【完結】チートスキル『早着替え』で異世界無双 ~脱衣も着衣もお手の物~

戸部家尊

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第三章 兜を脱ぐは脱兎の如く

第23話 裸馬の捨て鞭 下

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第23話 裸馬の捨て鞭 下


 黒い影は木々の隙間を軽やかに進んでいた。諭吉と一定の距離を保ちながら、時折振り返りながら獣道を走って行く。

 誘っているな、とすぐに見当がついた。さもなければ、木立に視界をさえぎられてとっくに見失っていただろう。

 諭吉は黒い背中を追いかけながら腹の奥が熱くなるのを感じていた。どういう理由があるかは知らないが、あいつ・・・の格好をして諭吉の前に何度も現れたのだ。一発殴ってやらねば気が済まない。向こうも聞きたい事は山ほど有るだろうがこちらも同じだ。爺様・・が何と言おうと、今日こそ確かめてやる。

 細い山道を抜け、小高い丘を下ったところで開けた場所に出た。
 黒い鎧はそこにいた。二メートルほどの岩の上にうつむいて座り込んでいる。

「よう、お疲れか」
 諭吉は呼吸を整えると、鎧の前に出た。右手はいつでも鳴らせるように構えている。反応はなかった。

「熱かっただろ? 手伝ってやるよ」
 見せつけるように指を鳴らそうとした途端、背後から無数の岩が飛んできた。反射的に諭吉は指を鳴らした。

 『早着替え』で奪い取った黒い鎧を装着する。一瞬遅れて、鎧の上から岩が次々と浴びせられる。衝撃までは防げず、仰向けに倒れる。岩石の魚群が駆け抜けていったのを確かめると、諭吉は立ち上がり、騎士の座っていた場所を見た。何もない。

「やっぱり空っぽか……ぐっ?」

 不意に全身に衝撃を感じて、その場に膝をつく。黒い鎧がまるで生き物のように、諭吉の体を内側から締め付けていた。諭吉は当惑した。当然『裾直し』は使っていない。脱ごうにも体どころか手足も動かせず、今度はうつ伏せに倒れた。

「しまった、罠か」
【ザンネンダッタナ】

 岩の陰から黒い騎士が現れる。間違いない。領主の館で現れた、あの鎧だ。

【キサマノタメノトクベツセイダ。ソウカンタンニトケルマホウデハナイ】

 呪いの鎧か、と諭吉は得心がいった。着た人間を動けなくする魔法がかかっているのだろう。だんだん感覚がおかしくなってくる。既に指も動かせない。それどころか、喋ることすら覚束なくなってきた。昔、歯医者で麻酔を掛けられた時のように舌で口の中を触っても感覚が鈍い。締め上げるだけでなく麻痺させる効果もあるようだ。

 このままでは呼吸すらできなくなれば、諭吉の人生はそこで終わる。
 目線を上げると、黒い騎士が目の前に立っていた。

【ドウシタ? ナニカイイタコトガアルカ?】
 諭吉はろれつの回らなくなった口を使い、きっぱりと言った。

「ゆきちはのろわれてしまった」
 と、有名RPGのミュージックエフェクトを口ずさむ。顔を踏まれた。

【ワケノワカラナイコトヲ】
 兜越しとは言え、地面に押しつけられるとますます呼吸しづらくなる。

【イカニキサマトテ、コノジョウキョウハドウショウモアルマイ】
「まあ、そうだな」

 この状況を脱する知恵やアイディアと言われてもすぐには思いつかない。時間さえあれば何かしら閃くかもしれないが、その前に命が尽きるだろう。

「だから力ずくで行くことにしたよ」

 次の瞬間、黒い騎士が見えない鎖に縛られたかのように体をすくめ、もがきながらその場に横倒しになる。仕掛けは単純。『交換エクスチェンジ』で諭吉の着ていた呪いの鎧を、そっくりそのまま黒い騎士に着せてやっただけだ。

 元の制服姿に戻った諭吉は体の節々を伸ばしながら立ち上がると、芋虫のように地面を這いずる黒い騎士を見下ろした。

「といっても俺の場合、『早着替え』押しなんだけどさ」
【ナ、ナゼダ】
 兜の下から当惑の声が漏れる。

【アレホドマホウガコンナカンタンニ……】
「それはだな、最初から間違っているんだよ」
 諭吉は哀れむような声音で言った。

「魔法で『スキル』に敵うわけがない」

 魔法と違い、『スキル』はこの世界の物理法則と相反する力だ。いくら魔法で縛ろうとも『スキル』の前では意味がない。

「『早着替え』に掛かったら呪いの鎧だろうと、簡単に着替えられるってことだよ」
 第一、呪いならとっくに掛かっている、と心の中で付け加える。

『お願い……』

 不意に頭の中にあの時の光景が甦る。
 腕の中であの女・・・が体温を失っていく。最早助からない、とわかっていながらも手を握らずにいられなかった。

 あの時、諭吉は確かに涙を流していた。死に向かうあの女・・・への悲嘆か、過酷な運命への哀れみか、助けられなかった罪悪感か。そんな諭吉をあやすかのように、震える指で涙を拭い、微笑む。まさに聖女か天使かと思った。

 けれど違った。あの女・・・は、悪魔だったのだ。次の瞬間、諭吉は呪われたのだから。

『私の……』
 
 土を掘る音で諭吉は我に返る。

 黒い騎士が息も絶え絶えな様子で、指で地面をえぐっていた。逃げようとしているのか、どこかに隠し持っている武器を取り出そうとしているのか。

 やがて、がっくりと項垂れる。敗北を悟った、というより鎧の魔力で締め付けられ、身動きが取れなくなっているのだろう。放っておけば、先程の諭吉のように呼吸困難になってしまうかも知れない。

「仕方ねえな、助けてやるよ」

 死なれるのも死なせるのも本意ではないので、指を構えながら後ずさる。解放した直後に攻撃されてはたまらない。呪いの鎧を剥ぎ取ると同時に、『クローゼット』の中にあるロープで手足をぐるぐる巻きにするので、ろくな抵抗はできないと思うが念のためだ。

 魔法を使ってくるようなら口もふさぐ。あらゆる状況を想定して対処法を練っておくのは、戦術の基本である。とにかく油断は大敵だ。
 様々な状況を想定しながら諭吉は指を鳴らした。

 予想外のことが起こった。

 目の前にいるのは、全裸で両手両足を縛られたローズマリー校長だった。

「え、あ、お」

 困惑する諭吉の目の前でローズーマリー校長の目が光った。縛られた手で土の上を払う。下から現れた短剣を器用に指先でつまみ上げると、刃先を返し、手首を縛っていたロープを切り裂いた。続けて足首のロープも切る。

 手品のように取り出した短剣に諭吉は自身の迂闊さを呪った。ローズマリー校長はこの事態を予測していたのだろう。鎧ごと『早着替え』で奪われないように、もがき苦しんでいる振りをして、短剣を地面に隠していたのだ。

 縄目の付いた手足に構わず、しなやかな肢体を躍らせる。短剣を片手に、裸の美女が雄叫びを上げて襲いかかってくる。その事実が諭吉の頭の中を真っ白にした。

 それでも迫り来る命の危機に、とっさに指を鳴らし、短剣を『クローゼット』の中へと奪い取る。続けて魔法対策にと、手持ちの手拭いで猿ぐつわを噛ませた。

 武器を失い、魔法を封じられてもローズマリーの突進は止まらなかった。素足で地を踏みしめ、振り上げた右拳が諭吉の顎を打ち抜いた。

 目の前で花火が爆発した気がした。目が眩み、膝を折り、地に倒れ、そのまま意識が遠のいていく。

 気絶する瞬間、裸のローズマリー校長が目に入った。
 服はどうするんだろうと、それだけが気になった。
 
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