鬼畜ゲーとして有名な世界に転生してしまったのだが~ゲームの知識を活かして、家族や悪役令嬢を守りたい!~

ガクーン

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目覚めの時 その2

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 そんな部屋の一室が温かいムードに包まれていた時。


 ドタドタドタっ!

 騒がしいさを纏いながら、廊下をかけてくる二つの足音。

 ガチャっ!


「どうしたんだニーナ! アルス様の身に何か……あ、アルス様!?」

「エバン! アルスが寝ているんだからもっと静かに……アルス!?」

 無造作にドアが開けられると、向こう側から緊迫した感情を伴った声が部屋中に響き渡り、後から驚きと感動の声が混じり合う。


「エバンにミネルヴァさんまで……」

 
 二人とも……無事で良かった。

 ミネルヴァは無傷。エバンは所々に切り傷を負っているが、元気そうな身のこなし。あれなら大丈夫だろう。


 アルスの安心した顔とは打って変わり、二人は信じられないモノを見たかのような表情。

 エバンはふるふると震え、ミネルヴァは小さく笑みを浮かべる。


「目を覚まして……本当に良かったです」

「……あのぐらいで死んでもらっちゃ困るからね」
 
 エバンは本心から。ミネルヴァは照れくさそうに言う。


「ははっ。二人とも、ありがとう」

 少し言葉を交わしただけで心が軽くなる。

 これが信頼できる仲間ってやつか。


 こうしてアルスは、今自分が享受できている幸せを噛みしめ。四人が再会を分かち合っていると。


「そうだエバン。アルスが目を覚ました事を知らせにいかなくていいのかい?」

 ミネルヴァが気を利かせるように話しかける。

「あっ! 今すぐ伝えてきます!」

 すると、エバンは慌てた様子で、入ってきた扉から外に駆け出ると、どこかへ行ってしまう。


 誰に知らせに……あっ。

 アルスの頭にある二人が浮かぶ。


 ここまで大切に育ててくれた恩。それを無下にする所だった今回の事件。

 襲撃があった時にミネルヴァ達と一緒に逃げていればここまでの事態に陥る事は無かった。


 ……それでも、今回の決断に俺は後悔はしていない。

 大きな分岐点であったはずの今回の出来事。もし、俺がキルクを助けに行ってなかったら、早々にこの世界を退場していた可能性だってあったのだ。

 この後を考えると……あの優しいキルクを考えると、ここで助けていた方がいい。

 アルスは自身の心の中で深く納得をする。


 でもな……


「心配かけちゃっただろうな……」

 自分の決断に後悔はしていないものの、あの二人の事を考えると、凄い申し訳なくなり、悪いことをしたなと言った様子で呟く。

 そんなアルスの呟きをまじかで聞いていたミネルヴァが、気遣うように。


「でも、ちゃんと戻ってきたじゃないか。大丈夫。分かってくれるさ」

 弱気なアルスに近寄り、優しく頭を撫でる。

「……アルスは頑張った」


「みんな……」

 頼もしい仲間達に励まされたアルスはウルウルと湧き出て来た涙をこらえ。

「ありがとう」

 感謝の言葉をかけるのであった。



~それからしばらくして~

 複数の足音が段々とアルスがいる部屋に近づいてくる。


 その足音は段々と速さを増し、部屋の前で止まると、ドアが小さく開く。

 ギィー。

「っ!」

 開くドアの音に気付いたアルスは緊張した面持ちでドアへと顔を向ける。

 徐々にドアが開いていくと同時に、見覚えのある人影が姿を現す。


「アルス!」「……アルス!」

 二人の男女がアルスに駆け寄る。


「お父様。お母様……」

 少しやつれた顔をしたガイルとサラがアルスを優しく抱きしめる。


 二人共、心身共に疲労している。

 無理もない……

 自分で言うのもなんだが、可愛い一人息子が意識を無くして担ぎ込まれたのだから。

 二人から伝わる、アルスを心配する想いと、無事に帰ってきたことを喜ぶ安堵の気持ち。


 だがなんだ。この変な気持ちは。

 アルスの胸に浮かぶ、嬉しい気持ちと、申し訳ない気持ち。


 不謹慎ながら、お父様とお母様が俺の無事を心配してくれた事に、嬉しく思う自分がいる。

 前世ならこんな事、絶対に無かっただろう。あの両親なら、交通事故にあった俺の事を悲しむどころか、めんどくさい事を残していきやがったな位にしか考えてないだろうしな。


 善悪の気持ちがせめぎ合うアルスだったが、今はそんな事どうでもいいと言わんばかりに、両親の背中に手を回り込ませ、二人との再会に素直に喜ぶのであった。
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