鬼畜ゲーとして有名な世界に転生してしまったのだが~ゲームの知識を活かして、家族や悪役令嬢を守りたい!~

ガクーン

文字の大きさ
104 / 115

目覚めの時 その3

しおりを挟む
 それからというもの、ガイルとサラはアルスを怒ることも無く、ただただ無事に帰ってきてくれた事に安堵し、胸を撫で下ろした様子で再会を楽しむ。


「もう、体は大丈夫なのか?」

「……手も動きますし、違和感もあまりありません」

「それは良かったわ」

 アルスを心配しながらも、深くは聞いてこない二人。

 
 何故聞いてこないのだろう……

 どうしてあの場に引き返してきたのか。何故キルクを守っていたのか。それ以外にも聞くことが山ほどあるのに、一向に聞いてこない二人。


 ……本当に気になっていないのか?

 普通なら聞かれてもおかしくない状況に困惑を見せる。


「お父様。お母様……」

「どうしたんだ?」「どうしたの?」


 アルスの表情で何かあると考えた二人。

 サラが機転を利かせ、ミネルヴァにそっと目配せする。


「……エバン。ニーナ。ちょっと私に付き合いな」

「え? 私はアルス様の元に……」

「いいから」

 強引に連れていかれるエバンと、静かに二人の後を追うニーナ。


 三人が部屋から出ていくと、辺りがシーンと静まり返る。


「……詳しく聞かないのですか?」

 アルスが切羽詰まった様子で話す。


「何をだ?」

 ガイルは腕を組みながらアルスへと聞く。


「それは……その……」

 自分の口から話すのは気が引け、言葉を濁す。

 そんなアルスに助け舟を出すように。

「……アルスは利口な子ですもの。きっと理由があったのでしょ?」

 サラが優し気な笑みで答える。


 違う……

 そうじゃない。

 アルスは胸の中で言う。


 お父様とお母様はいつも何かあっても深くは聞いてこなかった。

 10歳の子供にしてはあり得ない知性に、おかしい行動。その他にも普通なら考えられない事を色々やってきた自覚がある。

 それに、俺もそこまで鈍感ではない。今回の出来事で二人は確信した。それかもっと前から思っていたのではないだろうか。

 俺には……アルスには何か裏があるのではないかと。

 
 アルスはじっとこちらの見つめる二人を見る。

 お父様は王国騎士団2番隊、隊長でもある凄いお方だ。数回、お父様の戦闘するところを見たが、強者にふさわしい力を持っていた。

 お母様はアルザニクス家の領地の内政の最終決定権を担ってきた、お父様の裏方的存在。お母様がいなければこの領地は上手く回っていなかったと断言できるほどに、その功績は大きい。


 そんな凄い人たちの元に俺は生まれてきたんだ。

 昔の両親とは違い、愛も与えてくれた。好きな事を好きなだけやらしてくれて、色々な事に挑戦もさせてもらった。

 この二人の元に生まれて来なかったら、ここまで順調に事を運ぶことはおろか、もうすでに死んでしまっていた可能性だってある。


 アルスは胸に手を当てる。


 二人には話すべきだ。

 アルスは前々から考えていた事を蘇らす。

 
 俺の真実。

 アルスの真実。つまり、この世界に転生してきたという衝撃の事実を。


 本当はエバン達にではなく、最初はお父様たちに打ち明けようと思っていた。

 だが、俺たち三人が揃う事自体、滅多になく。もしあったとしても、その日は誰かが予定があり、重い話を打ち明ける機会が中々訪れなかった。


 ……こんなの言い訳だ。

 違うだろ……俺。

 アルスは自分に嫌気がさす。


 ……本当は怖かったんだ。


 前世はクソみたいに冷え切っていた家族関係。だが、今はそれと比較にならないほど恵まれた環境に置かれている。

 いつでも気に掛けてくれる。何かあればすぐに心配してくれる。そして、なにもなかった俺に愛情を注いでくれる。


 こんな家族、俺からしたら夢物語だったんだ。

 眠る時に何度も思った。今寝てしまったらこの夢から覚めてしまうのではないか。またあのクソみたいな人生に逆戻りするのではないか……と。


 こんなにも心が弱い俺だ。

 だから、本当の事を打ち明けると二人に捨てられるのではないか。前と同じように接してくれなくなってしまうのではないか。という、ネガティブな考えが胸の中でグルグルと渦巻き、心配の種が時間を置くごとに段々と大きくなっていった。


 また今度でいいや。まだ大丈夫。

 次に、次に、次に……

 打ち明ける機会があったのにも関わらず、その機会を自分から徐々に引き延ばしていったんだ。


 自分の奥底に眠る、嫌な自分の気持ちに触れると。その事を考えると震えが起こり、気持ち悪さが込み上げてくるアルス。

 うぅ……


「おいアルス! 大丈夫か?」「無理に言わなくていいのよ? そうだ。軽くお茶でも……」

 アルスを心配し、違う事に気を向かせようとするガイルとサラであったが。


 ここで逃げてどうする俺!


「お父様。お母様」

「「っ!」」

 アルスが纏う空気が変わる。


 今の弱い自分を越えなくちゃ、これから先、生き残っていくことすら厳しいだろう。


「……聞いてください。私がこれまで隠してきた真実。二人に黙っていた事実を」


 それに、二人は私に嘘偽りなく接してくれていた。

 なら俺も……


 こうしてアルスは語るのであった。自分が転生者だという事を。

 そして……もうすぐ起こるであろう、戦争についてを。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

ハズレスキル【地図化(マッピング)】で追放された俺、実は未踏破ダンジョンの隠し通路やギミックを全て見通せる世界で唯一の『攻略神』でした

夏見ナイ
ファンタジー
勇者パーティの荷物持ちだったユキナガは、戦闘に役立たない【地図化】スキルを理由に「無能」と罵られ、追放された。 しかし、孤独の中で己のスキルと向き合った彼は、その真価に覚醒する。彼の脳内に広がるのは、モンスター、トラップ、隠し通路に至るまで、ダンジョンの全てを完璧に映し出す三次元マップだった。これは最強の『攻略神』の眼だ――。 彼はその圧倒的な情報力を武器に、同じく不遇なスキルを持つ仲間たちの才能を見出し、不可能と言われたダンジョンを次々と制覇していく。知略と分析で全てを先読みし、完璧な指示で仲間を導く『指揮官』の成り上がり譚。 一方、彼を失った勇者パーティは迷走を始める……。爽快なダンジョン攻略とカタルシス溢れる英雄譚が、今、始まる!

チートスキルより女神様に告白したら、僕のステータスは最弱Fランクだけど、女神様の無限の祝福で最強になりました

Gaku
ファンタジー
平凡なフリーター、佐藤悠樹。その人生は、ソシャゲのガチャに夢中になった末の、あまりにも情けない感電死で幕を閉じた。……はずだった! 死後の世界で彼を待っていたのは、絶世の美女、女神ソフィア。「どんなチート能力でも与えましょう」という甘い誘惑に、彼が願ったのは、たった一つ。「貴方と一緒に、旅がしたい!」。これは、最強の能力の代わりに、女神様本人をパートナーに選んだ男の、前代未聞の異世界冒険譚である! 主人公ユウキに、剣や魔法の才能はない。ステータスは、どこをどう見ても一般人以下。だが、彼には、誰にも負けない最強の力があった。それは、女神ソフィアが側にいるだけで、あらゆる奇跡が彼の味方をする『女神の祝福』という名の究極チート! 彼の原動力はただ一つ、ソフィアへの一途すぎる愛。そんな彼の真っ直ぐな想いに、最初は呆れ、戸惑っていたソフィアも、次第に心を動かされていく。完璧で、常に品行方正だった女神が、初めて見せるヤキモチ、戸惑い、そして恋する乙女の顔。二人の甘く、もどかしい関係性の変化から、目が離せない! 旅の仲間になるのは、いずれも大陸屈指の実力者、そして、揃いも揃って絶世の美女たち。しかし、彼女たちは全員、致命的な欠点を抱えていた! 方向音痴すぎて地図が読めない女剣士、肝心なところで必ず魔法が暴発する天才魔導士、女神への信仰が熱心すぎて根本的にズレているクルセイダー、優しすぎてアンデッドをパワーアップさせてしまう神官僧侶……。凄腕なのに、全員がどこかポンコツ! 彼女たちが集まれば、簡単なスライム退治も、国を揺るがす大騒動へと発展する。息つく暇もないドタバタ劇が、あなたを爆笑の渦に巻き込む! 基本は腹を抱えて笑えるコメディだが、物語は時に、世界の運命を賭けた、手に汗握るシリアスな戦いへと突入する。絶体絶命の状況の中、試されるのは仲間たちとの絆。そして、主人公が示すのは、愛する人を、仲間を守りたいという想いこそが、どんなチート能力にも勝る「最強の力」であるという、熱い魂の輝きだ。笑いと涙、その緩急が、物語をさらに深く、感動的に彩っていく。 王道の異世界転生、ハーレム、そして最高のドタバタコメディが、ここにある。最強の力は、一途な愛! 個性豊かすぎる仲間たちと共に、あなたも、最高に賑やかで、心温まる異世界を旅してみませんか? 笑って、泣けて、最後には必ず幸せな気持ちになれることを、お約束します。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

ダンジョン冒険者にラブコメはいらない(多分)~正体を隠して普通の生活を送る男子高生、実は最近注目の高ランク冒険者だった~

エース皇命
ファンタジー
 学校では正体を隠し、普通の男子高校生を演じている黒瀬才斗。実は仕事でダンジョンに潜っている、最近話題のAランク冒険者だった。  そんな黒瀬の通う高校に突如転校してきた白桃楓香。初対面なのにも関わらず、なぜかいきなり黒瀬に抱きつくという奇行に出る。 「才斗くん、これからよろしくお願いしますねっ」  なんと白桃は黒瀬の直属の部下として派遣された冒険者であり、以後、同じ家で生活を共にし、ダンジョンでの仕事も一緒にすることになるという。  これは、上級冒険者の黒瀬と、美少女転校生の純愛ラブコメディ――ではなく、ちゃんとしたダンジョン・ファンタジー(多分)。 ※小説家になろう、カクヨムでも連載しています。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

魔法使いが無双する異世界に転移した魔法の使えない俺ですが、陰陽術とか武術とか魔法以外のことは大抵できるのでなんとか死なずにやっていけそうです

忠行
ファンタジー
魔法使いが無双するファンタジー世界に転移した魔法の使えない俺ですが、陰陽術とか武術とか忍術とか魔法以外のことは大抵できるのでなんとか死なずにやっていけそうです。むしろ前の世界よりもイケてる感じ?

処理中です...