ジェンダーレス男子は花を愛でる

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7✿幼馴染

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「おーい、紫陽!一緒に帰ろうぜ。」

 脱力感に苛まれながら紫陽がトボトボ帰っていると後ろから雅紀がやって来た。

「あれ?お前部活は?」

「今日は顔合わせだけ♪紫陽も入ればいいのに!サッカー部。あんなに上手いのに勿体ねぇーよ。」

「いや、部活はもういい。」

「そ?まぁお前はテストで1位取らなきゃだもんな~笑」

(いやもうほんと、コイツ空気読めねぇ・・・)

「今回は無理っぽいけどな・・・」

 紫陽は諦めたように溜め息をつきながら力なく答えた。

「マジか?!お前が自信ないの珍しいな~何かあったのか?」

 雅紀はニヤニヤしながら紫陽の反応を窺っている。


「・・・何かって?」

「華園と何かあったのかな~って。」

「・・・お前まさか?!」

 雅紀の問いかけの意図に気付いた紫陽は慌てて立ち止って振り向いた。

「いや、わざとじゃねぇから!たまたま下駄箱行ったら目撃しちまっただけだから!笑」

(あ~もう、最悪だ。。入学してから俺ほんとついてない。)

「あれは、その、アイツに聞きたいことがあったのに聞いていいか躊躇って、誤魔化そうとしたら変な風に・・・」

「花は好きかって?笑」

「あーーもうッ!!忘れろよ!」

 雅紀は腹をかかえて笑いながら紫陽の背中をバシバシ叩いてきた。

「華園か~男だってわかっててもあのレベルの美人さだとうっかり惚れちまっても仕方ないよな~」

「惚れ・・・は??いや、そんなんじゃねーし。」

 珍しく余裕のない紫陽の反応が面白くて雅紀はついつい揶揄いたくなる。

「でも気になるんだろー?お前が人にそこまで興味持つの珍しいじゃん?」

「いや、それはアイツが首席だからであって・・・」

 そこまで言うと紫陽が急に遠くを見て立ち止った。

「紫陽?」

 雅紀も立ち止って紫陽が見ている方向に目をやると、葵が男と手を繋いで楽しそうに笑いながら歩いているのが見えた。

「うわ、、あれ彼氏か??」

 そう口に出した雅紀ははっとして紫陽の顔色を窺う。

(もしかして紫陽ショック受けてるんじゃ・・・)

「あいつ、男が好きなのか?ジェンダーレス男子って言うから恋愛対象は女かと思って・・・って、何?」

 ポカンとした顔をしている雅紀を見て紫陽が首を傾げる。

「あ、いや、びっくりするくらい冷静だったから・・・妬いたりしねぇのかと思ってさ。」

「誰に?」

「あの男に!」

「いや、だから俺は別に華園のことは何とも思ってねぇーし。」

(確かに気にはなっているが、あくまでそれはライバルとしてだしな・・・ん?じゃあアイツこそ彼氏いるのに俺にキスしてきたってことじゃないか!そもそも何で俺がアイツの言動にいちいち振り回されなきゃなんないんだ!?よく考えたら腹立って来た・・・)

「はぁ・・・。帰って勉強する。」

「え?」

「帰って猛勉強して次のテストこそ俺が1位とってやるよ!!クソッ」

 急にそう言って走っていってしまった紫陽の後ろ姿に呆気にとられて立ち尽くす雅紀。

「あはは。あれ無自覚か??それだと失恋して躍起になってるように見えるぜ紫陽・・・」

 続けざまに親友の見た事のない一面が見れて面白くて仕方がない雅紀だった。


____________


「ハァハァ・・ッ、部活辞めて完全に運動不足だな。」

 走り疲れて息切れした紫陽は自販機で水を買い、すぐ側にあったベンチに座り込んだ。

 そこは川沿いの綺麗な遊歩道になっていたが、今は慌しく工事の音が鳴り響いていた。

(ここ塀が出来るんだな。確か前の台風で増水してヤバかったとか雅紀が言ってたような・・・)

 紫陽が水を飲みながらそんな事を考えていると、

「隣、いいかな?ちょっと歩き疲れてしまって・・・ここしかベンチが見当たらなくてね。」

 そう声をかけてきた若い男性は杖をつきながらおぼつかない足取りでゆっくりと歩いて来てた。

「あ、どうぞ。」

「ありがとう。」

 紫陽がベンチの端へ寄ってスペースを開けると、男性は笑顔で礼を言って隣に腰を下ろした。

(ん?あれ、この男・・・)

「えッ!」

「ん?どうかしたのかな?」

「あ、いや・・・・」

 紫陽の隣に座った男性はまさかの、、つい先程葵が手を繋いで歩いていた男だったのだ。

(こんなことってあるか?・・・気まずい。しかも華園ともさほど親しくもないのにさっき華園と居ましたよねとか聞くのは変だろ!?何てごまかせば・・・)

 紫陽が何か言うべきか迷っていると、男性は特に気にしてなさそうで、工事している方を眺めながらゆっくりと呟いた。

「ここの川、前に増水して大変だったの知ってる?やっと塀ができる事になったんだね・・・何年も前から危ないって言われてたのに今更やっとだよ。」

「・・・・」

 含みのあるような物言いに何て答えるべきか紫陽が迷っていると、

「あぁ、急にごめんね。」

 男性はそう申し訳なさそうに笑うと、右膝を撫でるようにして出来かけの塀を悲しそうに見つめている。

 大学生くらいだろうか、、歳はそこまで離れていないように見える。真面目そうで柔らかい雰囲気のまさに『いい人』という感じが滲み出ているような人だった。

「・・・ここで何かあったんですか?あ、言いたくなかったら別にいいんですけど・・・その、気になって。。」

 気まずそうに紫陽がそう問いかけると、少し時間を置いてから男性はゆっくりと話しだした。



「去年の夏。5つ歳下の幼馴染がここで亡くなったんだ。」





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