【完結】チートスキル『早着替え』で異世界無双 ~脱衣も着衣もお手の物~

戸部家尊

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第五章 異世界人は手套を脱す

第33話 天衣無縫

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第33話 天衣無縫

 今より約五十年程前、日本各地で何者かによる誘拐や爆破、殺人などの凶悪事件が頻発していた。

 とある秘密結社による組織的な犯行だった。一部では人体実験を行っているとも噂されたが、警察も公安も真相を掴めずにいた。怪物を見た、と証言する者もいた。犠牲者は日を追うごとに数を増し、不安と恐怖が日本中を支配しつつあった。

 ところがある時期を境に、被害は減少していく。謎の人物が犯人グループと戦闘し、戦闘不能あるいは死亡させた。目撃者は口を揃えて証言した。

「怪物と戦う騎士を見た」
「素手で怪物と戦い、叩きのめした」
「金色と銀色のが二人いた」

 騎士についてテレビや新聞、雑誌は様々な憶測を書き立てた。警察の対テロ特殊部隊、自衛隊の新兵器、米軍の機械兵士、悪魔、妖怪、新番組の宣伝、等々。もっともらしいものから荒唐無稽なものまで様々な説が乱れ飛んだ。

 騎士の存在は海外でも取り上げられた。地球という箱船を救う戦士、という意味から『箱船の救世主THE SAVER OF ARK』と名付けられた。その名前は日本に逆輸入され、『悪を成敗する』に引っかけ、彼らのことを日本では『アークセイバー』と呼ぶようになった。

 やがて、秘密結社はリーダーと目された存在の死亡により壊滅と発表され、『アークセイバー』の存在は都市伝説の闇に消えた。

 秘密結社壊滅後、しばらくして残党が別組織を立ち上げ、再び牙を剥いた。その際立ち上がったのは、また別の『アークセイバー』だった。

 その後もマッドサイエンティストや邪教集団、日本壊滅のための犯罪者組織、異星人や異次元の侵略者が相次いで罪なき人々を苦しめた。だが、必ず何処からか新たな騎士たちが現れた。彼らはいずれも『アークセイバー』を名乗り、悪魔の軍団と戦っていった。

 いつしか『アークセイバー』とは都市伝説上のヒーローとして広く日本中に広まっていった。
 現在でもSNSや動画サイトには、『アークセイバー』とおぼしき騎士と、異形の怪物との死闘が数多く投稿されている。だがそれらの多くはCGや特撮技術を使ったニセモノであり、真相はいまだ藪の中にある。

 剣なき人を守る騎士。生命と尊厳のために悪党と戦う正義の味方。だから諭吉もこの鎧を身に纏った時、『アークセイバー』を名乗った。

 本物が聞いたら怒るかも知れないが、まさか世界を超えてウワサも届かないだろう。


 『ロストナンバー』が白い毛を逆立て、震える手で諭吉を……否、『タナトス』を指さす。

「『冥王の鎧』を人間が着られるわけがねえ……まさか、お前も『リターナー』か?」
「俺がお前みたいな真っ白オオカミさんに見えるのか?」
 大げさに両手を広げながら肩をすくめてみせる。

 確かに、『冥王の鎧』を着た人間は全ての魔力を吸い取られて命を落とすという。例外はない。

「残念だったな。人間だよ、間違いなく」

 ただし異世界の。と心の中で付け加える。はじめから魔力を持たないが故に、魔力を吸い取られることもない。だからこそ、諭吉は召喚されたのだ。

 『ロストナンバー』が前傾姿勢を取る。隙を窺っているのだろう。いつでも飛びかかれる体勢だが、それは『タナトス』を敵と認めた瞬間でもあった。

 『冥王の鎧』が『リターナー』に対し、特殊効果を持っているのを知っているからだ。それは『再生阻害』、『リターナー』の特性である超再生能力を無効化する。何度砕かれても再生し、たとえ全身を粉微塵に消滅されられたとしても三日もあれば生き返る。

 痛覚もあまりないらしく、死なないと、生き返るとわかっていればムチャも出来るし、命を省みない戦法もやりたい放題だ。それが『冥王の鎧』の前では通用しない。

 普通の人間のように傷つき、ケガをすれば痛みが走る。そして致命的なダメージを負えば、死ぬ。不死身の『リターナー』ですらも例外ではない。死はいつか必ず訪れる。冥王のもたらす死からは何人たりとも逃れられない。

 その権化が目の前にいるのだ。牙を剥き、爪を研ぎ、唸り、咆哮を上げるのは当然だった。
 死を恐れるが故に。

「そういえば自己紹介がまだだったな」
 『タナトス』が拳を突き出す。

「冥土の土産に教えてやるよ。俺の名前は伊藤諭吉。日本の高校教師・・・・だ」

 勤務先の高校へと出勤途中に異世界に召喚された挙げ句に、もう一度、学生をやるとは思ってもみなかった。

 他校の生徒とのタイマンなど、教育委員会に知られたら確実に懲戒免職だろう。もっとも、たれ込むようなマスコミもなければ、七面倒くさいPTAもいない。ならば盛大にやってやるまでだ。

 手甲越しに指を鳴らす。手の中に現れたのは、白い羽根である。
「確か、これで良かったんだよな」

 意識を集中させると、手の中で一瞬で燃えて灰になる。
 大陸に古くから伝わる、決闘の合図だ。

「テメエの死に装束、俺が着せてやるよ」

「クソがああっ!」

 『ロストナンバー』が叫ぶなり『タナトス』の周囲を駆け回る。前後左右、頭上や足下付近を電光の勢いで疾駆し、跳躍し、這い回る。獲物をいかになぶり殺そうかと愉悦に浸っているかのような動きだが、縦横無尽に駆け回るその顔は全く笑っていなかった。『タナトス』にはわかっていた。目にも留まらぬ程の高速移動が、速度で勝っていると安堵を得るための回避行動に過ぎない、と。

 白い狼の影が背後に回った瞬間、軌道が変わった。土煙を上げて地を蹴ると短剣が如き爪を伸ばし、『タナトス』の背中目がけて振り下ろす。五本の刃となって黒い鎧に耳障りな音を立てる。それだけだった。

「……っ!」
 ゆっくりと振り返ると、白い狼の顔があった。目を泳がせ、歯を食いしばり、明らかに動揺を見せていた。

「何かやったのか?」
 煽ってやると、鋭い目が急速に血走った。咆哮を上げ、体当たりを仕掛けてきた。『タナトス』はよけもせず、されるがままに、もつれ合うように後方へ吹き飛び、波打ち際に倒れる。そこへ『ロストナンバー』が馬乗りになる。

 『冥王の鎧』を破壊すべく、拳を乱れ打つ。鞭をしならせるように拳を叩き付け、振り回し、殴りつける。その度にいびつな金属音が鳴り響く。黒い打楽器と化した『冥王の鎧』を装着者もろとも粉砕すべく、体重を乗せて更に拳を繰り出す。硬いものが当たる音に混じって血しぶきが飛び散り、夜の波が静かに攫っていく。

「どうだ、テメエ……。挽肉に、して……」

 両拳を紅く染めながら、息も絶え絶えに勝ち誇る。『リターナー』に呼吸は必要ないが、体力は無尽蔵ではない。全力を出し続ければ、消耗する。

「気は済んだか」

 冷ややかに告げると、『ロストナンバー』を片手で突き飛ばす。
 砂埃を払いながら立ち上がる。『冥王の鎧』には、破壊どころか傷一つ付いていない。と、『タナトス』は自分の手を指さす。

「ケガしてるぜ」
 『ロストナンバー』の両拳は出血し、肉が削げ、骨が剥き出しになっていた。爪も既に剥がれ、いずこかへ飛び散っている。

「痛みを感じないってのも考え物だな」

 痛覚は身体の異常を告げる信号である。痛みを感じないのと、タメージがないのは違う。ムリをすれば致命的なダメージに繋がり、行動不能に陥る。

 本来の『リターナー』であればそれでも良かったのだろう。傷はすぐに再生するし、死んでも甦る。だが、目の前にいるのは間違いなく、『リターナー』にとっての死神である。

「なら今度はこっちの番だな」
 『タナトス』が意識を集中させると、頭の中に無機質な声が響く。

 『Promptus. Aliquam disciplinam』

 『冥王の鎧』自身の意志である。『冥王の鎧』とは、数千にも及ぶ『リターナー』の集合体。膨大な力と意識が凝縮し、抽出した結晶である。装着した段階で諭吉の潜在意識から抽出した音声を自動的に選択する、のだそうだ。

 『Gladius in exitium』

 手の中に巨大な剣が現れる。『タナトス』の背丈ほどもある黒い大剣が月光に染まり、蒼い光を纏っている。『冥王の鎧』に付与されている装備の一つ、『破滅の剣』である。『リターナー』の再生無効、ダメージ倍増、防御力減少などの特殊効果を備えている。

 『タナトス』はそれを軽々と振りかぶると、横に薙ぎ払う。『ロストナンバー』の反応は俊敏だった。軌道を見切り、バックステップを取る。黒い刃が、白い狼男の毛一本分の見切りで胸の前を通り過ぎていく。続けて縦に振り下ろし、再び横に振り払うもかすりもせず、紙一重でかわされる。

 『破滅の剣』の特殊効果を知っているかどうかはわからないが、かなり警戒しているようだ。両腕を負傷しているせいもあるだろうが、回避に専念し、逃げ回っている。それでも脱兎の如くこの場を離脱しないのは、まだ勝負を諦めていないのだろう。仲間の仇を取るという復讐心か、自分なら勝てるという驕りか、あるいは『上位種トップランカー』としての誇りか。

 いずれにせよ、時間が惜しい。『クラウン』のせいで、『リターナー』百体の復活は目前だ。手負いの狼に手間取っている暇はない。

「お着替えの時間だ」

 『タナトス』は『破滅の剣』を高々と振り上げると、地面に突き刺した。

「これでいいか? お前の嫌いな剣はもうないぜ、犬っころ」
 自分でもどうかと思うほどあからさまな挑発だったが、効果は覿面だった。

 『ロストナンバー』は一瞬、逡巡したものの、身を屈め、地面すれすれを這うように向かってくる。このまま突っ込めば足を食いちぎられると思わせるような勢いだった。『タナトス』は迎撃の態勢に入った。半身になって拳を構える。間合いに入った瞬間、『ロストナンバー』の姿が消えた。わずかに白い影を残像が捉えていた。上だ。

 砕けた両手で地面を叩き、加速を付けて『タナトス』の頭上を強襲する。
 巨大な口を開け、鋭い牙で兜ごと『タナトス』の頭をかみ砕こうとして、その動きが空中で止まる。

 地面に広がる魔法陣から飛び出した半透明の棺桶が『ロストナンバー』の全身を包み込んでいた。『破滅の剣』にはこういう使い方もある。

「残念だったな。犬っころ」

 冷たく言い捨てると、『タナトス』は宙返りをして距離を取ると高々と舞い上がる。跳び蹴りの体勢に入る。『ロストナンバー』が身悶えをして棺桶からの脱出を図る。だが、薄紫色に光るそれは彼の体にぴったりと嵌まり、背伸びすらままならないようだった。

 『memento mori死を思え

 冥王の死刑宣告がなされた。

 同時に発射音がして魔法陣からやはり半透明の十字架が飛び出し、棺桶の前後左右を塞いだ。

「おい、よせ、やめろ、おい! わかった、俺の負けだ。負けでいい。降参だ」

 もはや脱出もかなわず、迫り来る絶対の死を前に哀れに懇願する。
 『タナトス』が地を蹴った。空中で一回転すると右足を赤く光らせ、ギロチンの如く急降下する。

本当に・・・死んじまうだろうが!」

 驚愕と恐怖に染まる『ロストナンバー』の眼前に、禍々しく明滅する赤い光が飛んでくるのが見えた。

 『beyond the grave』

 『タナトス』の蹴りが棺桶ごと『ロストナンバー』の心臓を貫いた。
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