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第一章 出会い
第3話 コンビニ
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アナウンスが流れ、目的の駅に到着した。僕は急いで立ち上がり、電車を降りた。プラットフォームにはあまり人がおらず、さっきまでとは随分様子が違った。表示板を確認してから、改札口へ向かった。
駅を出て辺りを見回すと、左側にコンビニや何かのお店が並んでいた。そして、正面には公園らしき場所があった。
家を出て来た時は、まだ夕方だったのに、もうすでに夜になっている。あれから一体、何時間経ったのだろう。
そう考えた瞬間に、お腹がギューッと鳴った。昼ご飯を少し食べた後は何も口にしていないから、仕方ない。気持ちとしてはあまり食べたくないのだが、やむを得ずコンビニに入ることにした。
店のドアが開き中に入るとベルが鳴り、すぐに、「いらっしゃいませ」と元気のいい声が聞こえた。それを聞いただけで、僕は動きが止まってしまう。何か悪いことをして、見咎められたような気分になるのだ。
心臓のドキドキが速くなり、深呼吸を繰り返していると、店員さんがそばに来た。思わず体に力が入ってしまう。
その人は僕に微笑むと、
「大丈夫? 何か、具合悪そうだよ?」
言葉が上手く出て来ないので、ただ頭を左右に振った。その人は僕をじっと見た。僕のその意思表示が真実かどうか、見極めようとしているのかもしれない。そうされて僕は、ますます緊張が強くなる。店員さんはしばらくそうした後、「そうか」と言ったが、
「もしかして、お腹空いてる? どんなのが好き? ご飯系? それとも、パン系?」
さっきまでより表情を柔らかくして訊いてくれたが、何も答えられなかった。その人は僕に手招きすると、
「こっちにおいで。いろいろあるよ」
僕が頷くと、やはり笑顔で、「よし」と満足げに言った。僕は、その方へゆっくりと歩いて行った。心も体も、すっかり疲れてしまっていた。
商品の陳列棚を見ている時、その人が別の店員さんに呼ばれていた。何気なく視線を向け耳を傾けていると、
「君ね、いつも言ってるけど、お客様との距離が近過ぎ」
「あ、はい。わかってるんですけどね。つい、近付きたくなっちゃうっていうか……」
「それは、君の長所だって知ってるけど、仕事の時はダメです。わかるよね」
「わかってます。わかってはいるんですけどね」
その人は、そう言った後、ははは、と笑った。この状況で笑えるなんてすごい、と感心せずにはいられなかった。相手の人も、その人のそんな様子に溜息を吐きながらも認めたようで、「ま、気を付けなよ」と言ってその人から離れ、何か仕事を始めた。
その人の視線が僕の方に向けられたので、あわてて目をそらした。そして、棚の商品を端から端まで見て、くるりと向きを変えて冷蔵コーナーの方も見て、最終的にサンドウィッチと野菜ジュースにした。
レジに持って行くと、さっきの人がにこやかに、「どうぞ」と声を掛けてくれる。僕は小さく頷き、商品を渡した。言われた金額を支払い、商品を受け取ると、バッグの中に入れた。お釣りを受け取ると少しだけ頭を下げて、ドアに向かった。「ありがとうございました」と、言ってくれる声を聞きながら、店を出た。
店の前の信号が青になってから横断歩道を渡り、正面の公園らしき場所に向かった。木が多く、今までいた場所を思い出させた。街灯が所々にあり、その下にベンチが置かれてあった。そこに腰を下ろし大きく息を吐き出すと、思わず「疲れた」と呟いてしまった。
いっそ、全て忘れられたらいいのに。そんな考えが浮かんだが、お腹が抗議してきた為、考えるのは一時中断することにした。
バッグからさっき買った物を取り出すと、野菜ジュースを何口か飲んだ。それから、サンドウィッチの袋を開けて、一つ取り出した。
一口分を飲み込むのに、随分と時間が掛かる。それは、ずっと昔からそうだ。ゆっくりゆっくり。少しずつ少しずつ。それが僕の食事の仕方だ。
と、その時突然、「ここ、座ってもいいですか」と声を掛けられた。僕はびっくりし過ぎて、サンドウィッチを喉に引っ掛けてしまった。その人は、僕の背中を叩いてくれたが、触られた恐怖で、僕は半ばパニック状態になっていた。
駅を出て辺りを見回すと、左側にコンビニや何かのお店が並んでいた。そして、正面には公園らしき場所があった。
家を出て来た時は、まだ夕方だったのに、もうすでに夜になっている。あれから一体、何時間経ったのだろう。
そう考えた瞬間に、お腹がギューッと鳴った。昼ご飯を少し食べた後は何も口にしていないから、仕方ない。気持ちとしてはあまり食べたくないのだが、やむを得ずコンビニに入ることにした。
店のドアが開き中に入るとベルが鳴り、すぐに、「いらっしゃいませ」と元気のいい声が聞こえた。それを聞いただけで、僕は動きが止まってしまう。何か悪いことをして、見咎められたような気分になるのだ。
心臓のドキドキが速くなり、深呼吸を繰り返していると、店員さんがそばに来た。思わず体に力が入ってしまう。
その人は僕に微笑むと、
「大丈夫? 何か、具合悪そうだよ?」
言葉が上手く出て来ないので、ただ頭を左右に振った。その人は僕をじっと見た。僕のその意思表示が真実かどうか、見極めようとしているのかもしれない。そうされて僕は、ますます緊張が強くなる。店員さんはしばらくそうした後、「そうか」と言ったが、
「もしかして、お腹空いてる? どんなのが好き? ご飯系? それとも、パン系?」
さっきまでより表情を柔らかくして訊いてくれたが、何も答えられなかった。その人は僕に手招きすると、
「こっちにおいで。いろいろあるよ」
僕が頷くと、やはり笑顔で、「よし」と満足げに言った。僕は、その方へゆっくりと歩いて行った。心も体も、すっかり疲れてしまっていた。
商品の陳列棚を見ている時、その人が別の店員さんに呼ばれていた。何気なく視線を向け耳を傾けていると、
「君ね、いつも言ってるけど、お客様との距離が近過ぎ」
「あ、はい。わかってるんですけどね。つい、近付きたくなっちゃうっていうか……」
「それは、君の長所だって知ってるけど、仕事の時はダメです。わかるよね」
「わかってます。わかってはいるんですけどね」
その人は、そう言った後、ははは、と笑った。この状況で笑えるなんてすごい、と感心せずにはいられなかった。相手の人も、その人のそんな様子に溜息を吐きながらも認めたようで、「ま、気を付けなよ」と言ってその人から離れ、何か仕事を始めた。
その人の視線が僕の方に向けられたので、あわてて目をそらした。そして、棚の商品を端から端まで見て、くるりと向きを変えて冷蔵コーナーの方も見て、最終的にサンドウィッチと野菜ジュースにした。
レジに持って行くと、さっきの人がにこやかに、「どうぞ」と声を掛けてくれる。僕は小さく頷き、商品を渡した。言われた金額を支払い、商品を受け取ると、バッグの中に入れた。お釣りを受け取ると少しだけ頭を下げて、ドアに向かった。「ありがとうございました」と、言ってくれる声を聞きながら、店を出た。
店の前の信号が青になってから横断歩道を渡り、正面の公園らしき場所に向かった。木が多く、今までいた場所を思い出させた。街灯が所々にあり、その下にベンチが置かれてあった。そこに腰を下ろし大きく息を吐き出すと、思わず「疲れた」と呟いてしまった。
いっそ、全て忘れられたらいいのに。そんな考えが浮かんだが、お腹が抗議してきた為、考えるのは一時中断することにした。
バッグからさっき買った物を取り出すと、野菜ジュースを何口か飲んだ。それから、サンドウィッチの袋を開けて、一つ取り出した。
一口分を飲み込むのに、随分と時間が掛かる。それは、ずっと昔からそうだ。ゆっくりゆっくり。少しずつ少しずつ。それが僕の食事の仕方だ。
と、その時突然、「ここ、座ってもいいですか」と声を掛けられた。僕はびっくりし過ぎて、サンドウィッチを喉に引っ掛けてしまった。その人は、僕の背中を叩いてくれたが、触られた恐怖で、僕は半ばパニック状態になっていた。
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