鬼畜ゲーとして有名な世界に転生してしまったのだが~ゲームの知識を活かして、家族や悪役令嬢を守りたい!~

ガクーン

文字の大きさ
32 / 115

初めての限界突破 その2

しおりを挟む
~医療室~

 ここはアルザニクス家の医療室。寝台が十台ほど並び、部屋の隅には常に医療員が駐在している。

 そんな医務室には、今回の決闘で怪我をしたエバンが一人、寝台に横になり、体を休めていた。

 そこへ丁度、アルスが来訪し、横になっているエバンへと近づいていく。

「やあ、エバン。体の調子はどうだい?」

「あっ、アルス様。少し痛みはありますが、体を動かす分には全然問題ありません。ガイル様が手加減してくださったおかげで、明日にでもアルス様の護衛に復帰できそうです」

 お父様……、エバンに手加減なんてしてたのか? 俺にはそう思えなかったが。

 エバンはアルスの声に気づくと、咄嗟に礼を尽くそうと、痛みをこらえ、寝台から起き上がる。が、すぐにアルスが「そのままでいい」と返事したため、寝たままの格好で会話が始まった。

「そうか……、エバンが無事で何よりだ。それにしてもいい勝負だったぞ。あのお父様相手にあそこまで奮闘するなんて」

 これはお世辞ではなく、アルスの本心だ。

 本当は一太刀を入れるどころか、軽くあしらわれて終わると思っていたなんて、口が裂けても言えないけどな……

 もし、エバンが勝負に負けていたら、どうにかしてガイルに認めてもらおうと、あの手この手を考えていたアルスだったが、そんな状況に陥らなくて、内心ホッとしていた。

「そのような風に言っていただけるのは嬉しいのですが……」

 エバンは何か、感情を詰まらせた様子で俯く。

「どうしたんだ? 私でよければ聞いてやるぞ」

 違和感を感じたアルスは、話を聞こうと思い、近くに置いてあった椅子をエバンの寝台の横へと移動させ、腰を落ち着かせる。

「はい……。ちょっと、心の整理がついていないので……、上手くアルス様に私の心情を説明するのは難しいのですが……」

 エバンは言葉を区切り区切り、途切らせながら、自分が言いたいことを言葉として表していった。

「ただ単純に、ガイル様と私の間にある差がありすぎて、途方に暮れていた。というのが正しいでしょうか……、あそこまで私が強くなれる想像がつかなかったのです」

 エバンは握りこぶしを無意識に握り締め、思い悩むように話す。

「もちろん、昔とは比べ物にならないほど強くなりました。それに……、アルス様に拾われてからというもの、衣食住には困ることなく、私自身が天職と思えるような仕事。いえ、この命に代えても、アルス様を生涯お守りするという、為さなければならない目的まで頂きました」

 エバンはポツリポツリと心の奥底に沈んでいたモノを吐き出し、アルスへとぶつけていく。

「その目的を達成する為には、王国一。世界一、強くならなくてはならないと己の胸に刻み、修練に励んできました。ですが、今日初めて、ガイル様という、本物の強者。大きな壁が立ちはだかり、これまでの修練に意味はあったのか。誰もが憧れる英雄を超えていけるのかという疑問が胸に浮かんでしまいました」

 なるほどな……。

 誰もが一度は経験したであろう、自分自身に立ちはだかる大きな壁。その壁は一度、目の前に立ちはだかると、ちっとやそっとの力ではびくともしない、頑丈な障壁として、乗り越えるまで立ちふさがる。

 そうか……、エバンにもやってきたんだな。この時が。

 アルスは優しく声かけをする訳でも、叱咤する訳でもなく、ただ話を聞くだけに留まり、エバンが話すのを静かに待つ。

「心の何処かでは……、このままでいい。自分は頑張っているという自己満足な気持ちがあったのかもしれません。そんなこれまでの自分が恥ずかしく、それでいて情けなく感じてしまったのです。これでは、アルス様に合わせる顔がない……、そうとも思っていました。私は……、この先どうしたら……」

 エバンは思いつめたように、強く握りしめた手を、胸の前へと置く。そして、落胆したアルスを見るのが怖いといった様子で、小さく震える。

 エバンが初めて見せた、弱い心に触れるアルス。

 エバンはこんなに思いつめていたのか……、でもよく、俺に心情を明かしてくれたな。

 アルスはそんなエバンの行動一つに、嬉しくなる。

 俺がかける言葉はただ一つだ。

 するとアルスはエバンへと体を寄せ、肩に手を乗せると、エバンが静かに顔を上げる。

「エバン……、君は絶対に強くなる。お父様よりもだ!」

 アルスは確信していると言わんばかりに自信を持ってはっきりと言う。

「え?」

 思いもよらない言葉にエバンは驚き、目を点にしながらも、耳を傾け続ける。

「出会った時に言ったはずだ、『私がする事を信じて付き従う』と。だからもう一度言おう。君は強くなる。……これだけ言っても信じられないと言うのなら、私の名に誓ってもいい。……これでも何か不安か?」

 アルスは何度もエバンへ言葉をかけ続け、そばへと寄り添う。そんなアルスに心の奥底まで侵入を許したエバンは、目尻から一筋の涙を流すと、エバンの手を握り締めて。

「もう大丈夫です……。私がアルス様に命を救われて以来、心から信じていると思っていたのですが、心の奥底ではまだ、信じてきれていなかった部分があったのかもしれません。ですが、今日この日から、いつ、何があろうとも、全力でアルス様を守り、絶対に信じきると決めました」

 エバンは何か吹っ切れたような、清々しい目でアルスへと答える。

「なんだ……、そう考えると、何でもできる気がしてきました。今日からエバンは生まれ変わります! 本当にありがとうございます」

 もう大丈夫そうだな。

 アルスは元気を取り戻したエバンを見て、一安心する。

「そうだエバン。鑑定をしてみてもいいかな?」

 アルスは一安心したせいか、ふと、今回の決闘でステータスに何か変化があったのではと思い、鑑定眼鏡を取り出す。

「もちろんです」

 エバンはどうぞと返事をする。

 よし。じゃあ、鑑定を……

 「え?」

 そこには、思いもよらない数値が広がっていたのだった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

ハズレスキル【地図化(マッピング)】で追放された俺、実は未踏破ダンジョンの隠し通路やギミックを全て見通せる世界で唯一の『攻略神』でした

夏見ナイ
ファンタジー
勇者パーティの荷物持ちだったユキナガは、戦闘に役立たない【地図化】スキルを理由に「無能」と罵られ、追放された。 しかし、孤独の中で己のスキルと向き合った彼は、その真価に覚醒する。彼の脳内に広がるのは、モンスター、トラップ、隠し通路に至るまで、ダンジョンの全てを完璧に映し出す三次元マップだった。これは最強の『攻略神』の眼だ――。 彼はその圧倒的な情報力を武器に、同じく不遇なスキルを持つ仲間たちの才能を見出し、不可能と言われたダンジョンを次々と制覇していく。知略と分析で全てを先読みし、完璧な指示で仲間を導く『指揮官』の成り上がり譚。 一方、彼を失った勇者パーティは迷走を始める……。爽快なダンジョン攻略とカタルシス溢れる英雄譚が、今、始まる!

チートスキルより女神様に告白したら、僕のステータスは最弱Fランクだけど、女神様の無限の祝福で最強になりました

Gaku
ファンタジー
平凡なフリーター、佐藤悠樹。その人生は、ソシャゲのガチャに夢中になった末の、あまりにも情けない感電死で幕を閉じた。……はずだった! 死後の世界で彼を待っていたのは、絶世の美女、女神ソフィア。「どんなチート能力でも与えましょう」という甘い誘惑に、彼が願ったのは、たった一つ。「貴方と一緒に、旅がしたい!」。これは、最強の能力の代わりに、女神様本人をパートナーに選んだ男の、前代未聞の異世界冒険譚である! 主人公ユウキに、剣や魔法の才能はない。ステータスは、どこをどう見ても一般人以下。だが、彼には、誰にも負けない最強の力があった。それは、女神ソフィアが側にいるだけで、あらゆる奇跡が彼の味方をする『女神の祝福』という名の究極チート! 彼の原動力はただ一つ、ソフィアへの一途すぎる愛。そんな彼の真っ直ぐな想いに、最初は呆れ、戸惑っていたソフィアも、次第に心を動かされていく。完璧で、常に品行方正だった女神が、初めて見せるヤキモチ、戸惑い、そして恋する乙女の顔。二人の甘く、もどかしい関係性の変化から、目が離せない! 旅の仲間になるのは、いずれも大陸屈指の実力者、そして、揃いも揃って絶世の美女たち。しかし、彼女たちは全員、致命的な欠点を抱えていた! 方向音痴すぎて地図が読めない女剣士、肝心なところで必ず魔法が暴発する天才魔導士、女神への信仰が熱心すぎて根本的にズレているクルセイダー、優しすぎてアンデッドをパワーアップさせてしまう神官僧侶……。凄腕なのに、全員がどこかポンコツ! 彼女たちが集まれば、簡単なスライム退治も、国を揺るがす大騒動へと発展する。息つく暇もないドタバタ劇が、あなたを爆笑の渦に巻き込む! 基本は腹を抱えて笑えるコメディだが、物語は時に、世界の運命を賭けた、手に汗握るシリアスな戦いへと突入する。絶体絶命の状況の中、試されるのは仲間たちとの絆。そして、主人公が示すのは、愛する人を、仲間を守りたいという想いこそが、どんなチート能力にも勝る「最強の力」であるという、熱い魂の輝きだ。笑いと涙、その緩急が、物語をさらに深く、感動的に彩っていく。 王道の異世界転生、ハーレム、そして最高のドタバタコメディが、ここにある。最強の力は、一途な愛! 個性豊かすぎる仲間たちと共に、あなたも、最高に賑やかで、心温まる異世界を旅してみませんか? 笑って、泣けて、最後には必ず幸せな気持ちになれることを、お約束します。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

ダンジョン冒険者にラブコメはいらない(多分)~正体を隠して普通の生活を送る男子高生、実は最近注目の高ランク冒険者だった~

エース皇命
ファンタジー
 学校では正体を隠し、普通の男子高校生を演じている黒瀬才斗。実は仕事でダンジョンに潜っている、最近話題のAランク冒険者だった。  そんな黒瀬の通う高校に突如転校してきた白桃楓香。初対面なのにも関わらず、なぜかいきなり黒瀬に抱きつくという奇行に出る。 「才斗くん、これからよろしくお願いしますねっ」  なんと白桃は黒瀬の直属の部下として派遣された冒険者であり、以後、同じ家で生活を共にし、ダンジョンでの仕事も一緒にすることになるという。  これは、上級冒険者の黒瀬と、美少女転校生の純愛ラブコメディ――ではなく、ちゃんとしたダンジョン・ファンタジー(多分)。 ※小説家になろう、カクヨムでも連載しています。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

魔法使いが無双する異世界に転移した魔法の使えない俺ですが、陰陽術とか武術とか魔法以外のことは大抵できるのでなんとか死なずにやっていけそうです

忠行
ファンタジー
魔法使いが無双するファンタジー世界に転移した魔法の使えない俺ですが、陰陽術とか武術とか忍術とか魔法以外のことは大抵できるのでなんとか死なずにやっていけそうです。むしろ前の世界よりもイケてる感じ?

処理中です...