鬼畜ゲーとして有名な世界に転生してしまったのだが~ゲームの知識を活かして、家族や悪役令嬢を守りたい!~

ガクーン

文字の大きさ
80 / 115

画面越しの君 起点

しおりを挟む
「こ……これは……」

 目の前に広がる光景に愕然とし、アルスは小さく呟く。 

 湧き上がる焦りを無理やり飲み込みながらアルスが初めに目にしたのは、あらゆる豪華な服に身を包んだ貴族達がこちらを注目し、ひそひそと話しながら拍手をする光景であった。

 
 右も左も貴族だらけ……

 この世界に転生しての初の光景に飲み込まれそうになっていたアルス。

「大丈夫よアルス。周りは見ないで胸を張って歩きなさい」

 すると、サラがアルスだけに聞こえるように話す。


 そ、そうだ。

 無意識に親の後を追い、ぎこちない歩き方だったのを修正し、いつも通りの堂々とした歩き方に様変わりさせる。


 背筋を伸ばし、顎は引く。目線は前に……お母様たちの後に続け。

 こうしてアルスは己と格闘しながらも、長々と続く一本のカーペット上を歩き、アルザニクス家に用意されている席へと無事到着する。


 あともうちょっと……

 緊張を表に出すことなく、席へと到着したアルスは、会場の給仕に椅子を引かれ、着席する。

「ふぅー」


 やっと到着した……

 アルスにとって初めて経験する、息も出来ぬ時間。もし、アルス一人で入場する事になっていたら、無様な結果に終わっていただろう。


「ははっ。アルス、緊張してたな」

 ガイルは公の場だから、大笑いはしないものの、アルスを見て笑みを浮かべる。

「偉いわアルス。初めての食事会で堂々と歩けるなんて。流石私達の子ね」

 サラも嬉しそうに微笑む。

「いえ、会場の雰囲気に飲まれそうになっていた時、お母様の声が聞こえたお陰で我を失う事無く歩くことが出来ました」

 こうして、アルスは周囲を観察しながらも落ち着いた様子でガイル達と会話をしていると。

「アルス。来たぞ」

「お父様?」

 ガイルが視線を向ける先に注目すると、そこにはアルス達が先ほど入ってきた扉が鎮座しており、ゆっくりと開かれている最中であった。


 お父様たちとの話に夢中で、家名の読み上げに気づかなかった……

 周囲の貴族たちも一様に扉へと視線を向けており、並々ならぬ人物がそこにいる事が予想できる。


 ドクンッ

「ん?」

 アルスは自身の心臓が大きく鼓動するのを感じた。


 一体どうしたんだ?

 アルスの視線は扉から外さないまま、手を胸に置き、胸のざわめきを抑えようとする。


 その時。

「っ!」

 周囲から歓声が沸き上がる。


 ドクンッ!


 大きな歓声。一体どんな人物に向けてなのだろう……

 アルスは手を胸に当てたまま、大きく開いた扉を凝視し、向こう側にいるであろう人影を見る。

 すると……


「あっ、あれは……まさか」

 男性と女性と思われる人物に挟まれた、一回りは小さい人物。

 その人物にアルスの視線が流れるように吸い付くと、何故かその人物から離れなくなってしまう。


「ジーヴァ・ゾル・ウィンブルグ様、エルサ・ゾル・ウィンブルグ様……」

 入場してきた人物達の名前が呼ばれる中。



 ウィンブルグ家……王国にただ一つしかない家名がアルスの耳に入る。

 
 絶対にあの子だ。


 アルスは確信し、周りの時間がゆっくりと経過する感覚に陥る。



 あぁ、この世界がグレシアスだと分かったあの日から一日たりとも忘れたことが無い……



 その間にもある人物に対するこれまでの溢れんばかりの感情がアルス自信を襲っていた。



 初めてグレシアスをプレイして、彼女を画面越しに見た瞬間に夢中になってしまった時から……ストーリーを進めていくごとに彼女のキャラに惹かれていったし、プレイするたびに彼女の行動には驚かせられた。



 それからは何度も何度もプレイし、彼女の情報を片っ端から集め、彼女のルートをひたすら周回するといった、常人には考えられないことも沢山やった……



 でも、その時はなんでこんなことをしているのか自分にも全く理解できていなかったけど……

 

 今ならハッキリと分かる。

 笑顔が一番似合い、悲しい顔が一番似合わない彼女を悪役令嬢という嫌われる運命から……いや、呪縛から救ってあげたかった。

 


 しかし、グレシアスは残酷で、彼女がハッピーエンドになる世界線は何処にも用意されていなかった……




 でも、今は……今回は違う!


 俺はこの世界に転生するという、最高の贈り物を手にすることが出来た……


 力を入れた握りこぶしを無意識に作る。


 彼女と同じ舞台に俺は立っているんだ!


 アルスは自身を持って彼女を見つめる。



 今回なら彼女を待ち受ける最悪な運命を変えることが出来る!


 彼女があんな悲惨な結末を遂げていい訳が無いからな……




 アルスは一粒の涙を零しながら、一段と両手を固く握り、彼女の名前を呟く。



「アメリア・ゾル・ウィンブルグ」



 この瞬間。グレシアスの世界を辿っていた運命が大きく動きだす。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

ハズレスキル【地図化(マッピング)】で追放された俺、実は未踏破ダンジョンの隠し通路やギミックを全て見通せる世界で唯一の『攻略神』でした

夏見ナイ
ファンタジー
勇者パーティの荷物持ちだったユキナガは、戦闘に役立たない【地図化】スキルを理由に「無能」と罵られ、追放された。 しかし、孤独の中で己のスキルと向き合った彼は、その真価に覚醒する。彼の脳内に広がるのは、モンスター、トラップ、隠し通路に至るまで、ダンジョンの全てを完璧に映し出す三次元マップだった。これは最強の『攻略神』の眼だ――。 彼はその圧倒的な情報力を武器に、同じく不遇なスキルを持つ仲間たちの才能を見出し、不可能と言われたダンジョンを次々と制覇していく。知略と分析で全てを先読みし、完璧な指示で仲間を導く『指揮官』の成り上がり譚。 一方、彼を失った勇者パーティは迷走を始める……。爽快なダンジョン攻略とカタルシス溢れる英雄譚が、今、始まる!

チートスキルより女神様に告白したら、僕のステータスは最弱Fランクだけど、女神様の無限の祝福で最強になりました

Gaku
ファンタジー
平凡なフリーター、佐藤悠樹。その人生は、ソシャゲのガチャに夢中になった末の、あまりにも情けない感電死で幕を閉じた。……はずだった! 死後の世界で彼を待っていたのは、絶世の美女、女神ソフィア。「どんなチート能力でも与えましょう」という甘い誘惑に、彼が願ったのは、たった一つ。「貴方と一緒に、旅がしたい!」。これは、最強の能力の代わりに、女神様本人をパートナーに選んだ男の、前代未聞の異世界冒険譚である! 主人公ユウキに、剣や魔法の才能はない。ステータスは、どこをどう見ても一般人以下。だが、彼には、誰にも負けない最強の力があった。それは、女神ソフィアが側にいるだけで、あらゆる奇跡が彼の味方をする『女神の祝福』という名の究極チート! 彼の原動力はただ一つ、ソフィアへの一途すぎる愛。そんな彼の真っ直ぐな想いに、最初は呆れ、戸惑っていたソフィアも、次第に心を動かされていく。完璧で、常に品行方正だった女神が、初めて見せるヤキモチ、戸惑い、そして恋する乙女の顔。二人の甘く、もどかしい関係性の変化から、目が離せない! 旅の仲間になるのは、いずれも大陸屈指の実力者、そして、揃いも揃って絶世の美女たち。しかし、彼女たちは全員、致命的な欠点を抱えていた! 方向音痴すぎて地図が読めない女剣士、肝心なところで必ず魔法が暴発する天才魔導士、女神への信仰が熱心すぎて根本的にズレているクルセイダー、優しすぎてアンデッドをパワーアップさせてしまう神官僧侶……。凄腕なのに、全員がどこかポンコツ! 彼女たちが集まれば、簡単なスライム退治も、国を揺るがす大騒動へと発展する。息つく暇もないドタバタ劇が、あなたを爆笑の渦に巻き込む! 基本は腹を抱えて笑えるコメディだが、物語は時に、世界の運命を賭けた、手に汗握るシリアスな戦いへと突入する。絶体絶命の状況の中、試されるのは仲間たちとの絆。そして、主人公が示すのは、愛する人を、仲間を守りたいという想いこそが、どんなチート能力にも勝る「最強の力」であるという、熱い魂の輝きだ。笑いと涙、その緩急が、物語をさらに深く、感動的に彩っていく。 王道の異世界転生、ハーレム、そして最高のドタバタコメディが、ここにある。最強の力は、一途な愛! 個性豊かすぎる仲間たちと共に、あなたも、最高に賑やかで、心温まる異世界を旅してみませんか? 笑って、泣けて、最後には必ず幸せな気持ちになれることを、お約束します。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

ダンジョン冒険者にラブコメはいらない(多分)~正体を隠して普通の生活を送る男子高生、実は最近注目の高ランク冒険者だった~

エース皇命
ファンタジー
 学校では正体を隠し、普通の男子高校生を演じている黒瀬才斗。実は仕事でダンジョンに潜っている、最近話題のAランク冒険者だった。  そんな黒瀬の通う高校に突如転校してきた白桃楓香。初対面なのにも関わらず、なぜかいきなり黒瀬に抱きつくという奇行に出る。 「才斗くん、これからよろしくお願いしますねっ」  なんと白桃は黒瀬の直属の部下として派遣された冒険者であり、以後、同じ家で生活を共にし、ダンジョンでの仕事も一緒にすることになるという。  これは、上級冒険者の黒瀬と、美少女転校生の純愛ラブコメディ――ではなく、ちゃんとしたダンジョン・ファンタジー(多分)。 ※小説家になろう、カクヨムでも連載しています。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

魔法使いが無双する異世界に転移した魔法の使えない俺ですが、陰陽術とか武術とか魔法以外のことは大抵できるのでなんとか死なずにやっていけそうです

忠行
ファンタジー
魔法使いが無双するファンタジー世界に転移した魔法の使えない俺ですが、陰陽術とか武術とか忍術とか魔法以外のことは大抵できるのでなんとか死なずにやっていけそうです。むしろ前の世界よりもイケてる感じ?

処理中です...