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第三章 別れ
第1話 ファンレター
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大矢さんと離れて暮らすようになって、もう二年くらい経つ。アイドルとしても、そのくらいのキャリアになった。
毎日忙しいけれど、いつもそばでマネージャーの谷さんが僕を支えてくれている。谷さんの、人に近付き過ぎる性格が発揮されて、僕は安心して慣れない仕事に立ち向かって来られた。本当に感謝している。
アイドルになると決めた時、僕は自分に課したことがある。それは、『アイドルという生き物になる』だった。
『アイドル・星野聖矢』になりきること。大矢さんが呼んでくれる星野聖矢ではなく、あくまで『アイドル・星野聖矢』。
『アイドル・星野聖矢』は、例えるなら、どこか別の星からやって来た存在。家族はいないし、年も取らない。プロフィールは公開していないし、全く謎の人物として存在中だ。そして、それが功を奏したのか、『聖矢』はトップアイドルの仲間入りをしていた。
毎日のように、ファンレターやプレゼントが届く。女の子からが多いが、男性からも来る。
「聖矢、凄いな。こんなに急激に売れっ子になっちゃうんだから」
谷さんは、僕のマネージャーをすることになった時から、僕を『聖矢』と呼び捨てにするようになった。
「こんなことが起こるなんて、全く想像してませんでした」
すっかり身に付いた、感じのいい笑顔になりながら言うと、谷さんは、「ごめん。オレも想像してなかった」と言って、笑った。
「これで全部開封出来たぞ。危険な物は入ってなかった」
「いつもありがとうございます」
谷さんから渡されたファンレターを、一通ずつ確認していく。『いつも応援してます』『大好きでーす』とか、そういう内容が大半だけれど、最近少し違う内容の手紙が来るようになっていた。
差出人は、『A』さん。多分男性だと思われる。ファンレターをくれるようになったのは、半年くらい前からだ。便せんに手書きした物ではなく、パソコンか何かで作成してコピー用紙に印刷している物だ。
初めの頃は、ごく普通に、『応援しています』とか、『この前テレビに出た時の笑顔がすごく良かったです』とかだった。それが近頃、変わってきている。
「谷さん。また『A』さんから来ました。見てください」
谷さんに渡す。谷さんは、手紙を読み始めてすぐに、顔色を変えた。
「何でこんなこと知ってるんだよ、この人」
「さあ。盗聴器とか、そういう物がどこかに仕込まれているんでしょうか?」
不安に、鼓動が速くなった。谷さんは電話の受話器を握ると、
「大矢さんに相談しよう」
連絡すると、すぐに社長室に来るように言われて、二人で向かった。手紙を渡すと大矢さんが、眉間に皺を寄せた。そして、「ふざけやがって……」と、怒りを抑えつけているような声で言った。
『聖矢くん、こんにちは。この前のあの人は、誰ですか? 聖矢くんの甘えた感じの声、すごく良かったです。最後の瞬間の声も、ぞくぞくしました。でも、ダメですよ。私がいるじゃないですか。あの人とは縁を切ってください。愛してます。A』
忙しい合間を縫って、僕たちはこの前、確かに会って愛し合った。その瞬間を聞かれていたなんて。恥ずかしいと言うよりは、ただ恐ろしかった。こうして三人で話している今も、聞かれているのだろうか。
僕は、手帳とペンを取り出して、「聞かれているかもしれないので、筆談にしましょう」と書いて、二人に見せた。二人は頷き、筆談が始まった。決まったことは、警察に連絡すること。私物に盗聴器が仕込まれていないかチェックすること。家の中も、もちろんチェックすること、だ。家の鍵も、早急に交換してもらうことになった。
手紙を見せると僕たちの関係が知られてしまう可能性もあるので、警察には、最近誰かにつけられているようだ、と伝えた。パトロールの回数を多くする、と言ってくれたので、少しだけホッとした。が、何となく落ち着かない日を過ごしていたのは当然だ。
『A』さんって、いったい誰なんだろう……。
心の中が、ざわざわしていた。
毎日忙しいけれど、いつもそばでマネージャーの谷さんが僕を支えてくれている。谷さんの、人に近付き過ぎる性格が発揮されて、僕は安心して慣れない仕事に立ち向かって来られた。本当に感謝している。
アイドルになると決めた時、僕は自分に課したことがある。それは、『アイドルという生き物になる』だった。
『アイドル・星野聖矢』になりきること。大矢さんが呼んでくれる星野聖矢ではなく、あくまで『アイドル・星野聖矢』。
『アイドル・星野聖矢』は、例えるなら、どこか別の星からやって来た存在。家族はいないし、年も取らない。プロフィールは公開していないし、全く謎の人物として存在中だ。そして、それが功を奏したのか、『聖矢』はトップアイドルの仲間入りをしていた。
毎日のように、ファンレターやプレゼントが届く。女の子からが多いが、男性からも来る。
「聖矢、凄いな。こんなに急激に売れっ子になっちゃうんだから」
谷さんは、僕のマネージャーをすることになった時から、僕を『聖矢』と呼び捨てにするようになった。
「こんなことが起こるなんて、全く想像してませんでした」
すっかり身に付いた、感じのいい笑顔になりながら言うと、谷さんは、「ごめん。オレも想像してなかった」と言って、笑った。
「これで全部開封出来たぞ。危険な物は入ってなかった」
「いつもありがとうございます」
谷さんから渡されたファンレターを、一通ずつ確認していく。『いつも応援してます』『大好きでーす』とか、そういう内容が大半だけれど、最近少し違う内容の手紙が来るようになっていた。
差出人は、『A』さん。多分男性だと思われる。ファンレターをくれるようになったのは、半年くらい前からだ。便せんに手書きした物ではなく、パソコンか何かで作成してコピー用紙に印刷している物だ。
初めの頃は、ごく普通に、『応援しています』とか、『この前テレビに出た時の笑顔がすごく良かったです』とかだった。それが近頃、変わってきている。
「谷さん。また『A』さんから来ました。見てください」
谷さんに渡す。谷さんは、手紙を読み始めてすぐに、顔色を変えた。
「何でこんなこと知ってるんだよ、この人」
「さあ。盗聴器とか、そういう物がどこかに仕込まれているんでしょうか?」
不安に、鼓動が速くなった。谷さんは電話の受話器を握ると、
「大矢さんに相談しよう」
連絡すると、すぐに社長室に来るように言われて、二人で向かった。手紙を渡すと大矢さんが、眉間に皺を寄せた。そして、「ふざけやがって……」と、怒りを抑えつけているような声で言った。
『聖矢くん、こんにちは。この前のあの人は、誰ですか? 聖矢くんの甘えた感じの声、すごく良かったです。最後の瞬間の声も、ぞくぞくしました。でも、ダメですよ。私がいるじゃないですか。あの人とは縁を切ってください。愛してます。A』
忙しい合間を縫って、僕たちはこの前、確かに会って愛し合った。その瞬間を聞かれていたなんて。恥ずかしいと言うよりは、ただ恐ろしかった。こうして三人で話している今も、聞かれているのだろうか。
僕は、手帳とペンを取り出して、「聞かれているかもしれないので、筆談にしましょう」と書いて、二人に見せた。二人は頷き、筆談が始まった。決まったことは、警察に連絡すること。私物に盗聴器が仕込まれていないかチェックすること。家の中も、もちろんチェックすること、だ。家の鍵も、早急に交換してもらうことになった。
手紙を見せると僕たちの関係が知られてしまう可能性もあるので、警察には、最近誰かにつけられているようだ、と伝えた。パトロールの回数を多くする、と言ってくれたので、少しだけホッとした。が、何となく落ち着かない日を過ごしていたのは当然だ。
『A』さんって、いったい誰なんだろう……。
心の中が、ざわざわしていた。
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