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第四章 家族
第19話 大矢さんのプレゼント
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電車に揺られながらうとうとしていると、大矢さんが僕を呼んだ。俯いていた顔を上げると、「何でしょう?」と訊く。大矢さんは僕を見つめながら、
「渡したい物があるから、うちに寄ってくれ」
「寄って、受け取ったら帰っていいんですね?」
何でそんな言い方しているのだろう、と思った。全く可愛くない。
「とにかく、寄ってくれ」
「わかりました」
二時間くらいして、僕たちは大矢さんのマンションの最寄り駅に着いた。ここへ来ると、いつもホッとする。二人で並んで公園を抜けて行き、マンションの前まで来た。何となく、出会った日のことを思い出していた。
部屋に入ると、大矢さんは一足先に中に入って行き、リビングの暖房を点けた。僕は、ソファに座り膝を抱えた。本当に疲れてしまった。
和解したかったし、誕生会を楽しみたかった。それなのに現実は、和解するどころか父にまた突っかかって行って、誕生会も微妙な空気が流れていた。
そうして思いを巡らせていると、大矢さんが横に座った。そして、僕の肩を抱き寄せると、「お疲れ様」と囁くように言った。僕は、それに対して何も言えなかった。
「頑張ったよな、聖矢。偉かった」
頭を撫でながら言ってくれる。僕は、首を振って、「またダメでした」と言った。
「ダメじゃない。おまえは頑張った。そうだ。オレ、おまえに渡す物があるんだった」
大矢さんはソファから立ち上がった。そして、どこかへ行った後、ソファに再び座った。
「聖矢。誕生日おめでとう。本当に、生まれて来てくれて、ありがとう」
僕は顔を上げて、大矢さんを見た。大矢さんは頷き、リボンのついた紙に包まれた何かを渡してきた。僕はそれを受け取り、「開けてもいいですか?」と訊いてみる。大矢さんが頷いたのを確認してから、包み紙を開けた。
「え?」
出てきたのは、金色の細めのベルトのついた腕時計だった。アイドル時代は管理されていたから時計を見る必要は感じなかったけれど、やめてからは必要かもしれないと思うことが時々あった。何てタイミングがいいんだろう。早速それを左手首につけてみる。幸福な気持ちが心に溢れてくる。
「大矢さん。ありがとうございます」
「それ、よく似合ってるよ」
「ちょうど、腕時計が欲しいなって思ってたんです。エスパーですね」
僕がそう言うと、大矢さんは笑い、
「オレは普通の人間だよ」
「でも、僕の欲しい物、知ってましたよ?」
「偶然だよ。そんなこと言って。おまえ、可愛すぎだって」
大矢さんの唇が僕の唇に触れた。実家での何とも言えない感情が、きれいに洗い流されていくようだ。だんだん口づけが深くなっていき、心臓が速く打ち始める。
と、その時、部屋の隅に置いたプレゼントの山が目に入ってしまった。目を閉じたままでいればよかったと後悔する。僕は、キスの合間に「大矢さん」と呼び掛ける。大矢さんは聞こえない振りなのか、やめようとしない。
僕は大矢さんを押しのけて、
「聞いてください」
ちょっと強めに言うと、さすがに僕から離れてくれた。でも、明らかに不機嫌な顔をしている。僕は素直に謝り、
「でもね、大矢さん。あれが目に入っちゃって」
「あれ?」
「プレゼントの山です」
大矢さんが溜息を吐いた。
「僕、今からあれを開けます」
宣言して、その山へ向かう。大矢さんは、僕を追ってリビングの隅に来てくれる。後ろから抱き締めて来て、首筋にキスをした。
「大矢さん。僕、これを確認したいので、一度離れてください」
大矢さんは何も言わずに僕から離れた。僕は、杏子からもらった物を手に取った。袋から取り出し、包み紙を外す。小ぶりのショルダーバッグだった。大きさがちょうどいい感じで、手触りもいい。ファスナーを開けて中も見た。使いやすそうだ。
バッグが入っていた袋の中には、何かのキャラクターの絵が描かれた封筒が入っていた。中を見ると、やはり封筒と同じキャラクターの絵が描かれた便箋が入っていて、そこにメッセージが書かれていた。
『真ちゃん。お誕生日おめでとう! 今日は誕生会が出来て嬉しいです。プレゼントのショルダーバッグは、お年玉をはたいて買いました。気に入ってくれたら嬉しいです。また来てね! 杏子はいつも真ちゃんを待ってます。 杏子』
僕は、大矢さんと顔を見合わせて笑った。父に対しても平気で脅しをかける頼もしい姿が目に浮かんだ。
僕はそのバッグを肩から斜めにかけて、大矢さんに見てもらう。
「今度出掛ける時、これ使います」
「そうだな。いい感じだぞ」
大矢さんに褒められていい気分になった僕は、バッグをかけたまま次の袋に手を伸ばした。
「渡したい物があるから、うちに寄ってくれ」
「寄って、受け取ったら帰っていいんですね?」
何でそんな言い方しているのだろう、と思った。全く可愛くない。
「とにかく、寄ってくれ」
「わかりました」
二時間くらいして、僕たちは大矢さんのマンションの最寄り駅に着いた。ここへ来ると、いつもホッとする。二人で並んで公園を抜けて行き、マンションの前まで来た。何となく、出会った日のことを思い出していた。
部屋に入ると、大矢さんは一足先に中に入って行き、リビングの暖房を点けた。僕は、ソファに座り膝を抱えた。本当に疲れてしまった。
和解したかったし、誕生会を楽しみたかった。それなのに現実は、和解するどころか父にまた突っかかって行って、誕生会も微妙な空気が流れていた。
そうして思いを巡らせていると、大矢さんが横に座った。そして、僕の肩を抱き寄せると、「お疲れ様」と囁くように言った。僕は、それに対して何も言えなかった。
「頑張ったよな、聖矢。偉かった」
頭を撫でながら言ってくれる。僕は、首を振って、「またダメでした」と言った。
「ダメじゃない。おまえは頑張った。そうだ。オレ、おまえに渡す物があるんだった」
大矢さんはソファから立ち上がった。そして、どこかへ行った後、ソファに再び座った。
「聖矢。誕生日おめでとう。本当に、生まれて来てくれて、ありがとう」
僕は顔を上げて、大矢さんを見た。大矢さんは頷き、リボンのついた紙に包まれた何かを渡してきた。僕はそれを受け取り、「開けてもいいですか?」と訊いてみる。大矢さんが頷いたのを確認してから、包み紙を開けた。
「え?」
出てきたのは、金色の細めのベルトのついた腕時計だった。アイドル時代は管理されていたから時計を見る必要は感じなかったけれど、やめてからは必要かもしれないと思うことが時々あった。何てタイミングがいいんだろう。早速それを左手首につけてみる。幸福な気持ちが心に溢れてくる。
「大矢さん。ありがとうございます」
「それ、よく似合ってるよ」
「ちょうど、腕時計が欲しいなって思ってたんです。エスパーですね」
僕がそう言うと、大矢さんは笑い、
「オレは普通の人間だよ」
「でも、僕の欲しい物、知ってましたよ?」
「偶然だよ。そんなこと言って。おまえ、可愛すぎだって」
大矢さんの唇が僕の唇に触れた。実家での何とも言えない感情が、きれいに洗い流されていくようだ。だんだん口づけが深くなっていき、心臓が速く打ち始める。
と、その時、部屋の隅に置いたプレゼントの山が目に入ってしまった。目を閉じたままでいればよかったと後悔する。僕は、キスの合間に「大矢さん」と呼び掛ける。大矢さんは聞こえない振りなのか、やめようとしない。
僕は大矢さんを押しのけて、
「聞いてください」
ちょっと強めに言うと、さすがに僕から離れてくれた。でも、明らかに不機嫌な顔をしている。僕は素直に謝り、
「でもね、大矢さん。あれが目に入っちゃって」
「あれ?」
「プレゼントの山です」
大矢さんが溜息を吐いた。
「僕、今からあれを開けます」
宣言して、その山へ向かう。大矢さんは、僕を追ってリビングの隅に来てくれる。後ろから抱き締めて来て、首筋にキスをした。
「大矢さん。僕、これを確認したいので、一度離れてください」
大矢さんは何も言わずに僕から離れた。僕は、杏子からもらった物を手に取った。袋から取り出し、包み紙を外す。小ぶりのショルダーバッグだった。大きさがちょうどいい感じで、手触りもいい。ファスナーを開けて中も見た。使いやすそうだ。
バッグが入っていた袋の中には、何かのキャラクターの絵が描かれた封筒が入っていた。中を見ると、やはり封筒と同じキャラクターの絵が描かれた便箋が入っていて、そこにメッセージが書かれていた。
『真ちゃん。お誕生日おめでとう! 今日は誕生会が出来て嬉しいです。プレゼントのショルダーバッグは、お年玉をはたいて買いました。気に入ってくれたら嬉しいです。また来てね! 杏子はいつも真ちゃんを待ってます。 杏子』
僕は、大矢さんと顔を見合わせて笑った。父に対しても平気で脅しをかける頼もしい姿が目に浮かんだ。
僕はそのバッグを肩から斜めにかけて、大矢さんに見てもらう。
「今度出掛ける時、これ使います」
「そうだな。いい感じだぞ」
大矢さんに褒められていい気分になった僕は、バッグをかけたまま次の袋に手を伸ばした。
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