女はその姿を見て、ケタケタと笑う。
そして、バンダナさんは言ったのだ。
「農業ギルドからの度重なる討伐要請のせいやろ? ユニコーンはたびたび畑に現れては作物を荒らす害獣やからな」
本来、この場に彼が訪れたのは、畑の被害者である農家と冒険者ギルドの仲裁のためだったのだろう。
自分に飛び火が来るとは思わなかった彼は、酷く狼狽し、そして力なく頷いた。
「……はい、その通りです。我々が冒険者ギルドに要請しました」
それを聞いて、町の人――畑が台無しになってしまった農家の人の顔色が青ざめた。
もしかして……そういうことなのかな。
「ええと、そこのあんさん。確か、大農園の地主の次男さんやったな。確か、大地主さんがいま病気で寝込んでいて後継者争いの結果、次期後継者になったという」
「なんでそんなこと知ってるんだっ!?」
「まぁな。それで、なんで長男でなく次男のあんさんが後継者になったか? ユニコーンの討伐要請をするように執拗に農業ギルドに掛け合い、冒険者ギルドを動かした結果、無事にユニコーンを森の奥に追い払うことが成功したことを高良かに宣言してたもんな。ユニコーンによるの被害額は毎年結構なもんやったらしいし。こりゃ大変やな」
「待て! ユニコーンがいなくなったことが原因で小川が汚染されたっていうのはあんたの推論だろ? 根拠はなにもない! きっと、別に原因があるんだ! そうに決まってる!」
彼がそう言うと、皆、黙り込んだ。彼の周りにいる人たちは、全員、彼の仲間なのだろう。
今回の事件、ユニコーンがいなくなったことが原因ではないということになったら、ユニコーンの討伐要請を農業ギルドに推した彼も、彼に推されて冒険者ギルドに討伐要請をした農業ギルドの職員さんも、ユニコーンの討伐依頼を出した冒険者ギルドも、最後にユニコーンから角を貰って、討伐報酬を受け取った僕たちも誰も傷つかない。
バンダナさんは、僅かな時間になにもなかったことにできる結論を導き出したのだ。
「そかそか、まぁ、本当に他の原因があるんやったら、それはハッピーやな。誰も傷つかない賢い答えや。ほな、うちらはもう関係ないな。ほな、クル。帰ろか」
バンダナさんは僕の肩を叩き、帰るように促した。
僕は無言で頷くと、黙って立ち上がった。
誰もそれを止めない。
このまま宿に帰る。
きっと、それが賢い選択なのだろう。
でも――本当に誰も傷つかないのだろうか?
部屋を出てから、僕はバンダナさんに尋ねた。
「あの、これから森に行くのでついてきてくれませんか?」
空いている時間を使い、ユニコーンの角、命属性の魔晶石、白樺の木等を組み合わせて、ユニコーンの角杖を作った。
マーレフィスさんは杖を作ったのが僕だったと聞いて不満そうな顔をしていたけれど、何度か素振りをし、回復魔法を試しに使ったら顔をほころばせた。
「材料がとてもいいからですわね。素人が作ったにもかかわらず、回復魔法の威力がとても上がりました」
「よかったです。ユニコーンの角を扱ってる鍛冶屋がいなかったのでどうしようかって思っていたんですよ」
バンダナさんがユニコーンの角から杖を作れる鍛冶師を捜しにいってくれたんだけど、結局見つからなかったらしい。それで、バンダナさんは僕に杖を作るように言った。
僕なんかが杖を作って、マーレフィスさんが納得してくれるのかって怖かったけれど、どうやら役目を無事に果たすことができたらしい。一安心した。
「良い杖じゃねぇか。俺様の炎の魔剣には劣るがな」
ゴルノヴァさんは、自分の剣の柄の上に手を置いて言った。
うん、ゴルノヴァさんの炎の魔剣は本当に凄いよね。最初は炎属性を持っている剣という程度だったんだけど、柄に埋め込まれていた壊れかけの魔晶石をルビーから作った魔晶石と入れ替え、魔力の通り道を作り、炎の属性と相性がいいヒヒイロカネを使って柄の部分をコーティングしただけで一度に何十匹もゴブリンを黒焦げにできる魔剣に進化した。まぁ、僕が使ってゴブリンと戦えば炎の威力が高くても炎を当てることすらできないと思う。
それに、ユニコーンの角杖に関しても、そもそも僕は回復魔法を使うことができないから意味がない。
本当に僕って戦いには不向きなんだよね。
「マーレフィス! 言っておくが、その角を手に入れたのもクルで、杖を作ったのもクルだ。言っていることはわかるな?」
ゴルノヴァさんが、杖を作ったのは僕であることを強調した。
もしかして、褒めてくれるのかな?
それとも、僕にお礼を言えとか言うのかな?
「なにを言いたいのですか?」
マーレフィスさんが尋ねた。
「つまり、その杖は俺様――『炎の竜牙』の財産ということだ。つまり、俺様のパーティを抜けるときは杖は置いていってもらうからな。そういう契約を結べ」
違った。でも、僕は不敵な笑みを浮かべるゴルノヴァさんの気持ちがとてもうれしかった。
きっと、ゴルノヴァさんはわかっていたんだ。
僕がユニコーンの角を採ってきたのは、マーレフィスさんにパーティを抜けてほしくなかったからだと。
その気持ちを汲んで、ゴルノヴァさんはそのような条件を出したのだろう。
「ありがとうございます、ゴルノヴァさん!」
「ん? 何言ってんだ、てめぇわ」
僕がお礼を言うと、ゴルノヴァさんが、まるで礼を言われる筋合いはないという感じで不思議そうな顔になった。
「わかりましたわ。まぁ、この杖にはそれだけの価値がありますし……ただし、契約期間は一年です。私の活躍次第では契約を撤回し、私の私物とさせていただきますよ」
「それはこっちの台詞だ。お前の活躍が芳しくなかったら、お前をクビにして別の法術師を雇うからな」
「うん、めでたしめでたしやな」
バンダナさんが笑って話を終わらせた。
本当にめでたしめでたしだ。
そう思ったとき、
「炎の竜牙の皆さん! ユニコーン討伐の依頼に関し、いますぐ冒険者ギルドに来てください! 緊急事態です!」
僕たちの泊まっている宿に、冒険者ギルドの職員がやってきた。
急な呼び出しを受けた僕たちは、「用事があるならギルドの連中が来ればいいだろ! なんで俺様が出向かないといけないんだ!」と憤るゴルノヴァさんをなんとか宥め、冒険者ギルドへと赴いた。
なにしろ、緊急事態だから。
どう緊急事態かはわからないけれど。
僕たちが通された大部屋には、冒険者ギルドの職員を含め、町の人何人かが揃っていた。
確か、あの人は……農業ギルドの人だったと思う。
冒険者ギルドは、畑を荒らす魔物の討伐依頼を良く受けるので、農業ギルドとのつながりは強い。
でも、なんで?
緊急事態と関係あるのだろうか?
「来てくださいましたか、『炎の竜牙』の皆様」
冒険者ギルドの支部長さんがそう言うと、町の人たちが僕たちを見た。
……なんか、怒っているような気がする。
もしかして、ゴルノヴァさんがなにかやっちゃったのかな?
だとしたら、また謝らないと。
「おい、俺様たちを呼び出した理由、いい加減に聞かせろ。つまんねぇ用事だったらただじゃおかねぇぞ」
「呼び出した理由は、皆様が討伐……いえ、撃退なさったユニコーンについて確認するためです。皆さまはどのようにユニコーンを撃退なさったのですか?」
「あぁん? 説明しただろ。ユニコーンがクルに懐いて、角を渡したから森の奥に帰って行ったんだ。おい、バンダナ。そう説明したんだろ?」
ゴルノヴァさんがそう言うと、バンダナさんが頷き、口を開いた――その時だった。
「嘘つけ! お前ら、泉に毒を流してユニコーンを追い払ったんだろ!」
「ああん、そんなことするわけないだろ。殺されてぇのか」
ゴルノヴァさんが殺気を出して剣を抜くと、文句を言った町の人はその場に倒れた。
「お、落ち着いてください、ゴルノヴァさん。あの、どうして僕たちが毒を流したと思ったんですか?」
「町の近くの川が毒塗れになったからに決まってるだろ! お陰で畑の野菜は全滅だ! もう少しで収穫だったっていうのに」
「そんな……でも、本当に僕は毒なんて流していません」
僕が必死にそう言うと、冒険者ギルドの職員さんも頷くように言った。
「クルト様の仰る通り、私も信用できる冒険者から、ほぼ同様の報告を受けていますし、話も一致します。泉に毒を放つような人間に、ユニコーンが自らの角を授けることはありません」
「なるほどな。つまり俺様たちは濡れ衣を着せられそうになったから、説明するためにこんな場所に来たくもないのに呼びつけられたってわけか。下らねぇ
ゴルノヴァさんは剣を鞘に収めると、室内だというのに唾を吐いて部屋から出ていった。
町の人は彼を止めようとしたみたいだけど、怒気に圧倒されて結局声をかけられなかったみたいだ。
「待ってください!」
マーレフィスさんは出て行ったゴルノヴァさんを追いかけた。
説得して一緒に帰って来てくれるかな?
「ありゃ、呼びに行ったフリをしてそのまま帰るパターンやな。うちらも帰っていいか?」
「待て! タイミング的に、お前らが何かしたに決まってるだろ?」
町の人が糾弾した。なにかしたって言われても、本当に心当たりがない。
「そやな。うちら、っていうよりクルが何かしたのは間違いないやろな」
「やっぱりそうか」
「勘違いすんなや。クルが毒を流したわけやないで。クルはユニコーンを追い払っただけや。泉が毒塗れやったんは、きっと昔からやろ」
「なにを言ってるんだ! 川に毒が流れ込んだのは一昨日から……」
「だから、泉にはもともと毒があって、ユニコーンが常に浄化してくれてたんやろ。それをクルが追い払ったから、毒が川に流れ込んだ。それだけの話や」
バンダナさんの推測に、全員言葉を失った。
沈黙が会議室を支配する中、口火を切ったのは、さっき僕に怒鳴りつけてきた男の人だった。
「つまり、お前らがユニコーンを追い払ったからこうなったんだろ! お前らが悪いんじゃないか」
「それはちゃうやろ? ユニコーンはつい最近までは討伐対象やなかった、いや、実際、その浄化能力から冒険者ギルドは保護推奨幻獣扱いしてたんや。冒険者ギルドの支部長、なんでユニコーンが討伐対象になったか、言ってくれるか?」
「それは……」
バンダナさんがそう言うと、冒険者ギルドの支部長さんは俯き、言葉を濁した。
彼女はその姿を見て、ケタケタと笑う。
そして、バンダナさんは言ったのだ。
「農業ギルドからの度重なる討伐要請のせいやろ? ユニコーンはたびたび畑に現れては作物を荒らす害獣やからな」
本来、この場に彼が訪れたのは、畑の被害者である農家と冒険者ギルドの仲裁のためだったのだろう。
自分に飛び火が来るとは思わなかった彼は、酷く狼狽し、そして力なく頷いた。
「……はい、その通りです。我々が冒険者ギルドに要請しました」
それを聞いて、町の人――畑が台無しになってしまった農家の人の顔色が青ざめた。
もしかして……そういうことなのかな。
「ええと、そこのあんさん。確か、大農園の地主の次男さんやったな。確か、大地主さんがいま病気で寝込んでいて後継者争いの結果、次期後継者になったという」
「なんでそんなこと知ってるんだっ!?」
「まぁな。それで、なんで長男でなく次男のあんさんが後継者になったか? ユニコーンの討伐要請をするように執拗に農業ギルドに掛け合い、冒険者ギルドを動かした結果、無事にユニコーンを森の奥に追い払うことが成功したことを高良かに宣言してたもんな。ユニコーンによるの被害額は毎年結構なもんやったらしいし。こりゃ大変やな」
「待て! ユニコーンがいなくなったことが原因で小川が汚染されたっていうのはあんたの推論だろ? 根拠はなにもない! きっと、別に原因があるんだ! そうに決まってる!」
彼がそう言うと、皆、黙り込んだ。彼の周りにいる人たちは、全員、彼の仲間なのだろう。
今回の事件、ユニコーンがいなくなったことが原因ではないということになったら、ユニコーンの討伐要請を農業ギルドに推した彼も、彼に推されて冒険者ギルドに討伐要請をした農業ギルドの職員さんも、ユニコーンの討伐依頼を出した冒険者ギルドも、最後にユニコーンから角を貰って、討伐報酬を受け取った僕たちも誰も傷つかない。
バンダナさんは、僅かな時間になにもなかったことにできる結論を導き出したのだ。
「そかそか、まぁ、本当に他の原因があるんやったら、それはハッピーやな。誰も傷つかない賢い答えや。ほな、うちらはもう関係ないな。ほな、クル。帰ろか」
バンダナさんは僕の肩を叩き、帰るように促した。
僕は無言で頷くと、黙って立ち上がった。
誰もそれを止めない。
このまま宿に帰る。
きっと、それが賢い選択なのだろう。
でも――本当に誰も傷つかないのだろうか?
部屋を出てから、僕はバンダナさんに尋ねた。
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