鬼畜ゲーとして有名な世界に転生してしまったのだが~ゲームの知識を活かして、家族や悪役令嬢を守りたい!~

ガクーン

文字の大きさ
87 / 115

不穏な空気 その2

しおりを挟む
 プレイヤーが介入できないイベント。つまり、固定イベントでキルク王子が暗殺されるからだ。

 王国戦争が始まる少し前の事。いつも通り、戦争前の準備として内政等をこなしていると突然、映像が切り替わり、キルク王子が暗殺される固定イベントへと飛ばされる。

 このイベントはグレシアスというゲームをやっている以上、絶対に起こるイベントかつ、事前にキルク王子を保護していようと必ず起こってしまうモノであった。


 避けられない死。

 アルスは何十通り以上の方法で、キルク王子をこのイベントから回避させようと奮闘したが、その甲斐むなしく最終的にはキルク王子の死という結果で終わる。


 だけど今回は違う。俺はグレシアスをプレイするプレイヤーとしてではなく、転生者として。登場人物としてこの地に降り立つことが出来た。それならば、キルク王子排除しようと働く力。つまり、固定イベントからキルク王子を守り、後に王として成長させる事でアメリアを救えるのではないかと考えたのだ。


 しかし問題まだ沢山ある。前世、キルク王子に働いていた力が今回も働く可能性は十分にあり得るし、何より。キルク王子が王になると決断してくれるかも不明だ。


 参加者のほとんどが王子達の話を聞いている中、アルスは一人椅子に座り、思考に耽る。


『では、キルク王子! 皆様に一言、お言葉を頂ければと……』

 司会者はキルクに話を振る。

『えぇ。もちろんです』

 心地よい声がアルスの耳へと届く。


 この声は……キルク王子。

 アルスはふと顔を上げ、耳を傾ける。

『私はお兄様たちの様に何か優れているモノ……というのを持ち合わせておりません。ですが、一つ一つ……』

 特別な発言をしている訳でも無い。それなのに惹きつけられるような力を言葉の一つ一つに感じる。


 まだ誰にも気づかれていない、キルクが唯一他の王子に勝る力。


 キルクの話が終わると自然と会場全体から大きな拍手が送られる。

『ありがとうございます……』


 そして、拍手によって会場に響き渡る音が徐々に増していったある瞬間。


 パリンッ

「ん?」

 アルスの後方で不穏な音が静かになる。


 何か割れる音が聞こえたような気が……

 周囲に気を向けるアルス。


 周りは誰も反応していない……

 アルスは感じた音の正体を探る為、後ろへ振り向こうとした時。

「アルスも聞こえたか?」

 ガイルと目が合い、頷くアルス。


 お父様は聞き取っていたか。確か、音を感じたのはあのあたりから……

 そしてアルスは今一度、音を感じた方向。右後方斜め上あたりへと振り向く。


 俺の気のせいか? でもな……

 これだという確信は無いのに、何かがおかしいというアルスの勘が警告を鳴り響かせる。

 そしてアルスの脳裏に。

『この会場に良からぬ輩が忍び込んでいます。何が目的なのかは調べが付きませんでしたが、お気を付けて……』


 ふと、エッセンの言葉が蘇る。


 何故今になってこの言葉が気になるんだ……。

 っ! もしや……

 アルスに一つの考えが生まれる。
 
 この会場には自分たちが通ってきた通り口と、王族専用の出入り口の二つしか通路はない。もし、その通路を使おうとしても厳重な警備が待ち受けている。


 待てよ……侵入できる場所があるじゃないか。

 アルスはこの会場に侵入者がいるのではないかと考えたのだ。


 アルスは2階部分をぐるっと見回す。


 2階に設置されている空気を入れ替える用の窓。あそこからなら可能だ……

 それにさっきの音。良く考えてみると、ガラスが割れたような音に似ていた気が……まさか!

 アルスはもう一度音がした方向へと視線を向ける。


 何か違和感は無いか? 何か……

 アルスは目を凝らし、チリ一つ逃さないといった気持ちで2階を注目する。


 何もない……あっ! あれは!

 すると、不自然に物陰へと隠れ、光る何かを手に取る仕草をする人影を発見する。

「お父様!」

 拍手によって音がかき消される中、アルスは大声で人影が見える場所を指さす。

「どうした……っ!」

 ガイルは驚いた表情でアルスを見ると、どうしたんだ? といった様子で指し示す方向へと視線を向ける。


「あれは……弓! 敵か!」

 会場の二階。それも警備兵の死角となっている場所で、弓を持つ侵入者が薄暗闇の中、光る矢じりを携えた弓矢を引こうと構えている所であった。


 あいつらは何を狙っている? この会場の中で一番の警護対象と言ったら……王子達か!

 侵入者が弓を向けるのはステージ上に座る王子達。


 ここからじゃ、あの侵入者を止められない……

 侵入者を止める方法を必死に考えるアルスを横に、ガイルは席から勢いよく立ち上がると。

「お……お父様?」

 近くにいた警備兵へと駆けよっていき。


「剣を借りるぞ!」

「が、ガイル様!? 会場では……」

 必死の形相で警備兵の剣を取り上げ、2階に見える侵入者へと体の方向を合わせる。


 こんな時に一体何を……あっ! そういう事か!

 アルスがガイルの考えを理解した瞬間。

「はぁ!」

 ガイルが足腰に力を入れ、剣を持った手を振りかぶると、ものすごい勢いで剣を投擲した。


 その剣は一直線に侵入者の元へと飛んでいく。

 その投擲された剣に気が付いた侵入者は体をひねろうとするも。

「ぐはっ!」

 時すでに遅し。

 反応速度を上回る剣が、胸元に深々と突き刺さり、ゆっくりと倒れる。


「よし!」

 その光景の一部始終を見ていたアルスは大きなガッツポーズを繰り出す。


 ひとまず、最悪の事態は免れた。


「キャア!」「ひ、人が死んでるぞ!」「だ、だれか!」

 その直後。2階で起こっている惨事を発見した食事会参加者が悲鳴を上げる。


『お、お静まり下さい! 皆様! その場から動かず、私からの案内をお待ちいただきますようお願いします! もう一度繰り返します! その場から……えっ? 少々お待ちください!』


 侵入者がいる事はもう伝わったか。


 司会者の迅速な対応の元、この事件が幕を閉じたかに見られたその時。


「まだだ!」

 ガイルらがいる反対側にも一人……いや、それ以上の数の侵入者らしき者たちが会場内を取り囲むように武器を持ち、現れたのだった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

ハズレスキル【地図化(マッピング)】で追放された俺、実は未踏破ダンジョンの隠し通路やギミックを全て見通せる世界で唯一の『攻略神』でした

夏見ナイ
ファンタジー
勇者パーティの荷物持ちだったユキナガは、戦闘に役立たない【地図化】スキルを理由に「無能」と罵られ、追放された。 しかし、孤独の中で己のスキルと向き合った彼は、その真価に覚醒する。彼の脳内に広がるのは、モンスター、トラップ、隠し通路に至るまで、ダンジョンの全てを完璧に映し出す三次元マップだった。これは最強の『攻略神』の眼だ――。 彼はその圧倒的な情報力を武器に、同じく不遇なスキルを持つ仲間たちの才能を見出し、不可能と言われたダンジョンを次々と制覇していく。知略と分析で全てを先読みし、完璧な指示で仲間を導く『指揮官』の成り上がり譚。 一方、彼を失った勇者パーティは迷走を始める……。爽快なダンジョン攻略とカタルシス溢れる英雄譚が、今、始まる!

チートスキルより女神様に告白したら、僕のステータスは最弱Fランクだけど、女神様の無限の祝福で最強になりました

Gaku
ファンタジー
平凡なフリーター、佐藤悠樹。その人生は、ソシャゲのガチャに夢中になった末の、あまりにも情けない感電死で幕を閉じた。……はずだった! 死後の世界で彼を待っていたのは、絶世の美女、女神ソフィア。「どんなチート能力でも与えましょう」という甘い誘惑に、彼が願ったのは、たった一つ。「貴方と一緒に、旅がしたい!」。これは、最強の能力の代わりに、女神様本人をパートナーに選んだ男の、前代未聞の異世界冒険譚である! 主人公ユウキに、剣や魔法の才能はない。ステータスは、どこをどう見ても一般人以下。だが、彼には、誰にも負けない最強の力があった。それは、女神ソフィアが側にいるだけで、あらゆる奇跡が彼の味方をする『女神の祝福』という名の究極チート! 彼の原動力はただ一つ、ソフィアへの一途すぎる愛。そんな彼の真っ直ぐな想いに、最初は呆れ、戸惑っていたソフィアも、次第に心を動かされていく。完璧で、常に品行方正だった女神が、初めて見せるヤキモチ、戸惑い、そして恋する乙女の顔。二人の甘く、もどかしい関係性の変化から、目が離せない! 旅の仲間になるのは、いずれも大陸屈指の実力者、そして、揃いも揃って絶世の美女たち。しかし、彼女たちは全員、致命的な欠点を抱えていた! 方向音痴すぎて地図が読めない女剣士、肝心なところで必ず魔法が暴発する天才魔導士、女神への信仰が熱心すぎて根本的にズレているクルセイダー、優しすぎてアンデッドをパワーアップさせてしまう神官僧侶……。凄腕なのに、全員がどこかポンコツ! 彼女たちが集まれば、簡単なスライム退治も、国を揺るがす大騒動へと発展する。息つく暇もないドタバタ劇が、あなたを爆笑の渦に巻き込む! 基本は腹を抱えて笑えるコメディだが、物語は時に、世界の運命を賭けた、手に汗握るシリアスな戦いへと突入する。絶体絶命の状況の中、試されるのは仲間たちとの絆。そして、主人公が示すのは、愛する人を、仲間を守りたいという想いこそが、どんなチート能力にも勝る「最強の力」であるという、熱い魂の輝きだ。笑いと涙、その緩急が、物語をさらに深く、感動的に彩っていく。 王道の異世界転生、ハーレム、そして最高のドタバタコメディが、ここにある。最強の力は、一途な愛! 個性豊かすぎる仲間たちと共に、あなたも、最高に賑やかで、心温まる異世界を旅してみませんか? 笑って、泣けて、最後には必ず幸せな気持ちになれることを、お約束します。

Sランクパーティーを追放された鑑定士の俺、実は『神の眼』を持ってました〜最神神獣と最強になったので、今さら戻ってこいと言われてももう遅い〜

夏見ナイ
ファンタジー
Sランクパーティーで地味な【鑑定】スキルを使い、仲間を支えてきたカイン。しかしある日、リーダーの勇者から「お前はもういらない」と理不尽に追放されてしまう。 絶望の淵で流れ着いた辺境の街。そこで偶然発見した古代ダンジョンが、彼の運命を変える。絶体絶命の危機に陥ったその時、彼のスキルは万物を見通す【神の眼】へと覚醒。さらに、ダンジョンの奥で伝説のもふもふ神獣「フェン」と出会い、最強の相棒を得る。 一方、カインを失った元パーティーは鑑定ミスを連発し、崩壊の一途を辿っていた。「今さら戻ってこい」と懇願されても、もう遅い。 無能と蔑まれた鑑定士の、痛快な成り上がり冒険譚が今、始まる!

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

クラス転移したからクラスの奴に復讐します

wrath
ファンタジー
俺こと灞熾蘑 煌羈はクラスでいじめられていた。 ある日、突然クラスが光輝き俺のいる3年1組は異世界へと召喚されることになった。 だが、俺はそこへ転移する前に神様にお呼ばれし……。 クラスの奴らよりも強くなった俺はクラスの奴らに復讐します。 まだまだ未熟者なので誤字脱字が多いと思いますが長〜い目で見守ってください。 閑話の時系列がおかしいんじゃない?やこの漢字間違ってるよね?など、ところどころにおかしい点がありましたら気軽にコメントで教えてください。 追伸、 雫ストーリーを別で作りました。雫が亡くなる瞬間の心情や死んだ後の天国でのお話を書いてます。 気になった方は是非読んでみてください。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

処理中です...